- 通常は小児に急性咽頭炎などを引き起こすA群溶連菌による重篤な病態の一つ
- 主にA群溶血性レンサ球菌(S. pyogenes [ピオゲネス] /別名,化膿レンサ球菌)
- STSSは子供から大人まで広範囲の年齢層に発症(特に30歳以上の大人に多い)
- 免疫不全などの重篤な基礎疾患がなくても突然発病する例がある点に注意する
- 初期の症状は四肢の疼痛・腫脹,筋肉痛,発熱・悪寒,血圧の低下,下痢など
- 発症数十時間以内には軟部組織壊死,腎不全,ARDS,DIC,MOF,ショックへ
- 診断は通常無菌部(血液、脳脊髄液、胸水、腹水など)から上記細菌の検出
- 治療はPC系(+CLDM,免疫グロブリン),広範囲病巣(菌の生息部位)切除
- 2023年の報告数は本邦で941人と統計以降の最多(本年も3/17で既に517人)
- 今までは毎年100-200名が確認されて,約30%が死亡する致死率の高い感染症
- 全数報告対象(5類感染症)で診断医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出
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2024-06-04
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 STSS: streptococcal toxic shock syndrome
2023-06-15
今週の一枚 🎯
南アジアから帰国後に水溶性下痢が続く症例の便
💦 解説
- 中央に円形のオーシスト(接合子嚢・成熟卵嚢子)
- 赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は認めず
- 一般採血は正常(白血球数およびCRPは正常範囲内)
- PCR検査でサイクロスポーラであることを確認した
- 本例は1週間のST合剤の内服で症状は改善・消失した
💧 サイクロスポーラ症(Cyclosporiasis)
- 原虫 Cyclospora cayetanensis で汚染された食品または水を介した糞口感染により発症する(潜伏期間は約1週間).
- リスクは流行地域への渡航やAIDSのような細胞性免疫が低下した宿主で,ヒトからヒトへ直接的な伝播の可能性は低い.
- 我が国では食品汚染に関するデータはない.診断は便中のオーシスト鏡検やDNA検出で,第1選択の治療はST合剤である.
参考)食品安全委員会
👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)
(投稿者 川崎)
2022-09-17
スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス Staphylococcus lugdunensis
👿 臨床現場
- 発熱例で血液培養からグラム陽性が検出され S. lugdunensis と同定
- 本例は最終的に大動脈弁の感染性心内膜炎(弁輪部膿瘍あり)と診断
👾 S. lugdunensis
- グラム陽性球菌でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase negative staphylococci: CNS)に分類される
- 1988年に報告され,最初の菌株を分離したフランスの施設があるリヨンのラテン名 Lugdunum から命名
- 皮膚常在で S. aureus(黄色ブドウ球菌)や S. epidermidis(皮膚ブドウ球菌)より弱毒と考えられていた
- しかし S. lugdunensis の病原性は高く,近年は他のCNSとは区別され臨床的には S. aureus と同等に扱う
💁 感染性心内膜炎に関する過去の投稿 ➜ コチラ
(投稿者 川崎)
2022-01-01
恒例の元旦からグラム染色クイズ
下痢と血便で受診した中年男性の便グラム染色
👀 解説
- 採血の炎症反応は軽微であったが,CTでS状結腸の浮腫と周囲リンパ節の腫脹あり
- 便のグラム染色では螺旋状のグラム陰性桿菌を多数認めた(下図左,みどりの丸)
- 組織のワルチン・スターリー染色(スピロヘータ染色)陽性(下図中,丸と矢印)
- 組織で粘膜上皮に好塩基性毛羽立ち(false brush border=菌塊:下図右,矢印)
- 最終的に腸管スピロヘータ症と診断(本例はHIV感染はなく感染源は不明であった)
💫 追加コメント
- ヒトの腸管スピロヘータ症は Brachyspira 属菌によって引き起こされます.その最大の特徴は,大腸粘膜の上皮に菌体の一端を付着させた多数のスピロヘータが層をなして存在することです.
