このブログを検索

2024-02-29

今週の一枚 🎯

昨夜からの胸痛でERに搬入された症例

👂 解説
  • 座位で右耳垂に45度の皺あり(フランク徴候
  • 耳垂の皺は二本あり(double earlobe crease
  • よくみると外耳道の毛(ear-canal hair)あり
  • 心電図にはST変化なし(後壁誘導 V7-9 含む)
  • 心エコー図では下壁に軽度の壁運動低下あり
  • 緊急CAGで回旋枝(#13)に99%の狭窄を確認
  • 引き続きPCIで治療(治療中もST-T変化なし)

👀 フランク徴候あれこれ
  • 45度の耳垂皺(フランク徴候/Frank's sign)が冠動脈疾患と関連することはメタ解析でも確認されています(Int J Cardiol 2014;175:171-5).
  • 本例のように外耳道毛が合併した耳垂皺例では冠動脈疾患の確率がより上昇するという報告もあり(Indian Heart J 1989;41:86-91 ➜ 典型自験例
  • しかし「座位皺 vs 臥位皺」や「片側皺 vs 両側皺」の差異はあまり検討されていません.本例のように同一側に複数本ある耳垂皺の追加意義も不明

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-28

VPシャントの流量調整

  • VPシャントはventriculo-peritoneal shunt(脳室-腹腔短絡路)で水頭症の治療法
  • 他は脳室-心房短絡路(VAシャント)や腰部くも膜下腔-腹腔短絡路(LPシャント)
  • 現在のバルブはほぼ圧可変式で体外よりプログラマーで無侵襲的に流量を調整可
  • 例:バルブ内部モーターをマグネティックパルス信号で回転(CODMAN HAKIM®
  • 3テスラまでのMRIではバルブ損傷なし(設定圧の変更が生じ得るためX線で確認)

   Codman Hakimプログラマブル バルブのX線写真 (90 mmH2Oに設定)

(投稿者 川崎)

2024-02-27

日本医師会 生涯教育制度

  • 医師としての姿勢を自ら律し生涯教育が幅広く効果的に行われるための支援体制(1987年に発足)
  • 医師免許取得直後から参加でき単位・カリキュラムコードを4月末までに所属の郡市区医師会に提出
  • 算定は年度単位で最小単位は学習時間30分で0.5単位/カリキュラムコードは84領域に分類(下表)
  • 3年間で単位数とカリキュラムコード数の合計数が60以上の取得者には日医生涯教育認定証を発行



💁 医師会に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-26

前屈 😳 スゲー

大腸疾患の術前採血でBNP高値(800台)を指摘された症例

💙 解説
  • 端座位で頸静脈拍動は視認しない
  • 前屈負荷後に頸静脈拍動が出現!
  • 拍動は陥凹でなく隆起と思われた
  • よくみると自然吸気時に隆起明瞭
  • S3はないがS2の肺動脈成分は亢進
  • 胸部X線で肺うっ血や胸水はなし
  • 心エコーでEF 20%+肺高血圧あり
  • 最終的に非代償性左心不全と診断

💚 前屈負荷はユニーク
  • 安静時に頸静脈拍動を認めなくても,各種負荷で拍動が出現することがあります.吸気負荷が最も簡便ですが,左上肢挙上負荷も役にたちます.通常は「拍動なし→陥凹出現」です.安静時に陥凹があれば,負荷後に隆起になる場合もあります(陥凹の消失は原則ない).
  • しかし前屈負荷では本例のように「拍動なし→隆起出現」の変化を経験することがあります(他の自験例).このようなユニークな変化の機序としては,前屈に伴う胸腔内圧の上昇に加えて,息止めの効果や心臓との垂直距離の短縮なども考えられるでしょうか?
  • 本症例は当初「胸部症状はない」と言われました.しかし頸静脈所見を確認後に再度問うと,「数年前から労作時に息切れがするようになったため日常生活を抑えている」と述べられました.自覚症状の有無に加えて,年齢相応の活動的な生活か否かの確認も大切です.

