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2023-03-31

テルソン症候群 Terson syndrome

  • くも膜下出血(SAH)後の硝子体出血(原因に脳出血も含むことあり)
  • 発生頻度はSAHの8~19.3%,脳内出血の9.1%,外傷性脳損傷の3.1%
  • 原因は上昇した頭蓋内圧で自然軽快例も多いが手術を要する症例も有
  • 前交通動脈瘤や内頸動脈瘤に多く重篤例・再出血例に多く予後は不良
  • 由来は仏眼科医Terson(1900)であるが初報は独眼科医 Litten(1881)


Terson’s Syndrome
💁 に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能)

(投稿者 川崎)

2023-03-30

今週の一枚 🎯 ツルゴールの低下ならぬ消失

疲労感で紹介受診した高齢者

💧 解説
  • 座位で手背は心臓よりも低位にあったが静脈は見えず
  • 皮膚の張り(ツルゴール,turgor)が低下(回復≧2秒)
  • 最終的に本例は感染症に伴う脱水と診断され入院した

💦 独り言
  • 簡便な脱水指標としてツルゴールの低下やCRT(capillary refilling time/爪床血流充填時間)の延長が有名ですが,高齢者ではあまり当てになりません.しかし本例のようにツルゴールが消失していれば信頼していいと思います.
  • 脱水の他の身体所見として腋窩の乾燥,口腔・鼻粘膜の乾燥,舌の皺,眼球の陥没などが知られています(過去の投稿).なお脱水ならば血管内脱水(Volume depletion)と血管外脱水(dehydration)を要鑑別(過去の投稿

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(投稿者 川崎)

2023-03-29

ビーバー徴候 Beevor's sign

  • 概要 仰臥位で頭部を挙上すると臍が上方移動(臍上部の腹直筋が下部よりも収縮)
  • 原因 T9とT10の間の脊髄損傷を示唆(第10胸髄の病変では腹直筋の下半部に脱力)
  • 原因 脊髄損傷,筋萎縮性側索硬化症(ALS),顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)
  • 初報 イギリスの神経学者 Charles Edward Beevor が発見(Br Med J 1903;2:12-6

多分,頭を上げてと言っている(動画内)

(投稿者 川崎)

2023-03-28

プロテウス症候群 Proteus syndrome

  • 概要 複数の組織・臓器の過成長・過形成+腫瘍の発生リスク上昇
  • 頻度 非常に稀で100万人あたり1例未満の発生率(遺伝はしない)
  • 原因 癌遺伝子のAKT1に体細胞活性化変異 (c.49G→A、p.Glu17Lys)
  • 初報 米国の老年医学の医師Temtamyら(J Pediatr 1976;89:924-7
  • 命名 姿を変えることができるギリシアの海神プローテウスに由来
  • 所見 過成長・形成は左右非対称であることが特徴(学習障害なし)
  • 治療 根本的治療法なく対症療法が中心(必要時に手術などを行う)


プロテウス症候群の12歳少年

追加コメント
  • 映画「エレファント マン」の主題となった英国人のジョセフ・メリック(Joseph Carey Merrick、1862-1890)の身体の極度な変形、膨張はプロテウス症候群が原因と推測されているようです.ただしレックリングハウゼン病などとして知られる神経線維腫症1型などは完全に否定できていません.

(投稿者 川崎)

2023-03-27

デスモイド腫瘍 Desmoid tumor

  • WHO分類で良性と悪性の中間に分類される軟部腫瘍
  • 局所的浸潤性は強いが遠隔転移を起こすことはない
  • 命名はギリシア語の”desmos”(腱のような)に由来
  • 筋線維芽細胞が主体である黄白色で硬い外観を示す
  • 好発は15~60歳(最多は40代)で女性は男性の2~3倍
  • 本邦での診断総数は2018年に173名,2019年に156名
  • 全体の90%前後が孤発性で四肢・体幹に多く見られる
  • 家族性腺腫性ポリポーシス合併例は大半が腹腔内発生
  • 治療は広範切除(無症状なら慎重な経過観察も可能)


