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2023-06-30

振動覚 あれこれ

〰 振動覚の確認法
  • 振動覚検査は音叉を用いて行う(通常はC-128Hzの音叉を使用)
  • 音叉を叩いた後に四肢末端の骨突出部(内果など)に押し当てる
  • 振動を感じなくなったら「はい」と合図させその秒数を記載する
  • 低下の基準は10秒以下(ただし加齢で低下:5秒以下なら確実)

参考)日本神経学会,ほか


👂 ヘルツ深掘り
  • Hzは周期的な現象の単位で1秒あたりの生起回数のこと(基本単位としては秒の逆数 /s)
  • Hz(ヘルツ)はドイツの物理学者 Heinrich Rudolf Hertz(1857-1894)の名に由来する
  • 心音の主成分は〜100 Hz(S1は10~40 Hz,S2は30~40 Hz),心雑音は200 Hz以上が多い
  • ヒトの可聴域は20 Hz~20 kHz(2 kHz~5 kHzが最も高感度で,加齢に伴い高周波が低下)


さまざまな楽器の周波数帯域

(投稿者 川崎)

2023-06-29

今週の一枚 🎯 フロッグサイン

突然生じた動悸でERを受診した症例(仰臥位)

🚑 現場実況
  • 血圧低下はないが頻脈(動画中のモニター音に注目)
  • 内頸静脈は視認できないが外頸静脈(陥凹)は明瞭
  • 拍動パターン解析は困難であるが静脈圧上昇はなし
  • 頸動脈の拍動(もちろん隆起)も僅かに観察できる
  • 吸気負荷で外頸静脈は怒張(隆起して拍動が消失)
  • PSVTと診断:修正バルサルバ法は無効でATPで停止

🐸 追加コメント
  • 本例はおそらく房室回帰性頻拍(AVRT/WPW症候群)と考えられました.外頸静脈の拍動であるため,単なる洞頻脈でも同様の所見になると思われます.房室結節回帰性頻拍(AVNRT)で有名なフロッグサイン(frog sign)とは少し異なる身体所見です(右房と右室がほぼ同時に収縮するため内頸静脈に出現).ただしこのカエル徴候はAVRTや心房頻拍(AT)でも出現することがあるので(自験例),AVNRTとイコール関係ではありませんが...

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2023-06-28

尿酸の簡易病型分類法:排泄低下 or 産生過剰 ?

  • 尿酸の産生量は尿中尿酸排泄量から,排泄は尿酸クリアランスから推定可能であるが,通常は24時間の蓄尿を要し簡便ではない
  • クレアチニンは健常人では1日に約1gが尿中に排泄され,尿中尿酸/尿中クレアチニンは1日当たりの尿中尿酸排泄量と近似する
  • よって随時尿中の尿中尿酸(UUA,mg/dL)と尿中クレアチニ ン(UCR,mg/dL)の比を大まかな目安として代用することができる

随時尿簡易法(UUA/UCR)
  • 0.5以上を産生過剰型
  • 0.5未満を排泄低下型

(尿酸治療薬は1週間中止・痛風発作時は避ける)


💁 尿酸に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-27

糖尿病性ケトアシドーシス症例の腹痛

👥 先日のERカンファ
  • 先日,1型糖尿病患者が腹痛を訴え来院し,糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) と診断され入院しました.アミラーゼも少し上昇していました.
  • DKA症例では多飲多尿や脱力感,嘔気嘔吐に加えて,腹部症状をしばしば訴えます.しかし「どうして腹痛?」と思ったので調べてみました.

👼 DKAの腹痛
  • 腹痛はDKA症例の40~75%に存在(反跳痛は12%)して,動脈pHと血清重炭酸塩レベルが低下するにつれて増加
  • 原因は急性高血糖による食道・胃・胆嚢の運動障害,肝被膜の急速な拡張,脱水に伴う血管内容量減少による腸間膜虚血など
  • 最大35%の患者では腹痛疾患 (膵炎・肝炎・腎盂腎炎・骨盤炎症性疾患・胃炎など) がDKAの誘因になっている
  • フルニエ壊死性筋膜炎や急性胆嚢炎,虫垂炎,会陰膿瘍,急性膵炎などで約6%のDKA症例で腹部手術が必要