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-25

ツェツェバエ Tsetse fly

  • 概略 アフリカ睡眠病の原因を媒介する蝿でツワナ語(ボツワナの多数派民族)でハエを意味
  • 発音 英語ではˈtet.si flaɪ(ツェッティ・フライ/実際の音声)でツエツエ(Tsuetsue)でなはい
  • 媒介 吸血で病原性トリパノソーマのガンビアトリパノソーマやローデシアトリパノソーマなど
  • 分布 サハラ砂漠以南のアフリカ風土病(西~中央アフリカ諸国と東アフリカ諸国で異なる種)
  • 潜伏 急性期症状出現までの期間は1~3週間(ガンビア型は数ヶ月~数年間の無症候例あり)
  • 症状 急性期は間欠熱や悪寒,頭痛,筋肉痛/慢性期は中枢神経症状(傾眠や過食,頭痛,昏睡)
  • 診断 血液やリンパ節,髄液などから原虫の検出または血清学的検査(T. b. gambienseにのみ可)
  • 治療 ペンタミジンやスラミン,エフロルニチンなど (ワクチンがないため予防が最重要である)
  • 予後 無治療の場合なら1~3ヵ月で全例死亡(ガンビア型も無治療の場合は数年後には死亡)

参考)厚生労働省検疫所,他

ツェツェバエに刺された時の皮膚所見

💁 風土病に関する投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-24

ラッサ熱 Lassa fever

  • 概略 ウイルス性出血熱の1つ(他はマールブルグ病、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱)
  • 原因 ラッサウイルスによる感染で自然宿主は野ネズミの一種であるマストミスなどのげっ歯類
  • 人人 体液を介すなど濃厚接触の場合にはヒト-ヒト感染あり(5012人の接触者で28人:0.56%)
  • 命名 1969年に最初の患者が発生した村の名に由来(ナイジェリアのボルノ州にあるラッサ村)
  • 地域 ナイジェリア,シエラレオネ、ギニアに至るアフリカ一帯と中央アフリカ共和国など局地的
  • 診断 咽頭ぬぐい液や血液,尿などの培養からウイルス分離(PCR法で遺伝子断片検出でも可能)
  • 症状 潜伏期間7〜18日の後に発熱と倦怠感,その後に関節痛,重症なら消化管粘膜の出血など
  • 治療 リバビリン(静注)が著効/感染予防ワクチンはない/拡大予防で接触者調査と隔離など
  • 予後 致死率は1〜2%? 5~50%?(いずれにせよエボラウイルス感染症による30~90%より低い)
  • 規則 全数報告対象(1類感染症 )で診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要あり


ラッサウイルスの感染経路

(投稿者 川崎)

2024-02-23

公正証書 Notarial deed

😐 先日,尊厳死宣言の公正証書を持参された方を経験しました.

🏢 公正証書(Notarial deed)
  • 概略 私人の嘱託により公務員である公証人によって作成された公文書で極めて強力な証拠力を有す
  • 種類 法律行為に関する証書(契約や遺言等)と私権に関する証書(知的財産権管理や尊厳死宣言等)
  • 作成 原則本人が公正証書の作成を依頼するが,本人の委任状を持った代理人によっても作成は可能
  • 現状 日本全国で法務大臣に任命された公証人は約500名で公証役場の数は約300カ所(2018年時点)

参考)日本公証人連合会,ほか

尊厳死宣言公正証書の1例

💁 リビングウィルに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-22

今週の一枚 🎯

心不全増悪に対して利尿薬を追加した症例
外来の再診時には手がとても冷たくなっていた

👽 解説
  • 再診時には内頸静脈の拍動は完全に消失
  • 手指や爪床に末梢チアノーゼは認めない
  • 症状に関して特に言及なし(元々乏しい)
  • 採血ではCr上昇,BUN上昇,BNP大幅低下
  • 利尿薬の過剰投与 ➜ 血管内脱水と判断
  • 利尿薬を減量して早期のフォローを予定

💣 WRF (worsening renal function)
  • 心不全例では利尿薬(特にループ系)の追加で血清クレアチニンの上昇を認めることがあります.WRF(腎機能悪化)と呼ばれ,その定義は48時間以内に絶対値で0.3mg/dL以上あるいは前値より50%以上の上昇などです.
  • 機序は交感神経/RAA系の亢進による末梢血管のトーヌス亢進や体液量減少による心拍出量の減少などが考えられます.このWRFは心腎連関の一つですが,予後悪化の指標であることが知られているため注意が必要です.
  • 本例のように座位で内頸静脈拍動が明瞭だった症例(=中心静脈圧が高度上昇)で,利尿薬の追加後に頸静脈拍動が綺麗さっぱり消失した時には要注意です.必ず手を触ってみて冷たくなっていないか確認してください.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-21

