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2021-02-28

J波アラカルト

  • 早期再分極はShipleyとHallaranに見いだされ(Am Heart J 1936;11:325-45)しばしばJ波を伴う
  • 早期再分極は正常人の1~5%,ER受診例の10~15%に認める(Am J Emerg Med 2001;19:25-8
  • Haïssaguerre(読み方:アイサゲール)らが予後不良を指摘(早期再分極症候群 or J波症候群
  • ただし上記研究(N Engl J Med 2008;358:2016-23)の対象はVF蘇生症例で通常の心電図ではない
  • その後,早期再分極+J波は形態でリスク分類できることが判明(Circulation 2011;123:2666-73
  • J波後に水平or下降型STが続く例(下図AやB)は予後不良であるが上昇型STならおそらく予後良好

参考)心電図ハンター①(←お薦め 😙)/心電図ハンター②(ともに中外医学社)


(投稿者 川崎)

2021-02-27

セカンドインパクト症候群 Second impact syndrome: SIS

  • 軽症の頭部外傷の数日~数週間後に2回目の頭部外傷を負い致死的な脳腫脹を生じた病態
  • アメリカの脳外科医であるSaundersとHarbaughが確立した観念(JAMA 1984;252:538-9
  • 18歳以下の若年者や1回目の受傷から十分な観察期間を経ずに復帰した場合に生じやすい
  • 重症化のメカニズムの詳細は不明であるが急性硬膜下血の関与が疑われる症例も存在する
  • 予防が重要で初回受傷から1週間は安静(24−48時間後は脳安静のためSNSも禁止が理想)


😊 おまけ
  • セカンドインパクトと聞いてアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を思い出した人も多いのでは…全4部作の第4作目(つまり完結編)である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が近日中に公開予定

(投稿者 川崎)

2021-02-26

イーサス ESUS

  • ESUS=embolic stroke of undetermined source(邦名は塞栓源不明の脳塞栓症)
  • 専門家ワーキンググループによって提唱された(Lancet Neurol 2014;13:429-38
  • 脳梗塞の20~25%は原因不明(潜因性脳卒中:cryptogenic stroke)で塞栓疑い
  • ESUS塞栓源は低リスクの心内塞栓源や潜在性の発作性心房細動など(下表参照)
  • Branch atheromatous disease (BAD)や Wallenberg症候群もESUSに含む解釈あり
  • ガイドラインでは2次予防は抗凝固薬よりも抗血小板薬の使用が推奨されてきた
  • 近年ではワルファリンの有用性を示唆する報告あり(DOACの臨床試験も進行中)



😉 脳梗塞に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2021-02-25

🎯 今週の一枚

偶発的に発見された脳腫瘍


(投稿者 川崎)

2021-02-24

💈 デジャヴ vs ジャメヴ

  1. デジャヴ ➜ déjà-vu(フランス語/英語ではalready seenの意味)=既視感(未体験なのに体験したことがあるのように感じる現象).フランスの哲学者 Émile Boirac (1851–1917) が提唱した観念(Revue philosophique 1876;1:430-1)
  2. ジャメヴ ➜ jamais vu(フランス語/英語ではnever seenの意味)=未視感(デジャヴの逆で見慣れたものを未知に感じる現象).観念の提唱者は不明(因みにPubMedでの初登場はRiv Sper Freniatr Med Leg Alien Ment 1960;84:271-8) 

 😐 いずれも失神時の鑑別でてんかん発作を疑う前駆症状の一つ

✅ てんかんに関する過去の投稿 ➜ コチラ
デジャブ,デジャビュ,デジャビュー,デジャヴー,デジャヴュー,ジャメヴュ,ジャメブ,ジャメビュ
(投稿者 川崎)

2021-02-23

ジョハリの窓 Johari window

  • 自身を把握し他者とのコミュニケーションの進め方を考えるためのモデル
  • 自己の中に以下の4領域があると考える「開放」「盲点」「秘密」「未知
  • 「開放」の領域が大きいと親近感や信頼感が増し円滑なコミュニケーション
  • 米国の心理学者であるジョセフ・ルフト とハリ・インガムが考案した方法
  • ジョハリ (Johari) は2人のファーストネームの組み合わせ (Jo+hari)(


(投稿者 川崎)

2021-02-22

頸動脈クイズ

心不全で入院した高齢者の頸動脈



(投稿者 川崎)

2021-02-21

ベイズの定理 Bayes' theorem

  • 英国の数学者・哲学者であるベイズ(Thomas Bayes: 1702-1761)が提唱
  • 条件付き確率に関して成り立つ定理 ➜ “事前確率 × 尤度比 = 事後確率
  • つまり臨床医学では検査前確立を考えないと診断能の高い検査も無意味