👤 おまけ
  • 糖尿病性ケトアシドーシスで腹痛を伴った場合,単なる一症状と軽く考えるのではなくて,エコーやCTなどで原因検索が必要の様です(Acta Endocrinol 2017;13:509–11

(投稿者 川崎)

2023-06-26

分かりにくかった頸動脈二峰性拍動

全身浮腫と息切れで受診した化学療法中の担癌症例(臥床)

👶 解説
  • 左側の頸動脈拍動を伝える舌圧子に明瞭な上下運動あり
  • その動きは二峰性拍動(pulsus bisferiens/biphasic pulse)
  • 心エコーでは左室流出路狭窄,僧帽弁逆流,左室過収縮
  • 抗がん剤による体液貯留で生じた高拍出性心不全と診断

😅 診察室実況
  • 収縮期駆出性雑音(3度)があったため流出路狭窄も鑑別診断には含めたが,初回の頸動脈診察で二峰性拍動とは診断できなかった.心エコー図の結果(左室流出路圧格差>60 mmHg)に驚いて,頸動脈の診察をやり直した時の動画が上記である.
  • 頸動脈の2峰性拍動といえば閉塞性肥大型心筋症(spike and dome型:自験例)と大動脈弁逆流(鋭い2峰:自験例)が有名である.本例の様に反応性の過収縮から生じた左室流出路狭窄による2峰性拍動はあまり明瞭にはならないのだろうか?

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(投稿者 川崎)

2023-06-25

日本内科学会 第240回近畿地方会より

😐 個人的に気になった報告

演題28 急性期脳梗塞の原因としてcarotid webを認めた1例
  • Carotid webとは頸部内頸動脈起始部後壁にできる棚状構造物で,その本態は線維筋性異形成と考えられている.Carotid webは潜在性脳梗塞の1.6%,さらに60歳未満に限れば4.5%に認められると報告されている.

演題87 たこ焼き摂取後に発症した経口ダニアナフィラキシーの1例
  • パンケーキ症候群と呼ばれる経口ダニアナフィラキシー.アナフィラキシーの原因は食物が最も多いため間違われることもあり,正しい診断のためには本疾患を念頭に置いて丁寧に問診することが重要

演題100 慢性疼痛の症状緩和に対して仮想現実技術を用いた脳再プログラミング療法が著効した2例
  • mediVR社製のmediVRカグラのガイド下脳再プログラミング療法は薬物療法が奏功しない慢性疼痛患者の症状緩和に有用である可能性が示唆された(今回,mediVRカグラに関する演題が他に2つあり)

演題103 耳管通気中に脳空気塞栓症を来した1例
  • 左耳の聴力低下で来院.左鼓膜に陥凹が認められたため,耳管通気処置を施行した後に意識消失し眼球上転, 全身の痙攣を認めた.直ちに心肺蘇生を開始.数分で心拍再開したが酸素化安定せず,挿管し人工呼吸器にて管理となった.静脈に空気が流入し体循環に入ったためと考えられている.

演題116 炭火処理に従事した未成年者に発症した急性好酸球性肺炎の1例
  • 週3回, 炭火焼肉店で非常勤勤務.狭小空間で,使用済みの炭火を処理する作業に従事した.確定診断にチャレンジテストを要するが,患者はリスクを背負ってまで負荷試験を希望されず(元々,この勤務を辞めるつもりであった)

演題120 Geleophysic dysplasia(幸福顔貌骨異形成症)に合併した肺高血圧症の1例
  • リソソーム貯蔵障害に類似した進行性の疾患である多幸小人症で,低身長・短い手足・進行性の関節制限および拘縮・特徴的な顔貌・進行性の心弁膜症・皮膚の肥厚が特徴である(知性は正常)(引用).Geleophysic dysplasiaは稀少疾患であるが, 肺高血圧症の合併の報告はさらに少ない.

