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2025-10-21

大動脈二尖弁の感染性心内膜炎は予後不良

  • 対象 孤立性の感染性心内膜炎の連続患者728名
  • 内訳 計123例(16.9%)が大動脈二尖弁(BAV)
  • 予後 年齢や性別、合併症の指数で補正後に検討
  • 期間 追跡の中央値は67.2ヵ月(IQR: 19~120)
  • 生死 三尖弁(TAV)と比較しBAVで差なし(図)
  • 合併 BAVで弁周囲または神経学的合併症が増加

 

💁 同論文の考察より(3段落目のAI翻訳/引用論文は割愛)
  • 塞栓症のリスクは、疣贅の大きさ(>10 mm)および可動性と相関することが確立されている。本研究においては、BAV-IE(二尖の感染性心内膜炎)とTAV-IE(三尖の感染性心内膜炎)の間で、疣贅の長さおよび塞栓性イベントの頻度に有意差は認められなかった。しかし、主要な神経学的イベントの発生率は二尖弁患者で高く(それぞれ22% vs. 14%、p = 0.027)、主要な神経学的イベントの発生はBAVと独立して関連していた。 これまでの報告と同様に、BAV-IE患者ではTAV-IE患者よりも周弁合併症が多くみられた
  • この周弁病変に対する感受性の高さは十分には解明されておらず、我々は大動脈二尖弁に依存する異常な血流が大動脈基部に影響を及ぼしている可能性を推測している。より懸念される仮説として、感染性心内膜炎の進行過程の後期に弁周囲合併症が発生することを考慮すると、若年層であるこの集団では感染性心内膜炎が疑われず、診断および紹介が遅れる可能性があるという点が挙げられる。 さらに、膿瘍は通常、感染性心内膜炎の進行の後期に発生するため、診断前に投与された経験的抗菌薬治療が診断の遅れやBAV-IEにおける培養陰性率に関連した可能性もある。

🚑 感染性心内膜炎に関する過去の報告 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2025-10-20

Ⅳ音とエコーA波:深堀

  • 数年前ですが講演後に「肥大型心筋症で明瞭なⅣ音を認めるのに心エコー図のA波が低いのはどうしてですか?」と質問を受けました.残念ながらその場ではうまく答えることができませんでした.そのやり取りをWEBでご覧になっていた身体所見の巨匠から解説メールをいただきました.
  • 先日,Ⅳ音とその機序に関してX(旧Twitter)に投稿を行いました(ココ).しかし私の理解および文章が不正確であったため,翌日に同じ巨匠から再度,解説メールをいただきました(とても反省).同じ過ちを繰り返さないためにも,忘備録として下記にまとめをアップしておきます.

💫 巨匠の指導内容の要約
  • 左室拡張末期圧(EDP)上昇例の左室流入A波はすべて増高するわけではない。EDPが中等度以上に上昇すると心房機能は亢進しているにも拘わらずA波は減高する(いわゆる偽正常化)。この場合でも立派なⅣ音を聴取(HCMの大半はこのパターン)
  • その原因は左室が硬すぎるあるいはEDPが高すぎるため心房機能は亢進しているのに左室側には少ししか流入できないためで、大半は肺静脈側に逆流している。実際このような例の肺静脈血流波形を記録するとA波が著明に増高している。
  • 以上のことから、Ⅳ音が出現する病態は、左室流入A波増高・肺静脈血流A波正常左室流入A波減高・肺静脈血流A波増高の2つがあり、後者の方がより進行した状態で予後不良と言える。 
  • 左室流入A波は小さくても、心房機能は亢進しているため左室圧A波は増大している(これが心尖拍動のA kickとして触れる)。すなわち、左室流入A波は小さくても左室を振動させるパワーとしては十分に働いている。
 
🔗 帽弁口血流速波形と違って心尖拍動のA波は偽正常化しにくい
  • LVEDPが約20mmHgを超えると僧帽弁口血流速波形(MVF)は偽正常化し始めるが(下図左)、心尖拍動のA波率(A/H)は偽正常化せずLVEDPが30~35mmHgくらいまで増大し続ける(下図右)。
  • A/Hは、それ以上の著明な上昇(LV-preA圧の中等度上昇も同時に伴う状態)になって初めて減高に向かう。この時点にまで至ればMVF-A波・PVF-A波ともに減高し、Ⅳ音も当然弱くなる。
  • 肥大心や拡大心においてMVFが一見正常パターンで正常か偽正常かの判断に迷った時にACG-A波を触れるかあるいは記録したACGのA波増高を確認できたならばMVFが偽正常であると判断できる。

Jpn J Med Ultrasonics 1986;13:315-323に関連する原画)

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(投稿者 川崎)

2025-10-19

クループ(症候群) Croup (syndrome)

  • 急性の臨床経過で上気道の閉塞または狭窄を生じる疾患の総称
  • 古スコットランド語の擬音語 kropan(騒々しく泣く)に由来
  • 予防接種の普及で細菌の感染から発症する症例は減少している
  • 現在では主にウイルス感染に伴う急性喉頭気管気管支炎が多い
  • 典型例は夜間に吸気性喘鳴や犬吠様咳嗽、吸気性呼吸困難など
  • 3~4日程度で回復(抗菌薬不要/重症例は酸素やステロイド)
  • 鑑別は喉頭蓋炎,痙性,ジフテリア,膿瘍,異物,アレルギー


- 吸気性喘鳴と発熱を主訴に受診したクループの2歳男児と3歳女児 -

(投稿者 川崎)

2025-10-18

siエスアイRNA 低分子干渉RNA

  • siRNAとはsmall interfering RNA(ribonucleic acid)の略
  • 21-23塩基対から構成される低分子二本鎖RNA(リボ核酸)
  • 遺伝子の発現を配列特異的に抑制(=RNA干渉)に関与
  • ただしその効果は一過性(発現ベクターの導入で持続可)
  • RNAサイレンシング医薬として臨床応用(siRNA薬:
  • RNAサイレンシング=特定の遺伝子の産物の発現を抑制


