このブログを検索

2023-04-30

副腎クリーゼ(急性副腎不全症) Adrenal crisis

急激な糖質コルチコイド(glucocorticoid)の絶対〜相対的欠乏による致命的病態
  • パターン1:慢性副腎不全にストレスが加わりステロイド需要量が増加
  • パターン2:長期服用ステロイドが不適切に減量・中止され供給量低下

💣 概略
  • ステロイド補償中の副腎不全症の44%が1度は発症(6.3 件/100 人・年)
  • アジソン病での頻度は約8%/その誘因は感染症63%,手術6%,外傷6%
  • 症状は悪心,腹痛,体重減少,発熱,血圧低下など多様で非特異的(下表)
  • 疑えばACTH,コルチゾールの測定用検体を採取後に躊躇なく治療を開始
  • 例:生食1000 ml/時+ヒドロコルチゾン100 mg静注+持続100-200 mg/日
  • 原発性副腎不全1,675名の後方追跡6.5年で副腎クリーゼによる死亡は1.5%

💢 症状と検査所見
  1. 脱水,低血圧,原因不明のショック
  2. 食欲低下,体重減少,嘔気,嘔吐,下痢
  3. 原因不明の腹痛・急性腹症
  4. 原因不明の発熱,関節痛
  5. 予期せぬ低血糖
  6. 低ナトリウム,高カリウム血症
  7. 貧血,好酸球増多
  8. 高カルシウム血症,BUN上昇
  9. 色素沈着,白斑


💁 クリーゼに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-29

EGRISスコア

  • EGRISErasmus GBS Respiratory Insufficiency Scoreの略
  • GBSはGuillain–Barré syndrome(ギラン・バレー症候群)
  • 入院して1週間以内に人工呼吸器の装着を予想するスコア
  • 開発はオランダのWalgaardら(Ann Neurol 2010;67:781-7
  • 合計(0~7点)が高いほど人工呼吸必要度が上昇(1~91%)
  • 下表右にあるmEGOSは自力歩行不能率を予測するスコア


👻 ギラン・バレー症候群に対する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-28

電解質喪失症候群(Electrolyte Depletion syndrome, EDS)

  • 大腸絨毛腺腫による多量粘液分泌から電解質異常を生じた状態
  • 絨毛腺腫は絨毛構造を認める大腸腺腫でその頻度は1.3~5.6%
  • 初報はMcKittrick LSとWheelock FC(Springfield, 61-3: 1954)
  • 巨大化(4 cm〜)で粘液分泌が増加して電解質異常を生じる
  • 好発部位は直腸が78.4~83.8%と多く,S状結腸は5.6~16.2%
  • 平均年齢は70歳で病悩期間は平均3年,32例中23例は癌を合併


直腸絨毛腺腫による電解質喪失症候群(EDS)の1例
頻回下痢と食欲不振,電解質異常(Na 114.7 mEq/L,K 2.6 mEq/L,Cl 70.2 mEq/L

(投稿者 川崎)

2023-04-27

今週の一枚 🎯 巨大と言われる小波

検診の心電図で異常を指摘された症例  問題  心電図異常とは?



(投稿者 川崎)

2023-04-26

ワルファリン誘発性皮膚壊死 WISN: Warfarin Induced Skin Necrosis

  • ワルファリン療法中に生じた皮膚および脂肪組織の壊死
  • 頻度は0.01~0.1%程度で通常投与開始の3~7日目に生じる
  • 初報はFloodらの報告(N Y State J Med 1943;43:1121-4
  • 機序は不明(プロテインC低下などから易血栓→壊死?)
  • ワルファリン単独治療中のINRは過延長(中央値5.0~5.8)
  • 鑑別はコレステロール塞栓症,カルシフィラキシスHIT
  • 治療はワルファリン中止と血栓症に対する血栓溶解療法

参考)静脈学 2007;18:13-9,他

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)に対してアルガトロバンとワルファリンを開始4日後にワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)を発症した女性(a,右乳房;b,足底)
ワーファリン
💁 ワルファリンに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-25

