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2021-03-31

🔔 ベルは押してみよう!

息切れで救急外来を訪れた症例

🐣 解説
  • 聴診器の膜部はしっかり押し当て使う ➜ 過剰心音はなし
  • 聴診器のベルは軽く乗せる感じで使う ➜ Ⅱ音後に過剰音
  • ベルを押し込むと膜部と同じく低音消失 ➜ 過剰音が消失
  • 本例の過剰な心音は心尖部の低調音 ➜ Ⅲ音と考えられる
  • 本例の最終診断は拡張型心筋症による非代償性左心不全

🐥 復習
  • Ⅱ音直後の過剰心音にはⅢ音の他に,Ⅱ音の分裂解放音心膜ノック音腫瘍プロップなどがあります.
  • いずれの音もⅢ音より早く出現しますが,この出現タイミングだけで鑑別するのことは難しいと思います.
  • よって音調の意識が大切です.Ⅲ音以外は中調〜高調成分も含むため,聴診器の膜部でも聴取が可能です.
  • ベルで聴取した過剰心音が,ベルをグッと押し込むことで消失したら低調音(つまりⅢ音)と考えられます.
🉐 聴診器のおさらい ➜ コチラ

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-03-30

心不全:ダパグリフロジンのまとめ

👀 フォシーガ®(商品名)
  • 現時点で糖尿病の有無にかかわらず心不全治療に利用できる唯一のSGLT2阻害薬

  • オリジナルの臨床試験DAPA-HF(N Engl J Med 2019;381:1995-2008)の対象は左室駆出率40%以下であったが,同薬の添付文書の記載は「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」で,左室駆出率の具体的な値は明記されていない
  • 糖尿病に対しては「重度の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の血糖降下作用が期待できないため、投与しないこと」および「糖尿病の血糖コントロール改善を目的として使用している患者においては、継続的にeGFRが45mL/min/1.73m2未満に低下した場合は投与の中止を検討すること」と記載されている.
  • 一方,慢性心不全に対しては「本剤では腎機能低下に伴う血中濃度の上昇が報告されている。また、eGFRが30mL/min/1.73m2未満あるいは末期腎不全(ESRD)の患者を対象とした臨床試験は実施していない」の記載に留まる.
👳 独り言
  • 心不全に対する利尿薬にはループ利尿薬(例:フロセミド),サイアザイド系利尿薬(例トリクロルメチアジド/フルイトラン®),抗アルドステロン薬(例:アルダクトン),V2受容体拮抗薬(例:バソプレシン/サムスカ®)がありました.SGLT2阻害薬は5番目の心不全利尿薬などと呼ばれています.
  • 利尿薬は服用のタイミングが大切です.例えば外出前や眠前にフロセミド内服すると,頻回のトイレでQOLが著しく低下します.フォシーガ®は5mgでも10㎎でも1日1回の投与と決められていますが(添付文書),心不全症例に対して服用する場合は朝5㎎+昼5㎎などの分割投与は意味がないのかな~って気になります.

(投稿者 川崎)

2021-03-29

患者さんがベットに寝ていたら…

冠動脈バイパス術の既往がある心不全例/入院数日後の仰臥位(枕あり)

😄 所見の解説
  • 内頸静脈は視認できず ➜ 中心静脈圧の上昇はなし(心不全は改善)
  • ただし外頸静脈は視認できる ➜ 過剰な利尿で脱水には陥っていない
  • 右季肋部の圧迫で頸静脈拍動の顕性化なし ➜ 肝頸静脈逆流は陰性
  • 負荷がかかっても中心静脈圧は安定していそう ➜ そろそろ退院可能

😎 独り言
  • 頸静脈所見(特に座位)から心不全の改善は判定できるが,安静時の所見だけでは少し不安が残る.負荷に伴う頸静脈拍動の出現は心事故と関連(コチラ
  • 呼吸負荷(クスマウル徴候)が簡便であるが(自験例),訪床時に患者さんがベットに寝ていたら肝頸静脈逆流(Hepatojugular reflux test)も可能
  • 本テストは肝臓(右季肋部あるいは腹部全体)を10秒ほど圧迫すると良いようです.なおreflux(逆流)であって,reflex(反射)ではないことに要注意

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-03-28

可逆性後頭葉白質脳症 PRES


  • 症状 頭痛,意識障害,精神症状,痙攣,視力障害(皮質盲を含)
  • 画像 後頭葉・頭頂葉・側頭葉・基底核などを中心に浮腫性変化
  • 特徴 高血圧と関連して,症状や画像変化がすべて可逆性である
  • 機序 血液脳関門の破綻により引き起こされると考えられている
  • 関連 高血圧性脳症,妊娠・子癇,腎不全,膠原病,薬剤性など
  • 治療 降圧+関連病態への対応(急速遂娩や痙攣コントロール他)
  • 予後 良好で2週間以内に改善(診断の遅れによる不良症例あり)


MRIのFLAIR像(上段は発症時,下段は2週間後)

(投稿者 川崎)

2021-03-27

サブロク協定(36協定)

  • 正式名は「時間外・休日労働に関する協定届」で労働基準法第36条のこと
  • 法定労働時間は1日8時間・週40時間と決められている(厳守はほぼ不可)
  • よって時間外労働や休日勤務のため同協定を結び労働基準監督署に届出



