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2024-12-22

インディゴ・システム Indigo™ Aspiration System

  • 概略 血管から血栓を除去する中心循環系塞栓除去用カテーテル(Penumbra Inc., USA)
  • 原理 吸引カテーテルと吸引ポンプを接続して陰圧による機械的な吸引(音が発生する)
  • 適応 急性下肢動脈閉塞症,急性上腸間膜動脈閉塞症,深部静脈血栓症(認定施設限定)
  • 承認 開発は2014年で本邦では2023年4月20日に薬事認可され,2023年9月1日に保険収載

【形状・構造及び原理等】添付文章より抜粋)



【使用目的又は効果】添付文章より抜粋)
  • 本品は、急性下肢動脈閉塞症、急性上腸間膜動脈閉塞症又は重症な急性深部静脈血栓症において、速やかな治療が必要であり、外科的血栓摘除の実施が困難又は実施しても有効な治療効果が得られないと予想される患者を対象として、血流の再開を図るために使用することを目的とする。

【臨床成績】添付文章より抜粋)
  • 有効性:血流再開率(TIMI 2-3)は87.2% (68/78例) であり、そのうち血栓溶解療法を行わずに血栓吸引した症例の血流再開率は83.0% (44/53例) であった。本品により血栓吸引を実施した後に、追加の機械的治療等を実施した症例における血流再開率は96.2% (76/79例) で、そのうち血栓溶解療法を行わずに血栓吸引した症例の血流再開率は96.2% (52/54例) であった。
  • 安全性:24時間以内に発生したSAEは6.3% (5/79例) であり、デバイスに関連するSAEは報告されていない。(※投稿者追加:SAE = Serious Adverse Event,重篤な有害事象)

(投稿者 川崎)

2024-12-21

AUDIT オーディット

  • 概略 WHO推奨の問題飲酒者スクリーニングテスト
  • 単語 auditは名詞で監査あるいは会計報告書の意味
  • 略語 Alcohol Use Disorders Identification Testの略
  • 内容 10項目による設問の合計点で判定(最大40点)
  • 目安 0-7点 指導不要,8-14点 減酒指導,15点- 依存

AUDIT オーディット (アルコール使用障害同定テスト)

🍺 アルコール依存の他の評価法:CAGEテスト

(投稿者 川崎)

2024-12-20

二つのボルグ指数

📳 ボルグスケール(Borg scale) 
  • 主観的運動強度で主観的感覚を6-20までの15段階で評価
  • 点数の約10倍が心拍数で11~13が嫌気性作業閾値に相当
  • スウェーデンの心理学者 Gunnar Borg が1970年に開発

📴 修正ボルグスケール(modified Borg scale)
  • 呼吸器疾患などでは心拍数が運動強度とあまり相関せず
  • その問題を解決するため0-10に0.5を加え12段階で評価
  • 心拍数より動脈血酸素飽和度や血中乳酸濃度を反映する
  • Borgスケールを開発した Gunnar Borg が1980年に開発

(投稿者 川崎)

2024-12-19

今週の一枚 🎯

数日前から動悸が持続する症例

🐝 ハミングバード徴候
  • 吸気時に拍動があり?(呼気時なし)
  • 深吸気で内頚静脈の早い拍動が明瞭
  • 左上肢挙上で拍動明瞭化+上縁上昇
  • 最終診断は2:1伝導の心房頻拍(PAT)
  • 再発だったので後日アブレーション

 🐦 追加コメント
  • 本例は発症数日で来院されたため心不全には至っていませんでした.しかしこの状態が2週間ほど持続すると頻拍誘発性心筋症から心不全になります.その時には中心静脈圧が上昇するので安静時でもハミングバード徴候(フロッグ徴候の亜型)が明瞭に観察できると思います(自験例
  • 初期のハミングバード徴候(Hummingbird sign)を見逃さないためにも頻脈を呈する症例では負荷頚静脈評価が重要です.本例では左上肢挙上の方が,深吸気時より拍動が明瞭でした.もっとも負荷前でも吸気時には拍動が見えますが...(今回はすぐ気付きました 😤 プチ自慢)

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(投稿者 川崎)