忘備録

🚑「救急対応ドリル 外来から在宅までの60問」から(総合診療 2023年4月号
  • 甲状腺クリーゼではNSAIDsは遊離ホルモンを上昇させることがあるため避ける(必要ならアセトアミノフェン)
  • 感染性心内膜炎の抗菌薬投与は血培陰転化から日数を数える(例:MSSAなら陰性日を1日目として6週間)
  • 正常ABIでも末梢動脈疾患を強く疑ったら運動負荷後ABI測定を考慮(20%あるいは20mmHg以上の低下で陽性)
  • 急性脊髄障害で考える病態はFACET(Fracture, Aorta, Compression:馬尾症候群, Epidural abscess, Tumor)
  • 全尿路結石の1-2%はシスチン尿症:常染色体潜性(劣性)遺伝で若年者あるいは珊瑚状結石では要考慮)
  • 奇脈(吸気時の収縮期血圧低下>10mmHg)は心タンポナーデで有名であるが重症喘息や緊張性気胸でも有

💁 忘備録に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-24

👴 歴史クイズ

(Public Domain)



(投稿者 川崎)

2023-04-23

下垂体のホルモンと疾患

😅 先日,看護学生に質問されて分からなかったので...
  • 前葉6種類,後葉2種類のホルモンで各々亢進と低下があるため関連疾患は10以上
  • 機能亢進症の原因は先端巨大症で見られるようなホルモン産生下垂体腺腫が主体
  • 機能低下症多様:遺伝,自己免疫,肉芽・腫瘍,出生時障害,外傷,術後など

🌜 前葉ホルモン
  1. 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)➜ Cushing病,ACTH分泌不全症(下垂体性副腎不全)
  2. 甲状腺刺激ホルモン(TSH)➜ TSH産生腫瘍,TSH分泌低下症
  3. 成長ホルモン(GH)➜ 先端巨大症,巨人症,下垂体性低身長症,成人GH分泌不全症
  4. 乳腺刺激ホルモン(PRL)➜ PRL分泌過剰症(無月経・乳汁漏出)
  5. 卵胞刺激ホルモン(FSH)➜ 中枢性思春期早発症,ゴナドトロピン分泌低下症
  6. 黄体化ホルモン(LH)➜ 中枢性思春期早発症,ゴナドトロピン分泌低下症

🌛 後葉ホルモン
  1. 抗利尿ホルモン(AVP)➜ AVP分泌不適切症候群(SIADH),中枢性尿崩症
  2. 子宮収縮ホルモン(OXT)➜ 子宮収縮不全

※AVP(arginine vasopressin,バゾプレシン)=ADH(antidiuretic hormone,抗利尿ホルモン)
※OXT(oxytocin,オキシトシン


- 下垂体の各種ホルモンと標的臓器 -
(CC BY-SA 4.0, Wiki

👉 下垂体の過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-22

第V因子ライデン変異 Factor V Leiden mutation

  • ヒト凝固第V因子の変異体(rs6025/F5 p.R506Q)で血栓性素因
  • 発見はオランダ ライデン市のBertinaら(Nature 1994;369:64-7
  • 都市ライデンにちなんで命名され,北米の白人の約5%が有する
  • 常染色体優性遺伝で不完全浸透性(変異を持つ一部が発症する)
  • 診断はAPTTに基づくAPCレジスタンス測定(変異は遺伝子解析)
  • 治療は血栓予防(ヘテロ接合型無症候例への予防投与は非推奨)

- 凝固系カスケード -

(投稿者 川崎)

2023-04-21

強皮症腎クリーゼ Scleroderma renal crisis

  • 全身性強皮症(systemic sclerosis: SSc)は皮膚硬化を伴う多臓器障害性疾患
  • 強皮症腎クリーゼはびまん性強皮症の10~25%に発症,限局性強皮症では1~2%
  • 急性経過で腎不全へと進展し透析導入率も高い(1年生存率85%,5年生存率65%)
  • 予測因子はびまん性皮膚病変(特に急速進行)や抗RNAポリメラーゼIII抗体など
  • 機序は内皮損傷による腎血流低下と血管攣縮(レイノー現象),RAA系の活性化?
  • 特徴は誘因なく突然高血圧が出現し随伴症状(頭痛,貧血,心拡大など)を伴う
  • 鑑別診断には血栓性微小血管症,悪性高血圧,急速進行性糸球体腎炎などがある
  • 治療は(最大量の)ACE阻害薬で速やかに血圧を下げ可能な限りそれを維持する


