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2024-01-31

LOHエル・オー・エッチ症候群 Late-onset hypogonadism

  • 概略 加齢による血中テストステロン低下とそれに伴う症候群
  • 邦名 加齢性腺機能低下症(いわゆる男性の更年期障害のこと)
  • 診断 血中総テストステロン値の低下および臨床症状(下表右)
  • 採血 午前7~11時の空腹時に250 ng/dL未満(できれば2日)
  • 症状 性欲低下,勃起不全,知的活動や見当識の低下(下表左) 
  • 治療 テストステロン筋注(保険適応)やGnRH間欠皮下療法
  • 合併 治療に伴い前立腺癌,赤血球増加症,ざ瘡、乳房痛など


LOH 症候群の臨床症状・徴候(左)とAMS問診表(右)

💁 更年期に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-30

橋中心髄鞘崩壊症(Central pontine myelinolysis, CPM)

  • 概要 脳橋底部に生じる対称性かつ非炎症性の脱髄病変によって生じる一連の病態
  • 初報 米国の腦神経内科医 アダムスら(AMA Arch Neurol Psychiatry 1959;81:154-72
  • 頻度 三次病院への神経科入院例の0.4%~0.56%,内科系病院への入院全体の0.06%
  • 症状 構音・嚥下障害,痙性四肢麻痺,痙攣,閉じ込め症候群,意識障害,死亡など
  • 併存 アルコール依存や肝移植後,集中治療室に入室する重篤な疾患,栄養失調など
  • 疫学 30〜50歳に多く男性優位(51.8%~77.0%),23%~48.2%が肝移植を受けている
  • 原因 低Na血症の急速な補正(ただし高Na、低K、低Pなど全ての電解質異常で発生
  • 診断 脳MRIのT2強調・FLAIRで高信号,T1強調で低信号(拡散強調の診断能は不明)
  • 予防 緩徐なNa補正(例: Na<120 mmol/Lなら1時間で0.5未満,1日12未満の補正)
  • 治療 デキサメタゾンや血漿交換,免疫グロブリンが有効であったという報告がある
  • 予後 1980年代は死亡率90%~,現在は33%~50%と少し改善(24%~39%は完全回復) 


💀 おまけ
  • 近年では橋中心髄鞘崩壊症(central pontine myelinolysis, CPM)に橋外髄鞘崩壊症(extrapontine myelinolysis, EPM)を加えて,浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome: ODS)と呼ばれることが多いようです.頻度はCPMが40%~56%,EPMが13%~35%,混合型が23%~31%です.橋外では小脳白質が33%~55%,大脳基底核(特に線条体)が34%,他に視床または海馬の髄鞘溶解として出現するようです.



- 橋外性および橋中心性浸透圧性脱髄症候群を呈した35歳男性 -

(投稿者 川崎)

2024-01-29

大動脈弁狭窄のS4

研究1Am J Cardiol 1971;28:179-82
  • 大動脈弁狭窄症124例の検討では,重症(最大収縮期勾配≧75 mmHg)ならほとんどの場合Ⅳ音が存在する.一方,成人の大動脈弁狭窄症でⅣ音の存在は,40歳未満では重症を意味する.

研究2Circulation 1975;51:324-7
  • 40歳以上の大動脈弁狭窄例では,S4ギャロップは重症(弁口面積≧0.75 cm2) の85%(65人中55人),中等症までの86%(7人中6人)であった.おそらく大動脈弁狭窄では聴診が不正確であるため,S4の有無はこの評価にはあまり役立たなかった.

研究3Circulation 1962;26:92-8
  • 大動脈弁狭窄症患者46名では,第4音が検出される場合,通常は狭窄が重症(圧較差>70 mmHg,左心室収縮期圧>160 mmHg)と結論付けることができる.

