このブログを検索

2021-11-30

意外に意外 😯 レミエール症候群 vs 抗凝固薬

研究1 メタ解析Int Arch Otorhinolaryngol 2020;24:e379-e385
  • 対象:Pubmedで検索したレミエール症候群の394症例(1990~2017年)
  • 方法:抗凝固療法と閉塞血管の再疎通あるいは死亡との関連を検討した
  • 結果:オッズ比は再疎通1.6 (0.3-9.4, P=0.6), 死亡0.6 (0.1-2.9, P=0.5)
  • 結語:Lemierre症候群では抗凝固療法が再疎通や救命に有効と言えない

研究2 後ろ向き研究Acta Haematol 2017;137:59-65
  • 対象:小児あるいは成人のレミエール症候群の18症例(1998~2014年)
  • 治療:全例広域抗菌薬を投与され,6例では4週間以上の抗凝固薬を投与
  • 結果:抗凝固療法の有無にかかわらず全症例で3ヵ月後には血栓が改善
  • 結語:Lemierre症候群では抗凝固療法が血栓症の予後に関係しなかった

👳 感想
  • 血栓性頸静脈炎で頸部に圧痛や腫脹などがあれば,主治医としては迷わず抗凝固薬を投与したくなります.しかしその効果が確立されていないとは...意外に意外 😯

💁 レミエール症候群に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2021-11-29

視診による重症度診断:大動脈弁逆流

拡張期雑音を指摘され来院した症例(症状なし)

📡 視診にこだわった実況中継
  • 臥床で頸部の周期的な隆起があり,静脈性なら巨大v波(三尖弁逆流など)で動脈性ならコリガン脈(大動脈弁逆流)と考えられる.外頸静脈の拍動は臥床+枕ありで頸部中央であるため,明らかな中心静脈圧の上昇はなさそう.つまり静脈性の巨大v波(ランチシ徴候)は否定的.しかし端座位でその陽性波は,臥床よりも不明瞭になっている.コリガン脈であれば通常,重力による虚脱増強のため臥床より座位の方が分かりやすいことが多い(自験例).少し悩んだが肘部内側の反跳脈を確認して,最終的に大動脈弁逆流と視診フィジカル診断した.その後に行った触診では明らかに動脈性拍動で,心エコー図で中等度の大動脈弁逆流を確認した.

本例では体位と陽性波の関係で,フィジカル診断に迷いが生じました.触診あるいは呼吸負荷に対する反応,聴診の併用などで両者の鑑別(動脈性 vs 静脈性)は容易と考えられます.しかし脈に触れたい想いをぐっと我慢して,あくまでも視診にこだわってみました.本例はコリガン脈でありながら臥位でより明瞭であった理由は不明ですが,大動脈弁逆流の程度が一因であった可能性があります.重症であれば重力に抗して大きな陽性波が形成されますが,中等症ではそこまでの拍出量はないのかもしれません.大動脈弁狭窄ではフィジカルで重症度の診断技術が(ある程度)確立されています(過去の投稿).是非,大動脈弁逆流でも挑戦していきたいと思います.

    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2021-11-28

    血液培養陰性心内膜炎 Blood culture negative endocarditis (BCNE)

    💀 想定される病態
    1. もともと培養困難な細胞内寄生菌であるバルトネラ属やコクシエラ属(Q熱含む)など
    2. 栄養要求の高い遅育性細菌(nutritionally variant streptococci:NVS)や HACEK,真菌
    3. 血液培養採取前に抗菌薬がすでに投与されていた場合(通常なら培養陽性となるが...)
    4. 非感染性(膠原病のLibman-Sacks心内膜炎や悪性腫瘍,ベーチェット病,リウマチ性他)

    👽 一言追加
    • 心エコー図で疣腫を認めなくても感染性心内膜炎の臨床診断は可能です.同様に血液培養が陰性でも心内膜が侵されている所見があれば診断できる場合があります(Duke臨床的診断基準).
    • 血液培養陰性心内膜炎が疑われる場合にはもちろん,抗菌薬によるエンピリック治療を速やかに開始します.そして病歴聴取から病原体を想定して,血清学的検査や特殊培養などを追加します.