指数弁・手動弁・光覚弁

👀 視力が0.01未満の評価法
  1. 指数しすう弁 ➜ 検者の指数を正答できる最長距離(例:1m/指数弁や30cm/指数弁)
  2. 手動弁 ➜ 検者の手掌を眼前で上下左右に動かしたときに方向を弁別できる視力
  3. 光覚こうかく弁 ➜ 暗室において被検者の眼前で照明を点滅させ明暗が弁別できる視力
※明暗がわからない状態は医学的に もうと判定

👓 視力検査アレコレ
  • 日本の視力表記は1.0や0.5ですが,米国では20/20や20/40です.ただし分数にしているだけで,少数にすれば同じです.また米国では1.0を正常としてそれ以上(1.5や2.0など)は調べないようです.例:私の視力は正常です "I have twenty-twenty vision."
  • 日本で視力検査に用いられるランドルト環(C字型の環)は,スイスの眼科医 Jacques Rodolphe Edmund Landolt(1846-1926)が提唱しました.他にオランダの眼科医 Herman Snellen(1834–1908)が提唱したスネレン環などもあります.

(投稿者 川崎)

2024-02-20

機内 ✈ Drコール 

  • 先日,知人の循環器内科医が国際線の航空機内でDrコールに応じて急変症例の蘇生を行いました.数年前には大先輩の循環器内科医も国際線内での心筋梗塞発症に対応をされました.いずれも名乗り出た医師は1人だったようです.
  • 要請に応じる姿勢は素晴らしいいのです,結果に対する法的責任などが心配で二の足を踏まれる方も少なくないと思います.この特殊な状況下での対応に関しては明記されていないことも多いのですが,少しだけ調べてみました.

💛 善きサマリア人の法(Good Samaritan laws)
  • 負傷者や急病患者,被災者などを救うために無償で行った善意の行動は,故意または重大な過失がない限り民事上の賠償責任を問われない
  • バイスタンダーによる蘇生や航空機内でのドクターコール対応を促進するためで米国やカナダで施行(ただし日本では現時点で未立法化)
  • サマリアとはパレスチナ中央部の地名で,新約聖書に書かれたサマリア人の善行が名称の由来(ルカによる福音書の第10章第29~37節)

☆ 光樹(こうき)法律会計事務所の見解(以下の文言は一部変更)
  • 民法698条(緊急事務管理)「管理者は,本人の身体,名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは,悪意又は重大な過失があるのでなければ,これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」。よって航空機内で医師に求められる注意義務は軽減され刑事責任が問われることはまずありません。
  • 医師法19条1項「診療に従事する医師は,診察治療の求めがあった場合,正当な事由がなければ拒んではならない」。しかし,応召義務は医師が医療施設で診察をする場合で,乗客である医師が機内ドクターコールを無視しても応召義務違反にはなりません。
  • 外国航空機内の場合でも,ドクターコールに応じて急病人が死亡しても原則刑事責任は負いません(例えばアメリカ・カナダには良きサマリア人の法/good Samaritan law)。ただ,民事責任については最終的に責任を負わないとしても,損害賠償請求される可能性はゼロではないのでリスクは伴います。航空会社や海外旅行保険が支払うかは約款次第です。

💁 航空機に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-19

臨床=組合せ

心雑音を指摘された症例(座位)

👻 現場実況
  • 収縮期駆出性雑音あり(鎖骨も)➜ 大動脈弁狭窄の疑い
  • 心エコー図では中等〜重症の大動脈弁狭窄と判断された
  • しかし頸動脈に明瞭な拍動あり(矢印)➜ ASは否定的?
  • エキスパートによるエコー再検で流出路狭窄狭窄と診断
  • 頸部に雑音の放散があったが本例は大動脈弁硬化も合併

💚 組み合わせ
  • 本例は明らかな非対称性中隔肥大やS字状中隔を伴わない非典型的な左室流出路狭窄であったため,診断に少し時間を要したと思われました(もっとも僧帽弁の収縮期前方運動は明瞭でしたが...)
  • 大動脈弁狭窄症の頸動脈拍動は通常,不明瞭です(厳密には緩徐な立上り+上昇脚の小振動).しかし加齢に伴う動脈蛇行で皮下に出現した動脈が明瞭な拍動を示すことがあります(自験例
  • 身体所見では常に組み合わせて考えます(例:聴診+頸動脈).聴診も組合せです(例:駆出性+部位).心エコー図も然り(例:レポート+検者?).臨床も然り(身体所見+心エコー図)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-18