👶 個人的な思い
  • Ⅳ音を有する大動脈弁狭窄は,左室コンプライアンスがより低下しているため重症であることは理にかなっています.しかしさらに進行したステージでは左房が疲労してくるため,おそらくⅣ音は小さくなり最終的に心房細動に移行すると思います(肥大型心筋症でも同様の現象があると予想:当院の論文).
  • 大動脈弁狭窄では大きな雑音のため過剰心音を聴診することが困難です(S1ですら難しい:音響隠蔽現象).そんな時は聴診よりも触診(心尖拍動のA波増高)が有用でしょうか(過去の投稿).もっとも下図の様な極小S4は心機図では検出できても,聴診や触診で認識できるとは到底思えませんが...😐


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(投稿者 川崎)

2024-01-28

甲状腺皮膚症 Thyroid dermopathy

  • 概略 自己免疫性甲状腺炎(特にバセドウ病の晩期)に認める皮膚病変
  • 頻度 甲状腺中毒症の約0.5%~4.3%(重度のバセドウ眼症患者の約15%)
  • 原因 自己抗体が結合組織抗原および筋肉抗原と交差反応するためと推測 
  • 症状 色素沈着過剰の丘疹,非圧痕性浮腫,皮膚硬結(掻痒や疼痛なし)
  • 部位 前脛骨(99.4%)、前脛骨+足(4.3%)、前脛骨+上肢(1.1%)など
  • 病理 ムチン(グリコサミノグリカン)の沈着と正常コラーゲン束の分離
  • 経過 178人の検討で46%は治療をされず,その50%が17年以内に完全寛解
  • 治療 甲状腺治療+局所コルチコステロイド,減圧理学療法、外科的切除

- 甲状腺皮膚症を呈したバセドウ病の49歳女性 -

💁 甲状腺に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-27

3 Cシー分析 3Cs model

🏦 概略
  • マーケティングで重要な3つの視点(CustomerCompanyCompetitor)から,現在の状態を分析して経営戦略を練る方法.
  • 日本の経営コンサルタント・起業家である大前研一氏が提唱した.近年では病院の収支改善をはかるためにも活用されている.

🏥 病院の3C分析
  1. Customer(市場・顧客=患者)➜ 自院が含まれている医療圏の規模と今後の成長予想,対象となる患者のニーズや特性など
  2. Company(自社=自院)➜ 理念,現状(稼働率・紹介率・収支など),自院の特徴・強み・弱み,資本力(投資能力)など
  3. Competitor(競合=近隣病院)➜ 現状の自院のシェアと今後の推移,各競合相手の特徴と自院の位置,新規参入の脅威など

(投稿者 川崎)

2024-01-26

リドカイン注射液

  • 効能 心室・上室の期外収縮と発作性頻拍,AMI及び手術に伴う心室性不整脈の予防
  • 濃度 安全域は~3 μg/ml(5 μg/ml~で中枢神経症状,10μg/ml~で重篤な状態に)
  • 用量 1分間に4 mg(0.4 mL)から重篤な副作用(4 mg/分 or 5.76 g/日までにする)
  • 代謝 血中濃度は肝血流量に依存(心不全等で心拍出量減少時は中毒を生じやすい
  • 中毒 せん妄,眠気,嘔吐,意識障害,振戦、痙攣,刺激伝導系抑制、ショックなど
  • 対応 投与中止,痙攣にベンゾジアゼピン,バイタル不安定なら脂肪乳剤+体外循環


局所麻酔薬中毒発生時の脂肪乳剤の投与法 (例:イントラリポス

👿「リドカイン」の過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-25

今週の一枚 🎯

- 4ヵ月ほど息切れが続く肝硬変の症例 -

👽 解説
  • 心窩部に膨張した静脈を認めた(上図の矢印)
  • 同部位から連続性雑音を聴取した(上図の下)
  • 同雑音は吸気時に増強した(下動画に音あり)
  • 心電図と胸部X線、心エコー図は正常であった
  • 最終診断は Cruveilhier-Baumgarten 静脈雑音
  • 自覚症状の息切れは門脈圧亢進症に起因する?


