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2020-09-30

心電図:かぎ針パターン Crochetage pattern

  • crochetage【フランス語】編み物のかぎ針,鍵をこじ開けること,lock picking(発音:コシュタージュ/ 実際の音声) おそらく仏語でもあまり使わない言葉
  • 下壁誘導(Ⅱ・Ⅲ・aVF)でQRS波のノッチ ➜ 厳密にはQRS開始から80ms内に含まれR波の上行枝や頂点近くで急速に上下し,典型的にはM型もしくは二分するような波形
  • 同所見は心房中隔欠損(ASD)を示唆する心電図所見の一つ ➜ ASDに関連する他の所見は右脚ブロック,孤立性陰性T波,胸部誘導のT波非連続性,右軸偏位など
  • 本邦のガイドラインにもASD症例のcrochetageパターンは記載されている ➜ 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
  • 初報はRodriguez-Alvarezらで米国の施設から the "crochetage" of the QRS として報告されている (Am Heart J 1959;58:388-94

👶 臨床的意義
  • ASDの小児151例および対照群(他の心疾患児113例+正常児226例)での検討
  • CrochetageをⅡ・Ⅲ・aVFのすべてに認める場合は感度11.3%,特異度100%
  • Crochetageは左右シャント量が多い重症例に高頻度(Qp/Qs:>3.0 vs ≦1.5)      

(投稿者 川崎)

2020-09-29

チャドック反射 Chaddock reflex

🚑 現場中継

👣 チャドック反射 Chaddock reflex
  • 脊髄反射でありバビンスキー反射の変法の一つ/錐体路障害を示唆する病的反射である
  • 実際は外果(外くるぶし)の下を後方から前方に擦ったときに,母指が背屈すれば陽性
  • 初報は米国の神経内科医 C. G. Chaddock (1861-1936) (Interstate Med J 1911;12:742-6)


🌈 トリビア
  • チャドックは英語でhomosexualやbisexualを初めて使用した人物としても知られているようです.これはドイツ・オーストリアの精神科医リヒャルト・フォン・クラフト=エビング男爵(1840-1902)の『性的精神病理』(Psychopathia Sexualis;1886年刊行)を英訳時に使用しました.
  • 同書籍は性的倒錯の大著で,その中でクラフト=エビングはサディズムマゾヒズムという用語も造語しています.日本では1913年(大正2年)に『変態性慾心理』の名で紹介され,「変態」の俗語を産むきっかけになったようです().

🌠「神経内科」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2020-09-28

似て非なり? アトロピン vs ブスコパン

👻 復習
  1. 副交感神経系の伝達物質はアセチルコリンで,各臓器にあるアセチルコリン受容体の別名がムスカリン受容体
  2. アセチルコリンは各臓器に指令を伝達後,アセチルコリンエステラーゼによって速やかに分解され役目を終える
  3. アトロピン®️やブスコパン®️はいずれもムスカリン受容体を競合的に阻害することで副交感神経の作用を抑制する
🚚 アトロピン硫酸塩水和物(アトロピン®️)の効能(添付文章
  • 胃・十二指腸潰瘍における分泌並びに運動亢進,胃腸の痙攣性疼痛,痙攣性便秘,胆管・尿管の疝痛,有機燐系殺虫剤・副交感神経興奮剤の中毒,迷走神経性徐脈及び迷走神経性房室伝導障害,麻酔前投薬,その他の徐脈及び房室伝導障害,ECTの前投与(注:ECT=電気痙攣療法) 
🚛 臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン®)の効能(添付文章
  1. 下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進
    • 胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胃・胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、器具挿入による尿道・膀胱痙攣、月経困難症、分娩時の子宮下部痙攣
  2. 消化管のX線及び内視鏡検査の前処置
👼 つぶやき
  • アトロピンの作用は平滑筋・心筋・外分泌腺のムスカリン受容体に対し特に選択性が高いようです().これらのアトロピンの臨床上の特性を改善するためにブスコパン®が開発されました().ブスコパンは中枢性副作用がなく,腹部中空臓器の壁内神経節にも作用し神経刺激伝達を抑制するようです.
  • 実際の臨床現場では循環器内科医はアトロピン,消化器内科医はブスコパンを使い慣れています.ただし専門が何科であれ医師人生で1回は出会う(かもしれない)有機リン中毒の症例に対するアトロピン大量投与の知識はいつも頭の片隅に!
🉐 関連投稿(自律神経編)

(投稿者 川崎)

2020-09-27

第129回日本循環器学会近畿地方会より

🐤 個人的に気になった演題(コロナ禍のため誌上発表)

演題3-19 経食道心エコー図ガイド下にNeoChordを用いた僧帽弁修復を行った一例
  • NeoChordは経心尖アプローチで心拍動下に人工腱索を移植して弁修復を行うデバイス.本例は本邦初の症例だそうです.