👻 当院からの発表
  • 演題121 Staphylococcus lugdunensisによる感染性心内膜炎の1例(循環器内科 野口理希先生)

😇 とてもナイスな発表でした

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-06-24

第98回看護師国家試験より

問題 胎児で酸素飽和度の最も高い血液が流れているのはどれか

 
 
 
 

判定

😎 解説
  1. 胎児の門脈は臍静脈の枝が合流するため酸素飽和度は少し高め
  2. 臍動脈は左右内腸骨動脈の枝で,胎児から胎盤へ静脈血を運ぶ
  3. 臍静脈は胎盤でガス交換された動脈血を胎児に運ぶ血管である
  4. 胎児の下大静脈には臍静脈から静脈管が合流し混合血が流れる



(投稿者 川崎)

2023-06-23

プルプル心尖部

端座位の肥大型心筋症例

👀 解説
  • 心尖拍動を視認 ➜ 左乳輪内側で心拡大はなさそう
  • 心尖拍動はとても明瞭 ➜ 抬起性(心肥大)の疑い
  • よくみるとプルプルっとなっていて単峰性ではない
  • 触診でダブルインパルスがあり聴診では巨大Ⅳ音
  • 本例では剣状突起が目立っている(病的意義なし)

👶 独り言
  1. 通常の心尖拍動の他に拍動を認める場合(二峰性心尖拍動)は,心房性隆起(前収縮期)と心室性隆起(拡張早期)が考えられます.前者は聴診のIV音に相当し, 左室のコンプライアンスが低下していると考えられます(例:肥大型心筋症).後者は増大した左室への急速流入波あるいはIII音を反映します(例:高度の僧帽弁逆流).
  2. 個人的な経験では,視認で気づく二峰性心尖拍動の大部分は肥大型心筋症によるatrial kick(心房性隆起)です.マイ感度は触診≧聴診>視診の順です(過去の投稿).一方,ventricular kick(心室性隆起)はともて小さいので触知はできても視認することは極めて稀です.僕の感度は聴診>触診≫視診の順でしょうか?

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(投稿者 川崎)

2023-06-22

今週の一枚 🎯

肺高血圧が疑われる症例の肺血流シンチグラフィ




(投稿者 川崎)

2023-06-21

アロスタシス Allostasis

  • ストレスなどの外部環境に対し内部環境を安定させようとする動的適応能
  • この生体反応は不要になればホメオスタシス(恒常性)によって元に戻る
  • Sterling PとEyer Jによって提唱された観念(1988, Chicester, NY: Wiley)
  • 語源はギリシャ語のἄλος(állos、他の)+ στάσις(stasis、静止)で造語

生体のアロスタシス反応

(投稿者 川崎)

2023-06-20

オンコセルカ症 Onchocerciasis

  • 回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)による感染症でブユ(Simulium spp.)が媒介
  • 同定はアイルランド人海軍外科医オニール(The Lancet 1875;105:265–266
  • ブユが生息する河川で失明するためその別名は河川盲目症(River blindness)
  • 主に熱帯地域で発生(多くはサハラ以南アフリカ,一部はラテンアメリカ)
  • ミクロフィラリア(子虫)が皮下組織に移行し炎症(死滅時にも強い反応)
  • 症状は皮膚の小結節や激しい掻痒感,リンパ節腫脹,視覚障害や永久失明
  • 診断は皮膚小片の鏡検でミクロフィラリアの検出(研究:寄生虫DNAをPCR)
  • 予防は媒介昆虫の駆除・回避で治療はイベルメクチン(ワクチンは未開発)

オンコセルカ症の皮膚病変とその鏡検像

💁 寄生虫に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-19

Twitterで出会った圧波形

診断は?
(投稿者@mandeep_mayo


(投稿者 川崎)

2023-06-18

ハーレクイン症候群 Harlequin syndrome

  • ハーレクイン症候群は,発作性に生じる片側顔面の紅潮・発汗過多
  • 頸部交感神経障害による症候性と原因不明の特発性に二分でききる
  • 症候性Harlequin症候群は神経鞘腫,肺癌・乳癌,甲状腺腫瘍など
  • オーストラリアの神経内科医の Lance らが1988年に報告した(
  • 由来は16-18 世紀のイタリアの即興喜劇に登場する道化師 harlequin


Harlequin症候群の病巣を推定するための顔面支配の交感神経経路

神経鞘腫による症候性ハーレクイン症候群

(投稿者 川崎)

2023-06-17

論文 🏆

  • 当院初期研修医 西川先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 急性冠症候群によって誘発されたと思われたたこつぼ心筋症の1例です
  • 心電図や心エコー図,核医学検査はたこつぼ心筋症に合致する所見です
  • 決め手はPCI後の胸部症状の消失とMRI像(前壁内側のT2高信号)でした