👶 vs 🍯

  • 乳児ボツリヌス症を防ぐため生後1歳未満の乳児にハチミツを与えることは禁止
  • ボツリヌス菌は土壌などに広く存在している細菌で通常は腸内細菌には勝てない
  • しかし生後1歳未満の腸内環境ではボツリヌス菌が増加し毒素を出すことがある
  • ハチミツは加熱処理を行わないため菌混入あり(ハチミツ入り飲料や菓子を含)
  • 症状は便秘,全身の筋力低下,脱力状態,哺乳力低下,泣き声が小さくなるなど


💁 ボツリヌス菌に関する投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-17

チャージ症候群 CHARGE syndrome

🔎 CHARGE syndrome
  1. Coloboma ➜ コロボーマ
  2. Heart defect ➜ 心奇形
  3. Atresia of the choanae ➜ 後鼻孔閉鎖
  4. Retardation of growth or development ➜ 発達の遅れまたは中枢神経奇形
  5. Genital hypoplasia ➜ 生殖器低形成または尿路奇形
  6. Ear malfomation or hearing loss ➜ 耳の奇形または難聴




💫 チャージ症候群
  • 概要 CHD7遺伝子のヘテロ変異で多発奇形を呈する希少疾患(出生児1万〜2万人に1人程度)
  • 命名 アメリカの小児科医であるHallが17例を報告()して,1981年にPagonらが命名(#
  • 症状 成長障害,精神発達遅滞,先天性心疾患,非対称性顔面,コロボーマ,性器低形成など
  • 治療 多臓器の合併症に対して個々に対応(栄養・成長・療育等は早期介入・継続フォロー)
  • 予後 生後数年(特に重度の先天性障害を有する乳児)はリスクが高く罹患率と死亡率が上昇


(投稿者 川崎)

2024-02-16

定量の外頸静脈・定性の内頸静脈

息切れで紹介された症例(座位)

👶 解説
  • 座位で外頸静脈の上下運動を明瞭に視認できる
  • 上縁は頸部中央で右房からの垂直距離は20 cm
  • 中心静脈圧は確実に上昇と判断(約20 cm水柱)
  • もちろん内頸静脈の拍動も視認できる(動画*)
  • ただ内頸静脈の拍動上縁の判定は難(定量困難)
  • 本例の最終診断は非代償性の左心不全であった

 😎 独り言
  • 中心静脈圧の評価に対する外頸静脈の信頼度は決して高くありません(自験例).やはり内頸静脈に重きをおくべきです(その理由).しかし外頸静脈でも本例のように明瞭な上下運動を認める場合は大いに信頼しています.
  • 外頸静脈は詳細な評価を可能にします.例えば収縮性心膜炎に特徴的な急峻y下行(フリードライヒ徴候)や不整脈の診断(過去の投稿)です.個人的には外頸静脈は定量評価向きで内頸静脈は定性評価向きと思っています.

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-15

今週の一枚 🎯

末梢動脈疾患でフォロー中の症例が定期受診待中に嘔気と嘔吐

解説 💧
  • 胆嚢は拡張し,壁がやや肥厚している
  • 底部側に大量のガス有(頸部にも少量)
  • 胆嚢壁の気腫性変化なく胆石も認めず
  • 採血は軽微炎症反応(CRP値<1)のみ
  • 気腫性胆嚢炎と診断して消化器内科へ

嘔気と嘔吐 💦
  • 本例は発熱なく,腹痛の訴えもなし.元々受診時に予定していた採血でもあまり問題がなかったため,ウイルス性胃腸炎かな〜と完全に油断していた.
  • CTで想定外の疾患が見つかることは少なくない.病歴聴取と身体所見の確認が不十分と言われればその通りであるが,嘔気などが強いと容易ではない.
  • 先日も定期受診の方が診察待中に,嘔吐と嘔気があるため処置室に移動(朝からあった様子).腹部CTは問題なかったが頭部CTで小脳出血が判明した.
👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-02-14