    関連投稿
    1. ㊗ 論文(多彩な末梢サインを認めた症例)
    2. 末梢サインの頻度
    3. 感染性心内膜炎における感染部位
    4. 😳 ヘェ〜

    (投稿者 川崎)

    2021-11-27

    アミラーゼ陰性膵炎

    • 先日経験した急性膵炎の症例では血中アミラーゼ値が正常範囲内でした(急性膵炎は腹痛・膵酵素上昇・画像所見の3項中2項目以上を満たせば診断可能)
    • 本例の腎機能は正常で,かつ尿中アミラーゼ値も正常範囲内(通常,膵型高アミラーゼ血症では尿中アミラーゼのほうが血中アミラーゼより著明に上昇)
    • さらに本例にはアミラーゼが低値になる基礎疾患もありませんでした.なお当院ではリパーゼは外注検査のため救急現場では評価することができません.

    👻 少数例(52例)の検討ですが...(Clin Biochem 2017;50:1275-80
    • 計57回の急性膵炎発作で血清アミラーゼ値が正常範囲内であった頻度は12回(21%)⇠ 意外に多い😮
    • アミラーゼ値上昇の急性診断に対する診断能:感度79%,特異度97%,陽性的中率96%,陰性的中率82%
    • 血清リパーゼ上昇の診断感度は95%と血清アミラーゼ上昇より良好で,アミラーゼ上昇よりも長く持続

    💁 膵炎に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-26

    不整脈原性右室心筋症
    ARVC: arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy

    • 病態 右室の拡大と機能低下および右室起源の心室不整脈を特徴とする心筋症
    • 初報 Frank Rらによる4症例の仏語論文(Arch Mal Coeur Vaiss 1978;71:963-72
    • 原因 デスモゾーム関連遺伝子やリアノジン受容体(RyR2)遺伝子の異常など
    • 疫学 頻度は数千人に一人で,診断の平均年齢は30歳(30〜50%に家族歴あり)
    • 症状 不整脈症状(動悸や低血圧など)と右室不全症状(浮腫や食思不振など)
    • 検査 心電図(特にV1〜V3)でイプシロン波(下図b)が特徴的(約30%に出現)
    • 画像 エコーやMR,CT,アンギオで右室拡大と機能低下(特にMRIの脂肪線維化)
    • 生検 心室中隔からの心内膜生検では診断は困難(右室自由壁は手技的に困難)
    • 診断 初期病態を診断するため従来基準を2010年に改定(複雑:ココの表2参照)
    • 治療 心不全+不整脈(アミオダロンやソタロールなど,ICD,アブレーション)
    • 予後 追跡6年目の生存率は72%以上で死亡率は5%未満(治療法で大きく異なる)


    典型例の各種画像所見

    🉐 心筋症に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-25

    🎯 今週の一枚

    右下腹部痛を訴える妊娠中期の女性の単純CT



    (投稿者 川崎)

    2021-11-24

    挑戦は続く!

    心不全が疑われ当院を紹介受診した症例

    👾 解説
    • 収縮期駆出性雑音があり心基部でもⅡ音は不明瞭 ➜ 重症の大動脈弁狭窄の疑い
    • 音量は大きくはない(当院は統一スケール)➜ 必ずしも重症度を反映せず(
    • 頸動脈は緩徐な立上りで上昇脚に小振動(鶏冠状波形/shudder wave)➜ 確診
    • 心エコー図では最高血流速度が5.0m/s以上の超重症の大動脈弁狭窄症であった

    👽 AS vs Physical examination
    • 大動脈弁狭窄症は身体所見で診断すべきですが,その重症度判定にはやはり心エコー図に分があると思います.頸動脈波形は高い特異度(ルールイン=確定)を持っていますが(下表),本例のように明瞭に観察されることは稀です(自分の技術不足もありますが…😂).でも心エコー図には挑み続けたいと思っています.


