このブログを検索

2023-07-31

SDOHとは?

  • Social determinants of healthの略(SDHもあり)で、日本語訳は社会的決定要因WHOの定義は”the conditions in which people are born, grow, work, live, and age, and the wider set of forces and systems shaping the conditions of daily life” (概略:人々が生まれ、成長し、働き、生活し、老いる条件、そして日常生活の条件を形成するより広範な諸力と制度)

👾 健康に影響を与える可能性がある10 SDOHWHOの提示) 
  1. Income and social protection:収入と社会保障
  2. Education:教育
  3. Unemployment and job insecurity:失業と雇用不安
  4. Working life conditions:労働生活条件
  5. Food insecurity:食料不安
  6. Housing, basic amenities and the environment:住宅、基本的なアメニティ、環境
  7. Early childhood development:幼児期の発達
  8. Social inclusion and non-discrimination:社会的包摂と非差別
  9. Structural conflict:構造的矛盾
  10. Access to affordable health services of decent quality:適切な質の医療サービスを手頃な価格で利用できる

健康に影響する主な要因

(投稿者 川崎)

2023-07-30

腰部脊柱管狭窄症:MILD(マイルド)法

  • 腰部脊柱管狭窄症に対する術式の一つで後方支持組織に対する侵襲を最小限している
  • Muscle-preserving interlaminar decompression(筋肉温存型腰椎椎弓間除圧術)の略
  • 八田陽一郎先生(当院の勤務時代もあり)が考案した術式(Spine 2009;34:E276-80
  • 正中の棘突起間から脊柱管内に進入するため左右対称の術野が得られ出血量も少ない

筋肉温存型腰椎椎弓間除圧術(MILD)の実際

💁 脊柱管狭窄に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-29

「奈良宣言2023」

  • 日本肝臓学会が令和5年6月15日の総会で医師や国民に向けて発表した肝臓病の克服のための宣言
  • 最多の肝臓病であったウイルス性疾患(特にB型とC型肝炎)に対する治療は劇的な進化を遂げた
  • 一方で生活習慣病を基盤とする非アルコール性脂肪肝炎(NASH)やアルコール性肝疾患が増加
  • ALT>30ならかかりつけ医などを受診し機会を逸することなく消化器内科による精密検査を推奨


- 実際の流れ -

💁 肝臓に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-28

クモ膜下出血患者の重症度判定

  • くも膜下出血患者(Subarachnoid Hemorrhage: SAH)の治療方針を決定するにあたっては重症度の判定が重要.下記はいずれも国際的に活用されている分類で,通常はグレードが高いほど予後が不良.

📗 Hunt and Hess分類J Neurosurg 1968;28:14-20
  • Grade I ➜ 無症状あるいは最小限の頭痛および軽度の項部硬直
  • Grade II ➜ 中等度から強度の頭痛と項部硬直があるが脳神経麻痺以外の神経学的失調はない
  • Grade III ➜ 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状
  • Grade IV ➜ 昏迷状態で中等度から重篤な片麻痺あり(早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある)
  • Grade V ➜ 深昏睡状態で除脳硬直を示し瀕死の様相

📘 Hunt and Kosnik分類Clin Neurosurg 1974;21:79-89
  • Grade 0 ➜ 未破裂の動脈瘤
  • Grade I ➜ 無症状か最小限の頭痛および軽度の項部硬直
  • Grade Ia ➜ 急性の髄膜あるいは脳症状はないが固定した神経学的失調あり
  • Grade II ➜ 中等度から強度の頭痛と項部硬直があるが脳神経麻痺以外の神経学的失調はない
  • Grade III ➜ 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状
  • Grade IV ➜ 昏迷状態で中等度から重篤な片麻痺あり(早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある)
  • Grade V ➜ 深昏睡状態で除脳硬直を示し瀕死の様相