2024-12-18

第113回(2024)看護師国家試験より

問題 床上で排便しやすい体位はどれか。

 
 
 
 

判定

📐 シムス体位(Sims' position)
  • 左側臥位で右鼠径と右膝を曲げる(両下肢を屈曲する時もあり)
  • 名称は米国の婦人科医 J. Marion Sims(1813–1883) に由来する
  • 直腸検査や治療,浣腸,出産後の会陰部の検査などに行われる

💫 国家試験に関連した過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-12-17

吸啜きゅうてつ反射

  • 口に入ってきたものを強く吸う新生児の反射で吸着後の口腔内は陰圧(平均-64±45 mmHg)
  • 舌の蠕動運動ではなく舌後方の上下運動によって口腔内の吸引圧を変化させている(下図)
  • 唇に乳首などが触れると首を回す探索反射吸啜反射嚥下反射を合わせて哺乳反射という

- 吸啜のメカニズム -
看護roo!

💁 難解漢字に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-12-16

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


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(投稿者 川崎)

2024-12-15

日本内科学会 第246回近畿地方会より

😀 個人的に気になった報告

演題101 肝硬変に生じたパスツレラ症の1例
  • パスツレラ症は代表的な人獣共通感染症であり,Pasteurella multocidaはヒトを除く哺乳類の口腔内常在菌で,イヌでは75%,ネコではほぼ100%に常在するとされる.免疫能の低下した症例で重症化しやすい.

演題179 Burkholderia属菌によるCepacia症候群の1例
  • Burkholderia属菌は特に嚢胞線維症に致死的な呼吸器感染症を起こす菌として報告され,Cepacia症候群と呼ばれる急性に進行する菌血症を伴う壊死性肺炎は致死率が非常に高く臨床的に問題となる.

演題218 溺水により運動後急性腎不全(ALPE)を発症した 1 例
  • 溺水後の急性腎障害は溺水患者の43%に発生した報告もあり,原因は低酸素による尿細管障害,横紋筋融解症,多臓器不全による全身性炎症反応等が考えられる.

演題234 COVID-19肺炎の経過中にセフトリアキソン脳症が疑われた腹膜透析患者の1例
  • 抗菌薬投与中に意識障害,不随意運動を認めた際には,抗菌薬関連脳症を疑い抗菌薬の中止または変更が必要である.原因薬剤の診断のためには,血中濃度を測定しておくことが望ましい.


👻 当院からの発表
  • 演題35 左鎖骨下静脈経由の二腔ペースメーカ植込み後に両側気胸を生じた1例(総合診療科 國延拓也先生 🎉 すでに論文化してPubMedに収載
  • 演題210 腰椎神経根症による脱神経性筋障害を高CPK血症とともに呈し,炎症性筋疾患との鑑別を要した1例(膠原病・リウマチ内科 正木 暁先生)

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(投稿者 川崎)

2024-12-14

アレルギーマーチ The allergy march

  • アレルギーの行進という意味で,親から遺伝によってアレルギーになりやすい体質を受け継いだ子どもが,乳幼児期にまずアトピー性皮膚炎や湿疹を起こし,年齢と共に気管支喘息やアレルギー性鼻炎にもなるなど,次から次へとアレルギーが症状を変えて進展していく様子を行進にたとえて呼んだもの. 


アレルギーマーチ
アレルギー 2017;66:190-203/Allegy & Clinical Immunology News 1989;1:71-31)

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(投稿者 川崎)

2024-12-13

焦点てんかん Focal epilepsy

📚 てんかんの分類
  • 1981年:部分発作(焦点性あるいは局在関連性),全般発作,未分類発作
  • 2010年改訂版:焦点発作(意識ありと意識なし),全般発作,未分類発作

追加解説
  • 改訂版では部分発作という用語がなくなり焦点発作に統一された.発作が両側大脳半球のネットワーク内に起こり,このネットワークが急速に発作に巻き込まれるものが全般性である.一方,一側大脳半球だけのネットワーク内に起始し,はっきりと限局する,あるいはそれよりもう少し広汎に一側半球内に広がったものが焦点性である.