様々なデスモイド腫瘍 (A/B, 肩領域;C,腹腔内;D,右傍脊柱筋群)

💁 軟部腫瘍に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-26

三尖弁逆流(TR)の分類:3段階 ➜ 5段階

  • 従来から三尖弁逆流 TR はmild, moderate, severeの3段階に分類されてきました.しかし近年では三尖弁カテーテル治療も見据えてsevereをsevere, massive, torrentialの3段階に分け計5段階評価が提唱されています.
  • 本邦のガイドライン(2020年改訂版)や日常臨床ではまだ3段階分類ですが,外科的介入を考慮する例では5段階評価が望まれます.縮流部幅(vena contracta width:二断面の平均)がざっくりとした目安になりそうです.

従来からの3段階分類
新たな5段階分類

💁 三尖弁に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-25

ファベラ? Fabella?

  • 腓腹筋外側頭に存在する種子骨(5~20mmの骨性または軟骨)
  • fabellaはラテン語で,英語のlittle bean(小さい豆)を意味
  • 一般人口の10~30%に存在していて80%の症例で両側性である
  • 通常は無症状であるが,稀に疼痛や総腓骨神経麻痺を生じる
  • 治療は局所麻酔やステロイド注,ファベラ切除術などを行う


様々な変性グレードのファベラ(矢印)

(投稿者 川崎)

2023-03-24

原発性胆汁性胆管炎 Primary biliary cholangitis: PBC

  • 概要 胆汁うっ滞に伴い肝実質細胞の破壊と線維化を生じる
  • 原因 不明であるが,自己免疫学的な機序が考えられている
  • 組織 葉間胆管および隔壁胆管に慢性非化膿性破壊性胆管炎
  • 疫学 中年以後の女性に多い(本邦ではおよそ2万人と予想)
  • 症状 長期無症状〜皮膚そう痒感〜肝硬変・肝不全など多様
  • 特徴 抗ミトコンドリア抗体(AMA)が特異的・高率に陽性
  • 合併 シェーグレン症候群,関節リウマチ,慢性甲状腺炎他
  • 治療 対症療法(ウルソ〜肝移植/ステロイドは期待できず)
  • 予後 無症候性が続く限り良好だが5年間で約25%が症候性


😸 おまけ
  • 以前は肝硬変に至ってから診断されることが多かったため原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis)と呼ばれていました.しかし近年では無症候性のうちに発見される症例が増え肝硬変を呈さないため,名称が原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis)に変更されました(欧米は2015年,本邦は2016年).幸い略語はどちらもPBCなので混乱は最小限
  • 同様の変更はニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia)でもありました(旧名はニューモシスチス・カリニ肺炎:Pneumocystis cariniii pneumonia).共に略語はPCPで助かります.もっともこの変更はPCBの臨床変化とは異なり,原虫と考えられていたニューモシスティスが実は真菌の一種(子嚢菌門タフリナ菌亜門)であることが分かったためです(過去の投稿

💁 胆汁に関する過去投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-23

今週の一枚 🎯 下腿浮腫:圧痕の有無と回復時間

下腿浮腫で紹介受診した症例

🐤 解説
  • 靴下を脱いだ時点でゴム跡(sock marks)➜ 浮腫の疑い
  • 脛骨前面を母指を用いて5~10秒間,約5mmの深さで圧迫
  • 圧痕 ➜ リンパ浮腫・甲状腺機能低下・蜂窩織炎は否定的
  • 圧痕回復の遅いslow edema(≧40秒)➜ 低ALBは否定的
  • 最終的に本例のpitting edemaの原因は心不全と診断した

🐦 たかが浮腫,されど浮腫
  • 浮腫とは細胞外液が血管外の間質に生理的な代償能を超えて過剰に貯留した状態と定義され,その原因は多岐に渡ります.
  • 主な原因は,静水圧の上昇(A),膠質浸透圧の低下(B),血管透過性の亢進(C),リンパ系の還流障害(D)

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(投稿者 川崎)

2023-03-22

手足症候群 Hand-Foot Syndrome

😅 先日の研究会で...