🐙 考察
  • たこつぼ心筋症は急性冠症候群(ACS)との鑑別する必要があります.前者には様々な誘因があるため虚血性心疾患(によるストレス)で誘発されても全く不思議ではありませんが,類似の報告はありません(我々の検索範囲).その証明が困難だからと思われます.
  • 本症例は心エコー所見(心尖部のバルーニング)からたこつぼ心筋症を疑ってカテーテルを行いました.予想に反して対角枝に高度狭窄があり,PCIを行いました(症状消失).その後の経過はやはりタコツボ様でしたが,MRIで虚血に合致する所見を見つけました.

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-06-16

左上肢挙上:

前日にERで喘息と診断された咳嗽症例

😈 解説
  • 座位で右頸部に内頸静脈の拍動(陥凹)あり(凹矢印)
  • 咳嗽が強いため吸気負荷の代わりに左上肢の挙上負荷
  • 負荷後は頸部陥凹が(おそらく)隆起に変化(凸矢印)
  • 心音で明瞭なギャロップを確認して急性心不全と診断

👾 コメント
  • 深吸気止めで内頸静脈の陥凹が隆起に変化(ランチシ徴候)する症例は散見されます(自験例).本例の主訴は咳嗽であり呼吸負荷が難しいため(多くは咳き込む),代わりに左上肢負荷を行いました.もちろん肝頸静脈逆流(Hepatojugular reflux test)も施行可能ですが,臥床になるためやはり患者さんは咳き込んだと思います.
  • 本例は前日の救急外来で喘息による咳嗽と診断されていました.重症喘息例の頸静脈拍動の代わりに陥没呼吸を認めることがあります(自験例).重症COPDでは下位肋間に内方陥凹(フーバー徴候)を認めます(自験例).もちろん肺疾患を合併した心不全症例もありますが(自験例),安易な咳喘息の診断は慎む必要があります.

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(投稿者 川崎)

2023-06-15

今週の一枚 🎯

南アジアから帰国後に水溶性下痢が続く症例の便

💦 解説
  • 中央に円形のオーシスト(接合子嚢・成熟卵嚢子)
  • 赤痢アメーバEntamoeba histolytica)は認めず
  • 一般採血は正常(白血球数およびCRPは正常範囲内)
  • PCR検査でサイクロスポーラであることを確認した
  • 本例は1週間のST合剤の内服で症状は改善・消失した

💧 サイクロスポーラ症(Cyclosporiasis)
  • 原虫 Cyclospora cayetanensis で汚染された食品または水を介した糞口感染により発症する(潜伏期間は約1週間).
  • リスクは流行地域への渡航やAIDSのような細胞性免疫が低下した宿主で,ヒトからヒトへ直接的な伝播の可能性は低い.
  • 我が国では食品汚染に関するデータはない.診断は便中のオーシスト鏡検やDNA検出で,第1選択の治療はST合剤である.


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(投稿者 川崎)

2023-06-14

👴 歴史クイズ




(投稿者 川崎)

2023-06-13

トガリネズミの心拍数

🌟 先日の松下心電塾
  • 当院の初期研修医に「最も心拍数が速い生き物は何?」という宿題をだしました.
  • 翌週にトガリネズミの心拍数がとても速いことを調べてきてくれた方がいました.

  • トガリネズミ科(Soricidae)は哺乳綱真無盲腸目に分類されるが,ネズミ類とは縁遠くモグラなどに近縁の動物で英語では shrew と総称される.
Wiki CC 表示-継承 3.0)

  • 3頭のソリシントガリネズミ(平均体重3.02 g)を麻酔下で最大超過用量のイソプロテレノールを単回投与したときの最高心拍数は1,043±66 拍/分 (Am J Physiol 1992;262:R842-51

💙 トガリネズミの心臓の特徴
  1. 大きくて細長い心室
  2. 心房中隔と心室中隔,房室弁と動脈弁は通常の哺乳類と同様
  3. 心室壁はほとんどが緻密な心筋で,右心内腔に小柱はほぼなし
  4. 洞結節と心室中隔頂部に連続する房室伝導軸あり
  5. 冠動脈は大動脈に比例して巨大

😎 おまけ
  • 僕が用意していた心拍数が最も早い生物に対する答えは中南米にすむハチドリでした.細小の鳥類で空中で静止するホバリング飛行ができ最大心拍数は毎分1,500回に達するようです(Eur J Cardiothorac Surg 2006;29:S178-87
  • ちなみに最も遅いのはガラパゴス諸島に生息する最大の陸ガメであるガラパゴスゾウガメで心拍数は毎分6回だそうです(Dialogues in cardiovascular medicine 2006;11:5-17).ただし冬眠明けのガマは毎分1回という情報あり.