臨床現場での応用例:腹痛に対する虫垂炎の確率計算

(投稿者 川崎)

2021-02-20

αエラーとβエラー

👻 誤った確率(P値)に基づいて行われた検定による誤判断(過誤またはエラー)
  • αエラー第一種の過誤=差がないとする帰無仮説が正しいときに誤って統計的に有意とする確率(検査なら偽陽性
  • βエラー第二種の過誤=差がないとする帰無仮説が間違っているときに誤って統計的に有意でないとする確率(検査なら偽陰性
  • αエラーは通常5%(両側),βエラーは通常10~20%に設定して,イベントなどが生じる確率を元に研究のサンプルサイズを決定

😁 αわての言い過ぎ」と覚えておくと良いようです


👽 検定の原理
  1. 研究で証明したいことは「2つの治療法には差がある」
  2. この時の帰無仮説は「2つの治療法に差が存在しない」
  3. データ分析で帰無仮説を(成立が5%未満にて)否定
  4. 対立仮説「2つの治療法に差がある」を間接的に証明

🉐 関連投稿(論文用語編)

(投稿者 川崎)

2021-02-19

レンメル症候群 Lemmel症候群

  • 十二指腸傍乳頭憩室が総胆管や膵管に機械的影響を及ぼすことで肝胆膵の疾患を生じた病態
  • 傍乳頭憩室自体は内視鏡的胆管膵管造影の~20%に認められる(多くが無症状で治療は不要)
  • ドイツの放射線科医(?)であるLemmel Gが初報(Arch Verdauungskrankheiten 1934;56:59-70
  • 97例の検討では高齢者でやや女性に多く,血清アミラーゼの上昇は45例・胆囊炎の併発は22例
  • 外科治療を要したのは69例(71.1%)/保存的治療症例も平均29.1カ月で10例が手術を要した



(投稿者 川崎)

2021-02-18

🎯 今週の一枚

採血で異常値を指摘されて来院した症例



(投稿者 川崎)

2021-02-17

新技術:IVL(アイブイエル)

  • IVL=Intravascular Lithotripsy(血管内衝撃破砕石術)
  • Shockwave Medical社が開発した冠動脈インターベンションのデバイス
  • 冠動脈内の内膜や中膜に存在しているカルシウムを選択的に粉砕できる
  • 尿路結石に対して実績ある技術の応用で超音波エネルギーを用いている
  • 手技がシンプルで合併症も少ない(J Am Coll Cardiol 2020;76:2635-46


😅 独り言
  • 初めてIVLと聞いたときには血管内リンパ腫(Intravascular lymphoma)をイメージしました.この新たなIVLは欧州で既にCE markを取得しています.本邦でも治験が進行中のようで,早期の承認が望まれます.

(投稿者 川崎)

2021-02-16

脳卒中の血圧管理(急性期)

脳卒中治療ガイドライン2021(仮)」より抜粋

📗 脳梗塞の急性期
  • 高血圧は降圧しないように勧められる(推奨 A エビデンスレベル高)
  • 収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や、大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全などを合併している場合に限り、慎重な降圧療法を行うことを考慮しても良い(推奨度 C エビデンスレベル低)
  • 血栓溶解療法を予定する患者で収縮期血圧185mmHg以上または拡張期血圧110mmHg 以上の場合と、血栓溶解療法施行後24時間以内の患者において収縮期血圧180mmHgまたは拡張期血圧105mmHgを超えた場合、降圧療法が勧められる(推奨度 A エビデンスレベル低)

📘 高血圧性脳出血の急性期
  • 脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧し7日間維持することは妥当である(推奨度 B エビデンスレベル中).その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い(推奨度 C エビデンスレベル低)
  • 急性腎障害を回避するためには収縮期血圧降下幅が90mmHg超の強化降圧療法は勧められない(推奨度 D エビデンスレベル中)

📙 くも膜下出血の急性期
  • 軽症,中等症では収縮期血圧を160mmHg未満に降圧することが妥当である(推奨度 Bエビデンスレベル高)
※同ガイドラインは2021年1月までパブリックコメントが実施され今後の変更あり

😉 血圧管理に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2021-02-15

簡易定性法 プラス Part 2

息切れの増悪で来院した症例

🐸 所見の解説
  • 鎖骨上〜頸部中央に内頸静脈の規則正しい陥凹 ➜ 心不全+洞調律
  • 拍動はおそらく二峰性でx谷>y谷 ➜ 心不全あるが超重症ではない
  • 深吸気で内頸静脈の隆起が出現している ➜ クスマウル徴候が陽性
  • 深吸気中には耳下まで内頸静脈の陽性拍動が出現 ➜ ランチシ徴候
  • 耳垂に約45度の皺が存在(フランク徴候)➜ 虚血性心疾患の疑い