  • 概要 抗がん剤により手と足(特に手掌と足底)に生じる皮膚有害反応
  • 歴史 以前はフッ化ピリミジン,近年はカペシタビンやキナーゼ阻害薬
  • 所見 紅斑・腫脹.角化,色素沈着,水疱,爪甲変化,知覚異常・疼痛
  • 機序 薬剤による表皮細胞への直接的・間接的障害+外的な機械的刺激
  • 検査 手足症候群と因果関係のある臨床検査値異常は報告されていない
  • 鑑別 湿疹(洗剤皮膚炎や指掌角皮),白癬,凍瘡,掌蹠膿疱症,乾癬
  • 対処 生活指導(物理・熱刺激・日光の回避),皮膚保護,2次感染予防
  • 投薬 休薬,尿素軟膏やヘパリン類似物質など,NSAIDs,ステロイド他

原因となる医薬品と頻度

グレード 臨床領域 機能領域
1 しびれ、皮膚知覚過敏、ヒリヒリ・チクチク感、 無 痛性腫脹、無痛性紅斑、色素沈着、爪の変形 日常生活に制限を受ける ことのない症状
2 腫脹を伴う有痛性紅斑、 爪甲の高度な変形・脱落 日常生活に制限を受ける症状
3 湿性痂皮・落屑、水疱、潰瘍、強い痛み 日常生活を遂行できない症状



紅斑・腫脹の実例

💁 抗がん剤に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-21

ちゃんとした (?) 言い方 ??

  1. 四つん這い
  2. 肘をついた四つん這い
  3. うつ伏せで腰を上げる
  4. 背筋を伸ばす
  5. 体育座り
  6. (畳の上などに)足を伸ばして座る
  7. (椅子などに)足をおろして座る

(投稿者 川崎)

2023-03-20

最近のフィジカル論文から

研究1
Cardiac Physical Exam Skills and Auscultation Session for Pediatric Interns.
MedEdPORTAL. 2022 Dec 20;18:11289.
  • 小児科レジデント25名を対象に小児心臓身体検査に関する2時間のワークショップ(教訓・グループディスカッション・一般的な小児雑音の解釈の練習)を行い,その前後と3ヵ月後にテストで評価.結果は講習前から講習後に平均スコアが有意に増加し,その増加は3ヵ月後も維持された.


研究2
Interrater and intrarater agreement on heart murmurs.
Scand J Prim Health Care. 2022 Dec;40(4):491-497.
  • 心音の録音を用いて医師(家庭医17名と心臓専門医8名)および医学生8名で,心音分類の一致率を調査.一致率は平均81〜83%で,心臓専門医,家庭医,医学生の順であった.一致に関連した因子は,①明確な心雑音,②5年以上の臨床診療,③専門分野が心臓,の三つであった.



👾 個人的な感想
  • 研究1では聴診教育の改善効果が,講習後3月も保たれるとは意外でした.研究2は予想された通りの結果かと思います.
  • 両者を組み合わた結果,つまり講習会で参加者の背景に関わらず聴診力が改善して持続するなら素晴らしいと思います.

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(投稿者 川崎)

2023-03-19

虚血性腸炎アラカルト

😐 先日のカンファレンス
  • 腹痛が全くない虚血性腸炎の症例を提示しました.鮮血便で来院されたのですが,腹部の圧痛や反跳痛もありませんでした.本症例でディスカッションになった項目を調査しました.