💫 クリュヴェーリエ・バウムガルテン症候群(Cruveilhier-Baumgarten syndrome)
  • 肝硬変や特発性門脈圧亢進症などで臍静脈または臍傍静脈が拡張した病態(自然発生的な門脈側副血行路形成)で,静脈周囲で雑音(クリュヴェーリエ・バウムガルテン静脈ハム)やスリルを認め,肝萎縮や脾腫なども伴う.
  • 名前の由来はフランスの解剖学者 Cruveilhier(1791-1874)の報告(Human JB Bailiere 1829-1835;1:16)とドイツの病理学者 Baumgarten(1848-1928)の報告(Arb Geb Pathol Anat Inst Tubingen 1907;6:93)
  • 同雑音を認めれば門脈圧亢進ありと判断できる().なおこの古典的な静脈性ハム音が吸気時に増強する機序は,心臓右側への静脈血流の増加によって説明可能(吸気時に三尖弁逆流が増加するリベロ・カルバイヨ徴候と同様)

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 山本内科循環器科 山本正治)

2024-01-24

大腸メラノーシス Melanosis coli

  • 概要 大腸粘膜が褐色から黒色調を呈す状態(同病態は食道や十二指腸もあり)
  • 機序 粘膜固有層内に色素顆粒(リポフスチン)を含むマクロファージが集積
  • 原因 センナ,大黄,アロエなどアントラキノン系大腸刺激性下剤の長期内服
  • 頻度 中国で大腸ファイバーを行った342,922例中1.78%(PeerJ 2018:6:e4483
  • 症状 重篤な症状を呈することは稀(下剤による筋層間神経叢のダメージは有)
  • 経過 メラノーシスの変化は可逆性であるため当該薬の服用の中止で改善する
  • 報告 発見は1829年のCruveilhierらで,その後に剖検で確認したVirchowが命名


7年間下剤センナを使用していた高齢男性

💁 大腸に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-23

マハヴァシュ病 Mahvash Disease

  • 概要 常染色体潜性(劣性)遺伝性の膵神経内分泌腫瘍症候群
  • 原因 グルカゴン受容体遺伝子のホモ接合性不活化変異による
  • 初報 米国の内分泌内科医Run Yu ら(Pancreas 2009;38:941-6
  • 由来 Yuが担当した最初の症例の名前(本人の希望に基づく)
  • 病態 膵臓のα細胞過形成・腫瘍と極度に上昇したグルカゴン
  • 動物 グルカゴン受容体のノックアウトマウスが同一の表現型
  • 疫学 頻度や性差は現時点で不明であるが極めれ稀と思われる
  • 末期 門脈圧亢進症および肝性脳症(ただしその原因は不明)
  • 治療 膵神経内分泌腫瘍(PNET)切除や肝移植(シャペロン?)


Mahvash病の6例のサマリー

(投稿者 川崎)

2024-01-22

心不全と難聴

時々息遣いが荒くなる難聴例(端座位)

👂 解説
  • 指示が通らないため安静の頸静脈所見は判定困難
  • 左上肢挙上で内頸静脈の明瞭な陥凹が出現(矢印)
  • 本人の発語が混入して心音は十分には評価できず
  • 最終的に収縮の保たれた心不全(HFPEF)であった

🙉 追加コメント
  • 米国の70歳以上の横断的な国民健康栄養調査では,難聴の有病率は心不全症例で74.4%と,非心不全症例の63.3%より高率です(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 2018;144:273-5).さらに心不全のある高齢者では難聴が強いほど活動性が低下することも報告されています(Clin Interv Aging 2020:15:635-43).
  • 上記の全米調査で心不全および難聴のある参加者のうち補聴器を着用しているのはわずか16.3%でした.聴力障害なら筆談で対応すればいいのではと思われますが,心不全患者では認知症が43%とかなり高率です(J Card Fail 2017;23:464-75).そんな時こそ左上肢の挙上負荷が役立つかもしれないので追加してみてください.

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(投稿者 川崎)

2024-01-21

気腫性胆嚢炎 Emphysematous cholecystitis

  • ガス産生菌を起因菌として胆嚢の内外にガス像を呈する急性胆嚢炎の一亜型
  • 初報は仏の病理学者(?)Stolz A (Archiv f pathol Anat 1901;165:90–123
  • 起因菌は嫌気性菌のClostridium属 (35%),Klebsiella属 (16%),E.coli (13%) 等
  • 予想される機序は胆嚢壁が虚血状態に陥り,そこへガス産生菌が感染して発症
  • 糖尿病や高血圧などの合併が多く,胆石合併率は53%と通常の胆嚢炎より低い
  • 症状は右上腹部,発熱,吐気,嘔吐などで通常の急性胆嚢炎との鑑別は難しい
  • 診断は画像による胆嚢部ガス像によってなされる(腹部X線では胆嚢内niveau)
  • 急性胆嚢炎の死亡率はおよそ4%であるが気腫性胆嚢炎の死亡率は約15%と高い
  • 治療は胆嚢摘出術であるが,近年では経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)を先行