- 遅発育性と他の腸管内常在細菌の存在で培養は困難なことが多いのですが,HE染色で大腸粘膜上皮に好塩基性の毛羽立ち(偽刷子縁:false brush border)が診断の決め手となるそうです.
🎍 恒例の元旦からグラム染色シリーズ
- 2021 ➜ 恒例の元旦からグラム染色クイズ
- 2020 ➜ 恒例の元旦からグラム染色クイズ
- 2019 ➜ 恒例の元旦からグラム染色クイズ
- 2018 ➜ 元旦からグラム染色
- 2017 ➜ 元旦からグラム染色クイズ
(投稿者 川崎/臨床検査技術室)
2021-05-21
スコーン・ペック・ハム・スペース
👽 ピクニックではなくて細菌のグループ分けです
SSCoNE(スコーン)
PEK(ペック):腸内細菌で尿路感染症の3大起因菌
HaM(ハム):小児の中耳炎や副鼻腔炎,成人の肺炎
SPACE(スペース):院内で発症する感染症の起因菌
- Streptococcus(ストレプトコッカス レンサ球菌) 属
- Staphylococcus aureus(スタフィロコッカス アウレウス 黄色ブドウ球菌)
- Coagulase-Negative Staphylococcus (コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)属
- Enterococcus (エンテロコッカス 腸球菌)属
PEK(ペック):腸内細菌で尿路感染症の3大起因菌
- Proteus mirabilis(プロテウス ミラビリス)
- Escherichia coli(エシュリキア コリ/大腸菌)
- Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ ニューモニエ/肺炎桿菌)
HaM(ハム):小児の中耳炎や副鼻腔炎,成人の肺炎
- Haemophilus influenzae(ヘモフィルス インフルエンザ)
- Moraxella catarrhalis(モラクセラ カタラーリス)
SPACE(スペース):院内で発症する感染症の起因菌
- Serratia marcescens(セラチア マルセッセンス)
- Pseudomonas aeruginosa(シュードモナス エルギノーサ/緑膿菌)
- Acinetobacter baumannii(アシネトバクター バウマニ)
- Citrobacter freundii(シトロバクター フロインディ)
- Enterobacter cloacae(エンテロバクター クロアカ)
👾 おまけ
- 単純に記憶してもすぐに忘れます.でも実際の細菌をグラム染色で見ると覚えやすいかも.そんな時には「ゲーム🎮 グラム染色-30」を是非,ご利用ください.
(投稿者 川崎)
2021-04-12
旅行者下痢とコレラ
💧 市中感染性下痢症
💦 旅行者下痢症
- 細菌 ➜ カンピロバクター属,ウェルシュ菌,サルモネラ属,腸炎ビブリオ,下痢原性大腸菌など(夏季に多い)
- ウイルス ➜ ノロウイルスとロタウイルスなど(冬季に多い)
💦 旅行者下痢症
- 細菌性(約8割)➜ 下痢原性大腸菌,カンピロバクター属が多い.他にジアルジア,赤痢菌,コレラ菌,チフス菌,パラチフスA菌など
- 寄生虫性(約1割)
- ウイルス性(約1割)
👾 コレラ(Cholera)
- 原因 汽水域に棲息している細菌 Vibrio cholerae によるコレラ毒素
- 特徴 急性炎症反応を生じることなく上皮細胞の吸収分泌機構を破綻
- 経路 水や食物を介した糞口感染から成立(宿主となるのはヒトのみ)
- 潜伏 数時間から5日間(通常は1~3日位)で突然の大量下痢で発症
- 疫学 本邦で年10例程(多くはフィリピン,インド,タイの海外渡航)
- 症状 1日10㍑~の下痢(腹痛や悪心,嘔吐は比較的軽度で発熱は稀)
- 便性 “米のとぎ汁様”の白色〜灰白色の水様便で,甘くて生臭いにおい
- 治療 大量補液+ニューキノロン系抗菌薬(耐性ならアジスロマイシン)
😐 独り言
- コレラは有名な病気だけど意外に診断方法は知られていないと思います.グラム染色ではコンマ状の湾曲したグラム陰性桿菌で,流れ星様の運動を認めると報告されていますが,検鏡による診断は困難なようです.通常は下記の様な特殊培地で培養して診断します(概ね24時間で推定可能).当院の細菌検査室では10年以上,コレラ菌は検出されていないようです.