虚血性腸炎の臨床症状(対象は401例)
  1. 腹痛:87%
  2. 鮮血便:84%
  3. 下痢:56%
  4. 嘔吐:30%
  5. めまい:10%
  6. 失神:6%


虚血性腸炎と抗菌薬(対象は186例)
  • 後ろ向き解析では抗生物質を投与群と非投与群で、30日以内の死亡、手術、および再入院の発生率に統計的有意差なし


😀 まとめ
  • 調査で本例の様に腹部症状を欠く虚血性腸炎の症例が少なからずあることが分かりました.また予想通り抗菌薬の投与は必須でないことも確認できました.

💁 虚血性腸炎とスタチンに関する過去の投稿 ➜ コチラ
(投稿者 五十川/川崎)

2023-03-18

エーリキア症 Ehrlichiosis

  • 概略 マダニによって媒介される新興の人畜共通感染症
  • 原因 エーリキア(1~3 μmの球桿状の偏性寄生性細菌)
  • 命名 発見者であるドイツの細菌学者 エールリヒ に由来
  • 増殖 ヒトでは造血系細胞の細胞質中にマイクロコロニー
  • 分類 ヒトの単球性エーリキア症と顆粒球性エーリキア症
  • 疫学 本邦での報告は極めて少ない(欧米では多数あり)
  • 症状 発熱、頭痛、貧血、白血球減少、血小板減少など
  • 診断 病原体特有のPCRあるいは特異的抗体(IgMやIgG)
  • 治療 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など
  • 予後 免疫抑制状態や治療遅延例では重篤で時に致死的


Ehrlichia 属のライフサイクル

💁 ダニに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-17

ウィークリーシート

  • PTP の包装単位で1週間単位の14錠が1シート(21錠シートもある)
  • 一般的には2列✖️10錠の10錠シート(他に20錠シートなどもある)
  • ウィークリーシートは実際に服用する患者さんとって分かりやすい
  • 調剤も容易(1日2回1月=4シート)だが処方数を誤るリスクがある
  • ウィークリー製剤は週1回薬(ビスホスホネートやGLP-1作動薬など)

例:10錠シート(左)とウィークリーシート(14錠シート,右)
(投稿者 川崎)

2023-03-16

🎯 今週の一枚

ふらつきで来院した高齢者



(投稿者 川崎)

2023-03-15

ログロール・ログリフフト・フラットリフト

  • 外傷例で搬送時(特に全脊柱固定時)または背部の損傷を確認するときに用いる方法
  • 脊損の疑い例では全脊柱固定(頸椎カラー・頭部固定具・バックボード・固定ベルト)
  • JPTECではバックボードを外す時にログロールフラットリフトで背面の確認を推奨

ログロール(Log roll)
  • 頭部に1人,上半身に2人,下半身に2人配置して脊椎を軸にして転がす方法

ログリフト(Log lift)
  • 患者さんを跨ぎ頭部・胸部・骨盤・下肢に1人ずつ配置し両手で持ち上げる

フラットリフト(Flat lift
  • 頭部保持に1人,胸部・骨盤部・下肢の左右に1人ずつ配置し水平に持ち上げ

💁 外傷に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-14

ホルネル症候群(徴候) Horner's syndrome

  • 病態 上位の交感神経(主にC8~Th2)の障害で出現するの一連の症状
  • 症状 縮瞳,眼瞼下垂(眼裂狭小),眼球陥凹,顔面の発汗低下・紅潮
  • 命名 スイスの眼科医 ホルネル(Klin Monatsbl Augenheilk 18698;7:193–8)
  • 原因 腫瘍や動脈瘤の圧迫,神経根引き抜き損傷Wallenberg症候群など
  • 対応 画像検査+コカイン点眼試験などで診断して原因疾患に対する治療

甲状腺髄様癌の術後に生じたホルネル症候群(右側)

💁 交感神経に関する過去投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-13

女性化乳房 & ディスコ

DISCO女性化乳房を引き起こす代表的な薬物 
  • Digitalis(ジギタリス)
  • INH(イソニアジド)
  • Spironolactone(スピロノラクトン)
  • Cimetidine(シメチジン)
  • Oestrogen(エストロゲン)

