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2025-02-28

🏆 論文

  • 初期研修医の西機先生が循環器内科で経験した症例がPubMedに収載
  • 左室中部閉塞の形態を呈したATTR心臓アミロイドーシスの一例です
  • 洞調律なのにⅣ音を欠き,OKサイン(Perfect O sign)も不可でした
  • 心アミでParadoxic Jet Flow(奇異性血流)を描出した世界初の報告

🎉 Paradoxic Jet Flow: PJF(奇異性血流)
  • 拡張早期に心尖部から心基部に向かう血流シグナルで,心尖部ポーチの存在の間接的な証拠です.当科は本所見にとても興味を持つ医師が複数名在籍して,今までにPJFに関連する世界初と思われる症例を報告してきました.
  • 例えばPJF雑音(Tex Heart Inst J 2018;45:102-5),運動誘発PJF(J Cardiol Cases 2021;23:170-2),右心系PJF(J Med Cases 2020;11:57-60)などです.とてもニッチな所見ですが,これからもこだわっていこうと思います.

👉「論文」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-02-27

今週の一枚 🎯

エコーで偶然,動脈瘤を指摘された慢性腎臓病(G4)の症例


(投稿者 川崎)

2025-02-26

高血圧パラドックス Hypertension Paradox

  • 高血圧の診断や治療が進んだにもかかわらず,血圧のコントロールがいまだ不十分な現状
  • 米国の医師 Aram V. Chobanian が2009年に提唱した観念(N Engl J Med 2009;361:878-887
  • 我が国における血圧のコントロール率(140/90mmHg未満の達成率)は3~4割と考えられる
  • 対策はいろいろあるが(下図),クリニカル・イナーシャ(現状維持バイアス)も影響する

- 高血圧治療改善のための方策 -
IoT, internet of things)

(投稿者 川崎)

2025-02-25

遠隔 ICU

  • 集中治療専門医や経験豊富な看護師が不足している医療機関と豊富な施設を連携させる遠隔医療モデル
  • 専用回線を通じて電子カルテや実際の患者画像を参照し必要に応じてウェブ会議を行い診療を支援する
  • 支援側には遠隔ICU支援センターを設置し医師・看護師・医師事務作業補助者が役割を分担しサポート
  • その特徴の一つは,複数の患者を同時にケアできること(通常は30〜60床のICU患者を同時に観察可)



👻 追加コメント
  • 令和6年度診療報酬改定でも遠隔ICU加算が新設されました(ICU5・6がICU1・2から遠隔支援を受ける場合は特定集中治療室遠隔支援加算980点).厚生労働省はその普及に向けて助成金を増額(令和6年5,200万円→令和7年3億6,800万円).
  • 現時点では,横浜市立大学附属病院や昭和大学病院,京都桂病院が遠隔ICUを提供しています(当院でもシステムの導入を検討中です).なお近年でICUだけではなくでHCUなども含むよう,遠隔集中治療と呼ばれる機会が増えているようです.

(投稿者 川崎)

2025-02-24

脱水とうっ血

大動脈弁位人工弁症例の息切れ(座位)

💦 解説
  • 頚部の皮膚は乾燥して張りがない
  • 安静時に頚部に拍動もある(矢印)
  • 吸気で拍動の明瞭化 ➜ 内頚静脈
  • 皮膚をつまむ ➜ ツルゴール低下

😐 追加コメント
  • 本例は視診で中心静脈圧上昇(心不全)と血管内脱水と診断できそう
  • BNP値は300台であったがご本人の息切れや倦怠感の訴えは強かった
  • もちろんこのような症例には安易な利尿薬追加や減塩指導は避けたい
  • 血圧が正常高値であったため降圧薬の強化と心臓リハビリを追加した

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(投稿者 川崎)

2025-02-23

EVUSイーバスガイドEVT

  • EVUSはExtravascular ultrasoundの略で超音波ガイド血管治療のこと
  • 患者さんだけでなく術者の被ばく低減に有効で当院でも増加中です
  • エコーを併用する方法にはIVUS(血管内超音波)guided EVTもあり

