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2023-12-31

バート症候群 Bart syndrome

Bart's syndromeの記載を初めて見たときに,Barth Syndrome(バース症候群)やBirt-Hogg-Dube(BHD)症候群(バート・ホッグ・デュベ症候群)などと混乱したため,ここにまとめておきます.

バート症候群(Bart syndrome)
  • 概要 局所的な皮膚欠如,水疱形成,爪の変形を特徴とする疾患
  • 初報 米国の皮膚科医Bart BJら (Arch Dermatol 1966;93:296-304)
  • 形態 常染色体優性(顕性)遺伝で固定原線維の超微細構造異常
  • 治療 創傷ケアと抗生物質投与で感染制御,デブリードマンなど
  • 経過 通常数ヵ月以内に治癒するが瘢痕と脆弱な皮膚が残存する


バート症候群の新生児の手足

(投稿者 川崎)

2023-12-30

青色強膜の語呂合わせ Mnemonic of Blue sclera

💠 POEMS

😋 おまけ
  • POEMS(Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, M-Protein, and Skin Changes)症候群(別名はクロウ・深瀬症候群)ではしばしば色素沈着と強膜炎を生じます.よって青色強膜の語呂合わせにPOEMSが使われていると推測します. 
  • 青色強膜を生じる他の原因に代謝性(アルカプトン尿症や低ホスファターゼ症など)や薬剤性(ミノサイクリンや抗精神病薬,アミオダロン他)もあるようです.ちなみに以前に貧血に関連した青色強膜を経験したことがあります(ココ).

(投稿者 川崎)

2023-12-29

外頸静脈を信じないで

息切れで来院した症例(端座位)

👶 解説
  • 座位で頸部に外頸静脈が怒張?(矢印)
  • 一方,内頸静脈の拍動は明らかでない
  • (顎下に僅かに認める拍動は動脈拍動)
  • 吸気負荷を追加するが内頸静脈は陰性
  • 左上肢挙上負荷後でも内頸静脈は陰性
  • 暫くして怒張していた外頸静脈が虚脱
  • 精査で心肺疾患なし(息切れは年相応)

 😎 外頸静脈の問題点
  1. 外頸静脈には静脈弁が存在している(厳密には内頸静脈にも静脈弁があるが,有効な逆流防止機能はないらしい)
  2. 外頸静脈は右房と直線的な位置関係を有しない(内頸静脈はほぼ直線的な関係を示す:解剖学的シェーマ
  3. 外頸静脈は表在静脈である(深部静脈へ繋がる部分[下肢静脈で言えば穿通枝]が筋肉の圧迫を受けやすい)

 😍 メリットも忘れずに
  • 外頸静脈も隆起している上縁の心周期変動や呼吸性変動が明瞭な場合には,内頸静脈と同様に中心静脈圧の推定に十分活用可能です.
  • 収縮性心膜炎に特徴的な急峻y下行(フリードライヒ徴候)や不整脈の診断(過去の投稿)など繊細な波形解析は,むしろ得意です.

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-12-28

今週の一枚 🎯

早朝に一般病棟にいるとモニターがアラーム音を発した



(投稿者 川崎)

2023-12-27

腎アミロイドーシス

  • 頻度 腎生検レジストリーでアミロイド腎症は1.4%程度
  • 概略 約半数がネフローゼ症候群を呈しその多くはAL型
  • 分布 2臓器以上に及ぶ全身性が多い(1臓器なら限局性)
  • 分類 基底膜型,メサンギウム型,血管型,尿細管間質型 
  • 治療 デキサメタゾン(+メルファラン),自家移植療法
  • 予後 アミロイド腎症のおおむね75%が末期腎不全に至る


アミロイド腎症の病理傷害パターン

💁 アミロイドーシスに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-26

訪問看護

  • 概略 居宅において看護師等による療養上の世話又は必要な診療の補助
  • 提供 病院や診療所,訪問看護ステーションが提供することができる
  • 対象 医療保険又は介護保険いずれかの適用者(介護保険の給付が優先)
  • 特例 要介護者等は末期ガンや難病などに限り医療保険給付の訪問看護
  • 状況 訪看ステーションは全国に1.1万(中学校は1万校,病院は8400)
  • 規模 訪看ステーションの半数以上が常勤の看護師数は3〜7人と小規模


👉 日本訪問看護財団

(投稿者 川崎)

2023-12-25

🏆 論文

  • 当院のリハビリテーション室のPT笠井先生の研究が出版されました
  • 吸気負荷を用いた頸静脈の座位定性法による心不全リスク評価です
  • 同評価法は心不全の多様性(REF vs PEF他)によらず一貫して有用
サブグループ解析

😀 当院の頸静脈評価
  • 当院では頸静脈の座位定性法を知って以降,積極的に臨床活用してきました.つまり安静時に右鎖骨上に拍動があるか否かです.視認しなければ心不全は安定していると判断していました.しかしある時,安定しているにも関わらず運動負荷後に頸静脈拍動が出現した症例に遭遇しました.本例は残念ながら数ヵ月後に死亡されました.
  • この時に心疾患の慢性期では負荷が重要であることを再認識しました.負荷心電図や負荷心エコー図と同様に,負荷頸静脈です.そこで負荷頸静脈の報告を検索したのですが,ほとんどないことが分かりました.これは頸静脈評価の従来定量法(例:45度半坐位で胸骨角からの垂直距離を測定:ルイス法)に問題があると考えました.
  • 近年普及してきた座位定性法なら,負荷後も頸静脈の判定が容易です.早速6分間歩行で行ってみると,予想以上にいい結果が得られました(笠井論文).運動が困難な症例も少なくないので,吸気負荷(前負荷増大)に対する反応を確認しましたが同様に良い結果でした(車古論文).今回は第三弾で心不全の多様性に対する検討です.