Adrogué-Madias Formula アドローグ・メディアスの式

  • 輸液補正によって低ナトリウム血症の改善度を予測する式
  • ΔNa =〔輸液(Na+K)-血清 Na〕÷(現在の体重×0.6+1)
  • 名称は米国の2人の内科医(N Engl J Med 2000;342:1581-9
  • ただし輸液以外は水分の出入りなしなどの仮定の上に成立

📏 具体例
  1. 体重60 kg(total body water:TBW 36 L)の症候性低ナトリウム血症(血清Na濃度110 mEq/L)
  2. 1Lの3%生理食塩水(Na 513 mEq/L)でNa濃度変化={(513+0)-120}÷(36+1)=10.9 mEq/L
  3. よってNa濃度が2 mEq/L/hr で上がるようにしたい場合2÷10.9=0.18 L/hr=180 mL/hr で投与


(投稿者 川崎)

2024-02-13

機械工の手 Mechanic’s Hands

  • 母指の尺側および他4指の橈側を中心に手指皮膚の角化(亀裂やひび割れ他)が生じた病態
  • 抗合成酵素症候群(Anti-synthetase syndrome: ASS)で認めることがある筋外症状のひとつ
  • 病変分布は物を掴むなど物理的刺激を受ける部位に生じるケブネル(Köbner)現象で説明可
  • 合併は爪周囲紅斑 52%,ゴットロン徴候 39%,ヘリオトロープ発疹 23%,レイノー現象 21% 


進行性の近位筋力低下を訴える45歳女性

💁 筋炎に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-12

🏆 論文

  • 当院初期研修医の大江先生が循環器内科で経験した症例が出版されました🎉
  • 右室拡大があり身体所見は心房中隔欠損に合致するも短絡が見当たらない例
  • 経胸壁心エコー図の攪拌生理食塩水によるコントラスト造影でシャント確認
  • 経食道心エコー図で上大静脈と左房の短絡を確認し上位静脈洞型ASDと診断

🙊 秘密情報
  • 本論文にはWeb版もPDF版も”Published: January 01, 2024”と記載されています.つまり元日に出版されたことになります.実はCureusは採択された論文の出版日を著者がある程度コントロールできるため,日本との時差を考えらがら狙ってみました.
  • Cureusは2009年に創設されスプリンガー ネイチャーから出版されています.投稿方法が従来誌とは異なるため少し慣れが必要ですが査読は迅速です.(うまくいけば)コストはかからずPubMedに収載されインパクトファクターもつくのは魅力的です.

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-11

抗合成酵素症候群 Anti-synthetase syndrome (ASS)

  • アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl transfer RNA synthetase: ARS)に対する自己抗体(抗ARS抗体)陽性例に特徴的な臨床像
  • アメリカの内科医 I N Targoff が提唱した病態(Rheum Dis Clin North Am 1992;18:455-82)で,炎症性筋疾患(筋炎)と関連する
  • 抗ARS抗体症候群では筋炎に加えて,間質性肺炎,機械工の手,レイノー現象,多関節症,発熱などの多様な筋外症状を呈す
  • 抗合成酵素症候群の疫学は男女比は1:3~4と女性に多く,平均発症年齢は50歳代である(ただし小児例も存在する)
  • 筋力低下は左右対称性で下肢からはじまる近位筋優位が基本で,徒手筋力テストで3/5あるいはそれ以下の重篤な低下が27%
  • 筋外症状の中で最も頻度が高くまた生命予後を左右するのが間質性肺炎であり,抗合成酵素症候群の80%で認められた
  • 治療の基本はステロイド(1 mg/ kg/day)で通常の筋炎と同様(反応は良いが再発しやすい/多くで免疫療法を併用)
  • 現在保険収載されている抗ARS抗体検査は,抗 Jo-1抗体,抗PL-7抗体,抗PL-12抗体,抗EJ抗体,抗KS抗体を判定