(投稿者 川崎)

2023-06-12

Cole-Cecil murmur コール-セシル雑音

  • 大動脈閉鎖不全(AR)による拡張早期雑音で腋下で最もよく聴取できる
  • 米国の医師ColeCecil(Johns Hopkins Hospital Bulletin 1908;19:353-61)
  • 原因はhigh placed apex(高位に位置する心尖部)によるため?(引用
  • 出現時相と聴診部位がAustin Flint雑音と異なるため両者は同じではない

- 人名が付けられた拡張期雑音 -

💁 心雑音に関する過去の投稿 ➜ コチラ
Carey Coombs Graham Steel Rytand Dock Key Hodgkin Cole-Cecil コール-セシル
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(投稿者 川崎)

2023-06-11

Melkersson-Rosenthal syndrome メルカーソン・ローゼンタール症候群

  • 若者に好発する反復性の口唇腫脹,皺襞舌,顔面神経麻痺が3徴の病態
  • 1928年にスウェーデ ンの神経内科医 Melkerssonl が症例を報告(
  • 1931年 に ドイツの神経内科医 Rosentha が皺壁舌の合併を報告(
  • 原因不明(歯科金属のアレルギー,感染,免疫不全,遺伝的要因?)
  • 治療は対症療法(抗ヒスタミン薬,ステロイド内服や局所注射など)


メルカーソン・ローゼンタール症候群の19歳患者

 5年間に4回繰り返したMelkersson-Rosenthal症候群の8歳児

👅 舌に関する投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-10

BAP-65

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪時の重症度分類
  • 米国からの提唱(Arch Intern Med 2009;169:1595-602
  • 4指標から院内死亡と48時間以内の人工呼吸管理を予測

👾 BAP-65
  • BUN(血中尿素窒素)≧25mg/dL
  • Altered mental status(意識障害あり,GCS<14)
  • Pulse(心拍数)≧109回/分
  • 65歳 BAPがない場合は65歳以上と未満で二分

各グループの院内死亡(左)と48時間以内の人工呼吸器装着(右)の頻度

💁 COPDに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-09

心房中隔脂肪性肥大 LHAS: lipomatous hypertrophy of the interatrial septum

心臓脂肪腫(心臓良性腫瘍の約10%)
  1. 真の脂肪腫(true lipoma)➜ 皮膜に被覆された成熟脂肪細胞にて構成
  2. 心房中隔脂肪性肥大(LHAS)➜ 心房中隔の脂肪細胞増生で皮膜に被覆されず過誤腫様(腫瘍と奇形の中間的な性格) 
  3. 浸潤性脂肪腫(infiltrating lipoma)➜ 皮膜に被覆されず筋線維が徐々に脂肪組織に置換

心エコー図検査の診断基準
  1. 心房中隔の肥厚が15 mm以上
  2. 卵円窩は侵されず特徴的なダンベル様形態(dumbbell-shaped)
  3. 肥厚の原因を説明できる他の疾患を認めない


心房中隔脂肪性肥大(LHAS)と診断された症例の心エコー図と心臓CT

😀 独り言
  • 確定診断には生検が必要と思われます.ただし特徴的な心エコー図所見に加えて,CT値(−50~−100)やMR所見(T1高信号,T2高信号,脂肪抑制画像で抑制)から臨床診断されている症例がほとんどと考えられます.