 ー 維持血液透析に至った高齢者の1例 ー

(投稿者 川崎)

2023-04-20

🎯 今週の一枚

123I-MIBGシンチグラフィ



(投稿者 川崎)

2023-04-19

特別講演より(演者:フィジカルの匠)

  1. 通常の左心不全症例では右房圧(RAP)は左房圧(LAP)の凡そ半分,肺動脈楔入圧(PCWP)も肺動脈収縮期圧(PASP)の半分程度
  2. 明瞭なⅢ音を聴取したら左房圧(LAP)は25mmHg以上と予想される
  3. 臥床では右房から耳垂までの垂直距離は約10㎝(臥床で頸静脈拍動が顎下なら中心静脈圧は7-8㎝以下で正常)
  4. カルディオメムス(CardioMEMS)というワイヤレス肺動脈圧モニターがある
  5. 右房は通常,右第4肋間あたりに位置している
  6. Bernheim effect学会用語集でベルンハイム効果と訳されているが,正しくはバーンハイム音声) /フランス語風ならベルナイム(音声
  7. 圧上昇の身体所見:右心系 ➜ 脈管内=頸静脈,脈管外=下腿浮腫/左心系 ➜ 脈管内=Ⅲ音,脈管外=湿性ラ音

忘備録ですが聞き間違いがあったらすいません 😅

💁 忘備録に関する過去投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-18

変形赤血球 dysmorphic RBC

1.血尿:尿沈渣中に赤血球>5個/HPF(High Power Field=400 倍鏡検)
  • 顕微鏡的血尿 ➜ 顕微鏡で鏡検して初めて血尿と確認可能
  • 肉眼的血尿 ➜ 肉眼で血尿と確認可能(尿中赤血球>0.1%)

2.血尿時の尿沈渣で尿中赤血球形態
  • 均一赤血球(isomorphic RBC)➜ 非糸球体性の疑い(感染や腫瘍など下部尿路疾患)
  • 変形赤血球(dysmorphic RBC)➜ 糸球体性の疑い(内科疾患の上部尿路疾患など)


3.変形赤血球の成因
  • 赤血球が糸球体基底膜を通過する際に機械的損傷を受ける
  • 赤血球が尿細管を通過する際に急激な浸透圧変化を受ける


👉「尿沈渣」の過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-17

Hoagland sign ホーグランド徴候

  • 伝染性単核球症で出現する早期皮膚所見(両側の上眼瞼浮腫)
  • 命名は米国のHOAGLANDの初報(Am J Med 1952;13:158-71
  • 同所見は通常、臨床症状が出現した急性期の数日間のみ存在
  • 鑑別は接触性皮膚炎や血管性浮腫,川崎病,旋毛虫,蜂窩織炎
  • 機序は不明(リンパの閉塞?)/発生頻度は58%?(引用

伝染性単核球症の20代女性(A)・解熱前(来院3日後)には消失(B)


🔗 感想
  • 循環器領域で眼瞼浮腫といえば心不全です.伝染性単核球症とは対象が異なるため,ホーグランド徴候を現場で活用する機会は多くなさそうです.
  • でも伝染性単核球症の3大所見(発熱・咽頭炎・リンパ節腫脹)はいずれも非特異的です.感染を契機に悪化する慢性心不全は少なくありません.
  • 感冒所見と同時に両側の目尻の腫れがあって,頸静脈の座位陰性を確認できれば,一発診断ができそうです.これってフィジカルの醍醐味です 😋

👻 伝染性単核球症の過去の投稿 ➜ コチラ

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-16

ソフロロジー Sophrology

  • スペインの神経精神科医 Alfonso Caycedo によって開発された動的リラクゼーション法
  • 古代ギリシア語のσῶς/sos(調和),φρήν/phren(心),λογία/logos(研究)に由来
  • 目的は心と体の繋がりを利用し自分と周囲のより良いバランスとハーモニーを作ること
  • 前提は問題自体より個人の内なる資源に集中してポジティブな連鎖反応を開始すること
  • ソフロロジー式分娩法(イメージトレーニング・ヨガエクササイズ・呼吸)として普及
  • 他の分娩減痛は陣痛に合わせた呼吸+動作によるラマーズ法や気功を利用したリーブ法