    💁 大動脈弁狭窄に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2021-11-23

    IQ AQ EQ

    • IQ(Intelligence Quotient)➜ 知能指数
    • EQ(Emotional intelligence Quotient)➜ 心の知能指数
    • AQ(Achievement or Adversity Quotient)➜ 達成指数または逆境指数 

    👶 感想
    • 個人力はIQ✖️EQ✖️AQで」なんて言われると一見すごいように聞こえるかもしれません(これはビジネス用語に多いと感じています).しかし最大の問題はその評価方法です.指数の的確な算出方法が確立されているとは思えません.
    • その他にもSQ(Social Intelligence Quotient/社会性指数)やCQ(Curiosity or Cultural Intelligence Quotient/好奇心指数または文化的指数)などがあるようです. でも個人的には一番大切な要素は継続指数かなと思いますが...

    (投稿者 川崎)

    2021-11-22

    術後のアミラーゼ上昇

    • 対象は胸部手術74例(体外循環55例),腹部手術56例,他162例
    • 合計292例中56例 (19.2%) に術後の高アミラーゼ血症が出現した
    • 膵型高アミラーゼ血症は6例で直接膵侵襲を加えた症例に限られた
    • 唾液腺型高アミラーゼ血症は50例で体外循環による開心術で最多
    • 唾液腺型の6例では術後3日目に5例,7日目には全例が正常化した

    👾 呟き
    • 挿管などの口腔内操作が唾液線を刺激するため,術後に唾液アミラーゼが上昇するのかな〜と思っていました.しかしそれでは術式によるアミラーゼ上昇度の差を説明することはできません.
    • どうやら体への侵襲度と関連するようです.唾液腺型アミラーゼはストレス環境で上昇しリラックス環境で低下します().血漿ノルエピネフリン濃度とも相関が良いため,様々な状況でストレス指標として活用されているようです().

    💁 アミラーゼに関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-21

    💊 リフィル処方せん Refill prescription

    • refill ~を補充する・詰め替える,補給・おかわり  (発音)《動》rifíl 《名》rífil(リフィル)
    • 患者が医師の再診を受けることなしに定められた期間内に反復して使用できる処方箋のこと
    • 対象は安定している患者で医師が指定した期限内なら薬剤師の監視下で繰り返し調剤が可能
    • メリットは医師・患者ともに負担の軽減+医療費の削減+薬剤師も専門知識を社会に還元可
    • 一方,デメリットとして漫然と処方が続くため医療の質が低下する可能性+薬剤の転売など

    日本とカナダ両国における薬剤師業務のあり方

    🌎 お国事情
    • 米国では1951年よりすべての州で導入され,ヨーロッパでも多くの国で導入済み(フランス・イギリス・フィンランドなど/ただしドイツは未導入).
    • 本邦では10年以上前から議論されてきたが,まだ導入されていない.しかしコロナ禍中の現在,その導入に関して議論が再開されているようである.

    💁 各種制度の関連投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

    (投稿者 川崎)

    2021-11-20

    妊娠に伴う味覚変化

    • 妊婦の97例中90例(93%)が妊娠中に何らかの嗜好の変化を認めている
    • 好みの味質は酸味59例(66%),塩味41例(46%),甘味5例(6%)(重複有)
    • 変化時期は88例(98%)が妊娠前期で31例(34%)が濃味を好きになった
    • 97例中50例(52%)が自分の唾液を気にし61例(63%)が口内乾燥を自覚


    舌の味覚地図(Tongue map or taste map)

    味覚部位に極端な感受性の差はない(左図)/かつての誇張された考え(右図)は否定的

    👅 おまけ
    •  月経周期と味覚感受性は関連しないといいう報告がある一方で,月経中は苦味や塩味の味覚の感受性が高くなり,黄体期には逆に味覚感受性が低くなるという報告もあるようです(日本調理科学会誌 2010;43:221-7
    • 妊婦の味覚変化の一因として亜鉛欠乏が考えられるようですが,血清亜鉛濃度は妊娠中期〜後期に低下するため,妊娠初期の味覚障害の成因を亜鉛欠乏のみで説明することは難しいようです(日耳鼻 1996;99:1208-17

    (投稿者 川崎)