- ヒトにおけるRNAi経路およびmiRNA経路 -

(投稿者 川崎)

2025-10-17

超音波検査用ゼリー

エコージェル あれこれ
  • 構成 ➜ 水,グリセリン,カーボンポール樹脂(粘度調整用),pH調節剤,中和剤など(防腐剤としてパラベンを含むこと有)
  • 注意 ➜ 感染対策を怠ればアウトブレイクの可能性あり(下表:継ぎ足しはせずに使い切ってボトルを水洗・乾燥後に再利用)
  • 種類 ➜ 心エコー図では腹部・表在エコーよりも硬めに調整されていることが多い(例:各々アクアソニックとソノゼリー)


👀 おまけ
  • 先日,生理検査室のソノグラファーさんとのちょっとした会話から「腹部と心臓でエコーゼリーの粘度が違う」を知りました😯
  • 実際に触ってみると明らかに異なりました.不肖30年以上エコー検査に携わってきましたが,まだまだ知らないことが山盛り😂

(投稿者 川崎)

2025-10-16

今週の一枚 🎯 診療室内で運動負荷

無理すると息切れがあるという男性(座位)


👀 解説
  • 安静座位で内頚静脈の拍動なし
  • 吸気負荷で一瞬,僅かに拍動?
  • 診察室内を2周歩いてもらった
  • すると座位で明瞭な拍動(➢)
  • 最終診断は非代償性の心不全

👶 コメント
  • 頚静脈の座位定性法の可能性は無限です.様々な負荷が追加できるからです.吸気負荷が最も簡便ですが,前屈負荷蹲踞負荷左上肢挙上負荷立位負荷なども可能です.そしてそれらを組み合わせることも有用です.
  • 当院で最初に行った負荷頚静脈法は6分間歩行でした(論文).しかし診察室やベットサイドでは実施が困難で活用範囲が限定されます.今回行った診察室内を少し歩きまわってもらう負荷はベットサイドでも可能です.

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-10-15

SARS-CoV-2感染症治療薬

商品名 ベクルリー点滴静注用100mg ラゲブリオカプセル200mg パキロビッドパック300/600 ゾコーバ錠125mg
一般名 レムデシビル モルヌピラビル ニルマトレルビル/リトナビル エンシトレルビル
剤形 注射 カプセル 錠剤 錠剤
用法用量 初日200mg、2日目以降100mg
軽症:3日間
中等症:5日間
(総投与期間は10日まで)
1回800mg
1日2回・5日間
300パック
※30≦eGFR<60
600パック 初日375mg
2~5日目125mg
ニルマトレルビル150mg
リトナビル100mg
1日2回・5日間
ニルマトレルビル300mg
リトナビル100mg
1日2回・5日間
薬価 46,498.0円/瓶 2,164.9円/カプセル 12,538.6円/シート 19,805.5円/シート 7,090.0円/錠
自己負担額の目安*
(成人1治療あたり)
1割負担 18,599円 8,660円 6,269円 9,903円 4,963円
2割負担 37,198円 17,319円 12,539円 19,806円 9,926円
3割負担 55,798円 25,979円 18,808円 29,708円 14,889円
*ベクルリーは3日間として算出

(投稿者 小森)

2025-10-14

術前絶飲食「2-4-6ルール」

  • 清澄水の摂取は年齢を問わず麻酔導入2時間前まで安全(推奨度 A)
  • 母乳の摂取は麻酔導入4時間前まで安全(推奨度 C)
  • 人工乳・牛乳の摂取は麻酔導入6時間前まで安全(推奨度 C)

💧 清澄水セイチョウスイ(クリアリキッド)
  • ここで言う清澄水とは,果汁を含まないジュースやコーヒー飲料など自由度が高く,各施設に適したものを選択できる.また,量については特に制限しておらず,こちらも自由度が高い.このように,このガイドラインは導入施設により,適した運用を選択することが可能であり,汎用性が高いといえる.


(投稿者 川崎)

2025-10-13

フィジカルクイズ(No. 25 & 26)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週末に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-10-12

PIMSRA:ピー・アイ・エム・エス・アール・エー

  • 閉塞性肥大型心筋症 (HOCM) に対する侵襲度の小さい新たな治療
  • Percutaneous Intramyocardial Septal Radiofrequency Ablationの略
  • 邦名は心エコーガイド下経皮的心筋内中隔高周波アブレーション
  • 中国のLiwen Liuらが開発(J Am Coll Cardiol 2018;72:1898-1909
  • 15例6ヵ月間で患者の最大圧較差が88 mmHgから11 mmHgへ減少
  • 心室中隔壁は25 mmから14 mm、BNPは924 pg/mlから137 pg/ml
  • 手術に関連した脚ブロックや完全房室ブロックは発生しなかった

- PIMSRAのイメージ -


(投稿者 川崎)

2025-10-11

パラシュート反射

  • 体平衡が乱れたときに速やかに調整しようとする姿勢反射の一つ
  • 具体的には水平の状態で急に頭を下げると手を広げる反応のこと
  • 大脳皮質や中脳が発達する生後6カ月~1歳に出現(特に8~9ヵ月)
  • ハイハイする頃(8ヵ月)からパラシュート反射で転倒に備える?
  • 姿勢反射は一生消えることがないためパラシュート反射も一生有
  • 他の姿勢反射にはホッピング反射(足踏出)やランドウ反応など