💁 出産に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-15

正常血糖ケトアシドーシス(Euglycemic diabetic ketoacidosis;EDKA)

  • 著明な高血糖なく糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を呈した状態
  • 英国の医師 Munro らが提唱した観念(Br Med J 1973;2:578-80
  • 診断基準例:血糖値300 mg/dL未満+ケトン値上昇+アシデミア
  • 近年 SGLT2 阻害薬に関連した EDKA例の増加が注目されている
  • 2型DMではSGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬の3倍 DKAリスクが高い

SGLT2阻害薬を内服中にEDKAを発症した1型糖尿病例
 👽 追加コメント
  • SGLT2阻害薬は尿糖排泄増加により血糖値を低下させるため,血中インスリンの低下およびグルカゴン/インスリン比が増加します.その結果,脂肪組織の脂肪分解が亢進し,その一部が肝臓でケトン体に変化します.その時に不適切な要因(インスリン中断や糖質不足,脱水など)が加わると血中ケトン体が急増しDKAが発症します.
  • 日本糖尿病協会のSGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendation糖尿病診療ガイドライン2019には,シックデイのSGLT2阻害薬休薬の重要性が記載されています.特にインスリン依存例ではSGLT2阻害薬服用下では血糖上昇がないため,基礎インスリンの中断がケトアシドーシス発症のリスクになることが併記されています.

💁 ケトアシドーシスに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-14

上肢挙上と心負荷

息切れで来院した症例(端座位)

🙋 解説
  • 右頸部に大きな陽性波(巨大v波)で中心静脈圧は上昇
  • 拍動上縁は額レベル付近で推定中心静脈圧は20cm水柱
  • 左上肢の垂直挙上で拍動上縁は数cm上昇(耳下レベル)
  • 最終診断は弁膜症による慢性心不全の増悪(非代償期)

 💁 つぶやき
  • 左上肢挙上で明瞭な息切れが出現した典型的な症例を経験以降,挙上負荷を行うことが増えました(別の自験例).その機序は上肢挙上に伴う静脈還流の増加(前負荷増大)だろうと安易に考えていました.
  • しかし本例の動画を編集中に,上肢挙上を開始直後から拍動上縁が上昇していることに気がつきました(画面右に少し写っている左上肢の動きに注目).この現象は上肢の静脈還流だけでは説明は困難です.
  • どうやら上肢の静脈血液の還流(前負荷増大)に加え,挙上という仕事(心拍数増加を含む),呼気時間の延長(胸腔内圧上昇),吸気時間の短縮(前負荷減少)などが複雑に関与している様子(下表参照)


🉐 上肢挙上負荷の過去投稿 ➜ コチラ

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-13

🎯 今週の一枚

先日の週末ERでは通常とは少し異なる腹痛症例が続きました



(投稿者 川崎)

2023-04-12

心臓サルコイドーシスとMRIのT1マッピング

  • 近年,心臓MRのT1 mappingが臨床現場に普及してきました.特にアミロイドーシスなど蓄積病の診断過程ではとても有用です.
  • 心臓サルコイドーシスではMRIは従来からT2遅延造影が用いられてきました.しかしT1に関してはあまり知られていません.
  • 心サルのガイドラインでもT1に関してはほとんど記載がありません.これはT1の臨床普及が比較的最近であるためと思われます.