📙 WFNS分類J Neurosurg 1988;68:985-6
  • Grade I ➜ GCS 15で局所神経症状なし
  • Grade II ➜ GCS 14-13で局所神経症状なし
  • Grade III ➜ GCS 14-13で局所神経症状あり
  • Grade IV ➜ GCS 12-7(局所神経症状は不問)
  • Grade V ➜ GCS 6-3(局所神経症状は不問)

💁 クモ膜下出血に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-27

今週の一枚 🎯 歓迎されないコンビ

難治性左心不全で入院中の症例

👿 解説
  • 座位で顎下に内頸静脈の拍動(陥凹)あり(ビデオの矢印)
  • 中心静脈圧は高度に上昇と推察 ➜ 非代償性心不全に合致
  • ベットテーブル(心臓より15cm低位)にある手背を確認
  • 末梢静脈の怒張なくツルゴール低下 ➜ 血管内脱水の疑い

💙 独り言
  • ツルゴール低下は脱水を示唆しますが,高齢者ではあまり当てになりません(ツルゴール消失は有用).もっとも非代償性の心不全症例では心臓より下にある表在静脈は怒張することが多いため(自験例),ツルゴールより座位アンサム徴候を確認するほうが多いでしょうか.
  • 上記ビデオで見られるように中心性のうっ血(本例では肺うっ血)と末梢の脱水が共存した心不全症例では,その加療がより困難になることが多いような気がします.例えばカテコラミンなど強心剤の持続静注やメカニカル・サポートの導入を要することが少なくないと思います.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-26

メンデルソン症候群:再登場

💣 メンデルソン症候群(Mendelson syndrome)
  • 初報は米国 産婦人科医 Mendelson の無痛分娩後の肺炎(Am J Obstet Gynecol 1946;52:191-205
  • 原因は酸度の高い胃液の誤嚥による化学性の肺障害で広義では産婦人科領域に限らず使用される
  • 誤嚥性肺炎(広義)の一亜型で ARDS に進展することあり(古い報告での死亡率は41-100%:
  • 誤嚥直後から肺胞虚脱,肺実質の炎症,浮腫を生じて4-6時間後には好中球による二次的傷害(#) 

🌟 肺癌術後気管支鏡でメンデルソン症候群を発症した症例
  • 誤嚥直後より10L酸素マスクでSpO2 90%
  • 2時間後に右肺野透過性低下を認め(図3A)ソルメドロール1gを投与
  • 誤嚥4時間後に呼吸停止し人工呼吸管理を開始(図3B)

🍚 誤嚥性肺炎(広義)
  1. Aspiration pneumonia(通常の誤嚥性肺炎)➜ 細菌を含む口腔・咽頭分泌物の誤嚥に起因する細菌性肺炎(不顕性の誤嚥を含む)
  2. Aspiration pneumonitis(誤嚥性肺障害:メンデルソン症候群を含む)➜ 意識障害時の嘔吐物(胃液を含む食物)の顕性誤嚥に起因

💁 誤嚥に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-25

ウェルナー症候群 Werner syndrome

  • 概略 思春期〜老化徴候を示す常染色体劣性(潜性)の遺伝性疾患
  • 命名 独の眼科医 Otto Werner(Schmidt and Klauning; Kiel: 1904)
  • 原因 第8染色体短腕上のRecQ型DNAヘリカーゼのホモ接合体変異
  • 疫学 本邦の推定患者数は約2,000名(世界報告例の6割が日本人)
  • 症状 白内障や白毛、脱毛、腱石灰化、皮膚萎縮、糖尿病、低身長
  • 予後 動脈硬化性疾患あるいは悪性腫瘍のため平均40歳代で死亡
  • 治療 根本的治療なし(四肢難治性皮膚潰瘍は他部位から膚移植)

参考)難病情報センター、他


(投稿者 川崎)