焦点発作(2010年改訂版発作型分類)
  • A.意識障害なし ➜ 運動徴候または自律神経症状が観察される.これは「単純部分発作」の概念にほぼ一致する(発作の症状の表れ方によっては,本概念を適切に表現する用語として「焦点性運動発作」または「自律神経発作」を用いることができる).自覚的な主感覚・精神的現象のみあり.これは2001年の用語集に採用された用語である「前兆」の概念に一致する.
  • B.意識障害あり ➜ これは「複雑部分発作」の概念にほぼ一致する.この概念を伝える用語として「認知障害発作」が提案されている.


😐 追加コメント
  • 先日,意識消失から転倒・骨折した症例を経験しました.他院で焦点てんかんと診断されていましたが薬への反応が悪く時々意識消失があったようです.
  • 術前の心エコー検査中に一過性の2:1房室ブロックが記録されました.その後のモニターで5~7秒の心室静止(その時に失神あり)が確認されました.
  • 本例は伝導障害と焦点てんかんが合併していたのか,実は伝導障害による失神だったのかは不明ですが,最終的にはペースメーカ植込み術を行いました.

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(投稿者 川崎)

2024-12-12

今週の一枚 🎯

心不全でフォロー中の男性(他科でホルモン治療中)


(投稿者 川崎)

2024-12-11

Huヒュー Yoヨー Riリー抗体 (Anti-Hu, Yo, Ri)

  • 概略 いずれも神経細胞抗原を認識する特異的な自己抗体である
  • 意義 傍腫瘍性神経症候群を疑ったときに測定(血清または髄液)
  • 背景 同症候群の60%以上では神経症状出現時に腫瘍は未発見!
  • 類似 他は抗CV2/CRMP-5抗体,抗Ma2抗体,抗amphiphysin抗体
  • 対応 傍腫瘍性ニューロパチーを疑い原発巣を検索してその治療



😐 おまけ
  • 抗体の名前がユニークです(初めて聞いた時はすべて中国の方が発見したの?と思いました).どうやら初めて報告された患者さんの名前(初めの二文字)に由来しているようです(例:HuはHullさん,YoはYoungさん).
  • 傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurologic syndrome: PNS)に対する特異的自己抗体は2種類の命名法があるそうです.1つは前述の名前で,もう1つは免疫組織学的染色の抗体(例:ANNA=抗核神経抗体).(参考

(投稿者 川崎)

2024-12-10

有毛細胞白血病 Hairy cell leukemia

  • 概略 毛髪状の細胞が特徴的な低悪性度の成熟B細胞性リンパ増殖性疾患
  • 疫学 3.5人/100万人・年(米国)で中年期以降に多く男女比は4~5:1
  • 地域 日本などアジアやアフリカでは極稀だが米国では全白血病の2~3%
  • 症状 脾腫(80~90%)と血球減少(70~80%)で易感染性を伴うことあり
  • 骨髄 高率に骨髄の線維化を認め穿刺ではdry tapなので生検が診断に有用
  • 治療 インターフェロンやプリンアナログ,抗体薬(リツキシマブ)など
  • 予後 緩徐な進行で10年生存率は90%以上(ただし二次発癌に注意が必要)


- 有毛細胞白血病の80代女性 -

(投稿者 川崎)

2024-12-09

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


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(投稿者 川崎)

2024-12-08

第138回日本循環器学会近畿地方会より

😃 個人的に気になった報告
 
B-15 遷延する高度徐脈・低血圧をきたし,蜂蜜中毒と診断した一例
  • 蜂蜜中毒はトルコを中心に世界各地で報告されており, 有毒成分Grayanotoxinが原因である. コリン作動性の症状を呈するのに加え, 低血圧やショック, 徐脈, 完全房室ブロックなどが起こり得る. 本症例ではアトロピンの静脈注射を行い, 数分後速やかに循環動態が改善した.