    2021-11-19

    先日,ERに来た若者の尿中ケトン体が4+でした

    • ケトン体はアセトン,アセト酢酸,β-ヒドロキシ酪酸の総称
    • ケトン体は脂肪の分解時に肝臓で作られ血液中に放出される
    • 腎機能障害がなければケトン体の濃度は尿中が血中より高い
    • 尿ケトンは試験紙法で容易に判定できて,陰性が正常である
    • ただし尿試験紙はアセトン(とアセト酢酸)のみを検出可能
    • ケト酸の生成速度は遅くて顕在化に数時間~半日以上を要す


    👺 出現する原因
    1. 糖の利用障害 ➜ 糖尿病性ケトアシドーシス,ミトコンドリア病,糖原病など
    2. 糖の摂取不足 ➜ 飢餓,繰り返す嘔吐,極端なダイエット(低炭水化物),他
    3. 糖の消費亢進甲状腺機能亢進症,激しい運動,高熱,外傷,ストレスほか
    4. その他 ➜ 薬剤性(SH基・セフェム系・フェニルピルビン酸),高Cr尿など

    👹 おまけ
    • 当院の症例は食習慣が尿中ケトン体4+の原因と考えられました.基礎疾患がない場合,ケトン体の存在が人体にとって有害か否かは確定されていないようです.実際に糖質制限でケトン体濃度を持続的に増加させ,体脂肪をエネルギー源とする体に変えていくケトン体ダイエット(ケトジェニックダイエット/Ketogenic diet)を推奨する考えもあります.ダイエットに有効ばかりか,ガンや癲癇,糖尿病の症例にも有益であるという報告も散見されます().

    (投稿者 川崎)

    2021-11-18

    🎯 今週の一枚(音)

    胸から音がすると言って来院した症例

    💣 解説
    • 収縮期雑音があり期外収縮の後に著増(概ね10倍以上)
    • 駆出性雑音では先行RR間隔が延長時に音量は増大する
    • しかし大動脈弁狭窄の増大はせいぜい2倍まで(自験例
    • 本例の様に著明に増加する症例は閉塞性肥大型心筋症!
    • 予想通り心エコー図で流出路狭窄を確認した(動画後半)

    👂 独り言
    • 本例は心室期外収縮が散発してたため,患者さん自身が述べるように時々,胸から心雑音が聞こえました.レバイン分類では最も大きい音を6度(聴診器が胸壁に触れなくても聴取可能)に分類します.本例では聴診器すら不要な巨大な雑音でした(勝手にレバイン7度と命名 😊).人工弁の機械音も聴診器なしで聞こえることがありますが,これは雑音ではないのでレバイン分類は適応されません.

    👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2021-11-17

    妊娠中の放射線被曝:胎児への影響

    🚑 先日,妊婦さんの腹痛に対して最終的に単純CTで虫垂炎と診断し緊急手術を行いました

    👶 推奨されている患者さんへの説明
    1. 受精後10日までの被曝では奇形発生率の上昇はない
    2. 受精後11日~妊娠10週での胎児被曝は奇形を誘発する可能性があるが,50mGy未満では奇形発生率を上昇させない
    3. 妊娠9~26週では中枢神経障害を起こす可能性があるが,100mGy 未満では影響しない


    検査別の胎児被曝線量(オリジナルは英国データ

    🐥 追加コメント
    • 受精後14日を過ぎた妊娠4~10週になると器官形成期であり100mGy(閾値)以上の被曝を受けた場合は奇形発生率は上昇するとの報告がある.一方,100~500mGyの被曝でも奇形発生率は上昇しないとする報告もある.ICRP84 は「妊娠のどの時期であっても100mGy 未満の胎児被曝線量は妊娠中絶の理由と考えるべきではない」としている.
    • 妊娠9~16週の胎児中枢神経系は細胞分裂が旺盛で,被曝は精神発育遅滞の頻度を上昇させる可能性がある.妊娠17~26週では中枢神経系の放射線感受性は低下するが影響は多少残る.妊娠9週未満および妊娠27週以降の被曝は,中枢神経系に悪影響を与えない.妊娠のいずれの時期でも100mGy以下の低い線量被曝による IQ 低下は確認されていない


    💁 被曝に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-16

    🍛 カレーアレルギー

    カンファレンスの一コマ 💨
    • 研修医 「本例の主訴は ”カレーを食べると必ず吐く” です」
    • 指導医 「カレー?そのカレーが古くなってたんじゃないの」
    • 研修医 「外食や自炊,ルーにかかわらず常に吐くそうです」
    • 指導医 「カレーアレルギー?そんなん聞いたことないけど」

