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2021-04-23

ばち指 vs 結核

ばち指自体は、今のところ血小板由来増殖因子(PDGF)や血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が肺の毛細血管で除去されないことで末梢組織まで流れ、指尖部の結合組織を肥厚させていると考えられています。肺癌では肺の毛細血管が破壊されることで、これらの因子を捕集することができなくなるため、ばち指になると考えられます。特発性肺線維症でばち指が見られるのも同様の理由だと考えられます。

😗 では、なぜ "結核ではばち指が見られない" かについてですが、僕なりに2つの仮説を立て、それぞれについて考えてみました。
  • 仮説1 結核の好発は肺尖部であることから、肺尖部の毛細血管は、増殖因子の捕集に重要な役割を担っていない ➜ 今回の患者さんのようにPancoast腫瘍であってもばち指が見られるため恐らく違う
  • 仮説2 結核の病巣部で毛細血管が保たれているから、増殖因子が末梢に出てこない ➜ このことについて調べてみると、めちゃくちゃ昔の文献ですが、こんなものがありました ➜ 論文

上記研究では、細葉性結節:毛細血管の異常構造、破綻なし小葉性乾酪性病巣:乾酪壊死巣では毛細血管が消失しているが、周囲で毛細血管が発達していると総括されています。結核では乾酪壊死巣で毛細血管の破綻が起きたとしても、周囲で毛細血管が発達することで増殖因子の捕集には影響を及ぼさないと考えられます。これは、仮説2を支持するのではないかと考えています。

😑 しかし、いくつかの文献を読んでいると、結核患者の1/3でばち指が観察できた、というものもあります。
ただこれらの調査対象はアフリカ地域であり、結核に対する医療が十分でないということが書かれているため、不十分な治療では毛細血管の破綻を来す可能性がある、とも読み取れるかなと思っています。とはいうものの、上で紹介した日本の臨床研究に関しても、昭和28年時点で日本の結核治療がどのようなものだったのかは僕自身よく分からない、、、ということがlimitationです。

🏃 感想
  • 国試的には、ばち指は特発性肺線維症で見られるがCOPDでは見られない、ということが有名で、COPDでは血管破綻しないんかなっていうところが現在の疑問です。

(投稿者 土橋)

2020-08-06

🎯 今週の一枚

息切れと黄疸で来院した症例

🙌 ばち指(Clubbed finger)
  • 呼吸器疾患やチアノーゼ性心疾患で出現するが,肝硬変や炎症性腸疾患などでも認めることがある.ばち状指や撥指,Nail clubbing, Digital clubbingとも記載される.
  • 機序として,動静脈シャントによる血小板由来成長因子や血管内皮細胞増殖因子の不活性化抑制で結合組織が過形成されるという仮説が提唱されている(Lancet 1987;2(8573):1434-5
  • 少なくともヒポクラテス(紀元前384-322)の時代には病的所見として知られていて,"Hippocratic fingers"(ヒポクラテリック・フィンガー)と呼ばれていたようです(PMID: 30969535
  • 診断の目安は指と爪床の角度が165度以上で,両手の爪を合わせた時に通常存在するダイアモンド型の隙間が消失するシャムロステスト(Schamroth's test)が有用(S Afr Med J 1976;50:297-300


(E=正常・F=ばち指:Respir Med 2017;132:226-31

👽 臨床現場
  • 本例はファロー四徴症に対して幼少期に手術を受けていた.主訴の一つである息切れは肺炎であると考えられたが,肺炎の改善後にもチアノーゼが残存した.肝硬変が合併していたため黄疸があり,遷延する低酸素血症は肝肺症候群(HPS: Hepatopulmonary syndrome)によると判断した.その身体所見はシンプルであったが,背後の病態はとても複雑であった.