参考)ベビーカレンダー、他

😃 おまけ
  • 姿勢反射とよく似たものに原始反射があります。こちらは脳幹や脊髄による無意識の反射で、出生時に存在して中脳や大脳の発達に伴い消失します(概ね半年~1年以内)。つまり原始反射のあとに続いて出てくるのが姿勢反射のようです。
  • 主な原始反射には、把握反射(手掌など刺激すると指を屈曲)、吸啜反射(口に入ってきたものを強く吸う)、モロー反射(振動や音などの刺激時に何かに抱きつこうとする)、歩行反射(前かがみになった時に足を出す)などがあります。

参考)ベビーカレンダー、他

(投稿者 川崎)

2025-10-10

RSウイルス Respiratory syncytial virus

  • 原因はParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるRNAウイルス
  • 乳幼児の肺炎の50%、細気管支炎の50~90%、小児気管支炎の10~30%
  • 本邦では11~1月(コロナ後は6~8月?)に流行(熱帯地域では雨期)
  • 生後1年で50~70%以上の新生児が罹患し3歳までに全小児が抗体獲得
  • 呼吸器飛沫や分泌物等による家族内伝播あり(特に乳幼児~年長小児)
  • 潜伏期は2~8日で発熱、鼻汁など上気道炎症状(数日)→ 下気道症状
  • 診断は鼻粘膜ぬぐい液で迅速診断(15分、だたし保険適応は1歳未満)
  • RSV感染の致死率は1~3%?(特に基礎疾患がある時や生後6ヶ月以内)
  • RSV再感染は普遍的に認められる(縦断的調査では毎年6~83%の小児)



(投稿者 川崎)

2025-10-09

今週の一枚 🎯 無塩食

長年安定していた心不全例(座位)


🍟 現場実況
  • 通常は安静時も吸気時も頚静脈は陰性
  • 今回は安静時に鎖骨上窩で陥凹(矢印)
  • 深吸気保持で外頚静脈が怒張している
  • 内頚静脈の拍動の上縁も上昇(矢頭)
  • しかも拍動パターンは陥凹から隆起へ
  • 予定していた心エコー図には著変なし
  • 問い直すと自覚症状は悪化していたと

🍙 追加コメント
  • 安定していた心不全が悪化した原因を尋ねたら「継続していた無塩食を少し前に辞めた」ことを教えてくれました.
  • 無塩食は思っているよりも簡単なようです.自宅で無塩調理(食塩や醤油,味噌などの調味料を使用しない)だけ
  • 無塩食だから外食不可も古い考えだそうです.現在では無塩を依頼すれば多くのお店で対応してもらえるようです.
  • 無塩(かつ無糖)の食生活を20年以上も継続されている循環器内科専門医が霧島記念病院におられます(コチラ

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-10-08

ケルスス 禿瘡とくそう Celsus' Kerion

  • 毛髪に皮膚糸状菌が寄生した頭部白癬の一病態
  • 脱毛斑を生じて様々な程度の炎症や鱗屑を伴う
  • 戦前は男児の疾患であったが近年は大きく変化
  • 皮膚糸状菌が人から人,動物から人へ感染する
  • 毛嚢から侵入して真皮や皮下組織に化膿性炎症
  • 急性の経過をとり多発する膿疱が特徴的である
  • 炎症の強い例では疼痛が著しく腫瘤形成もある
  • リスクはスポーツ歴,ペット,ステロイド外用
  • 診断は毛髪や黒点の毛包内容を鏡検および培養
  • 治療はイトラコナゾールやテルビナフィン内服


- 柔道教室に通う8歳男児に生じたケルスス禿瘡 -

😃 雑学

(投稿者 川崎)

2025-10-07

胸部X線の側面像:左室拡大

  • 側面像は付け足しではなくきちんとした読影を行うべき
  • 気管,食道,右上葉気管支口,左主気管支,左肺動脈,大動脈,心臓,下肺静脈などが同定可能
  • 心陰影下部のやや後方に下肺静脈が見られるが,これを異常陰影と誤ってはいけない

  1. 心陰影の前縁 ➜ 右室流出路
  2. 心陰影の後縁上部 ➜ 左房
  3. 心陰影の後縁下部 ➜ 左室



👻 追加コメント
  • 先日,胸部X線の側面像を用いて左室拡大の有無が判断できることを学びました.確かに正面像では心拡大が左心か右心か判断できないことがあります.側面像で心陰影の後縁下部が左室を反映することを知っていれば,心拡大に寄与した心室が鑑別できます(大まかな目安:横隔膜との交点が中央より背側なら左室拡大).なるほど…側面像は付け足しではなさそうですネ😕

(投稿者 川﨑)

2025-10-06

心音クイズ(Q11・Q12)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズのシーズン2 第二弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回はちょっと珍しい右心系の心雑音を呈した2症例です.ココで経験しておけば実際の臨床現場で遭遇した時にも迷わずフィジカル診断?
  • 今後も3ヵ月毎に2症例ずつアップする予定です(次回は2025年11月の予定).無料なのでよろしければご覧ください(※Q3以降は初回のみ簡単な登録が必要).一緒に聴診学の楽しさと奥深さを共有できれば作成者としては嬉しい限りです 😁


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(投稿者 川崎)

2025-10-05

心電図:アスランガーのパターン(Aslanger's pattern)

  • 急性下壁梗塞の心電図で出現しうるパターン(下記3所見)
  • トルコの循環器医 Emre Aslanger らが2020年に報告(
  • その出現頻度は急性下壁梗塞の13.3%,non STEMIの6.3%
  • 右冠動脈に加えて他の冠動脈に重篤な狭窄の可能性がある
  • 通常の下壁梗塞より梗塞サイズが大きく死亡率が高くなる
  • ただし右冠動脈を伴わない症例の報告もあり(下図参照)