演題6-3 微小脳出血を認めた感染性心内膜炎に対し外科的手術を施行し術後脳出血を来たした一例
  • 高度の弁機能不全を伴い塞栓症のリスクが高いことから,準緊急で大動脈弁置換術を施行.術後意識レベルの低下が遷延し頭部CTで大脳や小脳等に多発性脳出血を確認

演題6-16 肺高血圧症の再増悪を認めた糖原病Ⅰa型 (von Gierke 病)の一例
  • 糖原病Ia型はグリコーゲンから糖への分解系における触媒酵素のglucose-6-phosphataseが欠損する疾患

演題7-3 診断および治療に苦慮した再発性失神の一例
  • ヘッドアップティルト試験で血管抑制型の血管迷走神経性失神と診断したが,その後に性徐脈を伴う血圧低下と失神が出現.恒久的ペースメーカー植込み後の失神あり.最終的に右頸動脈周囲への扁平上皮癌の転移と診断

演題8-7 PHを呈したScimitar症候群の一例
  • Scimitar症候群は稀な先天性奇形で,胸部X線上の三日月刀様血管陰影,右肺低形成,心臓右方偏位が特徴.scimitar=シミター=三日月刀(別名は半月刀でかつてトルコ軍が蛮勇を振ったサーベルの原型).画像リンクはコチラ

演題8-13 怒りを契機に発症したステント血栓症の一例
  • 急性下壁梗塞に対して薬剤溶出性ステント留置後.第7病日に病棟スタッフと口論でST上昇.緊急冠動で前回留置した右冠動脈ステント近位部の完全閉塞を確認

😎 当院からの報告(敬称略・演題順)
  • 演題1-15 身体所見が病態を正確に反映した右室流出路狭窄を伴う肥大型心筋症の1例(循環器内科 車古大樹)
  • 演題4-12 運動負荷誘発の拡張期奇異性血流を認めた肥大型心筋症の1例(臨床検査科 武岡真由美)
  • 演題4-15 肥大型心筋症に対する頸静脈a波の診断能(循環器内科 川﨑達也)
  • 演題4-24 鎮静下で行った経食道心エコー図の検査中に惹起された不安定狭心症の1例(循環器内科 酒井千恵子)
  • 演題7-15 冠攣縮によるBezold-Jarisch反射が疑われた急性大動脈解離の1例(循環器内科 宮本瑛史)

🎓「学会」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2020-09-26

膵炎の重症度分類:今週のモーニングレクチャーより

💣 予後因子
  1. Base Excess≦-3 mEq/L,またはショック(収縮期血圧≦80 mmHg)
  2. PaO2≦60 mmHg(room air),または呼吸不全(人工呼吸管理が必要)
  3. BUN≧40 mg/dL(or Cr≧2 mg/dL),または乏尿(輸液後も1日尿量が400 mL 以下)
  4. LDH≧基準値上限の2倍
  5. 血小板数≦10万/mm3
  6. 総 Ca≦7.5 mg/dL
  7. CRP≧15 mg/dL
  8. SIRS 診断基準における陽性項目数≧3
  9. 年齢≧70歳

  • 上記の3項目(点)以上で重症と判断(ただし予後因子が3点未満でも造影CT Grade 2以上の場合は重症と判断する)
  • SIRS診断基準項目:(1)体温>38℃または<36℃,(2)脈拍>90 回/分,(3)呼吸数>20回/分または PaCO2<32 torr, (4)白血球数>12,000/mm3 か<4,000 mm3または10%幼若球出現


👀 ポイント
  • アミラーゼやリパーゼの値は重症度に含まれない
  • 膵炎なら静脈血でなくて動脈血でガス分析を行う
  • 胆石性ならERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)
  • 死亡率は2.1%(重症なら10%/2週間以内に多い)
  • 膵炎による主な死因は循環不全に伴った臓器不全

(投稿者 川崎)

2020-09-25

ALP分画

🚑 現場中継
  • 動悸で紹介された症例のALPが1651 U/L(当院参考値:1-340)でした

🐣 ALP(Alkaline Phosphatase,アルカリホスファターゼ)
  • アルカリ性条件下でリン酸エステル化合物を加水分解する酵素
  • 6つの分画に分類(食事の影響を受けるため空腹時採血を推奨)

🐥 各分画の意義以前の復習
  1. ALP1分画 ➜ 肝胆道の閉塞などで出現
  2. ALP2分画 ➜ 肝胆道疾患などで上昇
  3. ALP3分画 ➜ 骨生成疾患などで上昇
  4. ALP4分画 ➜ 胎盤由来(主に妊娠時に出現)
  5. ALP5分画 ➜ 小腸由来で脂肪食後や肝硬変で上昇
  6. ALP6分画 ➜ 免疫グロブリンと結合したALP