🐦 AntiandrogensとMetoclopramide(プリンペラン他)を加えDISCO AMなどのバリエーションあり

重症度分類Plast Reconstr Surg 1973;51:48-52
  • Grade I ➜ 皮膚過剰を伴わない小さな腫脹
  • Grade IIa ➜ 中程度の腫大で皮膚に余剰がないもの
  • Grade IIb ➜ 中程度の腫大で軽度の皮膚過剰を伴う
  • Grade III ➜ 女性特有の乳房下垂のような皮膚過剰の著しい腫脹

🐤上記分類は一例で計10種類以上の分類法あり(ココ

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松下記念病院 川崎達也)

2023-03-12

腕神経叢損傷 Brachial plexus injury

  • 概要:外傷に伴う腕神経叢(そう)の損傷(別名は神経根引き抜き損傷や腕神経叢麻痺)
  • 原因:腕神経叢(第5~第8頚神経と第1胸神経で構成)の引き抜き,引き伸ばし,断裂
  • 実例:バイク走行やスポーツ中の転倒,機械へ腕の巻き込み,骨盤位分娩や肩難産の乳児
  • 診断:X線,頚部~鎖骨MRI,電気生理学的検査,身体所見(引き抜きならホルネル徴候
  • 分類:上位型(肩周囲の障害),下位型(前腕~手指の障害),全型(上肢全体に及ぶ)
  • 症状:上肢しびれ~肩挙上や肘屈曲不可,手指麻痺(腕神経叢の損傷部位により異なる)
  • 治療:再建可能なら神経移植術,困難なら肋間神経や副神経の移行術や多数筋移行術など
  • 予後:経時的に軽快~全く回復しないものまで多様(急性期の早急な診断と対応が重要)


A,引き伸ばし;B,後神経節病変(断裂);C,神経節病変(引き抜き)

💁 神経叢に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-11

プルーンベリー症候群 Prune-belly syndrome: PBS

  • 概要 先天性の腹壁形成不全を特徴とする小児病態
  • 初報 1839年にFrolich(命名は1901年Osler:論文
  • 別名 Eagle-Barrett syndrome(9例の要約:論文
  • 原因 不明(多くは孤発性で明らかな遺伝はなし)
  • 特徴 干しプラム(prune)様の腹部(belly)の皺
  • 疫学 3.5~5万出生に1例の頻度で,ほとんどが男児
  • 合併 腎尿路奇形と停留精巣(他に心・肺・消化器)
  • 治療 腹壁形成不全はコルセット装着や腹壁形成術
  • 予後 生後2年以内に40.5%死亡(長期生存例は稀)


古典的な腹壁の外観を示すPBSの新生男児

💁 腹壁に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-10

論文 🏆 黄視症 Xanthopsia

  • 当院の初期研修医である春名先生が循環器内科で経験した症例が出版(少し前😅)
  • 心不全で入院 ➜ ジギタリス中毒(7.3 ng/mL)が判明 ➜ 追加問診で黄視症を確認
  • ポイントは視力や視野の異常はなく網膜電図( electroretinography: ERG)で異常

上段は入院時(ERGの反応低下)・下段は回復1月後(すべて正常化)

😀 おまけ
  • 本例は下腿浮腫に対して他院でジギタリスが0.25 mg/日が処方されていました.腎機能障害はなかったようですが,当院搬入時のeGFRは33.5 mL/min/1.73 m2でした(その後に53.6まで回復).
  • 問診で入院直前にバイクによる数回の自損事故を起こしていたことが判明しました.当初はジギタリス中毒による不整脈(特に徐脈:入院時40 bpm)を考えましたが,入院後に不整脈は検出せず.
  • よくよく聞いていくと,道路横の歩道ブロックが見えにくくなりバイクでぶつかっていたことが分かりました.これは夕方に顕著で信号色も不明瞭だったようです.そこから黄視症に辿り着きました.
  • ジゴキシン関連黄視症はジギタリス効果を発見したWitheringが200年以上前に報告しています().強烈な黄色で知られる画家ゴッホなど多くの人に影響を与えたと考えられているようです().

