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2024-12-02

心不全の身体所見

  • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
  • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

👀 おまけ
  • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
  • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
  • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
Xより(@MarkDrazner

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-12-01

プロッター Plotter

先日,医療機関の機器更新を相談する会議であまり聞きなれない言葉(プロッター)を耳にしたので調べてみました.

  • 出力機器の一種で主に線を用いて描く(プリンターは点で描く)
  • かつての用途は建築や機械の設計で製図した図面を出力すること
  • 高精細な図を大判の紙に描けるという強みで最近見直されている
  • インクジェット形式も開発されて紙以外の特殊素材にも印刷可能

インクジェット式プロッターの例

(投稿者 川崎)

2024-11-30

背徳(性)症候群

  • 背徳 道徳に背くまたは人倫に反す行為や心のこと
  • 命名 反社会性人格障害で1853年に英国のPrichard
  • 解釈 脳の生来的な欠陥で道徳を守れない人(当時)
  • 現在 医学用語として定着せず(サイコパスに近い)


👉 精神科に関するの過去の投稿は コチラ(PC版なら右下欄から選択可能)

(投稿者 川崎)

2024-11-29

😐 画像レポートにMALSって記載されていました

正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome: MALS
  • 正中弓状靭帯により腹腔動脈起始部が圧迫された病態
  • 初報はHarjola(Ann Chir Gynaecol Fenn 1963:52:547-50
  • 基本的には多くの症例で無症候性に経過する良性疾患
  • 腹部超音波検査532名でMALSの検出率は 3.1%(引用
  • 側副血行路の膵十二指腸動脈が過血流で破裂あり(下図)

腹腔動脈起始部圧迫症候群(celiac axis compression syndrome: CACS
  • 腹腔動脈起始部の外因性狭窄により腹痛を来す疾患
  • 女性に多く食後30分~1時間後に腹痛や下痢,嘔吐
  • 身体所見では呼気時に増強する心窩部の血管性雑音
  • 原因は上記MALSが最多で他に先天性や悪性腫瘍など


- 正中弓状靭帯圧迫症候群に伴う膵十二指腸動脈瘤破裂の1例 - 

(投稿者 川崎)

2024-11-28

今週の一枚 🎯

息切れで来院した症例

🐣 解説
  • 右側に加えて左側にも拍動あり
  • ただし拍動は陥凹なので静脈性
  • 吸気負荷で隆起に変化(矢印)
  • 呼吸変動の存在も静脈性に合致
  • しかし用手的圧迫では消失せず
  • 最終的な診断は非代償性心不全

🐥 呟き
  • 頚部拍動には動脈性と静脈性があります.静脈性を示唆する所見としては右側優位,陥凹パターン,呼吸変動あり,圧迫で消失などがあります.逆に動脈性なら,左側でも明瞭,隆起パターン,呼吸変化なし,圧迫されずなどです.
  • 本例では右側に加えて左側でも拍動が目立ちましたが,陥凹パターンで呼吸負荷による変化も伴っていたため視診だけで静脈性(内頚静脈)と診断できました.しかし強めの拍動で圧迫にも負けないチカラ強さには驚きました 😮
  • 右側では稀ながらパワフルな静脈拍動を経験しますが,左側では珍しいと思います.通常このような症例では座位であっても外頸静脈が怒張(注意を要する用語:過去の投稿)していることが多いのですが(自験例)... 奥深い

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👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-11-27

左脚領域ペーシングの予後

  • 近年,左脚領域ペーシング(LBBAP)が臨床現場に普及しつつあります.本邦から同手法を右室心尖ペーシング(RVAP)およびヒス束ペーシング(HBP)と比較検討した論文が出版されたのでアップしておきます. 

  • 対象 徐脈でペースメーカを植込んだ日本人424人を後向きに解析
  • 手技 成功率はLBBAP群の方がHBP群よりも高い(94.9%と81.5%)
  • 経過 閾値上昇>1VはLBBAP群でなし,HBP群9.4%,RVAP群5.1%
  • 予後 心不全入院の累積発生率はLBBAP群で有意に低率(下図参照)
  • 関連 予後不良因子は高齢,右室ペーシング割合,EF<50%,RVAP
  • 結語 RVAPやHBPと比較してLBBAPは徐脈患者のペーシングに有用


ペーシング方法と予後(右図はペーシング率>20%の症例)

👉 ペースメーカに関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2024-11-26

🏆 論文

  • 総合診療科の専攻医 國延先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 左鎖骨下静脈経由のペースメーカ植込み術後に両側の気胸が判明した症例です
  • 心房スクリューリードが原因?(ただし心エコーやCTで心嚢液や穿孔像なし)
  • 左側のみ胸腔チューブを留置し1週間後に抜去.その後に無事退院されました


😀 追加コメント
  • ペースメーカ植え込みに伴う気胸の発生率は1%程度と報告されています(引用).対側気胸の機序としてリード穿孔がありますが発生頻度は0.0001%未満(引用).
  • 他に胸膜内交通(バッファロー胸:先天性あるいは手術や外傷後),縦隔気腫や皮下気腫などが提唱されていますが,今回の症例ではどちらもありませんでした.

🎉「論文」の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-11-25

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2024-11-24

マイボーム腺 Meibomian gland

  • 瞼板腺とも呼ばれる上下眼瞼内にある毛根を伴わない独立皮脂腺
  • 上眼瞼に30-40本,下眼瞼に20-30本存在し眼瞼縁と垂直に並ぶ
  • 粘膜皮膚移行部の僅かに前方に開口し眼瞼縁と眼表面に脂を分泌
  • 個々の腺の長さは上眼瞼中央で 5.5mm、下眼瞼で 2mm(下図)
  • 由来はドイツのHeinrich Meibom the younger(1638-1700)の報告
  • 閉塞で霰粒腫(さんりゅうしゅ),分泌不足でドライアイを生じる
  • 同腺の感染は内麦粒腫(ばくりゅうしゅ),毛根感染なら外麦粒腫
  • 霰粒腫麦粒腫の俗称は「めばちこ」や「ものもらい」他(ココ

引用)The University of Tokyo, 2015,ほか


(投稿者 川崎)

2024-11-23

ミトコンドリア心筋症 Mitochondrial cardiomyopathy

  • DNAの遺伝子異常などで筋症状,脳症状,心症状を主症候とする疾患
  • ミトコンドリア(全てでない)の構造異常でエネルギー産生効率低下
  • 正常と変異の比率は個体間や組織間で異なるためさまざまな表現型
  • 心病変を合併するミトコンドリア病は約10,000〜15,000人に1人発症
  • 形態は心伝導障害,拡張型心筋症(28.9%),肥大型心筋症(46.7%)


💥 シンチグラフィの特徴MIBI/BMIPP mismatch pattern
  • 99mTc-MIBIの取り込みは減少(特に重症例)
  • 99mTc-MIBIウォッシュアウト率は増加する
  • 対照的に123I-BMIPPの取り込みは増加する

核種の集積がBMIPP>MIBIとなる所見(BMIPP/MIBIミスマッチ)は虚血性心疾患とは真逆です.MIBIの取り込みの減少はミトコンドリア呼吸鎖によって生じるミトコンドリア膜電位の低下を反映し,BMIPP/99mTc-MIBI の不一致はトリグリセリド プールの増大によって生じている可能性が提唱されています.



👉 シンチグラフィに関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)