💁 論文の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2023-12-24

CRM シー・アール・エム

  • 名称 Customer Relationship Managementの略で邦名では顧客関係管理のこと
  • 概略 組織が顧客関係を管理するプロセスで顧客の獲得や維持の向上を目指す
  • 前提 既存顧客維持は新規顧客創出より少ない費用でより高い成果が得られる
  • 病院 差別化されたマーケティング戦略の必要性から医療機関へもCRMが普及
  • 部署 患者支援連携室にCRMシステムを導入することが多い(当院も先月導入)

💁 ビジネスに関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能)

(投稿者 川崎)

2023-12-23

1D-LSD

  • 1-(1,2-ジメチルシクロブタン-1-カルボニル)-リセルグ酸ジエチルアミド
  • リセルグ酸ジエチルアミドはドイツ語「Lysergsäurediethylamid」でLSD
  • LSDは非常に強烈な作用を有する合成麻薬・幻覚剤でもちろん違法薬物
  • 1D-LSDは潜在的な幻覚効果を持つ化学物質で,現時点では脱法ドラッグ
  • 主に経口摂取して3〜4時間でピークに達し,12時間ほど効果が持続する
  • LSD類似体の他の合法ドラッグは1V-LSD,1cP-LSD,1T-LSD,1P-LSDほか
  • 普及度は不明であるが,当院にも1D-LSDによる急性中毒例のER搬入あり

💁 麻薬に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-22

動脈 vs 静脈:マイスターへの道

労作時の息切れで来院:拍動は動脈? 静脈??

👻 解説
  • 右頸部に周期性に隆起あり(左側も観察可能)
  • 一見,コリガン脈(動脈性拍動)に思われる
  • 吸気保持で外頸静脈の怒張が出現した(矢頭)
  • ARなどによる高心拍出状態で心不全の状態?
  • ただよくみると吸気で隆起上縁が上昇(矢印)
  • やはり拍動は静脈性で中心静脈圧は著明上昇
  • 最終診断は虚血性心疾患の非代償性左心不全

💚 マイスターへの道
  • 上記の動画をよく見ると,吸気負荷前からすでに吸気時の外頸静脈隆起を認めます(クスマウル徴候陽性).またVネックの上に開心術を思わせる手術創も確認できます(本例は冠動脈バイアス術後).さらに耳朶を確認すると45度の皺(フランク徴候)もあったので重症虚血性心疾患を予想しました(…と書きたいところですが実は耳は確認していません 😅 すいません).
  • 先日,日本不整脈心電学会が開催している心電図検定2023を初めて受けてきました.個人的には初期研修医と長年,心電図の勉強会(松下心電塾)を開催していることもあり,ある程度の知識は有していると思っていました.しかし試験対策では,12誘導心電図でここまで読めるのかと驚きの連続でした(忘備録).本ページでは心臓フィジカル・マイスターを目指してください.

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(投稿者 川崎)

2023-12-21

今週の一枚 🎯

下腹部で来院した症例

🔒 解説
  • 恥骨結合部に骨硬化像と周囲の軟部影の増生が目立つ
  • 当初は虫垂炎を疑ったが同疾患を示唆する所見はなし
  • CT後に恥骨の結合部に明瞭な圧痛点があることを確認
  • 環状断や矢状断(下図左と中)でも恥骨結合炎を示唆
  • MRIのSTIRでも同部位の信号上昇を確認(下図右の赤丸)
  • 恥骨結合炎と診断してNSAIDs処方(初期は抗菌薬併用)
  • 本例の誘因は不明で化膿性を示唆する所見はなかった

🔓 恥骨結合炎(Arthritis of the pubic symphysis)
  • 概略 左右恥骨を結合する線維軟骨円板に炎症が生じた整形外科的疾患
  • 誘因 恥骨筋,長・短内転筋,大内転筋など恥骨に接合する筋肉の酷使
  • 患者 アスリートに多いが帝王切開や婦人科,泌尿器科の手術後にも有
  • 診断 初発で正診された例は54%にすぎない(例:診断までに1-37日)
  • 治療 生活指導と鎮痛薬,化膿性なら6週間以上の抗菌薬やドレナージ


👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-12-20

エル・コーリー分類 El Khoury's classification

  • 大動脈弁閉鎖不全症の分類で僧帽弁閉鎖不全症のCarpentier分類に準じている
  • ベルギーの心臓外科医El Khouryらが提唱(Curr Opin Cardiol 2005;20:115-21
  • Type I (弁尖の動きに異常なし), Type II (弁尖逸脱), Type III (弁尖の運動制限)

 El KhouryによるARの分類(黒矢印は大動脈拡張,灰矢印は逆流ジェット)

(投稿者 川崎)

2023-12-19

カクート CAKUT: congenital anomalies of the kidney and urinary tract

  • 概略 腎尿路の形態異常を先天的に有する症例群を包括(先天性腎尿路異常)
  • 形態 腎形成異常,尿路通過障害,膀胱尿管逆流,重複尿管など(下表参照)
  • 原因 遺伝子異常(染色体異常を含),エピジェネティクス異常,環境要因
  • 疫学 約500出生に1例(小児末期腎不全患者の原因疾患のうち39.8%で最多)
  • 合併 尿路感染症や遺尿・夜尿,進行時に高血圧,電解質異常,成長障害他
  • 治療 泌尿器科的外科介入,ACE阻害薬やARB投与,末期腎不全で透析・移植



(投稿者 川崎)

2023-12-18

鳩胸 Pectus carinatum

先日,SNSで高度の鳩胸の症例を見かけたので少しまとめてみました.

  • 概略 前胸壁が前方に突出した胸壁の先天異常(漏斗胸とは逆)
  • 原因 肋軟骨の伸長欠陥の疑い(25~33%で遺伝的要素あり?)
  • 疫学 発生率は約1000人に1人(漏斗胸の約1/10)で男:女は5:1
  • 合併 稀に側弯症,マルファン,僧帽弁逸脱,骨形成不全など
  • 経過 通常出生直後には確認されず成長で加速(10代で顕性化)
  • 症状 多くは無症状(稀に突出部位の圧痛や運動耐容能の低下)
  • 予後 良好で通常は長期的な健康への悪影響もないと思われる
  • 対応 矯正器具,外科的修復,隠蔽(ボディビル,女:豊胸術)


😉 なんでも探偵団
  • pectusはラテン語で胸(chest),carina(or keel)は古代ローマの船の竜骨(船底中央を縦に通す強度部材)から名付けられたようです().発音はココで,別名はkeel chestやpigeon chest
  • 逆の病態である漏斗胸の英名はpectus excavatumで,excavatumはラテン語でhollowed(空洞の)を意味するようです().発音はココで,sunken chestなどとも呼ばれることがあります.