    カレー粉の成分
    1. 辛味 ➜ カイエンペッパー,コショウ,チリーペッパー,ニンニクほか
    2. 芳香 ➜ クミン,コリアンダー,シナモン,ナツメグ,カルダモンなど
    3. 色調 ➜ ターメリック(鬱金またはウコン),サフラン,パプリカほか

    😎 松下なんでも調査隊
    • カレーに含まれる食材(甲殻類やピーナッツなど)アレルギーは散見されます.スパイス自体に対するアレルギーの報告もあるようですが,スパイスの塊であるカレー粉(curry powder)に対するアレルギーは不思議と目にしません(でした).
    • しかしカレー粉はヨモギ花粉(mugwort pollens)と交差反応性を示すため,実は隠れたアレルゲンだそうです().実際に "Allergy to curry: case report" というタイトルの論文も見つけました(Allergol Immunopathol 2011;39:383-5).

    💁 アレルギーに関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能です)

    (投稿者 川崎)

    2021-11-15

    大動脈弁狭窄の重症度と音量

    📖 弁膜症治療ガイドライン2020年改訂版)の63ページ
    • 「なお,ASが進行して左室機能障害をきたし一回拍出量が低下すると収縮期雑音は小さくなるので,収縮期雑音の強弱で病態の重症度を判断するのは誤りである.」

    😟 呟き
    • 左室駆出率が低下してくれば,いわゆる”Low-Flow/Low-Gradient Aortic Stenosis(低流量低圧較差大動脈弁狭窄)”になるため雑音の音量が低下することは理にかなっています.しかし収縮力が保たれている症例でもあまり音量が大きくない重症例をしばしば経験します.そこで手持ちの心音図を比較してみました(当院の心音図はすべて同一のスケールで記録/選択バイアスは否定できませんが作為的な操作は一切なし/左室駆出率は全症例で正常)


    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2021-11-14

    拡張期血圧のエビデンス

    ☎ 先日,拡張期血圧の質問を受けたので高血圧治療ガイドライン2019(JHS2019)を確認しました

    • 診察室・診察室外血圧値のいずれも収縮期血圧と拡張期血圧はそれぞれ独立した危険因子(19ページ)
    • 高齢者では大動脈の伸展性が低下するため,収縮期血圧は上昇して拡張期血圧は低下する(19ページ)
    • 血圧評価には収縮期血圧を用いる(拡張期血圧より心血管イベントと強く関連するため)(60ページ)
    • 過降圧の不利益として臓器血流の低下を考える場合,心臓を除き収縮期血圧の維持を重視(61ページ)
    • 冠動脈疾患では収縮期血圧130mmHg未満を目指し拡張期血圧80mmHgを避ける必要なし(111ページ)

    🤰おまけ:クリニカルクエスチョン15(162ページ)
    • Q 妊娠高血圧で減塩は推奨されるか? 
    • A 減塩(6g /日)は妊娠高血圧のは非薬物療法としては推奨されない
      ➜ 26論文のシステマティックレビューで有益性なし(ただし不利益もなし)

    💁 関連投稿

    (投稿者 川崎)

    2021-11-13

    内分泌の復習 

    • エンドクリン(endocrine)=内分泌 ➜ 分泌された物質が体液で標的細胞まで運ばれ作用するタイプのシグナル伝達の様式(例:インスリンなど多数)
    • パラクリン(paracrine)=傍分泌 ➜ 分泌された物質が分泌細胞の近隣にある細胞に作用するタイプのシグナル伝達の様式(例:ソマトスタチン)
    • オートクリン(autocrine)=自己分泌 ➜ 分泌された物質が分泌した細胞自身に作用するタイプのシグナル伝達の様式(例:乳汁産生抑制因子)
    • その他 ➜ ジャクスタクリン(juxtacrine)=接触分泌(膜結合型分子として作用)やイントラクリン(intracrine)=細胞内分泌(自身の核内受容体に作用)