D-3 Micra植込み後ダンシングに対し、経皮的抜去を行った一例
  • 右大腿静脈からMicaデリバリー用シースを挿入し、ダブルスネアテクニックにてMicra本体を2本のスネアで固定しながらデリバリーシース内に格納後、デリバリーシースごと抜去した。

発表ではありませんが…
  • 今回は10時過ぎからコーヒーブレイクセミナーが4会場,15時過ぎからアフタヌーンセミナーが6会場で実施されていました(近畿地方会では初の試み?).いずれも飲み物と和菓子あるいは洋菓子が二つほど入った紙袋がもらえました.もちろんお昼にはランチョンセミナーが7会場でありました.すべて完食したので大満足(でも食べ過ぎ😅)


👻 当院からの発表
  • B-25 拡張期奇異性血流を呈したATTR心アミロイドーシスの1例(循環器内科 西機恵実ほか)
  • B-38 負荷頚静脈評価法:心不全症例のリスク判定(循環器内科 川崎達也ほか)
  • D-25 収縮性駆出性雑音を呈した動脈管開存症の1例(循環器内科 本田早潔子ほか)
  • D-27 発作性心房細動を契機にPH crisisを生じた心房中隔欠損症の一成人例(循環器内科 川俣博史ほか)
  • I-9 心室頻拍の起源が診断契機になった心臓限局性サルコイドーシスの1例(循環器内科 積木勇人ほか)

すべて論文化(4編英語:掲載済1,採択1,投稿中2,作成中1)

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(投稿者 川崎)

2024-12-07

永久気管孔 Permanent tracheostoma

  • 呼吸のために気管を頚部の皮膚に縫合して造られた孔
  • 気管切開とは異なり気管と食道が完全に分離している
  • 喉頭全摘後や重度の嚥下障害に対する誤嚥防止で造設

💣 重要ポイント
  • 患者の呼吸は永久気管孔のみで行われるため永久気管孔を塞いではならない
  • 補助換気や気道確保が必要な場合は,永久気管孔から行わなければならない
  • 2010~2023年に永久気管孔の事故が10件(補助換気に関連した8件の分析↓)


(投稿者 川崎)

2024-12-06

負荷で改善しているわけではないと思います

弁置換術後の症例(座位)

💧 解説
  • 座位で頚部中央に明瞭な拍動を視認する
  • 陥凹なので静脈拍動 ➜ 非代償性心不全
  • 深吸気負荷で胸鎖乳突筋が明瞭になった
  • それと同時に内頸静脈の拍動は不明瞭に
  • BNP:前回172 pg/ml ➜ 今回305 pg/ml
  • 過労回避と減塩指導で早めのフォローへ

💦 個人的見解
  • 吸気時には胸腔内圧が陰圧になるため,健常者では中心静脈圧が低下します.しかし安静座位で内頸静脈の拍動を視認できるほど中心静脈圧の症状した症例(例えば15 cm水柱 or 11 mmHg以上)では,その圧が正常化することはほぼないと思います.実際に圧の測定はしていませんが,頸静脈所見はほぼ悪化します(拍動上縁の上昇あるいは拍動パターンの変化[陥凹から隆起など])
  • しかし日々の臨床では,吸気負荷で内頚静脈の拍動が逆に不明瞭になる症例に稀ながら遭遇します.本例のように吸気という動作に伴い胸鎖乳突筋が明瞭になることもその一つの理由かと思います.内頚静脈は深部静脈であるがため,胸鎖乳突筋を介した皮膚面の拍動で認識する必要があります.胸鎖乳突筋が緊張すると深部の拍動を認識しにくくなるということは容易に理解できます.
  • そもそも論として「安静時に座位で内頚静脈の拍動を認める症例には負荷が必要なのか?」という問題があります.頚静脈評価の普及を願って作成したアプリ「シンプル頚静脈©」では,安静時に陽性なら負荷は不要と謳っています.負荷で重症度を細分化したいとの想いは分かりますが簡便な半定量評価で十分なのかもしれません(例えば3分割法:拍動上縁が鎖骨上窩・頚部中央・顎下)

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(投稿者 川崎)

2024-12-05

今週の一枚 🎯

数日前から発熱と乾性咳嗽が続く若者
来院直前に古い木造家屋に滞在+温泉



(投稿者 川崎)

2024-12-04

Flip-flop fungus sign 逆パターン真菌サイン

flip-flopは「宙返り,とんぼ返り」でfungusは「真菌」.真菌感染症などの良性肉芽腫性病変ではFDG PET/CTで転移性肺癌に類似することがある.しかし肺結節(下図のnodule)と同等かそれ以上のFDG活性を示すリンパ節(下図のnode)が存在することが多い.これは肺癌とは逆でFlip-flop fungus signと呼ばれている.