2023-07-24

凍結肩 Frozen shoulder

  • 40才以上で肩関節痛と関節可動域制限を特徴とする原因不明の病態 
  • 五十肩と同意義で別名は拘縮肩,肩関節周囲炎,癒着性肩関節包炎 
  • 英語ではadhesive capsulitis, shoulder periarthritis, stiff shoulder他
  • 発生率は人口の3~5%,ピークは56歳,男性より女性に僅かに多い
  • 糖尿,甲状腺疾患,高コレステロール血症,高血圧などで頻度増加
  • 臨床現場では能動的および他動的外旋が困難であることから診断可
  • 画像診断や病理検査は有用ではなく重大な代替診断に至ることは稀
  • 3段階:炎症期 2~9ヵ月,拘縮期 4~12ヵ月,回復期 12~42ヵ月 
  • 治療は鎮痛薬,理学療法,関節内ステロイド注,鏡視下関節授動術


💁 に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-23

最近の耳学問 👂

  1. 外傷時など大量輸血時の初期目安は新鮮凍結血漿:血小板濃縮製剤:赤血球=1:1:1  ➜ 詳細
  2. PMIP: Peri-Myocardial Infarction Pericarditis(心筋梗塞周囲心膜炎)は心筋梗塞後数日以内に起こる比較的良性の病態 ➜ 詳細
  3. 心内血栓単独での開心術の適応はAHAガイドラインでクラス IIb ➜ 詳細

💁 耳学問に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-22

イクボス宣言

  • 職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のこと(対象は男性管理職に限らず、女性管理職も)


👾 コメント
  • 育メンと同様に育boss(上司)から派生した言葉かと思います.先日の病院のボスクラスのみが出席する会議で耳にした「先ず隗より始めよ」の〆がとても印象的でした.

💁 働き方に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-21

IRBとCRB

🏢 IRB(Institutional Review Board)
  • 邦訳は倫理審査委員会.治験の全被験者の人権と安全を守るために倫理的観点から審査する委員会

👦 CRB(Certified Review Board)
  • 邦訳は認定臨床研究審査委員会.臨床研究法に基づき特定臨床研究を審査(多施設なら一括審査)

(投稿者 川崎)

2023-07-20

今週の一枚 🎯 クインケ脈のスマホ法

無症状の大動脈弁逆流例(中等症〜重症)の爪床

👶 解説
  • 明らかな拍動(クインケ脈/Quincke's pulse)はなかった
  • 爪床の圧迫でも出現せず(動画なし:陽性になった自験例
  • ただしスマホのライトに爪床を置くと明瞭な拍動が顕性化

🔦 診察室実況
  • スマホのライトを用いたクインケ徴候の検出方法はtwitterなどでも有名です.用指的な爪床圧迫とは異なり,微妙な力加減が一切不要でオススメです.
  • 実は頸静脈拍動を見るためのペンライトでもやってみました.僕のライト(下図)は巨匠のお薦めで,ペンライト界のメルセデス・ベンツだそうです.
  • 爪床拍動はペンライトの方がスマホよりはるかに明瞭でしたが,患者さんが指の違和感を訴えました.自分でやってみると数秒後にかなりの熱感 😱


👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-19

関節リウマチ:RF 🆚 IgG-RF

  • 関節リウマチのスクリーニング検査項目にRFとIgG-RFがありました.
  • 両者の違いがよく分からなかったので他項目も含め調査してみました.

RF(リウマトイド因子)
  • ヒトIgG(immunoglobulin G)のFc部分に対する自己抗体である(血清中のRFはIgMが主体).RA(関節リウマチ)に対するRFの感度は80%程度で,発症早期では50%程度.また正常人でも数%はRF陽性であり,加齢とともに陽性率が上昇する.その他,結核や慢性肝疾患,種々の膠原病などでも陽性となることがあり,疾患特異性は低い

IgG-RF
  • 糖鎖にガラクトースを欠損したIgGを抗原とした抗ガラクトース欠損IgG抗体.慢性炎症やSjögren症候群などでも上昇する.IgG-RFはIgM-RFに比べ,感度は低いが特異度が高い.関節外症状や血管炎を伴うRAで陽性例が多く,RAの活動性とも相関するとされている.