実際の臨床研究
  • 膝窩下動脈の閉塞性疾患に対する傾向スコアマッチング18組の後ろ向き解析では,放射線被曝量はEVUSガイド群の方が血管ガイド群よりも有意に低く(平均135 mGy vs 287 mGy, p =0.04),技術的成功率や遠位穿刺率,造影剤の量,術後皮膚還流圧(SPP),手術合併症率にはグループ間で有意差なし

(投稿者 川崎)

2025-02-22

マーシャル静脈へのエタノール注入

  • 概略 AFの肺静脈隔離時に追加するケミカルアブレーション
  • 背景 マーシャル静脈には神経支配がありAFトリガーになる
  • 対象 初回アブレーションの持続性心房細動 AF 患者350名
  • 方法 アブレーション単独とエタノール併用を無作為に割当
  • 評価 術後6ヵ月と12ヵ月のAF or 30秒超の心房頻拍の有無
  • 手技 エタノール注入を試みた185名中155名に成功(83.7%)
  • 予後 不整脈無はエタノール49.2%,アブレーション単独38%
  • 有害 エタノール注入に関する有害事象に群間の有意差なし


Marshall静脈への化学的アブレーション法が有用であった持続性AF例

👽 おまけ
  • マーシャル静脈は左上大静脈の遺残で周囲にはマーシャル筋束が存在している
  • 同静脈は冠静脈洞から左房後側壁で分岐し左肺静脈と左心耳間の心外膜側を斜走
  • 成人の20~30%はマーシャル静脈が造影されない(一読をお薦め ➜ 月の裏側
  • 名前の由来は初報の英国の外科医 John Marshall (R Soc Lond 1850;140:133–170)
  • 現時点では保険外診療で倫理委員会への申請要+病院の自己負担あり(約5万)

Public Domain: マーシャル静脈は上図のoblique vein of the left atrium)

(投稿者 川崎)

2025-02-21

😊 素敵な紹介 パート2

なんとなく元気がない慢性心不全例(座位)

💁 ランチシ徴候(三尖弁逆流)
  • 頚部の中央に明瞭な拍動(隆起)あり
  • 容易に圧迫されるため動脈でなく静脈
  • 心エコー図で高度の三尖弁逆流を確認
  • 推定される肺動脈収縮期圧は50 mmHg
  • 整脈かと思ったが心電図では心房細動
  • 最終的に心不全(PEF)の増悪と診断

 📧 共通言語「座位で頚静脈が見える」
  • 本例もかかりつけ医からの紹介がとても素敵であった(前回の素敵な紹介).「足に浮腫はないけど,首がピコピコしています」と...👍
  • 頚静脈の座位定性法が広がると,心不全の診断をより迅速に行うことができます.無料アプリ「シンプル頚静脈©」を是非ご活用ください
  • 病院やクリニック,救急隊,施設職員だけでなく,心不全患者さんやその家族にもこの表現が共通言語として広がることを願っています.

(無料画像から作成)

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(投稿者 川崎)

2025-02-20

今週の一枚 🎯

- 前日から嘔吐を繰り返してる高齢女性 -

😐 解説
  • 小腸の拡張と液貯留(腹腔内遊離ガスなし)
  • 左閉鎖孔から腸管突出・嵌頓(下図を参照)
  • 閉鎖孔ヘルニア(obturator hernia)と診断
  • 緊急手術(ヘルニア門閉鎖/腸管切除なし)

💁 復習:閉鎖孔ヘルニア
  • 坐骨と恥骨で構成される閉鎖孔をヘルニア門とするヘルニア(骨盤を構成する骨
  • 特徴は高齢・女性・多産・やせ(過去の投稿)で本例も多産以外あり(BMI 16.8)
  • 閉鎖孔を通る閉鎖神経の圧迫症状が出やすい(大腿の痺れや痛み他:本例はなし)