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(投稿者 川崎)

2023-03-09

今週の一枚 🎯 頸部は心のみにあらず

息切れで来院した症例(端座位)

🐦 解説
  • 胸鎖乳突筋と斜角筋の肥大 ➜ 慢性閉塞性肺疾患COPDに合致
  • 明瞭な鎖骨上窩と吸気時の陥凹 ➜ 陥没呼吸もCOPDに矛盾せず
  • 気管短縮(甲状軟骨下縁〜胸骨上縁:通常は>3横指 or 4cm)
  • 鎖骨上窩に呼吸と無関係の周期的な陥凹 ➜ 中心静脈圧の上昇
  • 座位で視認する外頸静脈が吸気負荷で明瞭化(クスマウル徴候)
  • 吸気保持で内頸静脈の拍動上縁も上昇 ➜ 心不全に矛盾しない
  • 本例はCOPDに伴う第3群の肺高血圧症(肺性心)と診断した

😀 ひとり言
  • COPDには多くの身体所見が知られています.本例で認めた所見以外にも,フーバー徴候や樽状胸郭,るい痩,口すぼめ呼吸,呼気相延長などがあります.ただしこれらの身体所見はるい痩を除き重症化するまで出現しにくい点に要注意
  • 肺疾患による心不全を以前は肺性心cor pulmonale)と言っていましたが,最近ではあまり耳にしません.Google Scholar検索でも”肺性心”は1980-2000年に1270件,2000-2020年は800件と減少してます.
  • cor はラテン語も同じ綴りで心臓を意味するそうです.命名はWPW症候群の発見者として有名なPD WhiteJAMA 1935;104:1473-80).最近は第3群PHと呼ぶことが多くなってきましたが,あまり味わいがないような...

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(投稿者 川崎)

2023-03-08

ドセタキセル(Docetaxel)と浮腫

👾 ドセタキセル(Docetaxel)
  • 概略 タキサン系抗がん剤で微小管に結合し有糸分裂を阻害(商品名:タキソテール他)
  • 適応 乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、頭頸部癌、卵巣・子宮体癌、食道癌、前立腺癌(DI

👿 注意点
  • 抗がん剤であるため脱毛・血球減少・嘔吐・アレルギーなどが生じ得るが,ドセタキセルには体液貯留という副作用あり.これはタキサン系薬剤による血管透過性の亢進による特徴的な有害事象で,四肢だけでなく体幹にも出現し胸水や腹水貯留を引き起こすこともある(引用).

👾 癌治療後の浮腫:リンパ節郭清後 and/orドセタキセル関連
  • 対象 5年内にドセタキセルの投与された乳がん43例
  • 除外 心機能障害例,肝機能障害例,深部静脈血栓例
  • 頻度 30.2%に下肢浮腫,投与4回目が最多(46.2%)


💁 乳がんに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-07

👴 歴史クイズ

(Public Domain)



(投稿者 川崎)

2023-03-06

時間外の病理検体

先日,休日の夜間に採取した検体の取り扱いに少し困ったので当院の病理検査室に確認しました

  • 休日であっても日中は検査室の担当者がいるため提出可能
  • 夜間(平日・休日ともに)は検体により対応が異なる
    1. 細胞診など湿潤固定する検体 ➜ 冷蔵保存となるため提出可能
    2. 組織診などホルマリン固定する検体 ➜ 常温でホルマリン保存し翌日の日中に提出
    3. 消化器系の病理検体(胆汁・膵液等)➜ 夜間でも提出可能

(投稿者 川角/川崎)