Flip-flop fungus signを示した68歳男性
CTでリンパ節転移が認められ肺悪性腫瘍が懸念される.しかし右下葉の肺結節(矢印)より右下気管傍リンパ節(円)の方がFDG親和性が強い .生検の病理検査では壊死性肉芽腫であった.(引用:Am J Nucl Med Mol Imaging 2017;7:212-7

👉 PETに関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2024-12-03

白内障術後の緑内障

  • 患者さん 「眼と頭が痛くて吐き気がします」
  • 若手医師 「もしかして緑内障発作…ヤバい」
  • 指導医師 「眼の病気をしたことあります?」
  • 患者さん 「昨年に白内障の手術をしました」
  • 指導医師 「なら緑内障は考えにくいかな~」
  • 若手医師 「😕…なんで?」

🐙 原発閉塞隅角緑内障
  • もともと隅角が狭い眼球に生じる.眼軸が短く水晶体と虹彩が瞳孔縁で接しているため.房水は前房へ向かえず後房に貯留する(瞳孔ブロック).虹彩は前房側に持ち上げられ前房深度が浅くなるため,隅角が閉塞して房水の流出が妨げられて眼圧が上昇する(下図5aの上).
  • 虹彩切開術(レーザーか手術で孔)を行うと,瞳孔ブロックが解除できる(下図5aの下).ただし白内障がある症例では人工眼内レンズ移植が第一選択となる.人工眼内レンズは水晶体よりもはるかに薄く,房水が虹彩と人工レンズの間から前房へ向かう(下図5b)。

💁 緑内障に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-12-02

心不全の身体所見

  • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
  • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

👀 おまけ
  • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
  • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
  • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
Xより(@MarkDrazner

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(投稿者 川崎)

2024-12-01

プロッター Plotter

先日,医療機関の機器更新を相談する会議であまり聞きなれない言葉(プロッター)を耳にしたので調べてみました.

  • 出力機器の一種で主に線を用いて描く(プリンターは点で描く)
  • かつての用途は建築や機械の設計で製図した図面を出力すること
  • 高精細な図を大判の紙に描けるという強みで最近見直されている
  • インクジェット形式も開発されて紙以外の特殊素材にも印刷可能

インクジェット式プロッターの例

(投稿者 川崎)

2024-11-30

背徳(性)症候群

  • 背徳 道徳に背くまたは人倫に反す行為や心のこと
  • 命名 反社会性人格障害で1853年に英国のPrichard
  • 解釈 脳の生来的な欠陥で道徳を守れない人(当時)
  • 現在 医学用語として定着せず(サイコパスに近い)


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(投稿者 川崎)

2024-11-29

😐 画像レポートにMALSって記載されていました

正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome: MALS
  • 正中弓状靭帯により腹腔動脈起始部が圧迫された病態
  • 初報はHarjola(Ann Chir Gynaecol Fenn 1963:52:547-50
  • 基本的には多くの症例で無症候性に経過する良性疾患
  • 腹部超音波検査532名でMALSの検出率は 3.1%(引用
  • 側副血行路の膵十二指腸動脈が過血流で破裂あり(下図)

腹腔動脈起始部圧迫症候群(celiac axis compression syndrome: CACS
  • 腹腔動脈起始部の外因性狭窄により腹痛を来す疾患
  • 女性に多く食後30分~1時間後に腹痛や下痢,嘔吐
  • 身体所見では呼気時に増強する心窩部の血管性雑音
  • 原因は上記MALSが最多で他に先天性や悪性腫瘍など


- 正中弓状靭帯圧迫症候群に伴う膵十二指腸動脈瘤破裂の1例 - 

(投稿者 川崎)

2024-11-28

今週の一枚 🎯

息切れで来院した症例

🐣 解説
  • 右側に加えて左側にも拍動あり
  • ただし拍動は陥凹なので静脈性
  • 吸気負荷で隆起に変化(矢印)
  • 呼吸変動の存在も静脈性に合致
  • しかし用手的圧迫では消失せず
  • 最終的な診断は非代償性心不全