💁 心電図所見
  1. Ⅲ誘導で孤立性ST上昇(他の下壁誘導でST上昇なし)
  2. V4-V6誘導でST低下+陽性T波あるいはT波終末部陽性
  3. V1誘導のST部分の偏位がV2誘導のST変化よりも高い


- 左冠動脈のACSでAslangerパターンを示した62歳男性 -

(投稿者 川﨑)

2025-10-04

血培:Choosing Wisely(賢明な選択)

👭 先日のカンファレンス
  • 発熱があると家族に連れられて夜間のERを受診した高齢者.本人は無症状で,特記すべき既往歴もない.軽度の炎症反応があり,尿検査と全身CTから尿路系の感染症が疑われた.血培が追加され,内服抗菌薬を処方され帰宅した.改善がないときには再診するよう指示された.
  • 翌日,血液培養から大腸菌が検出されたと病院から連絡があり入院した.すでに炎症反応はピークアウトしていると思われたが,抗菌薬を内服から点滴に変更.その後しばらくして,体幹に皮疹が出現した.皮膚科を受診し抗菌薬による副作用が疑われた.入院期間は延長...

🚨 日本版敗血症診療ガイドライン2024 より
  • 菌血症は,心内膜炎,カテーテル関連血流感染症,肺炎,膿瘍,骨髄炎,腹腔内感染症,尿路感染症などの感染症で生じ,高い死亡率を示している。
  • 敗血症においては,38〜69%で菌血症を合併することが報告されている。各種の迅速診断法が開発されているものの,現在でも血液培養は敗血症の病原微生物を同定する標準的検査法である。
  • 菌血症を疑う症状(発熱,悪寒・戦慄など)の出現,原因不明の低体温,低血圧,頻呼吸,意識障害(特に高齢者や小児),白血球数増加や減少,代謝性アシドーシス,免疫不全患者における呼吸不全・急性腎障害・急性肝障害などがみられた場合は敗血症を疑い,できるだけ早急に血液培養を 2セット以上採取することが推奨されている。
  • 悪寒・戦慄を伴う発熱が生じた場合は菌血症の陽性尤度比が高い。一方,菌血症の可能性が低い場合の発熱や白血球数の上昇のみでは必ずしも血液培養を採取しなくてもよいとする報告もある。

😑 独り言
  • 血液培養の診療報酬点数は225点で,嫌気性培養を行った場合は122点が加算されます.よって2セットなら計6,940円です(令和6年版:今日の診療サポート
  • 医学は確率の側面を有するため必ずしも想定通りにはいきませんが,医療費の蛇口の開閉を担う医師は Choosing Wisely(賢明な選択)を心がけたいものです.

(投稿者 川﨑)

2025-10-03

日本内科学会 第249回近畿地方会より

😀 個人的に気になった報告

演題5 中年期に診断された下垂体茎離断症候群の1例
  • 造影MRIで下垂体茎の離断、前葉の低形成、異所性後葉を認め、周産期異常に関連した下垂体茎離断症候群(PSIS)と診断した。原因として、周産期異常、頭部外傷や手術による機械的な下垂体茎の断裂、下垂体の胎生期の発生異常などが関係する可能性が考えられている。発症率は約0.5/10万人で、出生に伴うPSISは0.5/100万出生と極めて稀である。※PSIS=Pituitary stalk interruption syndrome

演題10 虚血性心筋症と診断されていたが中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)と判明した1例
  • 経過中のLDLコレステロール値は50mg/dl前後で管理していたが短期間で冠動脈病変の著しい進行が認め、虚血性心筋症以外を疑いBMIPP心筋シンチ施行した所、Wash out rate 7.7%と低下認め、TGCVと診断した。TGCVは、2008年に提唱された新規疾患概念であり、細胞内の中性脂肪(TG)分解が障害され、難治性心不全、びまん性冠動脈疾患、心室性不整脈等を呈する循環器病の仮面をかぶった代謝病である。※TGCV=Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy

演題129 ジスチグミン臭化物によるコリン作動性クリーゼをきたした1例
  • 神経因性膀胱に対してジスチグミン臭化物5mg/日を10年前より内服していた。入院2日前より下痢を認め、入院当日より湿性咳嗽、排痰困難、多量の気道分泌物を認め、当院へ救急搬送された。ジスチグミン臭化物(ウブレチドなど)によるコリン作動性クリーゼは内服開始2週間以内に発症することが多いが、長期内服中に脱水や腎機能低下を契機に発症することもある。

演題131 HFNCによる100%酸素吸入法によって, シャント率の測定を行った肝肺症候群の1例
  • 経胸壁心エコーでは肺高血圧の所見はなく、バブルテストで 6,7心拍後に左房に大量のバブル流入を認め、肺内シャントが示唆された。右心カテーテル検査・肺血流シンチグラフィ・肺動脈造影CT検査で他疾患の除外を行った。右心カテーテル検査・肺血流シンチグラフィに加え、high-flow nasal cannula(HFNC)を用いた100%酸素吸入法によってシャント率を測定し、いずれも同等な値であった。HFNCを用いた100%酸素吸入法は、低侵襲な検査であり、利便性の点から有用であると考えられた。

演題155 SACIテストが局在診断に有効であったインスリノーマの1例
  • 造影CTで膵臓に早期濃染を伴う1cm台の腫瘤性病変を認め、EUSで膵頭体移行部に低エコー域を認め、EUS-FNAでクロモグラニンA、シナプトフィジン陽性細胞を認め神経内分泌腫瘍に矛盾しない所見であった。SACIテストでは脾動脈近位でグルコン酸カリウム注入前後でインスリン濃度が3.24倍に上昇したため膵中央部切除術を行う方針となった。※SACI=selective arterial calcium injection=選択的動脈内カルシウム注入法

💁 学会に関する過去の投稿 ➜ コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2025-10-02

今週の一枚 🎯

- 息苦しさで来院した高齢男性 -



(投稿者 川崎)

2025-10-01

愛玩あいがん動物看護師
Veterinary Nurses for Companion Animals(VNCA/VNs)

  • 先日,仕事で愛玩動物看護師の方と打ち合わせを行いました.従来からある動物看護師(民間資格)に対して,愛玩動物看護師は国家資格であるとお聞きしました.

