内頸静脈の巨大v波にも関わらず,三尖弁逆流がほとんど観察されない症例も少なからず経験します(特に開心術後症例).その理由は不明ですが,stiff LA syndromeが背後にあるためと思っています.開心術中に切開された心房がコンプライアンスを失うことは想像に難くありません.右房も含むためstiff
RA syndromeまたはstiff
atrial syndromeと呼ぶ方が正確かもしれません.
深吸気で内頸静脈の拍動が出現することはあっても,陥凹が陽転化することは珍しいと思います.なお本ページではGiovanni
Maria Lancisiが発見した(三尖弁逆流時に出現する)頸静脈の巨大v波(cv
merger)をランチージ徴候と記載してきました.しかし本邦ではランチシと記載されることが多いようなので,今回から変更しようと思います.もっともイタリア人の発音ではランチーシと聞こえますが…
本例では体位と陽性波の関係で,フィジカル診断に迷いが生じました.触診あるいは呼吸負荷に対する反応,聴診の併用などで両者の鑑別(動脈性 vs 静脈性)は容易と考えられます.しかし脈に触れたい想いをぐっと我慢して,あくまでも視診にこだわってみました.本例はコリガン脈でありながら臥位でより明瞭であった理由は不明ですが,大動脈弁逆流の程度が一因であった可能性があります.重症であれば重力に抗して大きな陽性波が形成されますが,中等症ではそこまでの拍出量はないのかもしれません.大動脈弁狭窄ではフィジカルで重症度の診断技術が(ある程度)確立されています(過去の投稿).是非,大動脈弁逆流でも挑戦していきたいと思います.