👀 最近の報告…今後もデータの蓄積が必要のようです😐
  1. サルコイドーシス疑い例では心事故がT1・ECV上昇と関連(Eur J Hybrid Imaging 2021;5:24
  2. T1は全身性サルコイドーシスの早期心臓病変のマーカーとして役立つ(Rofo 2021;193:68-76
  3. 心臓外サルコイドーシス無症候性例で心筋T1とECVの異常なし(NMR Biomed 2020;33:e4388) 
  4. 全身性サルコイドーシス例はコントロール健常者よりT1値が上昇(Radiology 2017;285:63-72

(投稿者 川崎)

2023-04-11

フォンタン循環 Fontan circulation

  • 定義 Fontan手術後の循環(体循環の静脈血を直接肺動脈に返す)
  • 開発 仏の心臓外科医 Francis Fontanら(Thorax 1971;26:240-8
  • 対象 二心室修復が困難な機能的単心室による先天性心疾患の症例
  • 実際 三尖弁閉鎖,心低形成症候群,単心室症,肺動脈閉鎖など
  • 術式 現在では心外導管を用いた上下大静脈と肺動脈吻合が主流
  • 特徴 高い静脈圧と低心拍出量(循環成立に低肺血管抵抗が前提)
  • 所見 肺動脈弁成分がないため単一Ⅱ音(通常はSpO₂ 90%台前半)
  • 遠隔 心不全,不整脈,血栓,肺血管抵抗上昇,蛋白漏出,肝障害


様々なフォンタン手術
A 心房肺接続/B 側方トンネル全大静脈肺接続 (TCPC)/C 心外導管TCPC

💁 心臓血管外科に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2023-04-10

ペンバートン徴候 Pemberton's sign

  • 両腕を垂直挙上したときに出現する一連の身体所見と自覚症状
  • 由来は英医師 Hugh Pemberton の報告(Lancet 1946;248:509
  • 顔面うっ血やチアノーゼ,呼吸困難感などがあれば陽性と判断
  • 甲状腺腫や縦隔腫瘤などによって生じる血管の圧迫がその原因

甲状腺腫大の77歳男性(図Cの矢印は気管偏位を示す)

甲状腺腫20年の病歴を持つ58歳女性

📺 おまけ
  • 上記の2症例はともにNEJMに掲載されています.いずれも今世紀ですが,2018年掲載の上段の症例には動画があり時代の進歩を感じますココから動画参照)
  • 下段の症例は2004年掲載で,当時はまだ動画共有システムがありませんでした,ちなみに YouTube は2005年設立で最初の投稿動画は Me at the zoo(ジョード・カリム投稿)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-09

FOMO & JOMO

👿 FOMO(フォーモ)
  • Fear Of Missing Outの略で「取り残されることや見逃すことへの恐怖」を意味する.米国の Patrick James McGinnis がハーバード ビジネス スクール在学中の2004年に初めて用いた.
  • 心理的満足度が低い人はFOMOレベルが高いことが知られている.FOMOから抜け出すためにはインターネットやソーシャルメディアから距離を置いてみることが大切と考えられている.

😈 JOMO(ジョーモ)
  • Joy Of Missing Outの略で「取り残されることの喜び」を意味する(つまりFOMOの対義語).テクノロジーの起業家 Anil Dash が2012年に自身のブログで初めて用いた(ココ).
  • 他人の行動や評価を気にしないことで不安から解放されその結果,自身の人生を楽しめるという動きのこと.「No」と言う勇気を持つことも現実世界に集中するためには重要.

(投稿者 川崎)

2023-04-08

モートン神経腫 Morton's neuroma

  • 概念 中足骨間足底神経の深横中足靱帯による圧迫状態
  • 本体 神経腫でなく刺激による線維化(別名モートン病)
  • 命名 アメリがの外科医である Morton TG(1835-1903)
  • 誘引 ハイヒールなどの履物,外反母趾,ガングリオン他
  • 症状 歩行時の疼痛,しびれなど(第3〜4趾間が最多)
  • 所見 中足部を両側から強く握ると疼痛(Mulderテスト)
  • 診断 Tinelサイン(叩打で疼痛が放散)+各種画像検査
  • 治療 靴変更,足底挿板,鎮痛薬・ブロック注射,手術

 モートン神経腫のMRI例と切除例(背側アプローチ)

(投稿者 川崎)

2023-04-07

CGA分類

  • CKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)の重症度を原因(cause:C), 腎機能(GFR:G),蛋白尿(アルブミン尿:A) で分類する方法.このCGA分類を元に作成されたのが以下の有名なヒートマップ.