日本内科学会 第239回近畿地方会より

😐 個人的に気になった報告

演題5 上部消化管内視鏡検査を契機に診断されたCowden症候群の1例
  • Cowden症候群は、様々な臓器に過誤腫性病変が多発する常染色体優性遺伝形式をとる疾患であり、PTENと呼ばれるがん抑制遺伝子の病的バリアントが原因とされる。乳癌、甲状腺癌、子宮内膜癌、大腸癌、腎細胞癌などの悪性腫瘍を高率に合併する。

演題15 著明な低脂血症で発症した後天性LCAT欠損症の1例
  • HDL-C9mg/dL、LDL-C5mg/dLと著明低値を認めた。LCAT欠損症は、コレステロールのエステル化に重要な酵素であるLCATの欠損や活性低下により、脂質代謝障害を来す稀な疾患である。

演題88 心不全を契機に診断された中性脂肪蓄積心筋血管症の1例
  • 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)は非常に珍しい症例でありPNPLA2遺伝子ホモ型変異を伴うものを原発性、遺伝的原因が不明なものを特発性と分類する。

演題94 99mTc製剤によりアナフィラキシーショックに至った1例
  • 6分間のアデノシン持続静注及び99mTc製剤静注の数分後に顔面、前胸部、両上肢の紅潮及び掻痒感を伴う膨疹を認めた。ステロイド点滴で症状は速やかに軽快し、アデノシンによるアレルギー反応と考えた。予定通り3時間後に2回目の99mTc製剤静注を行った所、全身の膨疹・紅斑、気分不良、冷汗、胸部不快感が出現し、収縮期血圧70mmHgまで低下した。

演題115 移動盲腸により腸重積を来した1例
  • 移動盲腸は胎生期に右側結腸が後腹膜に固定されない発生異常であり、発生率は10-20%程度である。便通異常や腹痛など症状出現時は薬物療法や外科的治療を行う。

演題217 ニューマトセルの破裂で緊張性気胸・膿胸になった1例
  • 膿気胸(pyopneumothorax)=胸部CTでは肺内外にniveauを伴う嚢胞性病変。内部に感染を伴う場合、気胸・膿胸などの合併症のリスクがあり、縦隔偏位を伴う緊張性気胸になれば、致死的になることも留意が必要である。

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-03-05

Mixed Aortic Valve Disease: MAVD 混合大動脈弁疾患

👍 ポイント
  • 中等度AS中等度ARが共存した病態(MAVD)では,単独の中等症ASや中等症ARと比較して,有害事象の発生が有意に高い.
  • MAVD患者は重症AS患者と同等の転帰であるが,(一見)駆出率は保たれているため症状について注意深く観察する必要がある.

👌 ガイドラインの文言:大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症(ASR)
  • 単独のASまたはARにおいては,重症度分類に基づいた手術適応基準が各ガイドラインにおいて提唱されているのに対して,ASRに関する研究は少なく治療ガイドラインは明らかにされていない.このため,より重症な弁膜症の治療ガイドラインに基づいた管理および治療方針の決定が行われていると想定される.しかし,ASRは単独ASまたは単独ARとは異なる臨床経過をたどる可能性がある.過去の研究によれば,ASとARがともに中等症のASRであっても,その予後は重症ASと変わらないと報告されている680-682).ASRの特徴であるASによる圧負荷とARによる容量負荷が,中等度であっても複合的に予後へ影響する病態を生じるためと考えられる.ASRではASの圧負荷によって求心性肥大が生じ,ARの容量負荷によって遠心性肥大を生じるため,単独ASおよび単独ARに比較して心筋重量が増大する680-682).従来から心筋重量の増加は心疾患の予後と関連することが知られており,心筋重量の増大がASRの複合的な病態の重症度を反映している683,684).高度心肥大は左室拡張機能を低下させるが,ARによる容量負荷によって左室拡張期圧を急激に増加させ,心不全症状を顕性化させる685).ASRでは弁膜症の進行がなくても症状が認められるようになることがあり,弁疾患よりも拡張機能障害の進行が原因であると考えられる680-682).このように,従来のASもしくはARのガイドラインではASR患者の管理には不十分である.ASRでは弁膜症の重症度評価に加えて心筋重量や拡張機能評価を行い,中等症弁膜症ではなく重症ASに相当するより厳密な経過観察が推奨される.