(投稿者 川崎)
2021-01-01
恒例の元旦からグラム染色クイズ
右下肢痛と発熱で緊急搬入された症例の患部組織
😱 臨床現場
- 本例は高度の炎症反応がありライネック・スコア(LRINEC score)は12点と高値であった
- コンパートメント症候群を防ぐため緊急で下腿の減張切開術を施行して創部をグラム染色
- グラム陽性球菌と多数の好中球(貪食像を含)➜ ブドウ球菌の疑い(培養でMSSAを確認)
- グラム染色で目立つ円形の透亮像は,皮下組織に存在する脂肪滴を反映すると考えられる
- メロペネム&クリンダマイシン+バンコマイシンで経験的治療(empiric therapy)を開始
- Finger testが陽性(切開創から指が軟部組織に抵抗なく挿入可)➜ 壊死性筋膜炎と診断
👶 壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis)の起因菌
フィンガー テスト- 壊死性筋膜炎 NF と聞けばA群β溶血性レンサ球菌や ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)を連想しやすいが,ブドウ球菌も意外に多いことに要注意
🎍 恒例の元旦からグラム染色シリーズ
- 2020 ➜ 恒例の元旦からグラム染色クイズ
- 2019 ➜ 恒例の元旦からグラム染色クイズ
- 2018 ➜ 元旦からグラム染色
- 2017 ➜ 元旦からグラム染色クイズ
(投稿者 川崎)
2020-11-06
グラム染色クイズ
胆管炎が疑われる症例の血培のグラム染色(強拡大=1000倍)
💦 エロモナス・ハイドロフィア Aeromonas hydrophila
👿 おまけ
- 本例はカルバペネムに耐性株でしたが,他のβラクタム系抗菌薬には感受性あり.これはA. hydrophilaの一部の株がカルバペネマーゼを産生するためです(J Bacteriol 1991;173:4611-7).New England Journal of Medicineに概ね毎号掲載される症例報告(Case Record of the Massachusetts General Hospital)では,しばしば来院時にメロペネムとセフトリアキソン,バンコマイシンを同時に投与しています.「どうしてセフトリアキソン?」と以前から思っていましたが,本例を経験するとなるほどです(もちろん組織移行性も考慮と予想しますが...).カルバペネム耐性菌は意外と少なくないため要確認 ➜ 過去の投稿
(投稿者 川崎)
2020-10-11
実体顕微鏡:個性的なカビ
👿 アスペルギルス(Aspergillus)属は種によって個性が強い
- A:アスペルギルス・フラバス(A. flavus)➜ 特有の緑色を呈し発がん物質を産生
- B:アスペルギルス・フミガタス(A. fumigatus)➜ アスペルギルス症の主な原因菌
👽 おまけ
- 当院での検出頻度はアスペルギルス・ニガー(A. niger)が約8割で,残りはフラバスとフミガタスが1割ずつです.真菌(カビ・酵母)は通常の寒天培地(Agar medium)では発育が悪いため,栄養たっぷりのポテト・デキストロース寒天培地(PDA)で培養します.
🉐 関連投稿(アスペルギルス編)
(投稿者 川崎)
2020-10-01
🎯 今週の一枚:想定される菌種は?
2020-09-16
2020-09-04
久しぶりのグラム染色です
🔍 解説
😋 カンジタ・クルーセイ(C. krusei)
- カンジタ属の数%と稀で,一回り大きい「長粒米」のような形態が特徴.標準的な抗真菌剤であるフルコナゾール(FLCZ)に耐性があるため,ミカファンギン(MCFG)あるいはアムホテシリンB脂質製剤(L-AMB)で加療する.