- CGA分類によるCKDの重症度分類 -

👍 CGA分類に準じたカルテ記載を心がけたい
  • #CKD 糖尿病 G2A3
  • #CKD 慢性腎炎 G3bA1
  • #CKD 腎硬化症疑い G4A1
  • #CKD 多発性囊胞腎 G3aA1
  • #CKD 原因不明 G4A2


(投稿者 川崎)

2023-04-06

今週の一枚 🎯 チラ見ならぬチラ耳

労作時の胸部圧迫感で来院した男性

😀 現場中継
  1. オープンクエスチョンで患者さんに胸の症状を表現してもらう
  2. 聴きつつ頸静脈確認 ➜ 座位陰性で非代償性心不全はなさそう
  3. 視線をそっと頸部から耳に移す ➜ 明瞭な外耳道毛の剃り跡😲
  4. 臥床で頸静脈に問題はないが耳垂に斜線(フランク徴候陽性)
  5. 虚血性心疾患の可能性大(ACSではない)➜ 早めのCAG選択


😊 臨床経過
  • 冠動脈造影では右冠動脈と左前下行枝の高度狭窄でした.ちなみに本例の心電図や採血,心エコー図には異常所見はありませんでした.
  • 狭心症の診断では問診がとても重要であることは今更述べるまでもありません.非発作時の基本検査には異常がないことが常だからです.
  • 患者さんの様々な情報から次の検査法(冠動脈CT・負荷シンチグラフィ・負荷心エコー図・冠動脈MRI・冠動脈造影)を選択します.
  • 個人的には外耳道毛や耳垂皺が診断にとても有効だとは思っていませんが,問診ついでに耳をチラ見(チラ耳 😅 勝手に命名)はお薦め
  • 本例は外耳道毛の成長がとても早く,数日毎に電気シェーバーでカットしている様です(鼻下〜顎の毛はあまり濃くありませんでした)

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-05

論文 🏆

  • 当院の循環器内科専攻医である野口先生が経験した症例が出版されました
  • 近医で心雑音を指摘され紹介 ➜ 心エコー図で右室へ突出する瘤状構造物
  • 収縮期に同構造物と右室壁が近接し,右室流出路はモザイク血流シグナル
  • 明らかな短絡血流なし ➜ 最終的に未破裂の右バルサルバ洞動脈瘤と診断
  • 弁膜症なく術後に雑音が消失 ➜ 未破裂の動脈瘤に起因した雑音と確定
  • 論文には実際の音声ファイルがないのでYouTubeにアップ(ココです)


😀 考察
  • PubMed検索で未破裂バルサルバ洞動脈瘤の報告が42例ありました.その診断契機は胸痛,息切れ,併存循環器疾患,房室ブロックの順に高頻度でした.心雑音を有した症例も2例報告されていましたが,いずれもバルサルバ洞動脈瘤とは異なる併存心疾患に起因した雑音です.本例は純粋に動脈瘤によって雑音を来した世界初の症例報告かも知れません.
  • 本例は初診の家庭医の先生(専門は消化器内科)が雑音に気が付かれたため診断に至ることができました.素晴らしいことに,紹介状には「肺動脈領域の収縮期雑音の精査をお願いします」と記載されていました.先日,お会いした時にお話ししていたら,聴診は「ポケット心音」で勉強されてるとお伺いしました.まさに”アプリ開発者冥利”につきます😂

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-04

ヌーナン症候群 Noonan syndrome

  • 概要 細胞内Ras/MAPKシグナル伝達系異常によって生じる一連の病態
  • 形式 常染色体優性遺伝(PTPN11やSOS1遺伝子など;約40%は不明)
  • 初報 米国の小児循環器内科師 Noonan (1928–2020) で1961年(
  • 頻度 出生1000-2500名に1人程度(ダウン症候群と同等の発生頻度)
  • 顔貌 眼間開離,眼瞼裂斜下,眼瞼下垂,翼状頚などが特徴的(下図)
  • 身体 低身長,胸郭異常,知的障害,心疾患,停留精巣,外反肘ほか
  • 治療 本質的な治療法なし(心疾患など個々の合併症に対し随時対応)
  • 予後 主に合併心疾患によって規定(白血病や固形腫瘍を発症例あり)