- 2型糖尿病と血液透析中の64歳女性 -
起炎菌は大腸菌で外科的デブリードマンを伴う胆嚢摘出術+2週間のPIPC/TAZで救命(矢印は気腹)

💁 胆嚢炎に関する過去の投稿 ➜ コチラ

2024-01-20

皮質盲 Cortical Blindness

概要
  • 眼科的原因によらない後頭葉の線条皮質の両側性病変による正常な瞳孔対光反射を伴う視力喪失.診断は下記の表で,例えば卒中患者での発生率は20~57%.治療は原疾患に対する治療を行い,その予後も原疾患より異なる.
原因
  • 小児では外傷性脳損傷・後頭葉の先天異常・周産期虚血,成人では脳卒中・塞栓症・外傷・後頭葉てんかん・低ナトリウム血症・低血糖・クロイツフェルト・ヤコブ病・感染症(HIV他)・子癇・MELAS・高血圧性脳症・PRES


💁 皮質に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-19

ジビエ Gibier(仏語)

  • ハンターが狩猟で捕獲した食材の野生鳥獣(ソバージュ,sauvage [仏語])
  • 本邦でも15年ほど前から認知され,学校給食でも4割の道府県が導入(下図)
  • ジビエを介した人獣共通感染症の病原体はウイルス,細菌,寄生虫など多岐
  • 例えば野生シカ肉や野生イノシシ肉によるE型肝炎やO157など(詳細は下表)
  • ジビエ処理の標準はない(生食は避け中心部まで熱が通る十分な加熱が必須)


学校で出食されているジビエ給食

日本におけるジビエが原因で発生した人獣共通感染症(食中毒)事例

(投稿者 川崎)

2024-01-18

今週の一枚 🎯 論文

  • 当院で実習された医学部6年生の方が経験した症例が出版 🎉
  • 主訴は1月前から持続する動悸感と継時的に増悪する息切れ
  • 心拍数は123 bpmで頸静脈から判定した中心静脈圧は上昇
  • ユニークなのは頸静脈拍動が肘動脈拍動の倍程あり(動画
  • 脈波図はキャノンa波(下図C矢頭)と通常a波(*)の疑い
  • 最終的な診断は2:1伝導の心房頻拍による頻脈性心不全です


🐝 ハチドリ徴候/Hummingbird sign
  • 本例の頸静脈所見のようにすごい速さの振動を,当院ではハミングバード・サインと呼んでいました(過去の投稿).このフィジカル所見にはまだ名前はない様なので,本論文のタイトルを”Hummingbird-like cannon a-waves”としました.フロッグ・サインの亜型として普及するといいのですが...
  • 身体所見に興味を有する医師にとって,新たなフィジカルを発見し報告することは何事にも勝る喜びだと思います(命名できればなおのこと).当院が関与できた新報告には"Atrial cannon sound"や"Diastolic paradoxical jet flow murmur"などがあります.もっともこの命名が普及しているとは思えませんが...

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2024-01-17

SMuRFlessスマーフレス

  • SMuRFはstandard modifiable risk factors(高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙など)の略です.略語としては不完全(uがない)ですが,海外で有名な漫画に登場する架空の種族スマーフ(The Smurfs)と掛けていると予想 😐
  • 最近では,従来から認識されてきた危険因子を有しない症例をSMuRFless症例と表記する報告が増えてきました(PubMed).急性冠症候群(ACS)などとの関連が検討され,下図の危険因子があらたに抽出されてきた様です.
  • 例えば心筋梗塞を呈するSMuRFless患者は,少なくとも1つのSMuRFを持つ患者と比較して,早期死亡率が予想外に高いことが報告されています(J Am Coll Cardiol 2023;82:1343-59).今後データの集積が待たれる領域です.