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(投稿者 川崎)

2023-12-17

第136回日本循環器学会近畿地方会より

😃 個人的に気になった報告
 
4-17 心筋梗塞後のVT/VF stormに対してPurkinje systemのde-networkingが有効であった一例
  • 心筋梗塞後の VT/VF storm は重大な合併症である。Purkinje-related triggerを標的とするアブレーションの有効性が報告されてきたが,新たな手法としてPurkinje de-networkingが注目されている。VT中に先行するPurkinje電位を認め,左脚後枝末梢及び前枝領域のde-networkingを図りnon-inducibleで終了したが再発。再治療時にleft septal fascicle領域のde-networkingを追加することでstormからの離脱と救命に成功。

5-21 血行再建を施行された夏型・冬型心筋梗塞の背景因子・予後比較
  • 夏型MIはplaque erosion,冬型MIはplaque ruptureが多いことが示唆されている。しかし今回の単施設での検討では,夏型(6~8月)MIに比して冬型(12~2月)MIでは STEMI患者やLMT病変の割合が多かったが,予後に差は認めなかった。

6-9 Marshall静脈へエタノールアブレーションが奏効した僧帽弁輪旋回型心房頻拍の一例
  • 僧帽弁輪旋回型心房頻拍と診断し,僧帽弁輪峡部に対する線状焼灼およびMarshall静脈(VOM)の走行に沿って内膜を焼灼中に心房頻拍の停止を得た。しかし,4ヶ月後に心房頻拍が再発したため再CAを行った。前回と同じ VOM を介した僧帽弁輪旋回型心房頻拍と診断された。心内膜側からの通電では永続的なブロックが難しいと判断し,エタノールアブレーションを行った。エタノールをVOMに注入したところ頻拍周期が延長を伴って停止し,僧帽弁輪峡部のブロックを得た。(補足)マーシャル静脈は冠静脈洞から分岐し左肺静脈と左心耳の間の心外膜側を斜走する静脈で,心房細動の発生や維持に関与することがある。

7-7 金属アレルギーを有する労作性狭心症患者に対して,proBIO coatingを有するOrsiro stentで治療し得た1例
  • RCAに高度狭窄病変を認めたが,金属アレルギーの申告があったため,薬物治療を優先する方針とした。後日実施した金属アレルギー検査ではニッケルで陽性,ステントではXienceで陽性が確認された。最終的に本症例では金属イオン溶出を抑制し得るproBIO coatingを有するOrsiroステントで治療を実施した。(補足)このproBIO coatingはステントの金属表面と周辺血管組織との間に起こる炎症の一因とされる金属イオンの溶出を抑制することで再狭窄を減らしているそうです。

8-6 Wolf-Ohtsuka法術後に両心房血栓を認めた一例
  • ヘパリンの持続投与を開始したが,腫瘤のサイズに変化はなく,右房内血栓も縮小しなかったため,開心術による摘除を行った。摘除した腫瘤の病理所見は血栓であった。術後,ヘパリン持続点滴,ワルファリン内服を開始したが,血栓の再発を認めた。ワルファリンのコントロールを強化したところ,血栓は消失した。Wolf-Ohtsuka 法術後に血栓を認めることは稀である。(補足)ウルフ‐オオツカ法は胸腔鏡下左心耳閉鎖術で5mmから10mm程度の穴を胸の壁に4ヶ所開けるだけで傷もほとんど目立たず,手術に用いられる自動吻合器代も6万円とWatchmanに比べるとかなり安価(引用

8-25 最北端の非専門医によるVMTスコアを用いた心不全管理の有用性(市立稚内病院)
  • 常勤の循環器内科医では対応しきれず,非専門医が大半の心不全患者を管理しているため,非専門医でも心不全の診断・治療方針の決定ができる指標が必要である。そこで村山,岩野らが考案した心エコー図のドプラ機能を使うことなくB modeのみで左室充満圧を推定できるVMTスコアを活用し心不全の診断・治療方針の決定に寄与している。(補足)VMT(visually assessed time difference between the mitral valve and tricuspid valve opening)スコアは断層心エコー法を用いて評価した左右の房室弁開放時相差の視覚的評価に基づいたスコアリング法。

👻 当院からの発表
  • 3-1 肥大型心筋症の予後とⅣ音(循環器内科 川﨑達也ほか)
  • 3-29 心不全患者のリスク層別化:各種負荷に対する頸静脈所見(循環器内科 野口理希ほか)
  • 7-14 身体診察が特徴的であったトランスサイレチン型心アミロイドーシスの1例(循環器内科 平野達大ほか)
  • 8-4 身体所見を契機に診断に至った静脈洞型心房中隔欠損症の1例(循環器内科 大江彩佳ほか)

すべて英語論文化(2つは掲載済,1つは投稿中,もう1つは投稿待)

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-12-16

ボタンホール穿刺 Buttonhole Cannulation

  • 概略 皮膚表面〜シャント血管壁間に作成された固定穿刺ルート(=ボタンホールトンネル)
  • 手法 同一箇所を複数回通常穿刺して作成(下図)し,以後は先端とエッジが鈍な針を利用
  • 利点 疼痛緩和,穿刺ミス回避,シャントの寿命延長,ストレスと時間の軽減,綺麗な外観
  • 欠点 通常穿刺に比べシャント関連感染症が多い(ただし痂皮除去や消毒徹底で予防は可能)


簡易ボタンホールの作成方法

健全なボタンホールと感染を生じたボタンホール

💁 透析に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-15

リードレスペースメーカ植込みリスク

👤 日本不整脈心電学会のコメント文言そのまま
  • 心嚢液貯留、心タンポナーデ発生のリスクに関しては、体格 (BMI<25)、高齢者(>75歳)、女性、慢性肺疾患、非心房細動例などがリスクファクターとなります。患者背景におけるリスク因子の重なりが、心嚢液貯留、心タンポナーデ発生に関与していることが判明していますが、特に体格の小さい高齢患者に対する植込み選択においては、慎重にも慎重を期して適応を検討いただきますようお願いいたします。

👥 国際臨床レジストリーの解析Europace 2022;24:1119–26
  • 対象 Micra国際共同試験で植込みを試みた2817例の解析
  • 定義 イベントは心嚢液貯留(心穿孔,タンポナーデ含)
  • 頻度 イベント発生は32症例(1.1%, 95%CI: 0.8~1.6%)
  • 因子 単変量は18変数(上図),多変量は11変数(下図)
  • 結語 イベントは経年的に減少かつ妥当な指標で予測可能



心嚢液貯留との単変量関連



多変量ラッソ・ロジスティック回帰分析とスコアリング・システム
 (*LASSO: least absolute shrinkage and selection operator)

💁 ペースメーカーに関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら左欄からも選択可能です)
ペースメーカ
(投稿者 川崎)

2023-12-14

今週の一枚 🎯

多量の利尿薬でも息切れが続く慢性心不全症例



(投稿者 川崎)

2023-12-13

心室三段脈とマラソン

😑 初診外来
  • 検診で心室三段脈が記録された若い方が,循環器内科を受診されました.自覚症状はなく特記すべき既往歴もありません.ただ,翌月にフルマラソンの出場を予定している様です.