🐨 独り言
  • 本例には冠動脈バイパス術の既往があり,今回は慢性左心不全の増悪と診断しました.座位で内頸静脈の拍動が視認できるから(座位陽性),心不全は十分には代償されていないと判断するだけではちょっと寂しい気がします.ぜひ頸静脈の簡易定性法にフィジカルの知識をどんどんプラスしていってください( 簡易定性法 プラス).その応用はほぼ無限かも…
  • 深吸気で内頸静脈の拍動が出現することはあっても,陥凹が陽転化することは珍しいと思います.なお本ページではGiovanni Maria Lancisiが発見した(三尖弁逆流時に出現する)頸静脈の巨大v波(cv merger)をランチージ徴候と記載してきました.しかし本邦ではランチシと記載されることが多いようなので,今回から変更しようと思います.もっともイタリア人の発音ではランチーシと聞こえますが…

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-02-14

前皮神経絞扼症候群 ACNES:Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome

  • 症状 多くは慢性腹痛(痛みの部位は60~70%が右下腹部)/急性の腹痛症例もあり
  • 原因 腹壁の感覚を伝える肋間神経皮神経の分枝(前皮枝)の腹直筋前鞘による絞扼
  • 誘因 外傷や手術瘢痕,急激な運動,筋力低下,肥満・腹水・妊娠による腹壁緊張他
  • 初報 米医師Carnett(カーネット徴候の発見者)とBates(Ann Surg 1933;98:820-9
  • 疫学 (意外にも)慢性腹痛で最多の原因(およそ30%?)/女性に多く男性の約5倍
  • 診断 片側圧痛点あり+Carnett signが陽性+血液・画像検査が正常+局所麻酔が有効
  • 治療 超音波ガイド下で局所麻酔薬による神経ブロックや絞扼解除術(=神経切除術)



👻 独り言
  • 小さい頃に,急に走ったら横っ腹が痛くなったけど,こんな病名だったとは…😮

(投稿者 川崎)

2021-02-13

COPEの疝痛パターン

  • 由来は英国の医師かつ歴史家,詩人コープ卿(Sir Vincent Zachary Cope, 1881–1974)
  • Copeは古典的名著「Cope's early diagnosis of the acute abdomen」で疝痛を分類した
  • 疝痛とは平滑筋による管腔臓器で通過障害時に蠕動的に生じる激しい収縮による痛み 
  • よって消化管に由来する痛みの多くは疝痛に分類される(間欠的に痛みが変化する)
  • 疝痛はその強度と周期の組み合わせからある程度,原因の臓器を予想できる(下図)
  • トライツ靭帯から閉塞部位までの腸管距離と痛みの周期(間隔)も正相関するらしい

 上から順に尿管疝痛・胆石疝痛・小腸疝痛・大腸疝痛

(投稿者 川崎)

2021-02-12

SMA症候群の治療

  • 急性期 ➜ 経鼻胃管による胃内容の除去+絶飲食+輸液
  • 安定後 ➜ 少量の経口摂取開始+食後の体位変換の励行(左側臥位や胸膝臥位など)+消化管機能改善薬
  • 難治性 ➜ 外科的治療を考慮(下図:十二指腸空腸吻合などのバイパス術,Treitz靱帯切離術,他/腹腔鏡下手術の報告もあり)



🉐 関連投稿(SMA繋がり)

(投稿者 堀内/川崎)

2021-02-11

🎯 今週の一枚

倦怠感を訴える発熱症例/約1週間後に全身に皮疹が出現


(投稿者 川崎)

2021-02-10

😳 意外に知らないかも?

点滴セットの1と2の名前は?



(投稿者 川崎)

2021-02-09

Stiff LA syndrome 左房硬化症候群? 