抗CCP抗体(抗シトルリン化ペプチド[cyclic citrullinated peptide]抗体)
  • RAに特異的な自己抗体として注目を集めている.その感度は 33~87.2%と報告によりばらつきがあるが,特異度が90~95%以上と極めて高く,健常者の陽性率は3%未満と低い.さらにRF陰性例でも30~50%が陽性となる.早期RAでは感度は40~50%と高くはないが,陽性の場合にはRAである可能性は極めて高い.さらに,抗CCP抗体はRAの進行度,骨破壊度の予測因子としても有用である.

MMP-3(血清メタロプロテアーゼ―3)
  • RAの発症早期から血中濃度は上昇するが,急性,慢性を問わず種々の滑膜炎でも上昇するため,必ずしもRAに特異的な検査とはいえない.ただし,血清MMP-3はRAの疾患活動性の指標としてもきわめて有用である.


💁 関節リウマチに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-18

エルスバーグ症候群 Elsberg syndrome: ES

概要 急性〜亜急性に生じる腰仙髄領域の両側性の神経根炎によって生じた病態
由来 Elsbergによる尿閉+脊髄障害の報告(Surg Gynecol Obstet 1931;16:117–35)
注意 髄膜炎尿閉症候群(meningitis-retention syndrome: MRS)と別?(引用
疫学 疑い例を含む30例の検討:男性24例,女性6例,発症年齢の中央値は53歳
症状 発熱・頭痛・羞明・下痢・筋肉痛・倦怠感の後に尿閉・サドル麻酔・便秘
原因 HSV2感染?(他ウイルス合併はVZV 50%,CMV 50%,EBV 57%,HIV 57%)
画像 馬尾と遠位脊髄(特に神経根)の信号異常(サルコイドーシスと鑑別必要)
治療 HSVおよびVZVならアシクロビル(他にコルチコステロイド単独投与や併用)
髄液 30例の検討:50%でリンパ球増加(そのうち20%では好中球が5%を超過)
予後 30例の検討:3%が脳脊髄炎から死亡,10%は神経学的回復なし,再発は7%


6人のES患者:脊髄炎と神経根炎のMRI所見

💁 脊髄に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-17

NO吸入療法 Inhaled nitric oxide: iNO

  • 概略 肺血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)ガスを吸入させる治療
  • 対象 新生児(34週〜)の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全症例など
  • 保険 心臓手術周術期の肺高血圧の改善(成人/小児:1日1,680点)
  • 実際 出生後7日以内で吸入濃度20 ppmで開始(最長は144時間まで)
  • 機器 アイノフロー®吸入用800 ppm(マリンクロット ファーマ(株)
  • 合併 メトヘモグロビン血症あるいは吸入NO2濃度増加などのリスク


- NO投与の仕組み -
👽 追加発言
  • よく似た治療に窒素(N2)吸入療法があります[低酸素(換気)療法:酸素濃度<21%].左心低形成症候群や大動脈縮窄複合(大動脈縮窄と心室中隔欠損を合併)など重篤な肺血流過多を生じる先天性心疾患の術前管理に従来から行われてきました.
  • その機序はNO吸入療法とは全く異なり,N2吸入で人為的に低酸素状態を作りだし,肺胞周囲の末梢動脈を収縮させることによって肺血流量を低下させます.よって使用に際しては低酸素血症による中枢神経系への影響などに留意する必要があるそうです.


💁 一酸化窒素に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-16

第135回日本循環器学会近畿地方会より

😃 個人的に気になった報告
 
3-5 心房細動アブレーション時に喉頭痙攣と思われる換気障害を経験した2例
  • i-gel™を使用した際に,喉頭痙攣と考えられる換気障害を2例経験した.鎮静剤をさらに投与し,深鎮静にすることで換気することができた.

3-24 頸静脈波形が診断に有用であった心タンポナーデの一例
  • Beckの3徴は頸静脈怒張のみであったが,頸静脈波形でy谷の消失を認め心タンポナーデと診断.(投稿者追記:y谷は健常者でも浅いことがあるので要注意)

5-39 線維化した深部中隔起源の心室頻拍に対してケミカルアブレーションを施行した1例
  • 左室,右室,大動脈から焼灼するも消失しない深部起源のPVC/VTに対して中隔枝を選択しエタノール注入が有効であった症例.