2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドラインの記載
不整脈患者の運動許容の条件と設定
  • 心室期外収縮(PVC)が単形性で,安静時または運動中の単発ないし2連発の場合には,運動制限は必要ない.運動により減少ないし消失するPVCは,運動制限の必要はない.無症候性中年男性(42~53歳)6,101人を対象に運動負荷試験を行い,安静時,運動中,運動後の回復期のPVCを高頻度(2連発または30秒間に10%以上の出現),低頻度,無群に分け,23年間追跡した前向き対照比較試験では,運動中および回復期のPVC高頻度群で心血管疾患死亡が有意に多かった76.運動中や運動後の回復期のPVCが増加する例,多源性や3連発以上を認める例では精査が必要である78, 332.特に,運動により増加する右脚ブロック型でQRS幅が130 msを超えるPVCは精査が必要である332

引用論文
 😗 再診時
  • 本例は負荷心エコー図で肺高血圧や壁運動異常(虚血)は誘発されず,PVCも増加しなかった.ガイドラインの記載通り運動制限は不要であるが,フルマラソンとなると話は別かもしれない.
  • ご本人と話しているとマラソンにこだわりはなく,なんとなく出場してみようと思っただけの様子.それならば「やめといたらどう?」と提案したら,あっさりと「じゃあ,やめます」と 😁

💁 マラソンに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-12

アディポネクチン Adiponectin

  • 脂肪細胞から特異的に分泌される分子量がおよそ30 kDaの分泌蛋白質
  • 発見は前田先生ら(Biochem Biophys Res Commun 1996;221:286-9
  • 内臓脂肪蓄積や肥満により血中濃度が低下し,逆に減量では増加する
  • インスリン抵抗性改善や抗動脈硬化,抗炎症など多彩な臓器保護作用
  • 健常者のアディポネクチン血中濃度は5~20 μg/mL(低下すれば異常)


- アディポネクチンと各種疾患 -

(投稿者 川崎)

2023-12-11

内頸静脈の水源

  • 頸静脈(jugular veins)〜心臓の解剖(概略詳細)はよく知られています.しかし内頸静脈に至る経路(つまり上流)はあまり知られていないでしょうか?
  • X(旧ツイッター)に分かりやすい図が投稿されていたので転載(cortical veins=皮質静脈,superior sagittal sinus=上矢状静脈洞,vein of Galen=ガレン大静脈,straight sinus=直(静脈)洞,transverse sinuses=横静脈洞)
  • 脳静脈に関してもっと知りたい方は脳静脈の機能解剖(Jpn J Neurosurg 2009;18:821-29)がオススメです.脳外科医でなければ難解かもしれませんが超絶詳細です.

(by @sargsyanz

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-12-10

日本内科学会 第242回近畿地方会より

😀 個人的に気になった報告

演題53 慢性心不全の治療中に急性腎障害が契機となり発症したセフェピム脳症の1例
  • 抗生剤をセフェピムに変更したが,投与開始3日後より意識障害及び左上肢有意の四肢ミオクローヌスを認めた。セファロスポリン系抗生剤の中でもセフェピムによる中枢神経障害は比較的頻度が高い。

演題62 代謝物の血中濃度の変化を経時的に追えた銀杏中毒の1例
  • 朝に約20個と昼に約50個食べた。翌0時30分頃から嘔気あり、トイレに行く際に浮動性めまいがあった。その後嘔吐3回と下痢2回程認めたが、その他腹部症状やけいれん症状はなかった。入院時の血清及び尿からメチルピリドキシン(MPN)が検出され銀杏中毒と確定診断した。

演題63 呼吸機能検査後に気胸を発症した1例
  • 定期受診時,胸部X線写真では軽度の線維化を認めていたが,気胸は指摘できなかった.呼吸機能検査を施行したところ,右胸痛及び呼吸困難を自覚し,酸素飽和度も低下した.聴診上,右肺音の減弱を認め,胸部X線写真で,右2度気胸を認めた.胸腔ドレナージを行い,当科緊急入院とした.改善に乏しく,第8病日に胸腔鏡下ブラ切除術を施行した.以降は気胸の再発はなく経過している.

演題102 茶葉の生食健康法で徐脈を来したと思われる1例
  • 24時間ホルター心電図検査では平均心拍数47/分、最小心拍数37/分で間欠的2~3度房室ブロックを認めた。茶葉の生食をやめたところ労作時息切れ症状消失した。24時間ホルター心電図でも平均心拍73/分、最小心拍数47/分で房室ブロックも消失していた。茶葉に含まれるテアニンは交感神経系を抑制し、血圧降下作用や脈拍低下作用があることが知られている。潜在的房室伝導機能低下症例においては、茶葉の生食によりテアニン摂取量が増大し、徐脈を誘発する可能性があり注意が必要と考えられた。

演題103 コロナ禍に何度も発熱で来院し最終的にPFAPA症候群が疑われた1例
  • 発熱に随伴する症状には咽頭痛と関節痛が毎回あり、ほか有熱時の口内炎、軽い腹痛、頭痛が見られることがあった。家族性地中海熱あるいはPFAPA症候群が鑑別に挙げられ、コルヒチンの内服を開始した。PFAPAは、周期性発熱(Periodic Fever)、リンパ節炎(Adenitis)、咽頭炎(Pharyngitis)、アフタ症(Aphthosis)の略語で、幼少期、通常は5歳より前に発症する。慢性の経過をたどるが、予後良好で経過とともに症状が改善する傾向にある。


👻 当院からの発表
  • 演題111 身体所見が診断の手がかりになった静脈洞型心房中隔欠損症の1例(循環器内科 大江 彩佳先生)
  • 演題169 失語・記銘力障害で発症したMOG抗体関連疾患(MOGARD)による皮質脳炎の1例(脳神経内科 竹田 みゆき先生)

😊 上記のうち1編は英語論文として現在投稿中です

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-12-09

斧様顔貌 Hatchet face

  • 筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)で認める特異顔貌
  • 側頭筋萎縮+咬筋萎縮(+前頭部の脱毛)が西洋斧の様に見える(下図)
  • Hatchet(発音:hǽtʃit/ハッチェト)は短い柄の斧(長い柄の斧はAxe)