    👶 復習
    • 分泌物を体液中や血液中に放出する形式が内分泌で,分泌物質の総称がホルモン
    • 一方,分泌物を体液中ではなくて体外や体腔に放出する形式は外分泌(exocrine)

    (投稿者 川崎)

    2021-11-12

    医療メディエーター

    • mediator【名】2者間の仲介者,調停者,まとめ役(発音 míːdièitər/メディエイタァ)
    • 患者側と医療者側から中立的な立場を保って,両者の理解や関係改善を支援する役割
    • 当事者による自主的な対話を促進する役割で代理や代弁または解決案の提示はしない
    • 2004年に日本医療機能評価機構で医療メディエーターの研修がスタート(資格不問)
    • 2008年に日本医療メディエーター協会が発足(認定には同機構・協会の受講が必要)
    • 医療メディエーターに専従している医療従事者は稀でスキルアップとして取得が多い


    (投稿者 川崎)

    2021-11-11

    膠原病と漢方薬

    症状に合わせた漢方薬の使用
    ステロイドの量を減らす 柴苓湯(さいれいとう)
    レイノー現象対策 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
    むくみ 柴苓湯(さいれいとう)
    更年期症状(肩こり・のぼせ・冷え)の改善 加味逍遙散(かみしょうようさん)
    当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
    血小板の減少対策 加味帰脾湯(かみきひとう)
    関節痛や神経痛対策 関節リウマチなら大防風湯(だいぼうふうとう)
    NSAIDsの代用なら桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
    口の渇き対策 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
    痰や咳対策 麦門冬湯(ばくもんどうとう)エキス
    こむら返りや筋肉の痙攣対策 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
    患者さんが知りたいリウマチ・膠原病(香川英生先生;現代書林:2011)より一部改編

    📘 同書籍からのトリビア
    • ループス・エリテマトーデスのループスはラテン語の「オオカミに噛まれた傷に似た皮膚症状」の意味
    • サルコイドーシスはラテン語で「肉のようなものができる病気」の意味

    💁 膠原病に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能です)
    💁 漢方に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能です)

    (投稿者 川崎)

    🎯 今週の一枚

    数ヵ月前から労作時の息切れを感じるようになった症例



    (投稿者 川崎)

    2021-11-10

    ASA PS: American Society of Anesthesiologists Physical Status

    • 術前の麻酔科における簡便なリスク評価で予後とも相関する
    • 米国麻酔科医会の依頼で作成(Anesthesiology 1941;2:281–4
    • 現在の仕様は2014年版で,最終更新は2020年12月 ➜ コチラ

    ❻ 以下の6クラスに分類(緊急手術ではEを追加)
    1. 手術の対象疾患は局在的で全身的な障害なし(例:他が健康な症例の鼠径ヘルニアあるいは子宮筋腫)
    2. 軽度の系統的な障害(例:喫煙者,妊婦,コントロールされた高血圧や糖尿,新生児または80歳以上)
    3. 重症の系統的な障害(例:コントロール不良の糖尿や高血圧,COPD,BMI 40以上の肥満:本邦は35?)
    4. 生命をおびやかす高度の系統的疾患(例:3月内の心筋梗塞や脳血管障害,血液透析,EFの高度低下)
    5. 瀕死状態で手術でも助かる可能性は少ない(例:動脈瘤破裂でショック,広範な肺塞栓,多臓器不全)
    6. 脳死状態の臓器移植ドナー

    (投稿者 川崎)

    2021-11-09

    🏆 論文

    • 当院の循環器内科に勤務されている車古先生が執筆した論文が出版されました
    • 人名が冠せられた複数のフィジカル所見を有した大動脈弁逆流症例の一例です
    • 網膜動脈の拍動であるベッカー徴候(Becker's sign)が美しく記録できました
    • 速脈(pulsus celer)を反映し大動脈弁逆流以外に甲状腺機能亢進などで出現