  • 左房のコンプライアンス低下を主たる原因として血行動態の異常をきたした病態のこと
  • 肺動脈楔入圧(pulmonary artery wedge pressure; PAWP)で巨大かつ急峻なv波が特徴
  • 原因は心膜炎やリウマチ罹患,頻回アブレーション,開心術などによる左房石灰化など

下図のDに問題があり下流(A〜C)にうっ滞が生じる(通常の問題箇所はE~G)

運動に伴い容易に心房圧が上昇(A:安静時,B:15W負荷,C:30W負荷,D:70W負荷)

石灰化した左房はCoconut left atrium(ココナツの実のような左房)と呼ばれる

 😈 追加コメント
  • 心エコー図で左房拡大がないけど,ドプラ指標から左房充満圧の上昇が示唆される場合(例:E/AやE/e',PVDの著増)に思い出したい病態
  • 肺うっ血があるけどBNPが比較的低値であることもポイントの一つ.もちろん心エコー図やBNP測定の前に視診で頸静脈v波の確認ね😘
  • 重症の三尖弁逆流がないにも関わらず頸静脈の巨大v波(ランチージ徴候)が目立つ場合はStiff LA syndromeの関与があると思うが…

(投稿者 川崎)

2021-02-08

騙されるな!

労作時の動悸で来院した症例

😮 解説
  • 鎖骨上の動脈拍動+舌圧子で大脈・速脈を示唆 ➜ 大動脈弁逆流によるコリガン脈(Corrigan pulse)の疑い
  • しかし本例では動脈の触診で振戦(シャダー/shudder)が存在+聴診では収縮期駆出性雑音 ➜ 大動脈弁狭窄の疑い
  • 心エコー図では中等度の大動脈弁狭窄+軽度の大動脈弁逆流 ➜ 加齢に伴う動脈の蛇行による偽コリガン脈と診断

😶 独り言
  • 本例ははじめに視診で有意な大動脈弁逆流と考えて,触診と聴診では高度の大動脈弁狭窄を疑ったが,いずれも正確ではなかった.
  • 頸動脈の振戦はとても明瞭であったが,舌圧子の動きには反映されず心機図でも鶏冠は描出されなかった(指腹圧センサーはやはりすごい!
  • 特徴的な身体所見が頭にこびりつくアンカリングバイアス逆アンカリングバイアスには常に気をつける必要がある(臨床推論における主要な認知バイアス).
  • 本例の息切れが大動脈弁狭窄による可能性は否定できないため,定期的に心エコー図でフォロー中(高齢であるため負荷心エコー図は未施行)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-02-07

眼心臓反射 Oculo-cardiac reflex

  • 眼球付近(三叉神経)の刺激で不整脈(徐脈や心停止など)を生じる反射のこと
  • 眼球への刺激中止で改善することが多いがアトロピンの静注を要することもある
  • 初報はAschnerの眼圧迫で橈骨脈拍消失?(Wien Klin Wochenscr 1908;21:1529-30)
  • 別名はアシュネル反射(Aschner reflex or phenomenon)やAschner–Dagnini reflex

👀 眼科に関する過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2021-02-06

肺静脈閉鎖症 PVOD: Pulmonary veno-occlusive disease

  • 概要 肺静脈が主たる病変(内膜肥厚や線維化等による閉塞)を呈す疾患
  • 疫学 極めて稀で本邦では100人ほど/喫煙男性に多く全年代に生じうる
  • 鑑別 肺動脈性肺高血圧症PAHや肺毛細管腫症PCH(病理組織を要する)
  • 原因 現時点では不明(ほとんどが孤発性だが家族内発症の報告もある)
  • 症状 非特異的(PAHと類似:労作時の息切れや咳嗽,胸痛,失神など)
  • 治療 選択的肺血管拡張薬などによる対症療法で根本的治療は肺移植のみ
  • 予後 治療抵抗性で極めて不良(肺移植なしでは診断2年以内に概ね死亡)

参考)難病情報センター 指定難病87,他

肺の動脈・毛細血管・静脈すべてに影響するが病変の首座は静脈

高解像度CT所見で小葉間隔壁の肥厚や粒状影,スリガラス様影(ground glass opacity)など

(投稿者 川崎)

2021-02-05

”日本語は難しい”問題

⛔ カンファレンス中の一コマ 💨
  • 研修医 「ガーグルベイスンの中の吐物は~」
  • 指導医 「ちょっと細かいけど,ガーグルベースやで」
  • 研修医 「ベイスン? ベース? ベースン?」

👀 ガーグルベース(ケア)®
  • 医療機器を販売しているアイエスケー(ISK)株式会社の登録商標(多分)
  • ただ同社のカタログには口腔衛生汚物受小型ベースンとも記載されている
  • 一般名はうがい受けと思われる(ステンレス製なら膿盆と呼ぶことが多い)

😊 おまけ
  • gargle ➜ うがい,うがいをする/発音 ➜ gɑ́rgl(ガーゴゥ)実際の音声
  • basin ➜ たらい,ボウル,盆地,入り江/発音 ➜ béisn(ベイスン)実際の音声