📖 筋強直性ジストロフィー(Myotonic Dystrophy)
  • 第19染色体のDM protein kinase(DMPK)の遺伝子の変異
  • 常染色体優性(顕性)遺伝であり50%の確率で子供に遺伝
  • 10万人あたり約5人(成人型の筋ジストロフィーでは最多)
  • 20~50歳に握力低下などで発症(CKは正常〜軽度の上昇)
  • 骨格筋ではミオトニア(筋強直),進行性筋萎縮と筋力低下
  • 他に情緒異常,白内障,脱毛症,内分泌異常,糖尿病など
  • 本疾患に対する根本的な治療法はなく対症療法を行うのみ


「斧様顔貌」はなぜ斧なのか?facebook投稿をシェア)

(投稿者 川崎)

2023-12-08

心電図マイスターへの道 ⑥

誘導の付け間違い:5パターン
  • Ⅱ 誘導が直線 ➜ RとアースRFの間違い
  • Ⅲ 誘導が直線 ➜ LとアースRFの間違い
  • Ⅰ 誘導ですべて陰性+aVRとaVLが逆 ➜ RとLの間違い(アースRFは正しい)
  • Ⅰ 誘導ですべて陰性+Ⅱ誘導ですべて陰性 ➜ RとLFの間違い(アースRFは正しい)
  • Ⅲ 誘導ですべて陰性 ➜ LとLFの間違い(アースRFは正しい)

Coumel現象(クーメル)
  • 頻脈発作中にwide QRSからnarrow QRSに移行する際に頻拍周期の短縮を認める,あるいは逆にnarrow QRSからwide QRSに移行する際に頻拍周期の延長を認める現象.通常は同側(右脚なら右側,左脚ブロックなら左側)に副伝導路を有する房室回帰性頻拍 ORTを示唆する所見.わかりやすいショート動画はココからどうぞ

ST上昇の鑑別
  • 早期再分極であれば通常,V6誘導でST高×4<T波高であるが,急性心膜炎ではST高×4>T波高となる
  • V2,3のterminal QRS distortion ➜ S波とJ波の両方がない所見で前下行枝の心筋梗塞を示唆(早期再分極 BRE: benign early repolarizationと鑑別に有用)
  • Spodick徴候 ➜ TからPへの移行が右肩下がりでなだらかになること.PR低下と同様に急性心膜炎を示唆する.
  • V4誘導のfish hook pattern ➜ 早期再分極を示唆する所見で,ST終末部が基線に戻らずJ波を形成(魚の釣り針様)

その他1
  • 多形性心室頻拍はQRS波形が異なりRR間隔が(多少)不整で,その亜型にtorsades de pointes(TdP)がある.いずれもQT延長に合併しやすい.
  • 低カリウム血症ではT波の平坦化に加えてU波の出現や増高を忘れずに
  • 漏斗胸の心電図は通常,V1ですべて陰性(P/QRS/T)+時計回転
  • 交代性脚ブロック(Alternating bundle branch block)は3枝ブロックの一種で,右脚ブロックと左脚ブロックが交互に出現する病態
  • 心房粗動の周期は通常300 bpmであるが,I 群薬(フレカイニドなど)で延長することが少なくない(例,250 bpm).その結果,1:1伝導を呈することがある.
  • P波を伴わない非頻脈性のwide QRSなら心室固有調律を考えるが,通常は20-40 bpmであることに要注意.50 bpmならもともと脚ブロックのある接合部調律のことあり
  • 低Mg血症の心電図はQT延長やST低下,T波の平低化など.ちなみにQT延長はMg,Ca,Kのいずれの低下でも生じる.
  • Sgarbossaの基準(左脚ブロック例で心筋梗塞の診断基準)➜ 上向きQRSを示す誘導で1 mm 以上のST上昇(positive concordant),V1~V3 誘導で1 mm以上のST下降(negative concordant),下向きQRSを示す誘導で5 mm以上のST上昇が2誘導以上のいずれか一つ(過去の投稿
  • スミスの基準ではST上昇あるいはST低下がS波高あるいはR波高の25%以上であれば心筋梗塞を示唆(過去の投稿)➜ 修正Sgarbossaの基準

その他2
  • Ashman(アッシュマン)現象:先行RRが長いと不応期が長くなるため,long-short sequenceで生じたQRSでは変更伝導が生じやすくなること.上室期外収縮や心房細動で見られる.
  • 一見,完全房室ブロックに見えても,一回でもPとQRSが繋がっていれば(RR間隔が短縮する/QRSの形も変化あり),高度房室ブロックに分類
  • 心房中隔欠損 ASD では不完全右脚ブロック(+右脚あるいは正軸)を認めるが,左軸偏位ならば一次孔欠損(心内膜症欠損・房室中隔欠損)を疑う.ちなみにファロー四徴症なら術後に完全右脚ブロックを呈することが多い
  • 平低T波(flat T waves)はR波の1/10以下(ただしR波高が10 mm以上)あるいは-1.0 mm~+1.0 mm
  • ウェンケバッハは基本的にHis束の上(AH伝導)の問題で,徐脈時に多くアトロピンに反応があり運動時には消失する.一方,モビッツⅡ型はHVで切れて頻脈時(労作時など)に多くアトロピンやβ刺激に反応なし(むしろ増悪)
  • QT延長時にはQTを延長させる Ⅲ 群薬(カリウムチャネル遮断薬:アミオダロン,ニフェカラント(シンビット®),ソタコール)はもちろん使用しない
  • 発作生房室ブロック(paroxysmal atrioventricular block: PAVB)は2度房室ブロックに分類され,長時間の心停止からAdams- Stokes発作による外傷やけいれんに至ることが少なくない.
  • 心房細動を合併したWPWとLBBBは似た波形になることがある.しかしWPWではケント束の順行伝導の程度によってQRS波形が多少変化することからも鑑別可能

※参考コンテンツ:心電図マイスターチャンネル,他

💁 心電図マイスターに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-07

今週の一枚 🎯

先週から急に出現した動悸を訴える症例

😎 解説
  • 左側の肘部〜前腕にかけて明瞭な拍動を認める
  • 触診で動脈性の拍動 ➜ 上腕動脈のコリガン脈
  • 爪床のクインケ徴候は圧迫法で僅かに陽性??
  • ライト法を追加したがこちらでもはっきりせず
  • この症例の最終的な診断は急性の大動脈弁逆流

👿 臨床現場
  • 実は本例は初診時のフィジカルで大動脈弁逆流と診断できませんでした.ギャロップがあり心不全とは思いましたが,明らかな心雑音を聴取しませんでした.よって肘部の動脈拍動は,高齢者によくある偽コリガン脈と判断してしまいました.今から思うとその拍動は直線状であるため本物のコリガン脈っぽいのですが...
  • 慢性ARと比較して急性ARでは一回拍出量の増加が少ないため,クインケ脈が出現しにくいのではと思われます(ただし関連論文は見つかりませんでした).同様に急性大動脈弁逆流では心雑音が出現しにくく,おまけに心エコー図でも逆流シグナルが描出しにくい症例があるので要注意です(特に頻脈時:自験例).