(投稿者 川崎)

2024-01-16

心不全とSGLT2阻害薬

  • (今更ですが)日本循環器学会・日本心不全学会の心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendationを転記しておきます(2023年6月16日) 
  • 概略:すべての心不全で積極的使用+腎機能や電解質,尿路・性器感染に注意+食事制限手術なら糖尿例で3日前~,非糖尿例で前日~中止(再開は食事の開始時)

📖 Recommendation勧告
  • 心血管疾患のハイリスク2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬は入院を要する心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する。
  • 心不全患者において、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)は2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する。
  • 心不全患者では利尿薬を使用する頻度が高く、SGLT2阻害薬の併用により過度の体液量減少をきたすリスクがあるため、腎機能や電解質等のモニタリングを適宜行い、必要に応じて利尿薬や降圧薬の用量を調節する。
  • 2型糖尿病を合併した SGLT2阻害薬を使用中の心不全患者が、食事摂取制限を伴う手術を受ける場合には、手術3日前から休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開する。一方、2型糖尿病を合併しない心不全患者では、術前の終日絶食日に SGLT2阻害薬を休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開する。なお、2型糖尿病の合併・非合併にかかわらず、SGLT2阻害薬を服用中の心不全患者が緊急手術を受ける場合には、同薬の休薬についてリスクとベネフィットを十分に勘案して現場での判断を許容する。いずれの場合においても、心不全患者において SGLT2阻害薬を休薬する場合には、休薬に伴う心不全増悪時も含め必要に応じて循環器専門医への紹介を考慮する。
  • SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の合併の有無にかかわらず心不全患者においても尿路・性器感染症の発生・増悪が懸念されるため、リスクとベネフィットを十分に勘案して適応を検討し、投与後は注意を払う必要がある。
  • 心不全患者において SGLT2阻害薬を使用する場合、各薬剤の添付文書および本Recommendationを踏まえて適正に使用する。糖尿病や慢性腎臓病の併存する病態に応じて日本糖尿病学会および日本腎臓学会の SGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendationも参考にする。

(投稿者 川崎)

2024-01-15

論文 🏆 こだわりの塊

  • 非常勤医師の先生が当院で経験した症例(少し前😅)
  • 今まで経験したことがない不思議な拡張早期の雑音
  • 心音心機図と心音心エコー図を駆使して音源を追求
  • 最終診断はHCMの拡張期奇異性血流に関連する雑音

- 図Bと図Eの*が雑音の本体です -

😀 独り言
  • こんなちっぽけな音にこだわっても意味ないだろう〜という声が聞こえてきそうです.肥大型心筋症の拡張期奇異性血流は心事故と関連することが報告されていますが(J Am Coll Cardiol 1992;19:516-24,心エコー図ですらその検出にあまり力を注いでいない施設が多いのではと思います.
  • 確かにとても微妙な音ですが,心臓フィジカルを追求する1人としては決して看過できない所見でした.よって心エコー図のエキスパートと一緒にその音源を追求してみました.興味がある方は是非,論文を読んでみてください.心音心機図や心音心エコー図の美しさを自画自賛しています.

💁 論文の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2024-01-14

アスクレピオスの杖 Rod of Asclepius

  • ギリシャ神話にでてくる治癒と薬術の神アスクレピオスが手に持つ杖(そこに一匹の蛇が巻きついている)
  • この蛇は日本医師会(JMA),世界医師会(WMA),世界保健機構(WHO),米国医師会(AMA)にも登場
  • 日本医師会のロゴ(昭和36年に作成)は,アスクレピオスの杖に絡まった蛇に深い乳鉢と乳棒を組み合わせ
  • なぜ蛇なのかは「脱皮と再生が若返りの象徴」や「螺旋が生命力や権威の表れ」,「ヘビ毒は治療薬」など