💫 ヘルニアに関する過去の投稿 ➜ コチラ

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2025-02-19

スタージ・ウェーバー症候群 Sturge–Weber syndrome

  • 概要 頭蓋内の軟膜血管腫と顔面の毛細血管奇形,緑内障を特徴とする神経皮膚症候群の一つ
  • 命名 英国の医師 Sturge WA (1850–1919)と英国の皮膚科医 Weber FP (1863–1962)の報告(
  • 症状 顔面ポートワイン斑,難治性てんかん、精神運動発達遅滞,運動麻痺,視力障害など
  • 原因 9番染色体長腕上に存在するGNAQ遺伝子の単一ヌクレオチド、モザイク変異(非遺伝性)
  • 疫学 年間50,000~100,000出生に1人の発症率と推定(本邦では年間10~20人の発生となる)
  • 治療 対症療法(てんかんに対し薬や外科治療,顔面毛細血管奇形に対しレーザー治療など)
  • 予後 成人期まで観察した多数例の長期予後の報告はない(緑内障は緩序進行性で失明あり)


Sturge–Weber syndrome(SWS)の21歳女性

(投稿者 川崎)

2025-02-18

TAVIタビ弁の HALTホルト

  • HALT=hypo attenuated leaflet thickening(≒低輝度弁尖肥厚) 
  • TAVI(経カテーテル大動脈弁植込み術)1月後で15%前後に出現
  • 心臓CTで大動脈側の弁基部から弁尖に低吸収領域(200 HU未満)
  • その範囲が広がれば弁尖の可動性低下を生じるが多くは無症候性
  • TAVI後のHALTは抗凝固療法で消失するため血栓と考えられている


💫 HALTの臨床的意義
  • TAVIを受けた856人のうち638人がHALT評価のために30日後にCTを受けた
  • HALT発生率は12%(79/638)で自己拡張型弁とバルーン拡張型弁に差なし
  • HALTを示す患者は1,3,12ヵ月でワルファリンを処方される可能性が高い
  • 平均大動脈弁圧較差は2群間で差がなく出血イベント増加も見られなかった
  • 中央値2.2年でHALTを有する患者の死亡率は高率(30% vs 20%,P=0.001)

(投稿者 川崎)

2025-02-17

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

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(投稿者 川崎)

2025-02-16

肝油かんゆ

  • 患者さん「先生,肝油を摂ってもいいですか?」
  • 担当医師「肝油? なんですか,それ?」
  • 患者さん「知らないんですか? ひょっとして大阪じゃない?」
  • 担当医師「ええ,大阪出身ではないんですが…」
  • 患者さん「大阪人ならみんな知ってますよ,肝油」

🐟 肝油
  • 肝油ドロップは、日本で最初の固形肝油乳剤として明治44年に薬学博士・河合亀太郎により創生
  • ビタミンAやDが豊富に含まれ、栄養学的に非常に優れていたことから、戦前より多くの方が利用
  • 一方肝油には独特の臭いがあり安定性にも欠けていたことから継続的に使用する事が難しかった
  • 河合亀太郎は肝油の研究を重ねて、ゼリー状のドロップの形でビタミンを安定に保つ技術を開発
  • 肝油ドロップと名付け1911年から製造販売(現在は魚由来でなくて医薬品ビタミン原料を使用)


👶 おまけ
  • 幼稚園の時に10時に小さいグミのようなお菓子を一人ひとつずつ貰っていたことを思い出しました.あれはおそらく肝油だったと思われます.
  • 投稿者の外来をいつもサポートしてくれる医師事務の方(大阪生まれの大阪育ち)に尋ねると,「昔は風邪を引いたら肝油」だったそうです.
  • 上記の河合製薬株式会社は東京都中野区ですが,日本で最も古い肝油専門メーカーはめがね印のワカサ株式会社大阪市北区)のようです.