参考)難病情報センター,他

ヌーナン症候群の特徴的な顔貌

💁 顔貌に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-03

ダール徴候 Dahl's sign

  • 大腿と肘に色素沈着過剰 と肥厚(角化亢進)を認める状態
  • 米国の皮膚科医Dahlに由来(Arch Dermatol 1970;101:117
  • 長期にわたる重度の慢性閉塞性肺疾患を患う患者に発生する
  • 機序は呼吸困難で肘を大腿に置くため接触部に慢性的な刺激

73歳のCOPD女性

👻 命名問題
  • 実はDahl先生に先行すること7年,Rothenbergがこの所見を報告しています(JAMA 1963;184:902-3).よってRothenberg's sign's(ローゼンバーグ徴候)とも呼ばれています.
  • もっともRothenberg先生はこの所見を,その姿勢からThe thinker's sign(考える人徴候)と呼んでいます.またその丸い形からtarget sign(標的マーク)と称されることもあるようです.

💁 COPDに関する過去の投稿 ➜ コチラ

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2023-04-02

薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)

👽 薬物性肝障害(DILI)の分類
  • 肝細胞障害型 ➜ ALT>2N+ALP≦NまたはALT比/ALP比≧5
  • 胆汁うっ滞型 ➜ ALT≦N+ALP>2NまたはALT比/ALP比≦2
  • 混合型 ➜ ALT>2N+ALP>Nかつ2<ALT比/ALP比<5
(N:正常上限,ALT比=ALT値/N,ALP比=ALP値/N)



💀 薬物性肝障害(DILI)の概略
  • 本邦の1,676例中,男性が43%,女性が57%,平均年齢は55歳
  • 内服から発現まで7日以内26%,30日以内62%,90日以内84%
  • タイプは肝細胞障害型59%,混合型20%,胆汁うっ滞型20%


💁 肝臓に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2023-04-01

忘備録

先週に開催された『第20回 循環器 Physical Examination 講習会』より

  • 拍動しない外頸静脈は評価に用いない(首を回転させると変化もする)
  • 心尖拍動は指先全体,雑音のスリルは手掌遠位部,胸骨拍動は手掌近位部
  • 楽音用雑音は dove-coo や seagull cry でレバイン分類は4度以上が多い
  • 僧帽弁逆流では軽度なら高調音(blowing),重症なら低調音が加わる
  • 僧帽弁逆流でも音が小さいときにはⅠ音とⅡ音の聴取は可能である
  • YouTubeのフィジカル Stanford Medicine 25 はお薦め(例:AR)
  • MRは3分類:変性(MVP他),心室性(テザリング),心房性(弁輪部拡大)
  • 心房性MRでは左腋窩でⅢ音(S3)が聴取しやすい
  • Ⅰ音の規定因子は心収縮力・タイミング(弁の開放程度)・弁自体
  • S雑音(S murmur)は鎖骨下部~心尖部までS字状に伝播(過収縮で出現?)
  • 外傷部位や手術創の聴診を行うこと(シャントから高心拍出性心不全など)
  • 前尖の僧帽弁逸脱では背中や椎体で雑音を聴取する
  • 血液の比重は1.05
  • 息切れ+S3 ➜ 心不全(非代償性),胸痛+S4 ➜ ACS(急性冠症候群)
  • 「知りたいことはすべてオンラインにある」
  • Muehrcke line は爪下の浮腫なので爪の発育によって移動しない
  • Mees’ lineは爪自体の異常:爪の発育で移動して圧迫では消えない
  • 手掌・足底の皮疹はPHSと覚える:P 掌蹠膿疱症・H 手足口病・S 梅毒
  • 羽ばたき振戦は高CO2血症でも生じる
  • Lincoln singはARによる足の拍動(リンカーン大統領の写真で足のぶれ)
  • 拳骨テスト(Fist sign)は先端巨大症で手を握っても爪が隠れない(容積増大)
  • 胸部X線は側面像から見る(見逃しやすいところから始める)
  • 心房細動では頸静脈波のx谷が浅くなる
  • ADSの右脚ブロックは一次孔欠損なら左軸,二次孔欠損なら正常軸または右軸

聞き間違いがあるかも...😅スイマセン

💁 忘備録に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)