👿「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2022-04-22

🏆 論文

  • 当院の初期研修医である土橋先生が循環器内科で経験した症例が出版されました
  • 労作時の胸痛で紹介受診して身体所見のばち指から肺癌合併の診断に至りました
  • 肺癌 ➜ 狭心症の順に治療を行い,バチ指も経時的に改善しています(下の写真)


😀 追加コメント
  • 本例は右肺尖部の肺癌で,パンコースト腫瘍として胸痛を生じることがあります(パンコースト症候群).しかし本例の胸痛は典型的な労作性でした.実際に肺癌切除後も胸痛は続き,冠動脈の治療後に消失しました.
  • バチ指(Clubbed finger)を生じる機序として,「肺内シャントを通過した凝集血小板や巨核球から放出される血小板由来増殖因子で爪床下の軟部組織が増殖する」ことが推測されています(J Pathol 2004;203:721-8
  • 本例のばち指改善は肺癌の術後から始まりました.しかし冠動脈治療に関連して開始された抗血小板による効果もあったのかもしれません.両者の関係に言及した論文 ➜ J Am Acad Dermatol 2005;52:1020-8

🎉「論文」の過去投稿は コチラ(ウェブ版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-04-22

🎯 今週の一枚

胸痛で循環器内科を紹介受診した症例


(投稿者 川崎)

2022-12-05

👴 歴史クイズ




(投稿者 川崎)

2022-05-12

🎯 今週の一枚

倦怠感でERに搬入/座位で内頸静脈拍動+PaO2 150mmHg(酸素下)

問題 急性左心不全の重症度分類 ノリア・スティーブンソン で予想されるのは?





判定

🚑 現場実況
  • 酸素濃度は保持されているが爪床のチアノーゼあり ➜ 低心拍出量を反映
  • 実際に本例では手指冷感が著明で,末梢循環不全と診断(いわゆるcold)
  • 内頸静脈は座位陽性つまり中心静脈圧の著増が示唆される(いわゆるwet)
  • 以上よりNohria-Stevenson 分類のプロファイルCに分類(一番予後不良)
  • 本例は低左心機能例で electrical storm(incessant VT)に陥った状態
治療後に末梢循環は改善

💙 チアノーゼ
  • 低心拍出量による末梢循環不全のチアノーゼは見た目も冷たそう他の自験例).一方,末梢循環が保たれた心不全増悪による低酸素血症なら冷感なし(自験例
  • 末梢チアノーゼは先天性心疾患でも出現し,この場合はばち指を伴うことが多い(自験例).逆にチアノーゼを伴わないバチ指なら肺癌など肺疾患を疑う(自験例
👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2021-12-12

第132回日本循環器学会近畿地方会より

T1-19 ピロリン酸シンチが陰性であった肥大型心筋症歴のある野生型トランスサイレチン型アミロ イドーシスの一例
  • 病初期の場合などにピロリン酸シンチは偽陰性を呈することもあり,Apical sparingを認める肥大心では生検での診断を考慮することも重要と考えられた。

T2-5 COVID-19ワクチンにより心室細動が誘発されたと考えられたBrugada症候群の一例
  • 本症例ではワクチン接種後の発熱がVFの誘因となった可能性がある。ESCではBrugada症候群に対するCOVID-19ワクチン接種に際して,解熱薬の投与を推奨してい る。

T4-35 心臓MRI T1強調画像にて冠動脈にhighintensity plaque(HIP)を認めた左前下行枝慢性完全閉塞病変の一例
  • 心臓MRIによる冠動脈不安定プラークを検出する手法が注目を集めている。本症例でも術前の不安定プラークの予測に心臓MRIによる冠動脈HIPが有用であった。

T6-25 完全皮下植込み型除細動器リード脱落をきたしたReel症候群の1例
  • 透視下でS-ICDジェネレータ側面をリードが周回しており,上体を捻るような動きで再現性を持ってジェネレータにより電極リードが牽引される様子が観察され,Reel症候群と診断した。