(投稿者 川崎)

2025-02-15

CRP陰性の発熱

CRP(C-reactive protein,C反応性蛋白)
  • IL-6,IL-1β,TNF-α,IFN-γなどのサイトカインにより肝細胞で作られる主要な急性相の反応物質
  • 抗炎症作用と炎症促進作用を有し感染・外傷・梗塞・自己免疫・炎症性疾患・悪性新生物で上昇
  • CRPが陰性で高体温を呈する病態として薬剤熱や妊娠,習慣性高体温症などがよく知られている
  • 他にSLE(全身性エリテマトーデス)やCRPが産生できない肝硬変頭蓋内に限局した炎症(下図)


- 無菌性髄膜炎の37歳女性の臨床経過 -

👽 おまけ<
  • 頭蓋内に限局した炎症でCRPが生成されない理由は,各種サイトカインが血液脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)を通過できないためと考えられています.一方,アルコールやカフェイン,ニコチン,GABA,麻薬の一部などは通過できます.
  • CRPの発見は米国の医師 Tillett らである(J Exp Med 1930;52:561-71).はじめは肺炎球菌の細胞壁多糖類(C多糖類/C-polysaccharide)と反応する物質として同定されたため,C-reactive protein(C反応性蛋白)と命名されたようです.

(投稿者 川崎)

2025-02-14

健常者の心機図

フリーの画像がなくて苦労されているとお聞きしたのでPPTで作成してみました(版権放棄😙ご自由にお使いください) 
  • 心電図
  • 心音図
  • 頚動脈波曲線
  • 頚静脈波曲線
  • 心尖拍動図


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(投稿者 川崎)

2025-02-13

今週の一枚 🎯

腹痛で転げまわる中年男性(腹部CTに異常なし)

👀 胆石発作(Biliary colic)
  • エコーで胆嚢頚部に13 ㎜の胆石(下図矢印)
  • 他院で胆石を指摘され手術を薦められていた
  • 症状は鎮痛薬+絶食+抗菌薬で経時的に改善
  • 経過中に出現した胆石性胆のう炎はごく僅か
  • 一旦退院して待機的に胆嚢摘出術を予定した

😐 追加コメント
  • 尿路結石とは異なり,胆石はCTで描出されないことが少なくありません(過去の投稿).よって腹部エコーがとても重要です.本症例では初期研修医の先生がCT前のエコーでちゃんと胆石を描出(👍ナイス).CTで胆石がなさそうなので,CT後にエコーで胆石の移動がないことも確認(👍👍ベリーナイス).
  • 本例は来院時,痛みで七転八倒されていたようです(床に転げまわっていたわけではありませんが安静を保つことが困難).このような症例では腹膜炎を生じていないことが多いようです.穿孔して腹膜炎を併発していれば,動くと痛みが増強されるため,逆にジッと不動の姿勢を保つ傾向が高いそうです.


👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2025-02-12

合剤の薬価

類似薬効比較方式(Ⅰ)
  • 新規に薬価基準に収載される新薬に、類似薬※がある場合、市場での公正な競争を確保する観点から、新薬の1日薬価を類似性が最も高い類似薬(最類似薬)の1日薬価に合わせる。
  • 当該新薬について、類似薬に比べて高い有用性等が客観的に示されている場合、上記の額に補正加算を行う。

※類似薬:次のイ)~ニ)からみて類似性があるもの イ)効能及び効果、ロ)薬理作用、ハ)組成及び化学構造式、ニ)投与形態、剤形区分、剤形及び用法



💊 追加コメント
  • 例えはA薬(一日一回,1錠100円)とB薬(一日一回,1錠200円)の合剤であるC薬が販売されたとします.するとその薬価は高い方のB薬と同じ1錠200円(一日一回)に設定されます.患者さんの利便性(コストも含む)が高まるので望ましいことです.
  • では合剤を開発すれば製薬会社が一方的に損をするかというと必ずしもそうではありません.例えばA薬には既に後発品があり,B薬は先発品の特許があと2~3年で切れるとします.しかしC薬を新規に販売することで,会社はその特許期間を延長できます.

(投稿者 川崎)

2025-02-11

心音クイズ(Q7・Q8)

  • 持田製薬さんと作成している心音クイズの第四弾です(GROUP T inc.さんにも感謝 🙏).今回はⅡ音肺動脈成分の亢進とⅢ音が共存した症例および重合奔馬調律から四部調律に変化した症例を取り上げました.5領域(2R, 2L, 3L, 4L, 心尖部)の心音と複数の心音図を提示しています.是非,心音の違い(変化)を聴き比べてみてください.
  • 今回でシーズン1(3ヵ月毎2症例計8例)が終了しました.そしてシーズン2も始まることが決定しました 😁 無料なのでよろしければご覧ください(※Q3以降は簡単な登録が必要).一緒に聴診学の楽しさと奥深さを共有できれば作成者としては嬉しい限りです .