    👀 おまけ
    • ベッカー徴候は有名な身体所見の割には,論文やYouTubeを検索しても動画を見つけることができませんでした.眼底動脈をムービーとして記録する方法が確立されていないことが一因かもしれません.
    • 本例ではOCTを撮影する装置のモニター画面をスマホで動画として記録しています(OCT像ではありません).世界初(?!)かもしれない動画なので,よければご覧ください ➜ ココのVideo 2をクリック
    • 眼底鏡でも眼底動脈のダイナミックな拍動がカラー像で観察できましたが,こちらはうまく記録できませんでした(接眼部とスマホカメラのピントが合わず 😥).協力していただいた眼科の皆様には本当に感謝

    👿「論文」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

    (投稿者 川崎)

    2021-11-08

    意外に都合よく出ています

    息切れで来院した症例の心音(心尖部

    🐤 解説
    • 高調な収縮期雑音(楽音様)でⅡ音は不明瞭 ➜ 僧帽弁逆流?
    • 先行RRが長い3つ目の音は音量が少し大きい ➜ 駆出性の雑音
    • よって本例はガラヴァルダン現象を伴う大動脈弁狭窄の疑い
    • 実際にその後の心エコー図で重症の大動脈弁狭窄を確認した

    🐦 独り言
    • 聴診で大動脈弁狭窄と僧帽弁逆流の鑑別に悩むケースが少なくありません.Ⅱ音の有無が最大のポイント(前者では明瞭で後者では不明瞭:実例)ですが,例外も散見されます.
    • 重症の僧帽弁逆流症では収縮期雑音がダイアモンド型になり,Ⅲ音も高調化してⅡ音に似ることがあります.そのような症例ではますます大動脈弁狭窄と鑑別が難しくなります.
    • そんな時には下図で示す様に期外収縮後の音量変化が鑑別診断には有用です.収縮期雑音は,駆出性なら音量が増加しますが,逆流性雑音では変化しません(心房細動症例で耳を訓練😊)
    • 洞調律例では「そんなにタイミングよくPVCはでないよ」という声も聞こえてきそうですが,来院するような症例では意外に出ています(むしろ気づいてないほうが多いのでは…😗)


    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2021-11-07

    三点認証

    • 医療現場で行われている過誤防止のためのシステムの一つ
    • 行為の前に施行者・対象患者・投与薬剤の三つを照合する
    • 携帯情報端末を用いてすべてが合致時のみ医療行為を施行

    (商品例:アイニックス株式会社の三点認証 PatientSafty-Check

    (投稿者 川崎)

    2021-11-06

    急性肺血管反応性試験 Acute vasoreactivity testing; AVT

    • 肺動脈性肺高血圧症(PAH)で高用量カルシウム(Ca)拮抗薬による治療適応を判定するテスト
    • 具体的には一酸化窒素(NO)吸入(10-20 ppmで5分間)が推奨(欧米では他の負荷方法あり)
    • 平均肺動脈圧(mPAP)が10 mmHg以上低下+40 mmHg以下+心拍出量の低下がないなら陽性
    • 同試験で陽性を示す症例はきわめて少ないが,陽性例ではCa拮抗薬が治療の選択肢となりえる


    😑 補足
    • 高用量カルシウム拮抗薬の例として,ニフェジピン(アダラート®)なら平均172±41 mg(120〜240)/日やジルチアゼム(ヘルベッサー®)なら720±208 mg(540〜900)/日などが報告されています(N Engl J Med 1992;327:76-81).
    • 上記ガイドラインによると,急性肺血管反応性試験が陽性なら,他の肺高血圧治療薬に対する反応性も良好であることが多いようです.ただし肺高血圧治療薬は一般に極めて高価(ひと月の医療費が何十万)なので,安価なCa拮抗薬のメリットは小さくありません.

    💁 肺高血圧に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-05

    骨折の種類+α

    無料画像:看護ROOより)

    🦴 横(おう)骨折 vs 螺旋(らせん)骨折(先日のモーニングレクチャーより)
    • 横骨折は高エネルギー外傷時に多く,螺旋骨折は低エネルギー外傷で多い
    • 横骨折は螺旋骨折より治癒しにくい(骨折面積が大きいほど治癒しやすい)

    (投稿者 川崎)