🐥 呟き
  • 頚部拍動には動脈性と静脈性があります.静脈性を示唆する所見としては右側優位,陥凹パターン,呼吸変動あり,圧迫で消失などがあります.逆に動脈性なら,左側でも明瞭,隆起パターン,呼吸変化なし,圧迫されずなどです.
  • 本例では右側に加えて左側でも拍動が目立ちましたが,陥凹パターンで呼吸負荷による変化も伴っていたため視診だけで静脈性(内頚静脈)と診断できました.しかし強めの拍動で圧迫にも負けないチカラ強さには驚きました 😮
  • 右側では稀ながらパワフルな静脈拍動を経験しますが,左側では珍しいと思います.通常このような症例では座位であっても外頸静脈が怒張(注意を要する用語:過去の投稿)していることが多いのですが(自験例)... 奥深い

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(投稿者 川崎)

2024-11-27

左脚領域ペーシングの予後

  • 近年,左脚領域ペーシング(LBBAP)が臨床現場に普及しつつあります.本邦から同手法を右室心尖ペーシング(RVAP)およびヒス束ペーシング(HBP)と比較検討した論文が出版されたのでアップしておきます. 

  • 対象 徐脈でペースメーカを植込んだ日本人424人を後向きに解析
  • 手技 成功率はLBBAP群の方がHBP群よりも高い(94.9%と81.5%)
  • 経過 閾値上昇>1VはLBBAP群でなし,HBP群9.4%,RVAP群5.1%
  • 予後 心不全入院の累積発生率はLBBAP群で有意に低率(下図参照)
  • 関連 予後不良因子は高齢,右室ペーシング割合,EF<50%,RVAP
  • 結語 RVAPやHBPと比較してLBBAPは徐脈患者のペーシングに有用


ペーシング方法と予後(右図はペーシング率>20%の症例)

👉 ペースメーカに関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2024-11-26

🏆 論文

  • 総合診療科の専攻医 國延先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 左鎖骨下静脈経由のペースメーカ植込み術後に両側の気胸が判明した症例です
  • 心房スクリューリードが原因?(ただし心エコーやCTで心嚢液や穿孔像なし)
  • 左側のみ胸腔チューブを留置し1週間後に抜去.その後に無事退院されました


😀 追加コメント
  • ペースメーカ植え込みに伴う気胸の発生率は1%程度と報告されています(引用).対側気胸の機序としてリード穿孔がありますが発生頻度は0.0001%未満(引用).
  • 他に胸膜内交通(バッファロー胸:先天性あるいは手術や外傷後),縦隔気腫や皮下気腫などが提唱されていますが,今回の症例ではどちらもありませんでした.

🎉「論文」の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2024-11-25

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です。「生きた physical examination」を体感・習得して、「感動できる」ものにしていきたいと思っています。毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


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(投稿者 川崎)

2024-11-24

マイボーム腺 Meibomian gland

  • 瞼板腺とも呼ばれる上下眼瞼内にある毛根を伴わない独立皮脂腺
  • 上眼瞼に30-40本,下眼瞼に20-30本存在し眼瞼縁と垂直に並ぶ
  • 粘膜皮膚移行部の僅かに前方に開口し眼瞼縁と眼表面に脂を分泌
  • 個々の腺の長さは上眼瞼中央で 5.5mm、下眼瞼で 2mm(下図)
  • 由来はドイツのHeinrich Meibom the younger(1638-1700)の報告
  • 閉塞で霰粒腫(さんりゅうしゅ),分泌不足でドライアイを生じる
  • 同腺の感染は内麦粒腫(ばくりゅうしゅ),毛根感染なら外麦粒腫
  • 霰粒腫麦粒腫の俗称は「めばちこ」や「ものもらい」他(ココ

引用)The University of Tokyo, 2015,ほか


(投稿者 川崎)