🐶 愛玩動物看護師(VNCA/VNs)
  • 目的 愛玩動物に関する獣医療の普及と向上,愛玩動物の適正な飼養に寄与 
  • 制度 愛玩動物看護師法(令和元年成立,令和4年施行/農林水産省と環境省)
  • 業務 診療補助、愛玩動物の世話や看護、愛玩動物を飼養する者へ助言など
  • 実例 獣医師の指示で輸液注射、採血、マイクロチップ装着、投薬等(下図)
  • 不可 診断、エックス線撮影など放射線照射、ワクチン等は引き続き獣医師
  • 動物 犬、猫、他に政令で定める動物(=愛玩鳥)(ウサギや亀は含まれず)
  • 注意 従来の民間資格取得者は類似名称の使用禁(動物看護師、動物看護士)
  • 受験 大学で指定科目を修めた卒業者または専門養成所で3年以上学んだ者など
  • 免許 2024年で約18,000名(合格率>90%,9割以上が女性で20代が最多37%)

参考)農林水産省,他


(投稿者 川崎)

2025-09-30

薬剤性低血糖

  • 薬剤性低血糖はERで頻回に遭遇する病態です.今回,糖尿病薬と関連しない薬剤性低血糖が疑われた症例を経験したのでまとめてみました.
  • 参考は霧島市立医師会医療センター 薬剤部DIニュース No.325 (2025.9) ですが,その元論文「肥満と糖尿病 2009;Vol.8」には辿り着けず😔
  • 下記薬剤のうちジソピラミドの低血糖は経験あり.当時,循環器内科をローテート中だった初期研修医の先生が論文化 ➜ 心臓 2006;38:824-8

💊 薬剤の相互作用による低血糖症
  1. 肝のシトクロムP450多型によるSU剤の代謝阻害
    • 抗凝固薬 ➜ ワルファリン
    • ニューキノロン系抗菌薬 ➜ ガチフロキサシン、シプロフロキサシン
    • ST合剤 ➜ バクトラミン配合錠
    • ヒスタミンH₂受容体拮抗薬 ➜ シメチジン、ラニチジン
    • アゾール系抗真菌薬 ➜ フルコナゾール

  2. 薬剤同士が競合してSU剤の遊離血中濃度が上昇
    • ヘリコバクターピロリの除菌 ➜ クラリスロマイシン、PPI
    • 消炎鎮痛剤 ➜ フェニルブタゾン

  3. 薬剤が腎排泄を阻害しSU剤の排泄遅延
    • フィブラート系高脂血症治療薬 ➜ ベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート
    • 尿酸排泄促進薬 ➜ プロベネシド

🍷 糖代謝へ直接影響を及ぼす薬剤による低血糖症
  1. インスリンの増加
    • 抗不整脈薬 ➜ ジソピラミド、シベンゾリン
    • ニューキノロン系抗菌薬 ➜ ガチフロキサシン
    • 切迫早産治療薬 ➜ リトドリン
    • 抗結核薬 ➜ イソニアジド

  2. インスリン感受性の亢進
    • アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ARB)
    • 非選択性βアドレナリン受容体遮断薬

  3. 肝臓での糖放出の低下
    • エタノール ➜ アルコール飲料

(投稿者 川﨑)

2025-09-29

フィジカルクイズ(No. 23 & 24)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週末に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



👻「フィジカルクイズ」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-09-28

マズローの欲求段階説 Maslow's hierarchy of needs

  • 人の欲求を5段階階層で理論化したもの(未証明)
  • 仮定:人間は自己実現に向かって絶えず成長する
  • アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱
  • 別名は自己実現理論や自己実現論,欲求5段階説

    1. 自己実現の欲求 (Self-actualization)
    2. 承認(尊重)の欲求 (Esteem)
    3. 所属と愛の欲求 (Love and belonging)
    4. 安全の欲求 (Safety needs)
    5. 生理的欲求 (Physiological needs)

参考)ウィキペディア,他

- マズローの基本的欲求の階層図 -

😑 おまけ
  • この5段階欲求を提唱したAbraham Harold Maslow (1908–1970) は,認知バイアスとして有名なマズローの金槌(Maslow's hammer)としても名を残しています.
  • マズローはユダヤ系ロシア人移民でニューヨーク・ブルックリンの貧困家庭に生まれました.アメリカ心理学会会長になり,心臓発作で亡くなったそうです().

(投稿者 川崎)

2025-09-27

社交不安障害 Social Anxiety Disorder(SAD)

  • 社交場面や対人面の恐れや不安などで日常生活に支障を生じた病態
  • DSM-IVでは社会恐怖の診断名に「社会不安障害(ASD)」が併記
  • (DSM=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略)
  • 社会恐怖は大うつ病性障害,アルコール依存に次ぎに多い精神疾患
  • 米国の18歳以上の約2万人の2.4%がSADでそのうち約70%が女性
  • アジア圏では台湾で0.4%,韓国では0.2–0.6%と欧米よりも低頻度
  • 頻度18–29歳13.6%,30–44歳14.3%,45–59歳12.4%,60歳~6.6%
  • 他の精神疾患の併存率も上昇し特にうつ病や自殺のリスクに要注意
  • わが国固有の対人恐怖症とほぼ同一疾患概念として捉えられている
  • 見逃されている精神疾患で診断と治療が十分には行き届いていない


- 対人恐怖観念とDSM-5 -

(投稿者 川崎)