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(投稿者 川崎)

2025-02-10

ペースメーカ植込み時のポケット洗浄

洗浄 vs 非洗浄
  • 対象 心臓埋込型電子機器の植込み術を受けた5467人のデータ(10件の臨床研究)
  • 感染 ポケット感染症の頻度はポケット洗浄群1.48%,非ポケット洗浄群3.49%
  • 効果 メタ解析でポケット洗浄の感染予防は有意(RR=0.44、95%CI:0.31-0.63)
  • 追加 生理食塩水と比較し抗生物質洗浄ではポケット感染の発生率が約59%減少

- ポケット洗浄の感染予防:メタ解析 -


生食洗浄 vs 抗菌薬洗浄
  • 対象 2018年1月から2022年2月までに心臓デバイス植込み術を受けた連続2,736人の成人患者
  • 追加 リードレスペースメーカーは除外し全ての患者は術前に予防的静脈内抗生物質の投与
  • 手技 皮下ポケットをバシトラシンまたはバンコマイシン溶液で洗浄,あるいは生食での洗浄
  • 感染 ポケット感染は20名(生食 vs バシトラシン, P=0.33/生食 vs バンコマイシン,P=0.21)

- グループ間比較(NS=生食)-

😋 独り言
  • ペースメーカを植込む直前に生食でポケットを洗浄しておくだけで良さげかな...

👉 ペースメーカに関するの過去の投稿は コチラ(PC版なら右欄から選択可能)

(投稿者 川崎)

2025-02-09

「私の血液型はオモテO型,ウラB型」

💫 ABO血液型の亜型
  • オモテ検査(赤血球と抗A,抗Bとの凝集反応)とウラ検査(血清中の抗A,抗Bの有無)が一致せず
  • 抗体試薬やレクチンへの凝集反応,不規則抗体,糖転移酵素活性,分泌型唾液中の型物質などで分類
  • 本邦で多い亜型はBm型(オモテ検査O型でウラ検査B型)とABm型(オモテ検査A型,ウラ検査AB型)
  • 遺伝子解析で多くの亜型はエキソン6/7変異(ただBm型やABm型はエンハンサー領域を含む欠失他)


<質問19>
  • B型の亜型、Bm型についてABO式血液型の1つに「Bm」という血液型がありますが、この血液型の人が輸血を必要とする場合、苦もなく手配できるものなのでしょうか?たとえば、Bmの血液型を持つ人にRh+Bの血液を輸血した場合はどうなりますか?また、この血液型の人は日本人中に何%程度存在するんでしょうか?データがあれば是非教えてください。

<回答> 
  • ABO式血液型で、赤血球表面のA抗原やB抗原の、主として量的な差と各種抗体やレクチンに対する反応性の違いにより、亜型(subgroup)として分類されるタイプが存在することが知られております。
  • 手元にある文献を調べてみましたが、日本人での頻度に関しては、A2の頻度はA型中の0.16%(A型)、AB型中の1.07%(A2B型)となっております。A2を除くAの亜型の頻度は0.021%で、Bの亜型はこの約10倍ということですので、0.2%ぐらいということになるでしょうか。日本人の亜型の中で一番多いのは、Bm型とのことですので、頻度はA2よりやや多いことを前提にして、0.16~0.2%の間と推測されます。
  • 輸血を受ける場合は、B型の血液を輸血して問題はありません。Bm型血球は抗Aや抗Bの試薬で凝集しないのに、Bm型の人の血清はA型血球を凝集し、いわゆる「血液型検査のおもて・うら試験不一致」をきたすので、血液型判定上は問題となります。しかし、輸血をする上では、Bm型だからといってBm型を入れる必要はなく、交差試験を行って問題のない血液、つまり、B型の血液を輸血して何の問題も生じません。日本人ではB型の頻度は約20%ですので、B型の供血者をさがすのに苦労することはまずあり得ません。