自験例:本例は心房中隔脂肪性肥大に心房中隔瘤(右房側への固定性変位)を合併

💁 心房中隔に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-08

🎯 今週の一枚

患者さん 「これ(青矢印って何ですか?」


🔗 剣状突起(Xiphoid process)
  • 胸郭前面の正中部にある扁平骨=胸骨(Sternum)の足側部分(他は頭側から胸骨柄と胸骨体)
  • ギリシア語由来のxiphoidとそれに相当するラテン語のensiformの意味はいずれも「剣のような」
  • 剣状突起は通常,第9胸椎およびT7 dermatome(皮膚分節)のレベルにあると考えられている
  • 15〜29歳頃に剣状突起は線維性関節で胸骨の本体(胸骨体)に融合するためその可動性は消失
  • 40歳頃に剣状突起の骨化が生じるため本例のように「コレなんですか?」と聞かれることあり
  • ちなみに剣状突起に生じうる分岐や穿孔には遺伝性があり遺骨と家族の推定に有用らしい 😮

📎 臨床的意義
  • 剣状突起は横隔膜を含む多くの筋肉の付着に関与し,腹直筋を固定しています.よって心肺蘇生(CPR)時の胸骨圧迫では剣状突起に圧力をかけないようにする必要があります.横隔膜裂傷や肝損傷(致命的内出血)に至ることがあるからです.
  • 剣状突起に関連して生じた痛みは剣状突起痛(Xiphodynia)と呼ばれています.筋骨格障害で明瞭な圧痛を認めるため,その診断に困ることは稀でしょうか.胸骨と剣状突起の間の接合部の炎症によって引き起こされると考えられているようです.

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(投稿者 川崎)

2023-06-07

嚢胞性線維症 Cystic fibrosis

  • 原因 cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)遺伝子の変異
  • 機序 気道、腸管、膵胆管、汗管、輸精管の上皮膜/粘膜を介するCl-と水の輸送障害
  • 疫学 白人では最も一般的な遺伝性疾患で発生率は1:3200(本邦では稀で100人未満)
  • 症状 胎便性イレウス(生直後),消化吸収不良,呼吸器感染,胆汁うっ滞型肝硬変
  • 診断 Sweat test(汗中の塩化物イオン)高値:例60mmol/L以上,CFTR遺伝子の変異
  • 治療 対処療法(呼吸器感染症対策や栄養コントロール)を生涯継続,肺移植や肝移植
  • 予後 平均生存期間は約20年(ただし症例数の多い欧米では新しい治療法で改善予想)


嚢胞性線維症の思春期の少女の胸部CT(引用
気管支拡張症 (矢印) と粘液詰まり (❇︎)

(投稿者 川崎)

2023-06-06

Chandler syndrome チャンドラー症候群

  • 角膜内皮の障害から角膜浮腫,虹彩萎縮,眼圧上昇を生じる眼疾患
  • 原発性進行性虹彩萎縮症(難治性緑内障から失明)の約50%を占める
  • 症状は視力低下や眼痛などで治療は点眼薬や手術(線維柱帯切除術)
  • 原因不明の後天性片側性疾患で女性に多く通常は中年期に発症する
  • 病名の由来は米国の眼科医である Chandler PA の1955年の初報() 


 無痛の進行性視力低下を訴える22歳のアジア系インド人女性(引用
(a) 末梢前癒着および正視に関連する鼻四分円の扇形角膜浮腫を示す右目の拡散照明で虹彩実質萎縮は最小限.
(b) 末梢前結合結節 (矢印) と隅角構造を覆い隠す膜の存在を示す右目の隅角鏡検査写真
(c) 虹彩のテントを示す角度の超音波生体顕微鏡スキャン
(d) ICE細胞と正常に見える内皮細胞の間の明確な移行を示す共焦点顕微鏡写真で,ICE 細胞は明暗反転・高反射核・非常に不規則な細胞配置によって特徴づけられる.

💁 眼疾患に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-06-05

Chancre 下疳

  • chancreは元々はフランス語であるが発音は通常英語的(ʃǽŋkər,シャンカ(ァ),実際の音声仏語発音
  • 日本語訳は下疳(げかん)/下疳とは(通常性交によって伝染する陰部の)びらん〜潰瘍のこと

硬性下疳(chancreまたはhard chancre)
  • 梅毒トレポネーマ感染による梅毒の第1期に認める無痛性の軟骨様硬結(男性では陰茎,女性では子宮頚部〜陰唇/他に直腸や肛門,口腔内)

軟性下疳(soft chancreまたはchancroid)
  • Haemophilus ducreyi(デュクレイ菌)感染症で陰部に出現する不整形で境界明瞭な潰瘍(痛みが強いが硬結はない)