- カカオ豆からチョコレート🍩を作る過程で,クルーセイによる発酵が苦味の除去に活躍している様です(※).クルーセイはお酒🍶の匂いがする点でもユニークな真菌(個人的には酒粕の匂いと思います).ちなみに他のカンジタの匂いはパン生地🍞
🚫 おまけ
- 血液培養で真菌が検出されたら,眼科コンサルトを忘れずに.真菌性眼内炎は重度の視力障害や失明などに繋がります(※).
👿グラム染色の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)
(投稿者 川崎)
2020-06-24
ゲーム 🎮 グラム染色-30 GS-30
- 当院のERカンファレンスでは感染症ならグラム染色所見と培養結果,抗菌薬選択の根拠が問われます
- コロナ禍でカンファレンスが行われない間に,若手が各自自習できる簡単なゲームを開発しました
- 代表的な細菌のグラム染色計30問を1問30秒で回答 ➜ 獲得点から解釈能力を格付け(四段で合格)
(スマホ仕様ですがタブレットやデスクトップにも対応/現在の閲覧がウェブ版なら右欄にリンクあり)
🉐 関連投稿(ゲーム編)
(投稿者 川崎)
2020-05-24
2020-04-09
連鎖桿菌!
🔬 解説
- グラム陰性の桿菌を多数認めるが,連鎖球菌の如く連なっている(連鎖桿菌!)
- 喀痰なので緑膿菌あるいはクレブシエラを考慮(基本:前者は細く後者は太い)
- 菌体周囲がムコイド物質で覆われていることにも注目(共に産生することあり)
- 最終的に培養でムコイド産生型の緑膿菌P. aeruginosaであることが確認された
👴 おまけ
(投稿者 川崎)
2020-03-24
ナイスな1日❗
🔬 臨床現場
- 1例目は向かって左の症例で単球(?)の核がまるでハートマーク💜
- 細菌検査室の皆で喜んでいたらなんと2例目(右)はワンコだった🐶
- いずれもスライド作成時に偶然生み出されたモノだけど皆が笑顔に
- もちろん左が肺炎球菌で右はモラクセラだけど今日に限っては野暮😛
🉐 過去の関連投稿
(投稿者 川崎)
2020-03-04
グラムならぬギムザ染色
前日から発熱しERに搬入されたショック症例の末血ギムザ染色(強拡大:✖1000倍)
👶 解説
- 好中球に貪食されている多数の連鎖球菌(本染色はグラム染色でなくギムザ染色)
- 培養結果はG群溶血性レンサ球菌(S. dysgalactiae subsp. equisimilis)であった
- ギムザ染色で細菌をこれほど認めることは極めて稀(本例は蘇生に反応なく死亡)
(投稿者 川崎)
2020-02-01
2020-01-14
2020-01-10
感染症クイズ
- 尿路系の炎症が疑われる高齢者の無染色尿標本
- 残尿感や掻痒感,排尿時痛などの自覚症状なし
🗿 トリコモナス症 Trichomoniasis
- 定義 原虫である腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)による感染症(性感染症)
- 診断 新鮮な無染色標本で運動するトリコモナスを確認あるいは培養(いずれも難しい)
- 症状 排尿時の不快感・掻痒感・疼痛,悪臭を伴う分泌物など(男性は症状が出にくい)
- 部位 膣が多いが,子宮頸部や男性の尿道,前立腺,陰茎包皮,精巣などにも寄生する
- 経路 接触感染(性交が多いが,入浴や便器による家庭内感染や母子垂直感染もある)
- 治療 抗菌薬(メトロニダゾール他)の投与(女性は単回投与/男性は概ね5~7日間)
参考)腟トリコモナス症 - 日本性感染症学会ほか
👶 関連投稿(無染色標本)
(投稿者 江後/川崎)
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