👻 ガイドラインに関する過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-03-04

コテージ・ローフ徴候 Cottage loaf sign

  • Cottage loaf(コテージ・ローフ)はイギリスを起源とする伝統的なタイプのパン
  • 横隔膜欠損による肝臓の部分的ヘルニアを伴った右側横隔膜破裂を示す画像所見
  • 横隔膜のくびれで上下に連結したコテージ・ローフ(左下の写真)を連想させる


💁 横隔膜に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-03-03

眼球運動障害 Ocular motility disorder

  • 眼球運動の担当は外眼筋=4直筋(外直筋・内直筋・上直筋・下直筋)+2斜筋(上斜筋・下斜筋)(下図参照)
  • これらの6つの外眼筋を支配する3神経(動眼神経滑車神経外転神経)が障害されると眼球運動障害が生じる
  • 原因は血流障害・神経の炎症・腫瘍の神経圧迫・外傷などで,症状は複視・斜視・眼振・眼瞼下垂・視力障害など
  • 治療は原因疾患の治療が基本であり,対症療法として両眼の視線のずれを補正するプリズム眼鏡,片眼の眼帯など

外眼筋の作用方向

72歳男性:上下複視に対する術前(上段)と術後(下段)

💁 に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら右欄からも選択可能)

(投稿者 川崎)

2023-03-02

今週の一枚 🎯 頸静脈評価の思考プロセス

息使いが荒くなった症例

🐤 臨床現場
  • 呼吸は荒く外頸静脈を座位で視認 ➜ 中心静脈圧は上昇?
  • 呼気より吸気で外頸静脈の隆起が明瞭 ➜ 静脈圧は上昇!
  • よく見ると耳垂の下に拍動する部分がある(陥凹っぽい)
  • 深吸気を保持した後は拍動はより明瞭へ(おそらく隆起)
  • 僅かながら耳垂の拍動もあり(イヤウインクサイン陽性)
  • 最終的に内頸静脈のランチシ徴候を伴った心不全と判断

🔗 思考プロセス
  • 心音は頭で考えてもダメだと思っています.歌謡曲のイントロクイズと同様に,耳にした瞬間に反応できるまで聴き込むべきです(英語耳ならぬ心音耳👂の作成)
  • 一方,頸静脈に関しては本例の様にじっくり考える方がいいと思います(個人的な経験論).これは聴覚に比べて,視覚はあまりにも多くの情報を含むからです.
  • ただし匠の業を極めたフィジカルの達人であれば一見で判断できるかもしれませんが...😅 いずれにしても百聞は一見に如かず:多くの動画に接してください.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-03-01

SDGs 3 持続可能な開発目標3

  • Sustainable Development Goals(SDGs)は2015年に国連総会で採択された持続可能な開発のための17の国際目標
(パブリックドメイン)

  • その中でも医療に関してSDGs 3(持続可能な開発目標3)➜ ”すべての人に健康と福祉を/Good Health and Well-Being” ➜「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」 
(パブリックドメイン)

🙋 目標3を構成する13個のターゲット
  • 3.1 ➜ 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する。
  • 3.2 ➜ すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生 1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
  • 3.3 ➜ 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
  • 3.4 ➜ 2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
  • 3.5 ➜ 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
  • 3.6 ➜ 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
  • 3.7 ➜ 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
  • 3.8 ➜ すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・ カバレッジ(UHC)を達成する。
  • 3.9 ➜ 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
  • 3.a ➜ すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
  • 3.b ➜ 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS 協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定 (TRIPS 協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
  • 3.c ➜ 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
  • 3.d ➜ すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。


(投稿者 川崎)