多発筋炎・皮膚筋炎における自己抗体とその対応抗原,臨床的意義

💁 筋炎に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-10

コロボーマ Coloboma

  • 概略 脈絡膜・毛様体,視神経乳頭,虹彩などの一部が欠けた状態
  • 名前 ギリシャ語のkoloboma(κολόβωμα)が由来で"defect"を意味
  • 発生 胎児期に生じた切れ込み(胎生裂)が完全に閉鎖しないため
  • 原因 一部の症例は常染色体優性遺伝形式(ただし散発例も多い)
  • 頻度 100,000の出生に対して5-7症例でおよそ半数が両側性である
  • 症状 障害の程度はサイズと部位に依存(正常視力~光の有無程度)
  • 合併 腎障害を伴う腎コロボーマや多発奇形を呈するCHARGE症候群
  • 治療 屈折異常に対する眼鏡,羞明には遮光眼鏡やひさし帽の使用

参考)日本小児眼科学会(page 18page 33),他

虹彩のコロボーマ(16歳女性)

(投稿者 川崎)

2024-02-09

頸静脈の陽性波:a波 vs v波

転居に伴い当科を紹介受診した症例(座位)

🐤 解説
  • 陽性波あり(矢印)➜ 動脈または静脈(a波 or v波)
  • この陽性波は吸気で消失している ➜ 動脈性ではない
  • 吸気で外頸静脈怒張(クスマウル徴候陽性)(矢頭)
  • 橈骨動脈の触診による時相判定で同波形をa波と診断
  • 本例は虚血性心疾患による慢性心不全状態であった

🐦 追加コメント
  • 頸静脈拍動が呼吸性に変化すれば動脈性よりも静脈性を考えます(過去の投稿:twitter).吸気で胸腔内圧は低下しますが,本例のようにクスマウル徴候が陽性になる症例では頸静脈拍動の所見はまず正常化しません(ほとんどの症例で悪化:過去の投稿).よって本例では視認するv波(ランチシ徴候,CV merger)はおおむね否定できると思います.
  • 座位でa波を視認するということは,心室コンプライアンスが相当低下していることを意味します(肥大型心筋症でも10%程度:過去の投稿).しかしこのa波が吸気で消失することを少なからず経験します.おまけ 🐧 クスマウル徴候を発見したドイツ人医師のAdolf Kussmaul(1822-1902)は1869年に金属管を用いて生きた人の胃内を世界で初めて観察

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-08

今週の一枚 🎯

肢誘導のノイズの原因は?

⛯ 交流ハム(AC hum)
  • 下記の拡大図で400 msの間に24回の波を観察可能
  • これは60 Hzで交流の周波数に合致(当院は大阪)
  • フィルタでハムが設定されていないことにも注目
  • (参考:フィルタはハム・筋電・ドリフトの3種)
  • 検者がハムフィルターを入れなかった理由は不明

⛯ アーチファクト(人工雑音)
  • 被験者自体の生体電気活動として心電や脈波,筋電,眼球運動,発汗などがあります(例えば脳波記録時の心臓電気活動はアーチファクトになり得えます)
  • 交流障害(ハム)の主な原因は,電磁誘導や静電誘導,漏れ電流です.その混入経路には他の電気機器の併用やベットの不十分はアースなどが考えられます
  • 日本では静岡県の富士川の東は50Hz,西は60Hzだけど,こんな国は世界では稀だそうです(理由:明治時代の発電機の導入が東京は独製,大阪は米国製)
👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-02-07

ハッチンソン・ギルフォード(早老)症候群
Hutchinson–Gilford (progeroid) syndrome

  • 概略 遺伝性早老症の一つで中でも症状が特に重篤な疾患
  • 由来 1880-90年代のハッチンソンギルフォードの報告
  • 原因 LMNA遺伝子エクソン11内の点突然変異c.1824C>T
  • 機序 細胞分裂で核が不安定になり体細胞の早期死が惹起
  • 疫学 全世界で350~400人の典型患者(国内は10例程度)
  • 症状 生後半年~水頭症,禿頭,脱毛,小顎,強皮症など
  • 治療 対症療法(米国ではファルネシル転移酵素阻害薬)
  • 予後 知能は正常/脳卒中や虚血性心疾患で10歳代で死亡


(投稿者 川崎)

2024-02-06

ホーソン効果 Hawthorne effect

  • 観察されていることを意識することで本来の行動を(良い方向へ)修正する現象
  • ホーソンは米イリノイ州にある街で1920-30代に同地区の工場の品質管理中に発見
  • 社内のモチベーション向上に活用可能(上司からの賞賛や同僚同士の称えあい他)
  • 医療現場では信頼している医師の前では言動を変えて不都合なことは伝えない他
  • 期待で成績が向上する心理的現象 ピグマリオン効果(逆はゴーレム効果)に近い