7-22 急性前壁心筋梗塞治療後に,造影剤脳症を合併した1例
  • PCI施行2時間後に右半身麻痺,半側空間無視,失語を認めた.頭部CTにて左半球優位に脳溝の広範な高吸収像を認め,頭部MRIでは有意所見を認めず.第3病日より麻痺,失語は徐々に改善し,翌日には 神経学的異常所見は消失した.経過順調で第14病日に独歩退院した.造影剤使用後に神経症状を呈する合併症として造影剤脳症があり,脳血管造影後の報告が多い.

7-24 難治性下肢皮膚潰瘍の治療経過中に診断に至ったウェルナー症候群の一例
  • 患者は糖尿病の罹病期間に見合わない動脈硬化を呈し,難治性下肢皮膚潰瘍,早老性毛髪変化,鳥様顔貌などウェルナー症候群の主要徴候に合致する身体所見を有していた.遺伝子検査でウェルナー症候群と確定.

7-34 下大静脈フィルター関連静脈血栓症に対して血栓吸引療法とSling techniqueを用いて抜去に 成功した一例
  • 充満する下大静脈フィルターに対して血栓吸引療法を行いその後Sling techniqueにて下大静脈フィルターを無事抜去.(投稿者追記:Radifocus guidewireなどをフィルター間に通し先端をスネア―で確保して回収するテクニック)

👻 当院からの発表
  • 2-2 急性冠症候群誘発のたこつぼ心筋症と考えられた1例(循環器内科 西川 晶ほか)
  • 3-21 S. lugdunensisによる大動脈弁輪部膿瘍を伴った感染性心内膜炎の1例(循環器内科 野口理希ほか)
  • 4-22 負荷を併用した簡易定性法による内頸静脈評価と肥大型心筋症の予後(循環器内科 川﨑達也ほか)
  • 5-11 薬剤性の体液貯留で左室流出路狭窄を生じたと考えられた1例(循環器内科 間瀬泰我ほか)

症例報告はすべて英語論文化(1つは出版済,1つは採択済,もう1つは投稿中)

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-07-15

片頭痛 vs 群発頭痛

  • 片頭痛と群発頭痛の特徴を再確認するために利用してください.
  • 空欄をクリックあるいはカーソル・オンで答えが確認できます.


片頭痛 群発頭痛
性別 女性>男性 男性>女性
持続 4時間~72時間 15分~3時間(発作期は毎日)
部位 片側>両側 必ず片側(眼の奥)
状態 痛いためじっとしている 痛すぎて暴れ回っている
前駆症状 約3割にあり(閃輝暗点など) なし
睡眠中 なし あり


(投稿者 川崎)

2023-07-14

騒音性難聴 Noise-induced hearing loss

  • 慢性音響性聴器障害で最もよくみられる職業性疾病の1つ
  • 85dB以上の環境は蝸牛に有害(短時間では難聴に至らず)
  • 1日8時間,5~15年以上の経過で徐々に難聴が発生,進行 
  • オージオグラムで左右差のない4,000Hzの低下(c5 dip
  • 症状は高音性耳鳴りや難聴(電子体温計のブザー音など)
  • 有効な治療法なし(転職や耳栓などの防音保護具で対応)

騒音性難聴症例の典型的なオージオグラム

📢 c5 dip 深堀 
  • 十二平均律ではAが440Hzと定義され,12√2倍ずつ周波数を高くして音階が作られます.コードは,A, A#, B, C...と続くので,Cは440*(12√2)3の523.3 Hzとなります.ドイツ式のオクターブ表記で523.3 HzのCは,c2と表記されます.c5は3オクターブ高い音なので,523.3*23 = 4,186 Hz となるようです(引用) 
  • c5 dipのメカニズムについては,外耳道共鳴説・リンパの渦流説・血管血流説などが提唱されています.その中でも,この周波数領域が解剖学的に固有蝸牛動脈と前庭蝸牛動脈蝸牛枝の吻合部に相当するため,血流障害に基づく有毛細胞障害が起こりやすいと説明する血管血流説が最も合理的と考えられるそうです(引用