👀 クインケ徴候に関する過去の投稿 ➜ コチラ

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2023-12-06

心電図マイスターへの道 ⑤

特殊なCLBBB
  • 通常は I 誘導にQ波はない.もしQ波があれば左室前側壁の障害を疑う.また右軸偏位(IでR<S)なら右室の障害を疑う.

特殊なCRBBB
  • 通常は I 誘導で深いS波がある.もし深いS波がなければ左室の作業心筋の障害を疑う.またQRSが150 ms以上ならCRTが有効な可能性あり.

特殊な心室内伝導障害
  • TCA(Tricyclic Antidepressants/三環系抗うつ薬)中毒などの右室障害(左室よりも障害を受けやすい)ならRBBB様であるがrSR'なし(偽性心室調律=Brugada phenocopy:aVRでR波が3 mm以上で北西軸).DCは無効(原疾患の治療とメイロン投与など).Naチャネルの遮断による0相障害で,他に I 群不整脈中毒やコカイン中毒,重症虚血,高K血症などで生じる.
  • 一方,左心系の障害なら I 誘導でsmall Qなし.ともに後半成分を見て障害部位を推定可能.心室頻拍と間違わないように.これもQRSが150 ms以上ならCRTが有効な可能性あり.

SSSルーベンシュタイン分類 Ⅱ 群(洞停止・洞房ブロック)
  • 1度洞房ブロック ➜ S-Pが長いが体表心電図では分からない
  • 2度洞房ブロック(type 1)➜ ウェンケバッハ型でP1P2>P2P3=P3P4で時にP脱落(一定のパターン [グループ] が続く/一見,呼吸性変動に見える)
  • 2度洞房ブロック(type 2)➜ モビッツ型でP1P2の2倍がP2P3(従来の洞房ブロック)
  • 3度洞房ブロック ➜ 補助調律のみが示され,体表心電図では洞停止との鑑別はできない

De Winterパターン
  • V1-6で1 mm以上のJ点の低下+上向きST低下+高い対称的なT波が2誘導以上+aVRで1 mm以上のST上昇.発症早期(目安1時間以内)のLAD近位部の心筋梗塞を示唆.
  • ちなみに Ⅲ 誘導にミラーイメージのST低下があれば同様にLAD近位部の心筋梗塞を示唆(これは一般論).

Long RPタキ
  • AT,ORT(orthodromic AVRT/順方向性のAVRT,slow Kent束によるAVRT=90%のWPW),FS-AVNRT(非通常型AVNRT)を考える
  • ATはしばしば2:1伝導で,停止はQRSの後になる(他の2つはPでもQRSでも終了可能).ORT(slow Kent)は必ず1:1伝導である.FS-AVNRTは2:1伝導(LCP [lower common pathway] ブロック時)や1:2伝導(UCP [upper common pathway] ブロック時)になりえる.
  • (逆行性)P波が見えなければ通常型(Slow-Fast型)AVNRT.ただし通常型AVNRTではQRS波の終末部にP波を認めることもある(いわゆるpseudo S波).
  • QRS直後にP波があって,頻脈停止時にP波がなければ(termination without P)なら,はやりAVNRT


💁 心電図マイスターに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-05

TINUティヌ症候群

  • 概要 原因不明の間質性腎炎にぶどう膜炎を伴った病態
  • 略語 Ttubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome
  • 疫学 好発年齢は思春期に多く,男女比はおよそ1:8
  • 症状 発熱,全身倦怠感,食欲不振,貧血など非特異的
  • 検査 蛋白尿,尿中β2MG高値,腎機能低下,尿糖など
  • 鑑別 サルコイドーシスやベーチェット,膠原病など
  • 機序 腎間質とブドウ膜の共通抗原に対する細胞免疫?
  • 遺伝 HLA-DR52など特定のHLA型が疾患の発症に関与?
  • 治療 ステロイド点眼・全身投与(自然軽快例も多い)


TINU症候群における自己抗体の仮説的役割
(投稿者 川崎)

2023-12-04

心電図マイスターへの道 ④

急性心筋梗塞 AMI
  • RCA 近位部閉塞=V1でST低下なし(ST上昇とミラーイメージのST低下で相殺),V3R・4RでST上昇あり,ST上昇はIII>II(ただし右室梗塞を合併すればV1で上昇あり)
  • RCA 遠位部閉塞=V1でST低下あり,V3R・4RでST上昇なし,ST上昇はIII>II
  • Cx 遠位部閉塞=V1でST低下なし,V3R・4RでST上昇なし,ST上昇はIII<II
  • おまけ1:V1で上昇があれば急性前壁梗塞,なければタコツボ心筋症(過去の投稿).ちなみにたこつぼではaVRでST低下を生じやすい
  • おまけ2:ST上昇は1 mm以上でV2,3に限れば女性1.5 mm以上,男性なら~40歳は2.0 mm以上,40歳~なら2.5 mm以上.ちなみにST低下は0.5 mm以上

プログラマー心電図
  • 例:上段に心房波形,次段が心室波形,その下に下記記号
  • AP=心房ペーシング,VP=心室ペーシング,AS=心房センシング,VS=心室センシング,AR=心房不応期内センシングVR=心室不応期内センシング,BP/BV=両室ペーシング,TS(VT/VF)=タキセンシング,TP=タキペーシング

偽性心室頻拍
  • pseudo VTあるいはpseudo ventricular tachycardiaは国際的には通じない(PubMedの検索で各々2件と14件).pre-excited atrial fibrillationあるいはAtrial fibrillation in the Wolff-Parkinson-White syndromeなどと表現される.