蛇が絡まった杖を持つアスクレピオス
CC BY-SA 3.0

- 各医療機関のロゴ -

💁 ギリシャ神話に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-13

バッハマン束 Bachmann’s bundle

  • 心臓の刺激伝導系の一部で,洞房結節から延びた3本の結節間路の一つである前結節間路から枝分かれして左心房へと向かう(上図)
  • 左右の心房間を交通する筋束にはバッハマン束(79%)以外に冠静脈洞や卵円孔(稀)があり,洞調律時の心房間興奮伝搬の一部を担う
  • Purkinje束ほど明確な組織ではなくバッハマン束の伝導障害を起こすこともあるが,体表心電図で左房拡大との鑑別は難しい
  • ドイツ系アメリカ人の医師 Jean George Bachmann (1877-1959)(下図) によって発見された(Am J Physiol 1916;41:309-20


💁 刺激伝導系に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-12

監察医・検視官・警察医など

いずれの職種も異状死体(確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体)を担当する.なお変死体は異状死体の中で犯罪性が否定できない死体であるが,多くは孤独死などの自宅での死亡である.

監察医(Medical Examiner) 
  • 死因不明かつ犯罪性のない行政解剖を担う医師(都道府県の公務員).同制度の実施は一部に限られる(東京23区・大阪市・神戸市の3都市のみ)

検視官(Coroner)
  • 現場で犯罪性が不明の変死体の検視を行う警察官で医療従事者ではない.死体検案書は監察医・警察医が作成する.検屍官とも言うが検死官は誤り

警察医/警察嘱託医
  • 警察の依頼で検案を行う医師(開業医の先生が多い).上記3地域以外では,死体検案書の作成あるいは行政解剖を担当(事件性なら司法解剖を依頼)

法医/法医学医/法医解剖医
  • 医師免許を有する法医学者で,捜査機関から運ばれてくる犯罪の可能性がある遺体の司法解剖を行いその死因を究明する.現在,本邦には150名程度

(投稿者 川崎)

2024-01-11

今週の一枚 🎯

いつもより少し脈が早い慢性心不全例(座位)

😀 解説
  • 安静時に右頸部に内頸静脈の拍動を視認せず
  • 左上肢の垂直挙上でも内頸静脈の拍動は陰性
  • 左上肢挙上のまま吸気負荷を追加したが陰性
  • そのまま前屈してもらっても内頸静脈は陰性
  • 本例では慢性心不全の増悪はなしと判断した

 🐲 独り言
  • 慢性心不全の増悪を考えなければならないバイタルサインは様々です.酸素飽和度の低下はもちろんですが,体重の増加や血圧の上昇,心拍数の増加などでしょうか.
  • 慢性左心不全例で増悪が疑われたら,やはり頸静脈所見の変化の確認が大切です.心音の変化(例:ギャロップやⅢ音,Ⅱ音肺動脈成分の亢進)よりも高感度です.
  • 本例の様に安静+3つの負荷が陰性なら概ね大丈夫と判断しています.「とりあえずBNP測定」はあまり好きではないので...(とりあえず生中🍺は大好きですが 😚)

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(投稿者 川崎)

2024-01-10

プルースト効果 Proust Effect

  • 特定の匂いから過去の関連した出来事の記憶が想起される心理学的な現象
  • 仏小説家 Valentin Louis Georges Eugène Marcel Proust (1871-1922) に由来
  • 彼は発見者ではなく小説『失われた時を求めて』でプルースト効果を描写
  • 具体的には紅茶に浸したマドレーヌの匂いから主人公が幼少期を思い出す
  • 機序は五感の中で嗅覚のみが大脳辺縁系(≒本能)を直接刺激するため?
  • マーケティングや学習,リラックス,認知症患者への刺激などに応用可能

(投稿者 川崎)

2024-01-09

A10エーテン神経系

  • 中脳腹側被蓋野から大脳皮質に投射するドーパミン神経系
  • 腹側被蓋野(VTA)は中脳の一部でドパミン神経系の起始核
  • 他に側坐核や扁桃体,海馬へもドパミンを投射する(下図)
  • 一般に A10神経は報酬系に属し気持ちを良くし快感に誘う
  • 一方,側坐核より放出されるGABAはVTAの働きを抑制する


VTA (ventral tegmental area)=腹側被蓋野,prefrontal cortex=前頭前皮質,nucleus accumbens =側座核,hippocampus=海馬,substantia nigra=黒質,striatum=線条体 