    2021-11-04

    B型肝炎ワクチン

    • 日本で2016年10月1日からB型肝炎ワクチン(HBワクチン)が遂に定期接種化
    • 世界初の実用がん予防ワクチンで多くの国で既に定期接種化(例外:イギリス)
    • 対象は2016年4月1日以降に誕生した0歳児で,定期接種は生後2,3,7~8ヵ月
    • HBキャリアの母親から生まれた児は 0,1,6カ月で接種を行う(下図を参照)
    • 対象外は自費(約6000円×3回)だが若者やリスク例は要考慮(効果は15年〜)


    💁 ワクチンに関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-03

    全身性若年性特発性関節炎 sJIA (Systemic juvenile idiopathic arthritis)

    • 16歳未満に発症した原因不明の6週間以上持続する慢性の関節炎(JIA)の全身型
    • JIA中で最多の病型で全国に約8000人/男女比はほぼ同数で平均発症年齢は5.1才
    • JIAの他の型は少関節型や関節型,乾癬性関節炎,付着部炎関連関節炎,分類不能
    • 診断基準はEdmonton改訂ILAR分類基準2001(下表)や日本リウマチ学会基準など
    • 症状は高熱・関節炎・皮疹を中心にリンパ節腫脹,肝脾腫,漿膜炎などが加わる
    • 治療はパルス療法を含むステロイドや血漿交換,トシリズマブ(アクテムラ®)他
    • 一部はマクロファージ活性化症候群へ移行して多臓器不全などで死亡(10~20%)
    • 採血で白血球増多(左方移動のない好中球増多),貧血,CRPやフェリチンの高値
    • 鑑別は感染症やウイルス性血球貪食症候群炎症性腸疾患,腫瘍,自己炎症症候群



    💁 小児に関する過去の投稿 ➜ コチラ
    still スティル
    (投稿者 川崎)

    2021-11-02

    epi エピ peri ペリ

    • 昨日の抄読会でちょっとこんがらがったので … 😅
    • 日本語訳は循環器学会の用語集(第4版)からです

    💗 Pericardium(心膜)
    1. visceral pericardium(臓側心膜)= epicardium(心外膜)
    2. parietal pericardium(壁側心膜)

    💓 Pericardial(心膜の)
    1. pericardial sac(心嚢,心包)
    2. pericardial fluid(心膜液,心嚢液)

    💁 心膜に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2021-11-01

    ココでは聴診より触診

    胸痛で来院した症例の心音(心尖部)と心尖拍動

    🍘 臨床現場
    • 収縮期に雑音があり明瞭なⅡ音を認識できるため,逆流性雑音ではなくて駆出性雑音と判断.雑音が鎖骨や頸部にも放散しているため,閉塞性肥大型心筋症ではなくて大動脈弁狭窄と予想.引き続き行った心エコー図で大動脈弁狭窄(中等度)を確認して一安心(僧帽弁逆流であることは稀でない).
    • ただし心音図をみてビックリ.大きなⅣ音(赤四角)と心尖拍動のA波増高(赤矢印)が記録されていた.もう一度聴診をやり直したが,Ⅳ音はうまく聞き取れなかった.一方,心尖部を丹念に探ると二峰性拍動が指先に伝わってきた.Ⅳ音はしばしば聴診より触診である(いわゆる触ってナンボの法則
    • このダブルインパルス(A波+抬起性拍動)は触知するⅣ音+左室肥大を反映する所見で,肥大に伴った心筋コンプライアンスの低下を生じる病態で出現しやすいことが知られている.その代表疾患は肥大型心筋症(自験例)であるが,大動脈弁狭窄に加えて高血圧性心疾患(自験例)などでも認める.

    🍙 独り言
    • 大動脈弁狭窄のような大きな駆出性雑音では耳に(勝手に)フィルターがかかります.音柱の宇髄天元になったつもりで全集中しても,Ⅳ音の有無の判定は困難です(Ⅰ音すら不明瞭 😅)
    • こんな時は聴診にこだわらずに,触診に切り替えてください.指先は超高感度の圧センサーです.二峰性心尖拍動なら触診>舌圧子>視診の順に分かりやすいと思います(個人的感想 😋)
    • 一方,閉塞性肥大型心筋症のⅣ音は,心雑音があっても大動脈弁狭窄より認識しやすいと思います(自験例).雑音の直前に引っ掛かりがあります(これも個人的な感覚ですが 😤)

    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)