💁 心理学に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-02-05

光と影:レンブラント

動悸+息切れを訴える症例

🐝 ハミングバード徴候(Hummingbird sign)
  • 座位で右頸部に細かい拍動あり(先週2/2と同一例)
  • ペンライトで照らすことで生じた影の動きにも注意
  • 吸気負荷で外頸静脈が怒張 ➜ その影の振動に注目
  • 最終の診断は2:1伝導の心房頻拍+非代償性心不全

🔦 光と影
  • オランダの画家 レンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn, 1606-1669)は光と影の魔術師として知られています.その人生も光と影のような壮絶だったようですが...(詳細
  • 本例のように,フィジカル診察にもこの光と影を大いに活用して下さい.光源としてはペンライト(自験例)やスマホ(自験例)だけでなく,太陽の自然光も利用できます(自験例).

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-04

被嚢性腹膜硬化症 EPS: encapsulating peritoneal sclerosis

  • 概略 び漫性に肥厚した腹膜の広範囲な癒着で反復性にイレウス症状を呈する状態
  • 特徴 腹膜劣化(限外濾過不全と腹膜透過性の亢進)+形態的変化を包括している
  • 肉眼 腹膜の褐色調(tanned)変化と表面湿潤性の喪失(leather like appearance)
  • 腹膜 壁側腹膜(parietal peritoneum)と臓側腹膜(visceral peritoneum)に二分
  • 初報 アメリカの医師であるVasant C. Gandhiら(Arch Intern Med 1980;140:1201-3
  • 診断 臨床診断(症状+CT+排液中の中皮細胞診+腹腔鏡や開腹による肉眼所見など)
  • 原因 糖尿病などの基礎疾患,加齢,尿毒素,薬剤,腹膜炎,透析液の生体非適合性
  • 疫学 維持腹膜透析患者の 1.4~7.3%(中性透析液が標準使用となってからは1.0%)
  • 分類 前EPS期 ➜ 炎症期 ➜ 被囊/進行期 ➜ イレウス/完成(慢性)期と経時的に進行
  • 予後 25.8〜56.5%が死亡(ただし現在ではやや改善:例えば14名中2名がEPS関連死)
  • 治療 腹膜休息,腹腔洗浄,副腎皮質ステロイド投与,TPN,外科的治療(被膜剥離術)


5年間継続的に外来で腹膜透析(PD)を受けていた26歳男性(繭化に注目)

💁 腹膜透析に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-03

Roving eye movement 眼球 彷徨ほうこう

  • 両眼の数秒周期の規則的な左右への共同運動で,ping-pong gazeとほぼ同義
  • 米の脳神経医Fisherが報告(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1967;30:383-92
  • 大脳皮質全体の障害かつ脳幹機能(眼球運動支配)が維持されていると出現
  • 両側大脳皮質卒中,代謝性障害,中毒などで出現(障害部位の特異性なし)

アルコール性肝障害から肝性脳症を生じた男性

💁 眼振に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-02-02

ハミングバード徴候 Hummingbird sign

ひと月前に突然出現した動悸とその後の息切れ(座位)

👶 解説
  • よく見ると右側の頸部が細かく振動している
  • 深い吸気の保持中に外頸静脈が怒張(矢頭)
  • 病歴+フィジカル診断は頻拍誘発の心不全
  • 最終診断は2:1伝導のAT+頻拍誘発性心筋症

🐝 ハミングバード徴候(Hummingbird sign)
  • 同徴候はハチドリの激しい羽ばたきを想定して命名しました(当科論文).房室結節回帰性頻拍(AVNRT)によるフロッグサイン(frog sign)のおよそ2倍の周期で振動します.
  • 頸部の拍動では動脈性か静脈性かの鑑別が必要ですが,このような早い拍動(>200 bpm)なら静脈性と考えられます.安静時に生じる超頻脈では動脈圧が低下するためです.
  • 静脈性拍動には隆起と陥凹の二通りありますが,本例のように周期が極めて短い場合は隆起が多いと思います.x谷とy谷の2峰性陥凹は早ても100 bpm程度でしょうか(自験例).

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-02-01

今週の一枚 🎯

突然の腹痛後に鮮血便を認めた若い女性



(投稿者 川崎)