💁 に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-13

今週の一枚 🎯 診察室での簡便な負荷

慢性心不全でフォロー中の症例(数日前に息切れを自覚/現在は改善)

😽 解説
  • 端座位で内頸静脈の拍動なし ➜ 中心静脈圧の高度上昇なし
  • 吸気負荷で拍動は出現せず ➜ 中心静脈圧の中等度上昇なし
  • 吸気を保持したまた左上肢挙上で拍動なし ➜ ちょっと安心
  • さらに前屈位負荷を追加しても拍動は見えず ➜ かなり安心
  • 心不全は十分に代償されていると判断して内服薬は変更せず

😺 独り言
  • 本例で行なった負荷の組み合わせはとても簡便なので,時々診察室で行なっています.ただし吸気負荷による前負荷の増大や前屈位による胸腔内圧の上昇と比較して,上肢挙上に伴う心負荷のメカニズムは意外に複雑の様です(過去の投稿).
  • 蹲踞姿勢は前負荷増大+後負荷増大+胸腔内圧上昇で強い負荷です(トリプル負荷).吸気負荷+蹲踞姿勢は外来診察室で行える最強の心負荷(負荷の四重奏)でしょうか.もっとも蹲踞は膝痛などで実施できないことが少なくありません.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-12

シャルコー・マリー・トゥース病 Charcot-Marie-Tooth disease: CMT

  • 概要 下腿と足の筋萎縮と感覚障害が特徴の緩徐進行性ニューロパチー
  • 命名 フランスの神経医 Charcot と Marie, 英国の神経医 Tooth らが初報
  • 疫学 0歳~20歳頃までに発症(有病率は1/2500人で世界に約260万人)
  • 原因 40種類の原因遺伝子が特定(同一の遺伝子でも異なる臨床型あり)
  • 症状 凹足、ハンマー趾、足関節の変形、筋萎縮、下肢の感覚障害など 
  • 治療 対症療法:理学療法、整形外科手術、薬物(アスコルビン酸?)他
  • 予後 生命にはあまり影響しないと考えらるが、重症例では人工呼吸管理 

参考)Peripheral Nerve 2011;22:125–31難病情報センター,他 


思春期から進行性の歩行跛行を認めた52歳男性(扁平足と内反足)


(投稿者 川崎)

2023-07-11

Fick法 vs 熱希釈法

  • 心カテーテル検査による心拍出量の代表的な測定法にFick法と熱希釈法がある
  • 熱稀釈法は簡便でスワン-ガンツ・カテーテル先端の温度センサーで算出できる
  • Fick法は以下の4パラメータから計算式で算出する(SaO2、S-vO2、Hb、HR)
  • 熱稀釈法は三尖弁・肺動脈弁逆流や低心拍出量で誤差大、シャント疾患は不可
  • Fick法はドイツ生まれの医師・生理学者 Adolf Eugen Fick (1829–1901) に由来

(投稿者 川崎)

2023-07-10

問題:硬い左室+Ⅳ音なし=?

  • 先日,明瞭な左室肥大(びまん性に15mm程度)と拡張障害(E/e'=30)を認めた方が精査目的で循環器内科を受診されました.洞調律にも関わらずⅣ音が聞こえませんでした.Ⅳ音はⅠ音に近接すると聴診では認識が困難になることがあるため,心音図でも確認しましたが,やはりⅣ音は痕跡すらありませんでした.本例は最終的にATTR型の心アミロイドーシスと診断されました.