2025-09-26

Key-Hodgkin murmur キー・ホジキン雑音

  • 概要 梅毒による大動脈弁逆流で出現する拡張早期雑音(ノコギリで木を切るようなザラザラした音)
  • 由来 英国の医師 Key CA(1793-1849)と Hodgkin T(1798-1866)(Lond Med Gaz 1829;3:433-43
  • 鑑別 キー・ホジキン雑音は拡張早期漸減性雑音でオースティン・フリント雑音は拡張中期ランブル


😐 独り言
  • この音もCabot-Locke murmur(カボット・ロック雑音)と同様に、不思議な拡張早期の雑音です。原因は大動脈弁のretroversion(後方に曲がること)と報告されていますが、今から200年近くも昔の論文です(実物はココ)。梅毒による大動脈弁逆流(第3期:感染から数年〜数十年)が激減した現在となっては、実際に経験することはちょっと難しいかも…

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(投稿者 川崎)

2025-09-25

今週の一枚 🎯

予定手術の術前検査:ちょっと気になることは?



(投稿者 川崎)

2025-09-24

MAC抗体 (抗酸菌抗体定性)

🍎 肺MAC症(MAC: Mycobacterium avium complex)
  • 慢性的に咳嗽や喀痰などの呼吸器症状を生じ中年以降の女性に多い
  • 胸部CTで中葉舌区に気管支拡張や小葉中心性粒状陰影を認めやすい
  • MACは環境常在菌なので喀痰から検出しても肺MAC症と確定されず
  • 画像検査や症状などを含め総合的に診断されることが一般的である
  • 喀痰から菌が検出できない場合に補助診断として血液中のMAC抗体
  • 抗体が0.7未満なら陰性:血清0.5mL,3~5日必要,144点(SRL



🍏 MACに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2025-09-23

チップ検出法 Tip Detection Method

  • 慢性完全閉塞(CTO)に対し冠インターベンション(PCI)で用いる技術
  • 血管内超音波(IVUS)を用いてガイドワイヤー先端を正確に観察・誘導
  • 本邦の岡村篤徳先生らが開発(JACC Cardiovasc Interv 2020;13:74-82
  • 直近のCVID近畿地方会では5演題がTip Detection Methodに関する発表

- Tip Detection Method -

(投稿者 川崎)

2025-09-22

Cabot-Locke murmur カボット・ロック雑音

  • 概要 重症貧血患者に認めることがある拡張早期雑音(大動脈弁逆流症と異なり減衰しない)
  • 由来 米国の医師 Cabot RC と Locke EA の報告(Bull Johns Hopkins Hosp 1903;14:115-20
  • 性状 胸骨左縁で最も大きく聴取され貧血の改善に伴い消失(弁膜症がないことが前提条件)


😐 独り言
  • 貧血や甲状腺機能亢進症、発熱時には心拍出量の増加による機能性雑音が生じることはよく知られています。しかし基本的には収縮期の駆出性雑音で、Cabot-Locke murmurのような拡張期雑音は稀と思われます(金沢大学十全医学会雑誌 1964;70:338-53)。
  • カボット・ロック雑音の原因は不明だそうですが、興味があります。Dock's murmur(ドック雑音)と同様に実際の音や心音図も見つけるころができませんでした。日常臨床で貧血を経験することは稀ではないため、何とか記録できるように努力してみます。

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(投稿者 川崎)

2025-09-21

サルコイドーシスの眼病変:首飾り状硝子体混濁

👤 サルコイドーシス vs 眼
  • 眼は肺に次いで2番目に病変の発生率が高い臓器
  • 最多はぶどう膜炎でサルコイドーシスの30-60%
  • 逆にぶどう膜炎例の10.6%がサルコイドーシス
  • 眼病変の好発は20-30歳台と50-60歳台の二峰性

👥 ぶどう膜炎
  • 前眼部:豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節など
  • 隅角:隅角結節やテント状周辺虹彩前癒着など
  • 硝子体:雪玉状や数珠状,首飾り状硝子体混濁
  • 眼底:網膜血管周囲炎や蠟様網脈絡膜滲出斑他


※上記6項目で2項目以上ならぶどう膜炎の原因としてサルコイドーシスを強く疑う


🚑 サルコイドーシスに関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2025-09-20

レオポルド触診法 Leopold's Maneuvers

  • 触診で胎位や胎向,胎勢などを確認する方法(下図)
  • 独の産婦人科医 CG Leopold が1894年に開発(
  • 特別な器具は不要で現在でも妊娠健診時に広く活用

- レオポルド触診法の実際 -
  1. 両手掌をわずかに曲げて小指側を子宮底に当て子宮底の高さ、胎児の状態を観察
  2. 子宮底より両手を下方に移動し、左右の手を交互に動かし胎位、胎向、胎動、羊水量などを観察
  3. 右手の母指とほかの4指で恥骨結合上の胎児に触れ胎児の先進部分を確認
  4. 両手掌をわずかに曲げて左右の下腹部に当て、骨盤入口面方向へ静かに圧入し胎児の先進部、移動性、骨盤内侵入状況を観察

(投稿者 川崎)

2025-09-19

Dock's murmur ドック雑音

  • 概要 左前下行枝に高度の狭窄がある場合に生じる拡張期雑音(特に拡張早期と拡張後期)
  • 由来 アメリカの心臓専門医 William Dock (1898-1990) の初報(Am J Med 1967;42:617-9
  • 性状 第三肋間で胸骨中央から4cm左側に限局して座位時に心音図で記録することができる


- 音響分析結果と対応する血管造影 -

😉 呟き
  • 当院では虚血性心疾患でも多くの心音図を記録してきましたが、Dock's murmurを思わせる不思議な雑音(拡張早期と拡張後期にアクセント)を経験したことはありません。これは方法論の問題?(座位かつ特殊な部位での記録が必要)
  • ウェブ上にきれいな音ファイルあるいは心音図はアップないようです。個人的にも興味があるので、なんとか記録できるよう挑戦してみます。心音図でなければ記録できないという記載も見かけますが…記録されるなら聴取できるのでは⁉