混合性下疳(mixed chancre)
  • 梅毒トレポネーマとデュクレイ菌の両方の感染を伴った場合に出現することがある硬性下疳と軟性下疳の混在

下口唇に初期硬結を来した第1期梅毒例の経過

👹 独り言
  • 昔から使用されてきたリンパ腺は見かけなくなり,現在ではリンパ節と呼ばれるようになりました.下疳も時代とともに消え去る運命の医学用語かもしれません.
  • 鼠径リンパ節腫脹(bubo)はかって,横痃(おうげん)と言われたようですが(僕は)見たことも聞いたこともありません(参考:防医大誌 2021;46:1-5

💁 性感染症 STDに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-04

放射線:単位 あれこれ

☆ ベクレル(Bq)
  • 放射性物質が1秒間に崩壊するときの数で,放射能の強さ(≒吸収線量)を表す単位.由来は放射線(アルファ線)を発見したフランスの物理学者 アンリ・ベクレル(Antoine Henri Becquerel, 1852-1908)

★ グレイ(Gy)
  • 放射線のエネルギーが物質にどれだけ吸収されたかを表す吸収線量の単位.由来は放射線の生体への影響を研究した英国の物理学者 ルイス・ハロルド・グレイ(Louis Harold Gray, 1905-1965)

☆ シーベルト(Sv)
  • 被曝による生物学的影響の大きさで,等価線量と実効線量の単位.由来は放射線が人体に与える影響を研究したスウェーデンの物理学者 ロルフ・マキシミリアン・シーベルト(Rolf Maximilian Sievert, 1896-1966) 

【等価線量】equivalent dose
  • 吸収線量(Gy)に放射線毎に定められた荷重係数を乗じたもので組織・臓器ごとの影響を表す(Sv) 

【実効線量】effective dose
  • 等価線量(Sv)に組織別に定められた組織荷重係数を乗じて合計した値で全身への影響を表す(Sv)


💁 放射線に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-03

ショックなら「サルも聴診器」🙉

  • 一般的な診断学のアプローチは病歴→身体所見→鑑別診断→検査→治療(いわゆるH&P症例:History and Physical)ですが,ERやショック例では診断と治療を同時並行おこなう必要があります(いわゆるABC症例:Air, Breathing, and Circulation)(過去の投稿).
  • 「サルも聴診器」はご存知,林 寛之先生(福井大学医学部附属病院 総合診療部)が提唱されるショック症例への対処法です.患者さんを目の前から離さないで蘇生処置を行いながら原因検索することができる優れ技です(もちろん病棟での急変でも応用可能)(引用).

  • ➜ 酸素投与
  •  ➜ ルート確保
  •  ➜ モニター(ECG,SpO2)
  •  ➜ 超音波 Pump/Tank/Pipe
  •  ➜ 心電図と胸部X線ポータブル(外傷の時は骨盤正面X線も追加)



💁 語呂合わせに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-02

抗HMGCR抗体ミオパチー

  • HMGCR(3-hydroxy-3-methylglutaryl-coA reductase)はコレステロール生合成過程の酵素
  • 免疫介在性壊死性ミオパチーの一つで筋病理学的に壊死・再生を主体とする炎症性筋疾患
  • 病理組織所見や自己抗体検出がなければ多発性筋炎と診断されてしまうことが多い(引用
  • 亜急性に進行する近位筋優位(特に下肢)の筋力低下と肩甲帯の筋萎縮など(翼状肩甲
  • CK値は概ね数千U /L程度の値で1万U/Lを超えることもある(治療前の1000U/L未満は稀)
  • 抗signal recognition particle (SRP) 抗体などの合併例もある(いずれの測定も保険適応外
  • 特に高齢患者でスタチン使用者が多い(抗HMGCR抗体陽性患者のスタチン使用率は15–44%)
  • 初期治療は高用量ステロイドで,必要に応じ免疫抑制薬や免疫グロブリン大量静注を追加
  • 診断が遅れた場合には独歩不能,関節拘縮,高度の嚥下障害,呼吸不全など重篤化例あり


💁 スタチンに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-06-01

🎯 今週の一枚

労作時の胸痛で来院した男性の両耳



(投稿者 川崎)