2024-11-23

ミトコンドリア心筋症 Mitochondrial cardiomyopathy

  • DNAの遺伝子異常などで筋症状,脳症状,心症状を主症候とする疾患
  • ミトコンドリア(全てでない)の構造異常でエネルギー産生効率低下
  • 正常と変異の比率は個体間や組織間で異なるためさまざまな表現型
  • 心病変を合併するミトコンドリア病は約10,000〜15,000人に1人発症
  • 形態は心伝導障害,拡張型心筋症(28.9%),肥大型心筋症(46.7%)


💥 シンチグラフィの特徴MIBI/BMIPP mismatch pattern
  • 99mTc-MIBIの取り込みは減少(特に重症例)
  • 99mTc-MIBIウォッシュアウト率は増加する
  • 対照的に123I-BMIPPの取り込みは増加する

核種の集積がBMIPP>MIBIとなる所見(BMIPP/MIBIミスマッチ)は虚血性心疾患とは真逆です.MIBIの取り込みの減少はミトコンドリア呼吸鎖によって生じるミトコンドリア膜電位の低下を反映し,BMIPP/99mTc-MIBI の不一致はトリグリセリド プールの増大によって生じている可能性が提唱されています.



👉 シンチグラフィに関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2024-11-22

たかがリックサック,されど...

慢性左心不全例の定期受診

👜 解説
  • リックサックを背負い診察室に入室(前半)
  • 鎖骨上窩に僅かながら陥凹を認めた(矢印)
  • リックサックを下ろすと拍動は消失(後半)
  • 問診で無理すると息切れがあることが判明

🍙 追加コメント
  • 本例は持続性心房細動を伴うHFpEF症例で,安定期でもBNP値は500 pg/ml前後と高値.リックサックを背負うという行動は仕事であると同時に,静脈の圧迫で血流を変えている可能性あり?
  • 本例がリックサックをして来院したのは初めてなのでそれとなく聞いてみた.すると診察後にお米を買ってリックサックにいれて帰る予定であることが判明.それはオススメしないと伝えた.

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-11-21

今週の一枚 🎯

夕食で刺身を食べた後に胸の違和感(食道癌術後)



(投稿者 川崎)

2024-11-20

ATTR心アミと骨シンチ


- ATTR心アミロイドーシスのシンチグラフィ -
99mTc-PYP
(pyrophosphate)
99mTc-HMDP
(hydroxymethylene diphosphonate)
臨床現場での名称
  • ピロリン酸(DI
  • 骨シンチ or クリアボーン(DI
心臓の効能又は効果
  • 心シンチグラムによる心疾患の診断
  • 心アミロイドーシスの診断に対する使用を審査上認める(令和4年2月:
剤型
  • 粉末キット(生食で溶解し約30分後に投与)
  • 注射液製剤(調整不要)
吸収線量
  • 0.120 mGy/37 MBq(全身)
  • 0.119 mGy/37 MBq(全身)
費用:薬価基準+検査診察報酬点数
  • 24,554円(740 MBq注射液)+1,800点
  • 22,422円(555 MBq注射液)+1,800点
販売元



おまけ 💫 会社沿革
  • PDRファーマですが何度か社名が変更されています(引用).1968年に第一製薬グループと米国マリンクロット社の合弁会社として設立.2006年に第一製薬より富士フイルムへ全株式譲渡し2007年に富士フイルムRIファーマへ.その後に富山化学工業と統合し富士フイルム富山化学を経て2022年からPDRファーマです.
  • 日本メジフィジックスは1973年に米国メジフィジックスと住友化学工業(現住友化学),住友商事の合弁会社としてスタート(引用).その後にメジフィジックス社が資本撤退して日本ロシュが資本参加(後に撤退).1994年に英国のアマシャム社が資本参加し1996年に住友商事が撤退.2004年にGEがアマシャムを買収し現在の2社の出資(住友化学とGEヘルスケア)に至るようです.