💋 発音に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2021-02-04

ATRA アトラ 症候群(All-trans retinoic acid syndrome)

  • 定義 急性前骨髄球性白血病(APML)の分化誘導療法の治療後に見られる合併症
  • 症状 発熱や呼吸困難,胸水・心嚢液貯留,低酸素血症.腎不全,多臓器不全など
  • 頻度 ATRA投与2日〜3週目に生じ成人では12/196人(6%),小児は1/17人(6%)
  • 予後 死亡率は30~50%(デキサメタゾン投与で5%まで減少:重症例はATRA延期)


ATRA症候群を合併した急性前骨髄球性白血病の1例

👻 おまけ
  • レチノイン酸症候群(Retinoic acid syndrome、RAS)とも呼ばれますが,必ずしもATRA(トレチノイン)誘発性でなく,悪性前骨髄球自体に依存して発現するようです.よって分化症候群(Differentiation Syndrome)という名称への変更が検討されているようです,
  • ATRA分化誘導療法は中国のWangらが報告(完全寛解96%という驚くべき効果:Blood 1988;72:567-72).実は先立って中国の専門誌に同じ内容の論文を報告したのですがほとんど注目されなかったようです().一流誌Bloodでの報告後に世界各国で追試が行われ,自血病の治療手段の一つとして確立されました.

(投稿者 川崎)

🎯 今週の一枚

息苦しいと訴え早朝のERに搬入された症例の腹部

😱 解説
  • 皮膚に網目状の紅斑である網状皮斑(livedo reticularis)を認める
  • その本体は小動脈の狭窄および小静脈の拡張による末梢の循環障害
  • 単なる寒冷暴露でも出現するがショックやDIC,血液疾患などに注意
  • 特に本例の様に呼吸困難感を伴う場合は高度の末梢循環不全を示唆
  • 本例の最終診断は急性肺血栓塞栓症+ショックで乳酸値は98mg/dL

🚑 臨床現場
  • 本例は症状と網状皮斑から状態が極めて悪いとすぐに判断できた.肺音が清であり心不全は否定的.頸静脈も座位陰性(ただし最終診断を考えるとこれは微妙:ショック時はあまり有用でない?)
  • 胸部X線(肺うっ血なし)とベットサイド心エコー図(右室拡大+マッコーネル徴候)から急性肺血栓塞栓症と診断してヘパリンとtPA(モンテプラーゼ)をER室で投与した
  • 状態が少し改善後に造影CTを行い診断を確定(深部静脈血栓も合併).不安定な状態でCT室への安易な移動は出来るだけ回避する必要がある(死のトンネル).ICU入室時には網状皮斑は消失

🎯「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-02-03

ゲシュタルト崩壊 Gestalt decomposition (独語 Gestaltzerfall)

  • Gestaltとはドイツ語で形や形態,状態を表す名詞で(英語ではshapeなど)
  • 持続的な注視に伴って生じる知覚異常(全体性が失われ個々の構成を認識)
  • 例えば漢字を注視し続けると文字としての意味が分からなくなってしまう
  • パターン認知に関わる脳の高次機能の低下により生じると言われている

🉐 関連投稿(面白い言葉編)

(投稿者 大神/川崎)

2021-02-02

ヘアターニケット症候群 Hair tourniquet syndrome

  • Hair tourniquet=髪による止血帯=髪が爪先や指に巻き付いた状態
  • 血流障害から発赤や腫脹を来し放置すれば遠位部が壊死すること有
  • 治療は髪の除去あるいは溶解/皮膚切開を要する症例もある(下図)
  • 症状を言葉で伝えられない泣き続ける乳児などで思い出したい疾患


(投稿者 川崎)

2021-02-01

術後は消えると思ったのに…

大動脈弁逆流で水槌脈を認める症例が弁置換術を受けた

😙 解説
  • 術前(左動画)は正中動脈に明瞭な拍動を視認する.大動脈弁逆流による大脈・速脈を反映する身体所見で,水槌脈や反跳脈,コリガン脈と呼ばれている.
  • 本例で興味深い点は,術後の大動脈逆流が消失した後(右動画)でも水槌脈が残存している点である.正直,術後の再診時にちょっとびっくりした😮
  • その原因は不明であるが,大脈に長年晒された動脈には不可逆的な変化が生じているためだろうか?(例えば動脈の蛇行や表在化など)
  • 身体所見は特異度が高い所見が多いためルールイン(確定診断)に有用であるが,他所見との組み合わせ(心音など)が重要であることは改めて述べるまでもない.

🉐 大動脈弁逆流に関する過去の投稿 ➜ コチラ

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)