T8-49 がん合併下肢末梢型深部静脈血栓症は,抗凝固療法なしで半数が悪化,そのうち約2割が中枢型に進展する
  • がん患者に合併する下肢末梢型DVTは,抗凝固療法導入・継続できない場合は8.3%が中枢型DVTに移行することが示された。

👻 当院からの発表
  • T1-6 吸気に対する頸静脈反応:心不全のリスク評価(循環器内科 車古大樹先生ほか)
  • T4-32 身体所見による肥大型心筋症の診断(循環器内科  川﨑達也ほか)
  • T5-2 ばち指が最終的に消失した肺癌を伴う狭心症の1例(循環器内科 土橋哉仁先生ほか)
  • T5-29 Becker徴候を記録できた大動脈弁閉鎖不全症の1例(循環器内科 車古大樹先生ほか)

みんなとてもよかったです 😇 4演題とも英語論文として投稿中あるいは採択後もいいね

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2021-09-12

日本内科学会 第233回近畿地方会より

🐤 9/11にWEBで開催(個人的に気になった演題)
演題 34 カテーテルアブレーションの際、中隔穿刺時に下行大動脈を誤穿刺してしまった1例
  • 心房中隔穿刺における大動脈穿刺の合併症は0.03~0.05%.本例ではワイヤーのみの大動脈に穿通していると判断し慎重に抜去してその後は通常通りに肺静脈隔離を実施.

演題59 EBUS-TBNAで結核性リンパ節炎と診断した慢性腎臓病患者の1例
  • EBUS-TBNAとはendobronchial ultrasound-guided trans- bronchial needle aspirationの略で超音波ガイド下経気管支針生検のこと

演題91 1週間前からの咳嗽を契機に診断された気管支結石
  • 気管支結石の成因に関しては,気管支内腔の分泌物・粘液・異物を核に石灰沈着を生じたもの.肺実質・気管支周囲リンパ節の石灰化,気管支壁の石灰化が知られている.

演題97 処方カスケード形成によるポリファーマシーの1例
  • 処方カスケードとは処方された薬剤による有害な反応を新たな病状と誤認し,それに対して新たな処方をすること.本例では利尿薬によって生じた食思不振・嘔吐に対して制吐薬や漢方薬が処方された.

演題112 緊急内視鏡治療が奏功した糞便による閉塞性大腸炎
  • 糞便による閉塞性大腸炎は受診時にショックを呈し緊急手術の適応となる症例が多い.早期診断および内視鏡的治療により重症化を回避しえるため,便秘症の診療に当たっては本疾患に念頭に置く.

🎊 当院からの発表(とてもよかったよ〜)
  • 演題26 ばち指が肺癌の診断と経過観察に有用であった労作性狭心症の1例(土橋哉仁先生ほか,循環器内科・呼吸器内科・呼吸器外科)

🎓「学会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2020-07-17

肝肺症候群 HPS: Hepatopulmonary syndrome

  • 慢性肝疾患に伴ってpre-capillaryレベルでの肺血管拡張による低酸素血症を生じた状態
  • 米国の医師KennedyとKnudsonによる低酸素血症の肝硬変例が初報(Chest 1977;72:305-9
  • 機序は肝障害で代謝できなくなった血管拡張物質による肺内シャント(eNOSが関与?)
  • シャントの証明 ➜ 肺血流シンチグラフィ,肺血管造影,コントラスト心エコー図など
  • 100%酸素吸入あるいは99mTcMAA肺血流シンチグラフィなどでシャント率の測定が可能
  • 低酸素血症を反映するクモ状血管腫,ばち指,チアノーゼなどが出現(特異的ではない)
  • 頻度は門脈圧亢進症を伴う慢性肝疾患患者の約20%あるいは肝疾患患者の5~32%と報告
  • 予後は不良で唯一の根本的治療は肝移植(有効な薬物療法はないため酸素を投与するのみ)



🉐 関連投稿(呼吸編)

(投稿者 川崎)