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(投稿者 川崎)

2025-09-18

今週の一枚 🎯

朝の歩行時に胸痛が出現するが15分程度で改善しその後は何ともない症例

💣 重症の冠動脈疾患
  • 本症例の心電図と心エコー図は正常
  • しかし明瞭なⅣ音(第4音)を聴取
  • 病歴からも冠動脈疾患が示唆される
  • 翌日入院して冠動脈造影 CAG を実施
  • 右冠動脈には有意な狭窄なし(左図)
  • 左冠動脈は主幹部に高度の狭窄あり!
  • 4F(直径1.3 mm)のカテがウェッジ
  • 同日,転院し準緊急バイパス術を施行

😑 独り言
  • 本例では毎朝歩行時に症状が出るが,その後は何ともないという点が興味深い.これは通り抜け現象(walk-through phenomenon)あるいはウォームアップ狭心症(walk-through angina)<ICD-11用語> と呼ばれ,循環器用語集にも掲載されている.
  • 臨床では稀ながら経験し(過去の自験例),重症の冠動脈疾患であることが多い(個人的見解).正確な機序は不明であるが,「心筋虚血時にブラジキニンなどが産生され疼痛が出現→ブラジキニンの強力な血管平滑筋弛緩作用があり血管拡張」など?

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(投稿者 川崎)

2025-09-17

The “5-5-5” sign 「5-5-5」徴候

  • 心臓アミロイドーシスの心エコー図で認められるドプラ所見
  • 全ての組織ドップラー(e', a', s')速度が5cm/秒未満の状態
  • ただし病気の初期の段階では診断感度が低い可能性はある
  • 従来のパルスドプラによる拡張障害のGrade II or IIIも有用


 
(投稿者 川崎)

2025-09-16

脊髄刺激療法 Spinal cord stimulation:SCS

  • 硬膜外腔から脊髄に電気刺激を与え疼痛緩和+血流改善
  • 1968年に米メドトロニックが発売(世界で100万人以上)
  • 本邦では1992年に難治性慢性疼痛に対し保険適応で急増
  • 例:脊柱管狭窄症,幻肢痛,帯状疱疹後,バージャー病
  • 患者さん自身で電源のオン・オフや刺激の強さを調整可
  • 機序は下行性抑制系の賦活や上行性脳幹疼痛の抑制など?

 - 電極の留置例とイラスト -


😑 目安
  • ジアテルミ(温熱療法)および磁気共鳴装置(MRI)は禁忌(ただしMRI対応デバイスを使用時は設定変更後に可)
  • 放射線検査は可能,放射線治療は電源オフ後に実施(ただし緊急時は可能).基本的に家電や携帯電話は問題なし


(投稿者 川崎)

2025-09-15

フィジカルクイズ(No. 21 & 22)

  • 循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.
  • 2025年4月から毎週末に循環器に関するフィジカルクイズを2題ずつX(旧Twitter)で発信しているので,よろしければフォローしてみてください(@PhysicalExamin1).こちらにも2週分ずつまとめてアップします.



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(投稿者 川崎)

2025-09-14

把握対象疾患

👀 先日のカンファレンスで…
  • カルバペネム耐性緑膿菌(カルバペネマーゼ陰性)の届け出が議論されました.届け出を要する感染症(1類~5類)も更新されているため再度まとめておきます.
  • 届け出を要する耐性菌は下記の赤文字です.ちなみに薬剤耐性緑膿菌感染症は定点把握対象疾患ですが,当院は現在定点医療機関ではないため届け出は不要でした.


👺 全数把握対象疾患(全ての医療機関から報告される疾患)
一類感染症
エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,痘そう(天然痘),南米出血熱,マールブルグ病,ラッサ熱,ペスト

二類感染症
急性灰白髄炎(ポリオ),結核,ジフテリア,重症急性呼吸器症候群(SARS),中東呼吸器症候群(MERS),鳥インフルエンザ(H5N1),鳥インフルエンザ(H7N9)

三類感染症
コレラ,腸管出血性大腸菌感染症,細菌性赤痢,腸チフス・パラチフス

四類感染症
E型肝炎,A型肝炎,エキノコックス症,エムポックス(サル痘),黄熱,オウム病,回帰熱,Q熱,コクシジオイデス症,ジカウイルス感染症,ダニ媒介脳炎,炭疽,つつが虫病,鳥インフルエンザ,ボツリヌス症,マラリア,野兎症,ライム病,リフトバレー熱,類鼻疽,レジオネラ症,ウエストナイル熱,狂犬病,重症熱性血小板減少症候群(SFTS),チクングニア熱,デング熱,日本紅斑熱,日本脳炎,ハンタウイルス肺症候群,ブルセラ症,レプトスピラ症,ロッキー山紅斑熱

五類感染症
アメーバ赤痢,ウイルス性肝炎(A型・E型を除く),カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症,急性脳炎クリプトスポリジウム症,クロイツフェルト・ヤコブ病,劇症型溶血性レンサ球菌感染症,後天性免疫不全症候群(HIV/AIDS),ジアルジア症,侵襲性インフルエンザ菌感染症,侵襲性髄膜炎菌感染症,侵襲性肺炎球菌感染症,先天性風しん症候群(CRS),梅毒,播種性クリプトコックス症,破傷風,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症バンコマイシン耐性腸球菌感染症,百日咳,風しん,麻しん,薬剤耐性アシネトバクター感染症