  • ピロリン酸は両心室のみならず両心房にも良好に集積(骨より明瞭)していました. 左室肥大や虚血などで左室コンンプライアンスが低下する病態ではⅣ音をよく聴取します(例:洞調律の肥大型心筋症では70%以上).一方.硬い左室を呈する典型疾患である心アミロイドーシスでは洞調律であってもⅣ音が欠損してくることが報告されています(Am J Cardiol 2000;86:244-6,他) 

  •  Ⅳ音が生じるためにはstiff LVのみでは不十分で,そこに血流を押し込む心房の頑張り心房の辛抱)が必須です.洞調律のHCMでもⅣ音がなければ,運動耐容能は低下して心事故(特に心房細動への移行)と関連することを当院から報告しています(Ann Noninvasive Electrocardiol 2022;27:e12932).アミロイドーシス症例の心房障害の原因は主として心房へのアミロイド沈着の様です(Clin Cardiol 2021;44:322-31,他)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-09

Heerfordt syndrome ヘールフォルト症候群

  • サルコイドーシスの一型で発熱に加えぶどう膜炎耳下腺腫脹顔面神経麻痺
  • 由来はオランダの眼科医Christian Frederick Heerfordtによる1909年の報告(
  • この3所見がすべてそろった場合は完全型に,2所見のみの場合は不完全に分類
  • 発生頻度はサルコイドーシス全体の2%で完全型はサルコイドーシス全体の0.3%
  • 25例中男性11例,女性14例,年齢22~59歳,21例は症状出現に時間差(下表)
  • 治療は通常のサルコイドーシスと同じ(顔面神経麻痺ではステロイド全身投与)
  • 復習:関節炎と結節性紅斑,両側肺門リンパ節腫脹の三主徴はレフグレン症候群

参考)日サ会誌 2021;41:71-5,他

32歳女性例(パネルDはプレドニン60㎎/日を開始19日目)


💁 サルコイドーシスに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-08

Geographic tongue 地図状舌

  • 概略 原因不明の口腔内の良性慢性再発性炎症性疾患
  • 初報 1831年に Rayer が移動する舌の発赤として報告
  • 経過 病変が数日~週間持続し消失,別の場所に出現
  • 部位 通常舌側面と背面(唇や頬粘膜,口腔底もあり)
  • 疫学 小児期に発症(約1%~2.5%)で最多は20歳代
  • 電顕 紅斑部下の状乳頭の消失+舌白部下の壊死細胞
  • 症状 無症状~灼熱感,味覚障害,熱や酸の過敏など
  • 治療 無症状なら通常不要(口腔衛生かつ刺激物回避)
  • 鑑別 紅板症,扁平苔癬,カンジダ症,口内炎,白板 


 37歳女性の地理的舌(灼熱感は6ヵ月後に消失)

👅 に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-07

体のフタ:軟口蓋と喉頭蓋

Wiki



(投稿者 川崎)

2023-07-06

今週の一枚 🎯 いつも患者さんから教えてもらっています 🙇

中等度の大動脈弁閉鎖不全の症例

😀 解説
  • 爪床が僅かながら周期的な色調変化(クインケ脈
  • 自ら指先を机に押し付けてもらうと色調変化消失
  • ただし押し付けを解除後の数拍は色調変化が明瞭

😅 臨床現場
  • 患者さんに大動脈弁逆流で出現する身体所見を説明しながら,一緒に爪を見ていました.僕は陰性かなと思っていたけど,患者さんが「先生,拍動が見えるよ」と逆に教えてくれました.確かによく見たらわずかに拍動がありました.指先を机に押し付けて解除時に拍動が出現することも教えてくれました.
  • クインケ脈にも程度があると思っています.その程度(負荷不要>他動的圧迫>自動的圧迫)と部位(指先全体>爪床のみ)の組み合わせから,ある程度は大動脈逆流の重症度判定が可能でしょうか(過去の投稿).本ページには多数のクインケ徴候が投稿されていますのでよろしければご確認ください(コチラ).