洞不全症候群 SSSのルーベンシュタイン分類
  • Ⅰ 群 ➜ 特定原因のない洞徐脈(心拍数<50回/分)
  • Ⅱ 群 ➜ 洞停止・洞房ブロック
  • Ⅲ 群 ➜ 徐脈-頻脈症候群

頭の整理:AVRTとAVNRT
  • WPW症候群の頻拍は2種類:①房室結節と副伝導路の間で興奮が旋回する房室回帰頻拍(AVRT),②心房細動の興奮が副伝導路を介して高頻度に伝わる偽性心室頻拍(pseudo VT)
  • 房室結節回帰頻拍(AVNRT)も2種類:①通常型AVNRT:興奮が遅伝導路(slow pathway)を順行性+速伝導路(fast pathway)を逆行性に旋回,②非通常型AVNRT:fast pathwayを順行性+slow pathwayを逆行性に旋回(発症が RP'>P'RのLong RP' tachycardia
  • narrow QRS tachycardia中にPVC出現 ➜ 直後のRR間隔が少し短縮すればAVRT(リセット現象あり),RR間隔に変化がなければAVNRT(リセット現象なし)

その他
  • ペースメーカのAV delayの最大設定は300ms程度
  • aVR誘導でST変化がなければ左主幹部梗塞の可能性は低い
  • QRSの始まりから頂点までの時間maximum deflection index(MDI)とQRS幅の比が0.55以上なら心外膜あるいは中隔深部が起源のPVCを疑う
  • ATがP波で停止することは通常ない
  • 下壁誘導,V1,V6誘導でP波(あるいは粗動様の波)が全て陽性なら三尖弁を回る心房粗動とは考えにくい(心房頻拍を考える)(おまけ:通常型のAFLはIIで陰性・V1で陽性・V6で陰性のワンパターン)
  • AVNRTは通常1:1伝導であるが,下位共通路があれば2:1伝導も生じ得る
  • 移行帯はR<Sになる誘導(R波高が下がり始める誘導ではない)で,通常はV3あるいはV4
  • 心拍数は5mmマスで300,150,100,75,60,50,43,38,33,30・・・


💁 心電図マイスターに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-12-03

朝 vs ミカン

🌅 ある日の朝
  • 女性「このみかんおいしそう.でも朝みかんはだめ.日焼けするしね」
  • ボク「朝,みかん,日焼け...why?」 

 東京工科大学 博士学位論文より
  • 柑橘類に含まれるソラレン (soralen) は Type-II 型増感剤であり、UVA(320 nm~400 nmの長波長領域の紫外線)照射により1O2 を生成することが確認されている [58]。
引用論文

🍊 追加コメント
  • ソラレンは天然に存在する有機化合物の母核構造で,イチジクの葉やセロ,パセリ,全ての柑橘類に含まれる
  • ソラレンを経口投与うると消化管で吸収され, 2~4時間で最高血中濃度(日本輸血学会雑誌 1991:37:70-112

(投稿者 川崎)

2023-12-02

定義できないものは改善できない
If you can’t measure it, you can’t improve it.

  • アメリカ合衆国の統計学者であるWilliam Edwards Deming(1900-1993)の言葉
  • その他にもビジネス効率を向上させる様々なマネジメントの原則を提示(下記)
  • ビジネス現場のみならず臨床現場でも医療の質を改善する方法として用いられる
  • デミングはPDCAサイクル(Plan ➜ Do ➜ Check ➜ Action)を提唱者のうちの1人

  1. 定義できないものは管理できない
  2. 管理できないものは測定できない
  3. 測定できないものは改善できない

💁 ビジネスに関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能)

(投稿者 川崎)

2023-12-01

身体所見普及委員会:循環器部門 担当

  • 心エコー図が臨床応用されたのは,たかだかこの50年です.一方,身体所見(特に循環器領域)は紀元前から活用されてきました(例:アリストテレス).画像診断学の目覚ましい発展を見れば,身体所見学の衰退は致し方ないのかもしれません.しかしフィジカルの知識は日常臨床を色彩豊かな楽しいものに変えてくれます.
  • 以下の表に示すような人名の冠されたフィジカル所見(人名フィジカル)はなおさらです.幾つ知っているのか是非,確認してみてください.自信のない所見はネットで検索してみてください.本ページにも多くの所見がすでにアップされています.これらの人名所見は,明日からの循環器診療を艶やかなものに変えてくれます.


😀 皆で盛り上げよう
  • 勝手に身体所見普及委員会を設立して,勝手に循環器部門担当を宣言しています(X:旧ツイッター @jsbtk).協賛いただける方のご参加をお待ちしております(笑)許可は不要なので自由に宣言して活動を開始してください 😀

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(投稿者 川崎)

2023-11-30

今週の一枚 🎯

右下腹部痛例ブルンベルグ徴候 陽性)



(投稿者 積木/川崎)

2023-11-29

シアトル心不全モデル Seattle Heart Failure Model: SHFM

  • ワシントン大学(シアトル)Levyらの心不全予後予測モデル(Circulation 2006;113:1424-33
  • 容易に入手できるデータを用い1年後,2年後,5年後の生存率などを予想できる(下図参照)
  • 慶應大学のShiraishiらが日本人補正版のSHFMが報告している(J Card Fail 2019;25:561-567
  • 背景,NYHA,虚血性,EF,sBP,血液データ,投薬,デバイス有無から算出(計算ページ

- シアトル心不全モデルの計算例 -

👺 他の心不全の予後予測
(投稿者 川崎)

2023-11-28

心電図マイスターへの道 ③

上室期外収縮 PAC の起源
  • P波:V1陰性=右房起源:下壁誘導が上方なら上大静脈,下方なら冠静脈洞
  • P波:V1陽性=左房起源:I&L誘導が陽性なら右肺静脈(下壁誘導が上方なら上肺静脈,下方なら下肺静脈),I&L誘導が陰性なら左肺静脈(下壁誘導が上方なら上肺静脈,下方なら下肺静脈)

心室期外収縮 PVC の起源
  • 右脚ブロック(左室起源):I・L・5・6陽性+下壁陽性なら左室弁輪前壁・流出路,I・L・5・6陽性+下壁陰性なら左室弁輪後壁・下壁,I・L・5・6陰性+下壁陽性なら左室前壁心尖近傍,I・L・5・6陰性+下壁陰性なら左室心尖部
  • 左脚ブロック(右室起源):I・L・5・6陽性+下壁陽性なら右室弁輪前壁・流出路,I・L・5・6陽性+下壁陰性なら右室弁輪後壁・下壁,I・L・5・6陰性+下壁陽性なら右室前壁心尖近傍,I・L・5・6陰性+下壁陰性なら右室心尖部
  • 右室起源の大まかなルール:下壁誘導ですべて陽性=流出路,すべて陰性=心尖部,ばらばら=中隔

ペーシングの位置
  • V1でQSなら右室ペーシング,V1でRsなら両室ペーシング
  • 右室心尖部なら胸部誘導は基本,negative concordance (例えば全てQS)で上方軸
  • 下壁誘導で全て陽性なら右室上部ペーシング,すべて陰性なら右室下壁あるいは心尖部ペーシング,一定しなければ中隔ペーシング
  • 左室心尖部のペーシングなら,V1が陽性で,V2-6はすべて陰性(例:QS).ただし両心室の心尖部は近いため,心拡大や回転によって,右室心尖部ペーシングでも同様の所見になり得る.