👹 定点把握対象疾患(定点医療機関<指定医療機関>より報告される疾患)
RSウイルス感染症,咽頭結膜熱(プール熱),A群溶血性レンサ球菌咽頭炎,感染性胃腸炎(ノロウイルス・ロタウイルス等),水痘,手足口病,伝染性紅斑,突発性発しん,ヘルパンギーナ,流行性耳下腺炎,インフルエンザ,新型コロナウイルス感染症,急性呼吸器感染症,急性出血性結膜炎,流行性角結膜炎,クラミジア肺炎(オウム病を除く),細菌性髄膜炎(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された場合を除く),マイコプラズマ肺炎,無菌性髄膜炎,性器クラミジア感染症,性器ヘルペスウイルス感染症,尖圭コンジローマ,淋菌感染症,ペニシリン耐性肺炎球菌感染症メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症薬剤耐性緑膿菌感染症

(投稿者 川崎)

2025-09-13

CTの3段階読影

🚑 救急CTで見逃しを防ぐためにDIRECT研究会などが推奨する読影法
  1. 臨床推論に基づく疾患の検索・否定
  2. チェックリストを利用した重要病態の有無の確認
  3. 「画像推論」に基づく,想定外病態の拾い上げ


 💫 追記
  • 先日のモーニングカンファレンスで当院の(若いがとても優秀な)放射線科の先生は「①疑い,②見落とし,③臓器毎」と説明していました.また「個人的には②から始めている」とも言っておられました.  

(投稿者 川﨑)

2025-09-12

頚静脈波形

  • 頚静脈拍動と中心静脈圧、ドプラ波形の関連を概説する論文(Ther Adv Pulm Crit Care Med 2025 Jul 16;20:29768675251359700)を眼にしました。
  • 頚静脈の波形の分かりやすいイラストがあったのでアップしておきます。なお図の説明文はAIによる自動翻訳を活用(説明文中の引用論文は割愛)

頸静脈拍動(JVP)および頸静脈血流速度(JVFV)の生理学
(A) 心電図(ECG)、心音図(PCG)、および右心房圧(PRA)の時間的関係を示す。PCG の SX は心音を表す。PRA または JVP の上昇波は本文で説明される a波、c波、v波 である。下降波は x下降、x′下降、y下降 と呼ばれる。IC は等容収縮ノッチを示す。灰色で塗られた領域は JVFV を表し、s波(収縮期) および d波(拡張期) を含む。図解は心周期における右心の変化を示し、RA は右心房、RV は右心室を意味する。 (B) JVP の波形記録は19世紀半ばに初めて発表され、12 世紀末から20世紀初頭にかけて Mackenzie によりさらに詳細に発展した。JVP の陽性波は、その解剖学的・生理学的な起源に基づいて命名され、a波は右心房、c波は総頸動脈、v波は右心室 を反映するとされた。Mackenzie はまた、三尖弁逆流症における JVP の病的変化を記載しており、初期には a(心房型) から v(心室型) へと移行することを示した。疾患の初期段階では、顕著な v波 は心房細動(すなわち「心房性」)により生じる。心房収縮が失われることで右心房がうっ血し、右心房圧(PRA)が収縮後期に上昇するため、機能している三尖弁(TV)が心基部方向へ戻る際に高い v波が発生するためである。しかし疾患が進行すると、v波はさらに顕著になり、収縮期の早期に出現するようになる。これは逆流性の血液量が機能不全の三尖弁から逆流するためであり、いわゆる「心室型 v波優位」と呼ばれる。 同様の進行は、肺高血圧患者において Ranganathan と Sivaciyan によって内頸静脈(IJV)ドプラ超音波で記録された JVFV でも報告されており、以下で述べる。(C) JVFV は 装着型ドプラ超音波 によって測定され、これについても以下で記載する。

Sivaciyan と Ranganathan が提唱した頸静脈血流速度(JVFV)の分類システムの模式図
詳細は本文を参照のこと。ここおよび図1において、右心房方向への JVFV は y軸の下向きに、頭部方向への血流速度は y軸の上向きに示されている。 仰臥位では、最上段のパターン(s > d)が正常であり、持続的な逆行性 a波は認められない。大きな逆行性 a波および v波は、単相性拡張期パターン(ここでは表示されていない)で観察されることがある。 逆行性収縮期速度(最下段のパターン)は、臨床的に重要な**三尖弁逆流(TR)**を示す典型的な所見であるが、房室解離において心房収縮が閉じた三尖弁に対して生じる場合にもみられる。この場合、逆行性収縮期速度は不規則である。 略語: RA = 右心房 RV = 右心室 TAPSE = 三尖弁輪収縮期移動量(tricuspid annular plane systolic excursion)

😇 おまけ

上記論文では当院で行った頚静脈の臨床研究を4編も引用してもらいました 😊 謝謝
  1. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Inami S, Shindo A, Shiraishi H, Matoba S. Response of Jugular Venous Pressure to Exercise in Patients With Heart Failure and Its Prognostic Usefulness. Am J Cardiol 2020;125:1524-1528 ➜ 日本語の解説
  2. Shako D, Kawasaki T, Kasai K, Sato Y, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Shiraishi H, Matoba S. Jugular Venous Pressure Response to Inspiration for Risk Assessment of Heart Failure. Am J Cardiol 2022;170:71-75 ➜ 日本語の解説
  3. Kasai K, Kawasaki T, Hashimoto S, Kanehiro C, Yabu S, Shindo A, Matoba S. Jugular Venous Pressure and Kussmaul's Sign as Predictors of Outcome in Heart Failure. Int Heart J 2023;64:1088-1094 ➜ 日本語の解説
  4. Noguchi M, Kasai K, Honda S, Sakai C, Harimoto K, Kawasaki T. Jugular Venous Response for Risk Stratification in Heart Failure. Cureus 2024;16:e58423 日本語の解説

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(投稿者 川崎)