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-05

リンパ系フィラリア症 Lymphatic Filariasis

  • 主に蚊によって媒介される寄生虫フィラリアがリンパ系に寄生する感染症
  • 幼虫がリンパ管に移動し成虫となり多くの仔虫(ミクロフィラリア)を生む
  • 感染者の多くは子供時代に感染(急性期の症状は悪寒戦慄を伴う発熱程度)
  • 成人後にリンパ管炎やリンパ節炎を伴う発熱を繰り返しリンパ液の還流障害
  • 慢性期に四肢のリンパ浮腫,象皮病,陰嚢水腫などを呈する(下図参照)
  • 診断は顕微鏡で血液中のミクロフィラリアの確認あるいは血清中の抗体値
  • 治療はジエチルカルバマジン(DEC),アルベンダゾール,イベルメクチン
  • 予防は蚊の回避:長そで・長ズボン着用,露出肌に防蚊剤,睡眠時の蚊帳
  • 流行地域はアフリカ,西太平洋・カリブ海など(日本は1988年に根絶宣言)
  • 2018年時点で5100万人以上が既に感染(WHOの主導で根絶計画が進行中)
  • 直接の死因になることは少ないが,免疫力が低下して感染症を発症しやすい



💁 寄生虫に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-07-04

カンジダ眼内炎の視覚的予後

👀 定義
  • 外因性眼内炎=感染源が眼の外部(眼内手術、外傷、汚染された眼内異物など)
  • 内因性眼内炎=眼外の感染源から血行性播種に続発して二次的に発生した眼内炎

 👻 視覚的予後
  • 3月後に0.05以上の視覚的転帰は術後47.2%、外傷後33.3%、内因性66.7%
  • 内因性カンジダ眼内炎で52.3%に持続的な視力低下(36.4%が0.05未満)
  • 内因性アスペルギルス眼内炎は66.7%に視力低下持続(58.3%が0.05未満)
  • 外因性真菌性眼内炎患者の24.4%が眼球摘出、別研究では26%が網膜剥離


セドスポリウムによる真菌性眼内炎(炎症の“clumped”appearanceに注目)

(投稿者 川崎)

2023-07-03

心尖拍動も体位依存

肥大型心筋症でフォロー中の症例(症状なし)

🐤 解説
  • 左半側臥位では明瞭な抬起性心尖拍動あり
  • よく見ると付箋の振動から二峰性心尖拍動
  • ただし仰臥位では心尖拍動は不明瞭になる
  • もちろん本例では巨大Ⅳ音を聴取かつ触知

🔗 復習
  • 心尖拍動は,その位置(心拡大と関連)や様式(心肥大と関連)などを評価することが大切です.ただし頸静脈と同様に,体位によってその所見が変化します(視認性や触知率も含む)
  • 感度的には左半側臥位がベストですが,座位も簡便で悪くないと思います(必要に応じて呼吸調整).最も分かりにくい(感度が低い)のは仰臥位ですが,逆に特異度は良好でしょうか

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-07-02

復習:CT値

  • CT値(ハンスフィールドユニット,HU: Hounsfield Unit)はX線の吸収係数を数値化したもの
  • CT値は水を原点のゼロとして,何もない空気の状態を最低の値である-1000(真っ黒)で表現

おすすめ ➜ CT適塾

組織 CT値の範囲(HU)
血漿 3~14
血液 13~32
甲状腺 50~80
肝臓 45~75
筋肉 35~50
膵臓 25~55
脂肪 −50~−100
骨格 400~1000
空気 −1010~−990

参考)超音波検査技術 2021;46:200–7

(投稿者 川崎)

2023-07-01

EHRとPHR

🏢 EHR(イーエッチアール:電子健康記録)
  • Electric Health Recordの略.異なる医療機関間での相互利用を想定した様々な健康データのこと(既往歴や採血結果や検査画像など).EMR(Electric Medical Record:電子医療記録)は各病院内での電子カルテを意味する.

👦 PHR(ピーエッチアール:個人健康記録)
  • Personal Health Recordの略.医療機関外で取得される個人の生活に紐付いた健康に関するデータのこと(血圧や体重,睡眠,運動量など).その管理は個人による.EHRおよびPHR環境の構築とEHR-PHR連携が当面の課題(下図)


(投稿者 川崎)