(投稿者 川崎)

2024-11-19

ヘルストロン Healthtron

  • 白寿生科学研究所が製造販売している電位治療器
  • 1963年に医療機器として承認済(当時の厚生省)
  • 頭痛や肩凝り,不眠,慢性便秘の症状緩解に有用
  • 累計100万台以上の出荷実績(5,000以上の施設)
  • 身体に電気を直接流すのではなくて電界で包む
  • ペースメーカやO2吸入器,薬剤注入器などは❌
  • 時間の目安は20分程度で費用は1割負担で110円

- ヘルストロンの外観 -

(投稿者 川崎)

2024-11-18

ALS & VC

  • ALS=amyotrophic lateral sclerosis(筋萎縮性側索硬化症)
  • 10万人に1~2.5人で60~70代に好発(男>女,1.2~2倍)
  • 原因は不明でおそよ90%は遺伝性を認めない孤発性である
  • 発症後2~5年で約半数が呼吸筋の麻痺(放置すれば死亡)
  • 呼吸の管理をするうえでスパイロメトリーは必要不可欠
  • 例えば呼吸機能検査%VC(座位・臥位)を3ヵ月毎に計測
  • %VC<65%で呼吸補助を考慮(他はPaCO2>45 Torrなど)
  • 呼吸管理は気管切開を伴う人工呼吸器やNPPV,キュイラス


- ALS 11例の%FVCの推移 -


(投稿者 川崎)

2024-11-17

冷却脂肪融解 Cryolipolysis

  • 冷却による非侵襲的な脂肪減少(痩身医療の一つ)
  • 医療機器クールスカルプティング®(米国)を使用
  • 脂肪細胞は4°Cで凍りシャーベット状(1時間冷却)
  • その後に自然融解させると2~4 カ月後に20%減少
  • 本邦では保険適用外の自由診療(1回で約2〜5万)

冷凍脂肪溶解療法:米国食品医薬品局の承認 (青) とオフラベル適応症 (ピンク)

(投稿者 川崎)

2024-11-16

North-South syndrome 南北症候群

  • 概略 V-A ECMOの合併症で脳など上半身(の一部)が低酸素血還流
  • 別名 Harlequin syndrome(ハーレクイン症候群)やdual circulation
  • 条件 自己心拍出機能が残っていて自己肺酸素化不良な場合(下図)
  • 発見 右上肢の血液ガス測定あるいはSpO2のモニタリングから判明
  • 対策 V-AVやVV ECMOへ変更,右鎖骨下動脈送血,Impella導入など

残存心機能と酸素供給

💁 ECMOに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2024-11-15

キャノンは見えずとも...

ふらつきを訴える症例

🚑 現場実況
  • 本例は前医の心電図を持参されていたため,診察時には3度房室ブロックが既に分かっていました.さっそく大砲A波(Cannon a wave)を確認しようとしましたが,予想に反してあまりはっきりしません.
  • そこで吸気負荷(前負荷増大)を行ってみました.すると頚部がみるみる膨らんできて(通常のクスマウル徴候よりもはるかに大)ちょっとびっくり 😧 患者さんも苦悶の表情だったので慌てて負荷を解除

 👽 つぶやき
  • 本例でキャノン波が不明瞭であった理由は不明ですが,やはり心房機能の低下でしょうか(特にブースター機能>リザーバー機能の障害?)
  • 完全房室ブロックになると,通常では聞こえないような小さいⅣ音が認識できることが少なくありません(Ⅰ音と分離するため:自験例).
  • しかし本例ではⅣ音は聴取されませんでした(心房の機能低下に合致).心房細動の既往はありませんが,将来発生する確率が高いかも...

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2024-11-14

今週の一枚 🎯

発熱で施設から搬送された高齢者(要介護5)



(投稿者 川崎)

2024-11-13

側弯症の検診

  • 実施方法の多くは前屈テストによる視認法(下図)
  • 本邦の側弯症検診は学校保健法に基づき1979年開始
  • 意義は未確立でイギリスやカナダなどでは現在中止
  • 側弯症頻度は1-2%で程度はCobb角で判定(下図C)



(投稿者 川崎)

2024-11-12

三白眼さんぱくがん 👀 四白眼しはくがん

  • 通常の開眼時に黒目(虹彩)の上または下に白目(強膜)が露出してた状態
  • その部位から上三白眼,下三白眼,四白眼(上下ともに観察)に分類される
  • 英名は sanpaku(日本語からの借用語)であるが医学用語ではない(多分)
  • 美容を除き臨床的意義に乏しい(ただし眼瞼下垂などと関連することはある)

三白眼として知られていた資産家 J. ポール ゲティ

(投稿者 川崎)