2枝ブロック
  • 右脚ブロック+左軸偏位:右脚と左脚前枝のブロック
  • 右脚ブロック+右軸偏位:右脚と左脚後枝のブロック
  • (広義には左脚ブロック:左脚前枝と左脚後枝のブロック)

3枝ブロック
  • 右脚ブロック+左軸偏位+1度房室ブロック
  • 右脚ブロック+右軸偏位+1度房室ブロック
  • 左脚ブロック+1度房室ブロック

Lown分類
  • Grade 0=心室性期外収縮なし,Grade 1=散発性(<30個/時間),Grade 2=散発性(>30個/時間),Grade 3=多形性(多源性),Grade 4a=2連発,Grade 4b=3連発,Grade 5=RonT
  • 急性心筋梗塞症例で心室細動への移行率から作成された分類であることに注意が必要

ケント束の追記
  • デルタ波が下壁誘導で陰性+II誘導でQSなら心外膜(冠静脈洞 CSや中心静脈 MCV)のケント束
  • C型WPWなら前中隔,中中隔,後中隔に分類できる.Δ波から1mmの極性で判断:目安は下壁誘導ですべて陽性なら前中隔,すべて陰性なら後中隔,不定なら中中隔
  • Ⅲ誘導でR波高さは前中隔>中中隔>後中隔の順に大きい
  • Jemes線維は心房から房室結節下部を連結,Mahaim線維はatrio-fascicular/ventricular pathway,nodo-fascicular/ventricular pathway,fasciculo-ventricular pathwayの総称
  • デルタ波が目立たないなら左室側壁(伝わるまでに時間を要しその間に通常伝導が生じる)のケント束,マハイム線維,Fasciculoventricular pathway(purkinje組織から隣接する心筋に接続している副伝導路)
  • 束枝—心室副伝導路(Fasciculo-ventricular pathway)ではWPW patternを呈するが基本的に頻拍は来さないため治療対象ではない

心室頻拍 VT
  • 4特徴:①房室解離,②すべての胸部誘導で陰性波(negative concordant:自験例),③胸部誘導でRS(またはrS)波形がありR開始~S谷≧100ms,④特徴的な波形(RBBBならV1で前半のRが大きい(taller left rabit ear)+V6でR<S,LBBBならRS波の下行(前半)部分にノッチ
  • 左軸偏位やQRS幅>160ms,左脚ブロック+右軸偏位,RBBBでV1で単相性,aVRでQ波なし,なども心室頻拍を示唆
  • wide QRS tachycardiaの鑑別はVT,SVT,偽性心室調律


💁 心電図マイスターに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-11-27

胸鎖乳突筋 Sternocleidomastoid muscle

軽労作での息切れで来院した症例(体位は座位)

🐤 解説
  • 座位で内頸静脈の明瞭な拍動を視認可 ➜ 中心静脈圧は高度に上昇
  • 拍動は隆起ではなくて陥凹で不規則と思われる ➜ 心房細動の疑い
  • 吸気負荷の追加 ➜ 胸鎖乳突筋が明瞭化し頸静脈反応は評価できず
  • 患者さんの右側から再度負荷 ➜ 拍動上縁は上昇するが陽性波なし
  • 本例の最終診断は心房細動を合併した非代償性の左心不全(PEF)

🐥 独り言
  • 座位で内頸静脈の陥凹を認めた場合,吸気負荷で陽性波(CV merger)になれば心不全はより重篤と考えられます.本例は負荷後も陰性波のままだったため,そこまで重症ではないと考えられました.ちなみに吸気負荷で拍動が消失する症例を経験することは(ほぼ)ありません(直近の座位陽性12例では吸気で拍動消失例なし).
  • 安静座位で内頸静脈の拍動を認めない症例で,吸気後に拍動が出現すれば中心静脈は中等度上昇していると(個人的には)判断しています.胸鎖乳突筋が安静時から目立っている場合(自験例)や本例のように吸気で目立つ場合(偽クスマウル徴候)があります.しかし筋肉は拍動しないので頸静脈と見間違うことはないと思います.

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(投稿者 川崎)

2023-11-26

ラミナリア かん Laminaria tent

  • 昆布の一種である乾燥したラミナリアの茎で作られた細い棒
  • 子宮頸管の拡張目的に用いられる医療機器(子宮頸管拡張器)
  • 12〜24時間で凡そ2~3倍に膨張(挿入後24時間以内に抜去)
  • 外科的中絶前,初産婦の頸管未熟例,婦人科疾患処置前など
  • 長さ60~80mm、直径3~5mmの円筒形で通常,複数本挿入
  • 日本ラミナリア桿(医療機器届出番号:21B3X00009000001


(投稿者 川崎)

2023-11-25

黄色肉芽腫性腎盂腎炎 Xanthogranulomatous pyelonephritis

  • 概要 慢性腎盂腎炎の亜型で尿路閉塞や慢性感染に関連することが多い病態
  • 命名 脂質を多く含んだマクロファージ浸潤が病理切片で黄色に見えるため
  • 感染 起因菌は尿路感染と同じ(大腸菌,ミラビリス,シュードモナス他)
  • 疫学 全ての腎感染症の0.6%~1%で男性よりも女性に多い(50〜60歳代)
  • 鑑別 腎がん,腎実質奇形,腎結核,腎膿瘍,間質性腎炎,血管筋脂肪腫
  • 治療 抗生物質と経皮ドレナージ,難治症例では腎部分切除術や腎全摘術

参考)StatPearls

腎周囲組織や副腎に破壊が及んだ黄色肉芽腫性腎盂腎炎の1例

(投稿者 川崎)