💁 血液型に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2025-02-08

抜管後の上気道~気管狭窄

  • 気管挿管に伴う合併症の一つで発生頻度は0.1%以下
  • 救急外来で挿管例での発生頻度は約1%(270例中3例)
  • 3例の診断は喉頭ファイバー1例で他はCT(肺野条件)



危険因子
  • 長期挿管(>48 時間)
  • 女性
  • 大口径の気管チューブ
  • 挿管困難
  • 外傷症例

抜管前の具体的対応
  • 喉頭および周辺組織の浮腫の評価 : 画像評価、喉頭鏡・ファイバースコープによる直接観察を考慮する
  • 頭部挙上
  • 利尿による浮腫軽減
  • ステロイド投与
  • 再挿管のための特殊な器具の準備(緊急気管切開セットを含む)
  • 抜管時の麻酔科医の立ち会い
  • 予防的非侵襲的陽圧換気の準備
  • 抜管時のチューブエクスチェンジャーの使用など


👀 復習
  • 人工呼吸器からの離脱は SAT & SBT(Spontaneous Awakening Trial/自発覚醒トライアル & Spontaneous Breathing Trial/自発呼吸トライアル)
  • SAT成功基準を満たし,次のSBT成功基準を満たしたら抜管を検討(ただし抜管後の上気道狭窄や再挿管のリスクを評価した上で実施したい)

(投稿者 川崎)

2025-02-07

頚静脈の座位定性法も無敵ではありません

鼠経ヘルニア術前に心電図異常を指摘された症例(座位)


  • 息切れなど心不全を示唆する症状はないが,BNP値は150 pg/ml程度に上昇していた.心エコー図には特記すべき異常所見はなし.
  • 心不全の有無を判定するため頚部を観察したが,大きな腫瘍に占拠されていた.橋本病による長い治療歴あり(現在はeuthyroid)
  • 心音でも心不全を示唆する所見(Ⅲ音やⅡ音肺動脈成分の亢進など)はなし.日常生活から判定した運動耐容能も保たれていた.
  • 胸部圧迫感の自覚はなく,冠危険因子も高血圧のみ.最終的に手術に支障はないと判断して,紹介元の外科医に返書を作成した.
  • 稀ながら頚静脈の座位定性法が困難が状況がある.甲状腺疾患による甲状腺腫肥満猪首,座位姿勢の困難例などが相当する.

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(投稿者 川崎)

2025-02-06

今週の一枚 🎯

転倒後に右足付け根の外側を痛がる高齢者

😐 恥骨骨折(Pubic fracture)
  • 疼痛部位の右大腿骨頚部には明らかな骨折なし
  • 恥骨に骨折あり?(右の反転画像が分かり易い)
  • CTで右恥骨骨折(他の骨折なし:下図,矢印)
  • MRIでは骨折周囲の血腫と近傍筋群に挫創あり

💁 追加コメント
  • 本例は骨折部位の叩打痛は明らかではありませんでした.ひたすら右大腿外側を手でさすっておられたそうです.恥骨骨折が判明した後に再度行った診察でも,恥骨周囲の疼痛は不明瞭でした.
  • 疼痛部位と骨折部位が一致しないことは稀ではありません.介達痛と言ってしまえばそれまでですが,本例では右大腿骨頚部付近の筋挫創と関係していたのかもしれません(上図のMRIに注目)

💫 骨盤に関する過去の投稿 ➜ コチラ

👻「今週の一枚」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

(投稿者 川崎)

2025-02-05

Preeclampsia and Eclampsia 妊娠高血圧腎症と子癇

  • 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降に発症する高血圧や既存高血圧の悪化かつ過剰尿蛋白
  • 子癇は妊娠高血圧腎症の女性に生じるけいれん発作でてんかんや二次性の痙攣は除く
  • 妊娠高血圧症候群(旧名は妊娠中毒症)は≧140/90mmHgの状態(尿蛋白は問わない)
  • preeclampsiaは子癇前症や前子癇とは言わず妊娠高血圧腎症(ただ完全一致ではない)
  • 診療ガイドライン2023で妊娠高血圧腎症36ヵ所,子癇40ヵ所,子癇前症や前子癇はゼロ
  • HELLP症候群(溶血,肝酵素上昇,血小板減少)は重症の妊娠高血圧腎症や子癇の1-2割