💁 幸福に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-08

循環器 Best Teacher Series

  • 「5分でわかる循環器Best Teacher Series」は日本循環器学会が主導する学習動画です.医学部生を主な対象とする無料のe-ラーニングコンテンツで,会員登録なしにすべて視聴することができます.
  • 今回,本ページの管理人が『心不全の身体所見~すぐに役立つ頸静脈と心音~』を担当しました.よろしければ一度ご覧ください.収録時にちょっと風邪気味だったので,鼻声が気になりますが 😅


 😎 追加コメント
  • 同シリーズでは動画作成前に予定内容を学会に提出し審査を受ける必要があります.今回は出だしで日循ガイドラインが推奨する方法の問題点を指摘し,未記載の別方法を勧めました.訂正を指示されると思いきや,逆にお褒めの言葉で驚きました.
  • この循環器Best Teacher Seriesは全国の医学部生を対象にしているとうたっています.しかし今回担当した心不全の身体所見コンテンツは,むしろ臨床現場で日々,心不全診療を担われている先生方に見ていただければいいな〜と思っております.

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(投稿者 川崎)

2024-01-07

LiDエルアイディー:Listening difficulties

  • 状態 “音は聞こえているのに聞き取れない”(邦名は未確立)
  • 旧名 聴覚情報処理障害(Auditory processing disorder, APD)
  • 疫学 全子供の1%(0.5~5%)で,半数以上が成人期まで続く
  • 環境 特に騒音下や多人数での会話,早口,長い会話で顕著
  • 検査 異常は検出できない(拡張高周波数聴力測定は有用?)
  • 原因 注意力やワーキングメモリのような認知機能の問題?
  • 関連 発達障害傾向,注意や記憶の認知的偏り,心理的問題


(投稿者 川崎)

2024-01-06

ハッチンソンの三徴 Hutchinson's triad

  • 概要 先天梅毒の晩期(生後約2年〜)に出現してくる3つの所見
  • 三徴 実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯(桑実状臼歯)
  • 由来 英外科医ハッチンソン(1828-1913)(Archives of Surgery 1889)
  • 関連 顔面帯状疱疹のハッチンソン徴候も同じHutchinson卿が報告


💁 梅毒に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-05

遺伝性乳がん卵巣がん症候群
HBOC: Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome

  • 概要 BRCA1/2病的バリアントによる常染色体顕性遺伝性腫瘍症候群
  • 癌種 乳癌,卵巣癌が多いが,前立腺癌や膵臓癌,メラノーマも関連
  • 検査 2020年にHBOCの診断を目的としたBRCA1/2の検査が保険収載
  • 方法 血液や腫瘍からDNA解析を行う(4週間ほどかかり約20,200点)
  • 結果 Negative,Positive,VUS(variants of uncertain significance)
  • 方針 HBOCと診断された時は遺伝学的診断に基づいた医療介入が可
  • 活用 リスク低減卵管卵巣摘出術や薬物療法・手術方法の選択(下図)
  • 重要 検査の限界(陰性でも他疾患の可能性)や遺伝カウンセリング


乳癌診療における BRCA1/2 遺伝子検査(2023年2月現在)

(投稿者 川崎)

2024-01-04

今週の一枚 🎯

倦怠感で来院した症例

🔒 解説
  • 左手の掌握時にMP関節(第3関節)が不明
  • いわゆる手背浮腫(≒puffy hand syndrome)
  • 本例では右側よりも左側で浮腫が目立った
  • 下腿も2+の浮腫あり(判定量評価はコチラ
  • いずれも圧痕性浮腫でslow edemaであった
  • 最終的に慢性心不全による浮腫と判断した

🔓 Puffy hand syndrome(😊 手むっちり症候群?)
  • 鑑別診断にはネフローゼ症候群や肝硬変,重度の低アルブミン血症,上肢静脈血栓症,深在性手掌腔感染症,複合性局所疼痛症候群,腋窩リンパ節切除や放射線照射後に生じるリンパ浮腫,フィラリア症,薬剤・アレルギー,リウマチ性疾患(例:関節リウマチ・全身性硬化症・RS3PE症候群)などがあります(Cleveland Clinic Journal of Medicine 2021;88:210-2
  • 同症候群の厳密な定義は(おそらく)未確立で,手の所見から漠然と呼ばれているような気がします(英名もそんな感じ?) 浮腫と言えば心不全ですが,手背の浮腫は決して多くはないと思います.本例も最初はネフローゼなどを疑いましたが,座位で頸静脈拍動が視認できました.左側に目立った理由は不明ですが,右利きのため左手の使用頻度が少ないのかも...