  • 2018年6月に労働基準法が改正され36協定で定める時間外労働に罰則付きの上限が設定
  • 時間外労働の上限は月45時間・年360時間で臨時的な特別の事情がなければ超過できない
  • 特別事情でも年720時間,月100時間、2-6ヵ月平均80時間,月45時間超え半年内を厳守


👿 独り言

いわゆる過労死ラインは下記のいずれか(厚生労働省)
  1. 発症前1カ月間におおむね100時間を超える時間外労働
  2. 発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって1カ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働

しかし厚生労働省は現段階で一部の医師の時間外労働の上限を1860時間(過労死ラインの概ね2倍)と定めています.その理由は一般水準の労働時間上限にすると一部の地域で医療が崩壊するためだからだそうです(医療福祉政策研究 2020;3:49-59

(投稿者 川崎)

2021-03-26

アルファ2PI

  • α2-プラスミンインヒビター (plasmin inhibitor: PI)で別名はα2アンチプラスミン
  • プラスミン分子中のセリンプロテアーゼ活性部位と結合しプラスミン活性を阻害
  • 発見は自治医科大学(当時)の青木延雄先生ら(J Biol Chem 1976;251:5956-65

💉 解釈
  • 正常値:血漿活性値が85~115%(60%以下なら線溶優位の出血リスクが上昇)
  • 減少 ➜ 肝機能障害, 線溶亢進, DIC,先天性プラスミンインヒビター欠乏症
  • 増加 ➜ 急性炎症性疾患

🉐 関連投稿(採血の項目編)

(投稿者 川崎)

2021-03-25

エンプティ・セラ症候群 ESS

  • ESS=Empty sella syndrome/sella=鞍またはセラ(人名)/sella turcica =トルコ鞍
  • 独のBuschが1951年に剖検で見出し(),Kaufmanが1968年に疾患として提唱(
  • Empty sellaはトルコ鞍が脳脊髄液に置き換わった状態で剖検で5.5-23%と稀ではない
  • 頭部CTやMRIでEmpty sella(ES)を認めた症例の約8%に下垂体の機能低下症を認める
  • 頭痛や視野異常,ホルモン異常などの臨床症状を呈する場合はエンプティ・セラ症候群
  • 原発性と続発性に分かれともに女性に多い/原発性は中年女性,肥満,経産婦に高頻度
  • 続発性はシーハン症候群,薬物・放射線・外科治療後,感染や自己免疫性下垂体炎など
  • 治療は無症状なら経過観察/ホルモン分泌不全を伴う有症状時にはホルモンの補充療法

参考)多根医誌 2019;8:15-19,ほか

ふらつきで来院した高齢女性 ➜ 頭部MRIでトルコ鞍が脳脊髄液で満たされている

(投稿者 川崎)

🎯 今週の一枚

検診で脂質異常を指摘された症例の右眼



(投稿者 川崎)

2021-03-24

インフォデミック Infodemic

  • 情報(Information)+流行(Epidemic)を短縮した造語
  • デマや憶測を含んだ大量の情報が氾濫して混乱する状態
  • SARS(重症急性呼吸器症候群)の2003年から使用(
  • COVID-19に関連するフェイクニュースの拡散で再び注目

    😕 独り言
  • カルテの問題リストに#COVID-19感染症という記載を見かけることがあります.しかしCOVID-19はcoronavirus disease of 2019(新型コロナウイルス感染症)なので#COVID-19にすべきです.原因ウイルス(SARS-CoV-2)から#SARS-CoV-2感染症の記載は理論的に正しいとは思いますが,当院では見たことがありません.
  • カルテは患者さんのものである(≒患者さんが読んで理解できるように記載)という原則(?)から,日本語で#新型コロナ感染症という表記が良いのかもしれません.当院では患者さんが自分のカルテを自由に閲覧できる状況にはまだなっていませんが,そう遠くない未来では当たり前になると思います.

(投稿者 川崎)

2021-03-23

リスボン宣言

  • 患者の権利に関する宣言(Declaration of Lisbon on the Rights of the Patient)
  • 1981年にポルトガルのリスボンで開催された第34回世界医師会総会で採択された
  • 随時改定され現在の宣言は2015年ノルウェーのオスローで開催されたバージョン

序 文
  • 医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきであると同時に、それと同等の努力を患者の自律性と正義を保証するために払わねばならない。以下に掲げる宣言は、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。

原 則(抜粋) 
  1. 良質の医療を受ける権利
  2. 選択の自由の権利
  3. 自己決定の権利
  4. 意識のない患者
  5. 法的無能力の患者
  6. 患者の意思に反する処置
  7. 情報に対する権利
  8. 守秘義務に対する権利
  9. 健康教育を受ける権利
  10. 尊厳に対する権利
  11. 宗教的支援に対する権利

※全文は日本医師会のページから確認できます(和文英文

🙋 おまけ(昔に国試対策で覚えたような…)
  • リスボン宣言 ➜ 患者の権利を保障したもの
  • ヘルシンキ宣言 ➜ 人を対象とする医学研究の倫理
  • ジュネーブ宣言 ➜ 医の倫理に関する規定(ヒポクラテスの誓いの現代版)

(投稿者 川崎)