🐤 実際の疾患
  • 肝硬変(ALP2またはALP2+5)
  • 肝細胞癌(ALP2またはALP1+2)
  • 胆管癌・肝内結石・閉塞性黄疸(ALP1+2)
  • 原発性胆汁性肝硬変(ALP2またはALP1+2)
  • 慢性肝炎・脂肪肝(ALP2ときにALP1+2)
  • 副甲状腺機能亢進症・くる病・骨肉腫(ALP3)
  • 転移性骨腫瘍(造骨性)(ALP3)
  • 悪性腫瘍(骨・肝転移なし)(ALP2+4)
  • 甲状腺機能亢進症(ALP3)
  • 慢性腎不全(ALP2+3、ALP2+5)
  • ウイルス性肝炎・アルコール性肝炎・薬剤性肝障害(ALP2)

🚑 続き+α
  • 最終的に本例の高ALP血症は甲状腺機能亢進症(バセドウ病の疑い)に関連する病態と考えられました(ただし分画は未測定)
  • 知人の医師は3000台のALPを経験したことがあるようです.その原因は副甲状腺機能亢進症で,術後に正常化したそうです
  • ALPは血液型と関連したり(過去の投稿),低値で亜鉛欠乏を疑ったり(過去の投稿),地味だけどかなり個性的な血液マーカーです

(投稿者 川崎)

2020-09-24

🎯 今週の一枚

数日前から左耳に違和感(ポコポコという音)を自覚する症例の外耳道~鼓膜



(投稿者 川崎)

2020-09-23

心膜液:ガーゼパッドテスト

🚑 臨床現場
  • 心膜液の穿刺を行った時,予想外に赤い液体がシリンジに満たされ医師がちょっと青ざめました😱血液そのものならなら穿刺針が心内腔に到達していることを意味するからです
  • シェークスピア風に呟いてみるなら "To be blood, or not to be, that is the question." (もっとも実際に穿刺した医師にはそんな余裕はありませんが...😨)
  • 検体を血液ガス分析装置で検査すれば酸素飽和度とHb値が算出されるので,実際の血液か血性の心膜液かの鑑別は可能です.しかしベットサイドで簡便にできる裏技がガーゼパッドテスト

📛 ガーゼパッドテスト
  1. 採取した液体数mLをガーゼパッドにかけてできた模様を観察
  2. 中央の赤い染みの周りに黄色〜ピンクのハローがあれば心膜液
  3. 真の血液ならガーゼパッドが均一に赤くなる(凝固するため)

🉐 関連投稿(裏技編)

(投稿者 川崎)

2020-09-22

血小板 vs ウイルス感染

👿 ウイルス感染症でしばしば血小板数が減少する機序
  1. 血小板にIgGが結合することでマクロファージに貪食される
  2. 脾腫により血小板が破壊される
  3. 巨核球での産生が抑制される
  4. ウイルスが直接血小板に作用して血小板を活性化する


🐨 興味深い話


(投稿者 川崎)

2020-09-21

食道憩室 Esophageal diverticulum

🚑 臨床現場
  • 先日,アブレーション前の経食道心エコー図で,プローブの挿入が困難な症例を経験しました.最終的に食道憩室があることが判明しました.経食道心エコー図のガイドラインにも食道憩室はしっかり明記されていますが…

🍚食道憩室 
  • 頻度 エックス線造影検査で1.03%~1.4%,内視鏡で1.6%
  • 症状 無症状~つかえ感,嚥下障害,胸痛,胸焼け,咳嗽など
  • 成因 内圧性憩室,牽引性憩室,内圧牽引性憩室の3つに分類
  • 部位 咽頭食道15.8%,気管分岐部73.0%,横隔膜上11.2%
  • 治療 無症状や小憩室では不要/強い症状やに瘻孔では手術


👹 経食道心エコー図の原則禁忌ガイドライン2010年改訂版
  • 食道狭窄・食道静脈瘤・潰瘍・腫瘍・憩室・食道裂孔ヘルニア
  • 胃・食道手術後
  • 頸椎の可動性低下の認められる状態
  • 頸部への放射線治療後
  • 検査への理解・同意・協力が得られないなどの場合

👺 経食道心エコー図の主な合併症ガイドライン2010年改訂版
  • 痛み・嘔吐・喉頭部出血
  • 気管支攣縮・喉頭攣縮
  • 肺水腫・頻脈発作・完全房室ブロック・狭心症発作
  • 低酸素血症・血圧低下・血圧上昇
  • 食道損傷・食道穿孔

🔗 関連投稿(食道疾患編)

(投稿者 川崎)