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-01-03

🍺 アルコール疾患と臓器移植

🍶 肝臓移植
  • 非ウイルス性肝硬変に対する肝移植は有用と考えられる.アルコールの場合,肝移植後の再飲酒が問題となる.本邦におけるアルコール性肝硬変に対する肝移植後の解析では22.9%に再飲酒を認め,移植前禁酒期間が18ヶ月未満であることが再飲酒のリスク因子であった.そのため,アルコール性肝硬変の脳死登録には申請時に18ヶ月以上の禁酒を医療機関が確認していることが必要である(『肝硬変診療ガイドライン』2020年11月追補内容).日本のほとんどの施設では、生体肝移植の場合6か月が条件(慶應義塾大学病院KOMPAS). 

🍷 心臓移植  絶対的除外条件(2016年版心臓移植に関する提言
  • 肝臓,腎臓の不可逆的機能障害
  • 活動性感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む)
  • 肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても6 Wood単位以上)
  • 薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む
  • 悪性腫瘍
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体陽性

💁 移植に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-02

医療アプリ JOIN®

👥先日の会話
  • 医師A「先生,JOINって入ってますか?」
  • 医師B「JOIN? いいえ.何ですか,それ?」
  • 医師A「ご紹介いただくとき便利ですよ」

📱JOIN ®
  • 医療コミュニケーションをスムーズにするためのアプリ
  • 標準搭載DICOMビューワーで各種医用画像を閲覧・共有
  • 高度なセキュリティで病院内外での情報共有を可能に!
  • PACSや電子カルテなどの医療システムとも容易に連携
  • 多職種連携や施設間連携で症例相談や患者紹介が容易に

     👻 ダウンロード(各自の責任で)➜ Google Play, App Store

💁 アプリに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-01-01

急性MR vs 心雑音

  • 急性の大動脈弁逆流 AR では左室の拡張期圧が急速に上昇します.その結果,逆流が早期に終了するため,心雑音を認識することがますます難しくなります(自験例).実際に心エコー図でも逆流シグナルの検出が容易ではない症例があります(自験例).
  • 急性の僧帽弁逆流 MR でも同様の現象が推察されますが,ARは拡張期でMRは収縮期と根本的に異なります.以前経験した検索断裂による急性 MR の自験例ではとても大きな雑音でした(拡張期クリックもあり).そこでこの疑問の答えを確かめてみました 👶

🔎 Acute MR vs murmurs
  • 心筋梗塞を発症30日以内に心エコー図を行った773例の検討では,中等度または重度のMR患者の1/3は聴診で心雑音を認めなかった(Circulation 2005;111:295-301
  • 急性心筋梗塞時に乳頭筋断裂による重症の僧帽弁逆流を発症したにも関わらず,心雑音を呈さなかった2例報告(Ann Thorac Surg 1991;52:296-9
  • 急性MRで血行動態が著しく悪化した場合,収縮中期に左心室圧と左房圧が等しくなるため雑音は減弱あるいは消失しうる.重症の呼吸困難患者の救急状態で減弱した心雑音を認識することは困難である(Heart 2019;105:671-7
  • 心筋梗塞に伴う急性MR雑音の強さとMRの重症度には直接的な相関はない.心拍出量の低下した患者では収縮期のLVとLA間の圧勾配が低下するため雑音はソフトあるいは消失することもある(Journal of Acute Disease 2016;5:96-101
  • 急性MRでは収縮期早期の短い雑音のみで診断が臨床的に困難になる.これは非コンプライアントの左房で大きなv波が発生し,LAとLVの圧が収縮期で基本的に等しくなり収縮期初期以降に僧帽弁を横切る逆勾配がなくなるためである(European Society of Cardiology, E-Journal of Cardiology Practice - 2018;16

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(投稿者 川崎)