(投稿者 川崎)

2025-02-04

心臓移植の手技

  • カンファレンスで心臓移植の手技が話題になりました.あまりなじみがない領域なので調べてみました.
  • 以下の図と文章は,日本循環器学会などの2016年版「心臓移植に関する提言」からの引用・参考です.

- 心臓摘出手技- 
  • 上大静脈・奇静脈,下大静脈,大動脈,肺動脈幹を十分剥離しU字縫合(図 14a)
  • ヘパリン(4~5 mg/kg)を投与し,奇静脈・上大静脈・下大静脈を離断(図 14b)
  • カニュー レから4℃心保存液を注入し心臓が停止した のを確認後,心臓を摘出(図 14c)
  • 3重イレウスバックに入った心保存液中に漬け心停止液注入用のカニューレ抜去(図 14d)

- 心臓移植法 -

  • 以前は biatrial technique (両心房法)が中心であった(図15a)
  • 近年は bicaval technique(上下大静脈法)が行われている(図15b)
  • 日本では北村らが開発した modified bicaval technique が70%(図15c)

👉 移植に関するの過去の投稿は コチラ

(投稿者 川崎)

2025-02-03

第21回 循環器Physical Examination講習会より


循環器Physical Examination講習会は故・吉川純一先生が2003年に立ち上げられた身体所見に関する研究会です.「生きた physical examination」を体感・習得して,「感動できる」ものにしていきたいと思っています.毎週情報発信をしているので,よければSNSでフォローしてみてください.


👻「フィジカル講習会」の過去の投稿は コチラ(PC版なら画面右の分類からも選択可)

心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

(投稿者 川崎)

2025-02-02

シャント血管マッサージ

  • 透析をはじめようとした際,シャント音が弱い,聞こえないなど,シャントの流れが悪くなっていた場合には,即座にシャント部をマッサージすることで回復することがある.穿刺予定部を手でしっかり揉む,さするなどしてあげる.
  • シャント作製後 3ヵ月以上たっていれば吻合部を揉んでも差し支えないので,穿刺部とともに吻合部もマッサージする.局部静脈に細い針でヘパリン化生食やウロキナーゼを注入してから揉むのが効果的であるが,難しい場合でも,揉むだけで血流が回復することも多い.



シャント血管マッサージを禁忌とする患者
  • シャント作成後2週間未満
  • 新シャント穿刺3回目以内
  • 狭窄部位に痛みや腫脹がある
  • シャントに瘤がある
  • 人工血管を用いたシャント
  • シャントステントのエッジ部分に狭窄がある
  • ステロイド長期投与
  • 80歳以上
  • 皮膚が薄く,内出血や表皮剝離のリスクがある
  • 心房中隔欠損,心室中隔欠損がある

引用)透析会誌 2018;51:305-11(元:腎と透析 2013;74:84‒6)

(投稿者 川崎)

2025-02-01

AIMAH:ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成

  • 先日の腹部CTに対するレポートにAIMAHの疑いと記載されていました.耳慣れない用語だったため調べてみました.

AIMAH(ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成)
  • ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasiaの略
  • 画像で両側副腎に1cm超の大結節が多発(内部に脂肪を含)
  • デキサメサゾン抑制アドステロールシンチで両側に集積有
  • その病態はsubclinicalからovert Cushing症候群まで多様
  • 標準は両側副腎摘除術だが片側摘除術の有用性報告あり
  • 一部の症例では腫大した副腎皮質自体からACTH産生あり
  • 最近はbilateral macronodular adrenal hyperplasiaと呼ぶ
  • 略語ではBMAHあるいはprimari BMAHからPBMAHとされる


クッシング症候群を呈したPBMAH(AIMAH)の63歳女性

💁 副腎に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)