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2026-10-31

先天性好中球減少症 Congenital Neutropenia

  • 概要:好中球の数または機能の先天異常で、乳幼児期から細菌や真菌の感染を反復する疾患群。
  • 減少:重症先天性好中球減少症は骨髄の成熟障害による。一部は骨髄異形成や白血病へと移行。
  • 周期:周期性好中球減少症は約三週ごとに減少。単回採血では見逃しうるため連続測定が必要。
  • 接着:白血球接着不全症は好中球が血管外に出られず、臍帯脱落遅延や膿のない感染を呈する。
  • 殺菌:慢性肉芽腫症は活性酸素の産生障害による。ブドウ球菌やアスペルギルスに感染しやすい。
  • 顆粒:チェディアック・東症候群や好中球二次顆粒欠損症など、顆粒の異常による病型もある。
  • 症状:乳児期から皮膚膿瘍、肺炎、肝膿瘍、歯肉炎を反復する。ウイルス感染は比較的少ない。
  • 検査:好中球数推移と骨髄像を確認。活性酸素産生能や表面抗原を測定し、遺伝子検査で確定。
  • 治療:好中球減少には刺激因子製剤、慢性肉芽腫症には予防内服。根治療法は造血幹細胞移植。


(投稿者 川崎)

2026-10-25

肺リンパ脈管筋腫症 Lymphangioleiomyomatosis(LAM)

  • 平滑筋様のLAM細胞が肺・リンパ系で増殖し肺に多発嚢胞を形成
  • TSC1/TSC2遺伝子異常によるmTOR経路の活性化が病態の中心
  • 結節性硬化症に伴うTSC-LAMと孤発性LAMに分類(指定難病89)
  • 主に妊娠可能年齢の女性に発症し、平均発症年齢は30歳台中頃
  • 症状は労作時呼吸困難・反復性気胸・乳び胸水・血痰などが多い
  • 胸部CTの両肺びまん性薄壁嚢胞と血清VEGF-D高値が診断に有用
  • 治療はシロリムス(mTOR阻害薬)、進行例は在宅酸素・肺移植



(投稿者 川崎)

2026-08-28

Mural endocarditis 壁在性心内膜炎

  • 感染性心内膜炎 (IE)のうち、疣腫が弁ではなく心腔壁に形成される稀な病型
  • スペインのIE前向きにレジストリでは3676件中27件(0.7%)がmural IE (MIE)
  • MIEは若年(中央値59歳)、移植、血液透析、カテーテル由来、カンジダと関連
  • 病変部位は右心房が最多51.9%(ただし過去の文献では左心室が最多で47.2%)
  • 最多は黄色ブドウ球菌で(50%)、全身合併症は多かったが、死亡率は同程度

- 壁在性心内膜炎を呈した52歳男性 -
発熱と倦怠感を主訴に来院。全収縮期雑音があり、経胸壁心エコー検査で僧帽弁逸脱と左心房後壁への逆流ジェットが認められた。いずれの弁にも明らかな疣腫は認められなかった。血液培養検査ではStreptococcus mitis/oralisが陽性であった。経食道心エコー検査では、僧帽弁逆流ジェットに曝される左心房後壁のみに疣腫が認められた。


(投稿者 川崎)

2026-08-05

LLMNSS

  • Listeria、Legionella、Mycobacterium、Nocardia、Salmonella、Staphylococcus aureusをまとめた語呂合わせ
  • 共通点は、マクロファージ内で生存・増殖できる(細胞内寄生性)、あるいはそれに準じた性質を持つこと
  • 細胞性免疫(macrophage・T細胞機能)が低下した患者で重症化しやすく、βラクタム系の効果が乏しい
  • 感染防御にはTh1細胞・IFN-γによるマクロファージ活性化を主体とする細胞性免疫が重要になってくる

細胞性免疫低下で注意すべき病原体(LLMNSS)
菌 特徴
Listeria monocytogenes 細胞内寄生菌の代表格。ステロイド使用者、高齢者、妊婦で重症化
Legionella マクロファージ内で増殖。細胞性免疫低下患者(ステロイド、TNF-α阻害薬使用者など)でリスク上昇
Mycobacterium(結核・非結核性抗酸菌) 古典的な細胞内寄生菌。Th1/マクロファージ系の破綻で顕在化
Nocardia 弱毒だがマクロファージ内で生存可能。ステロイド長期使用、臓器移植後などで日和見感染
Salmonella(特に非チフス性) 細胞内寄生性。細胞性免疫低下(HIV、鎌状赤血球症など)で反復菌血症をきたす
Staphylococcus aureus 典型的な細胞内寄生菌ではない。好中球機能異常(CGDなど)で重症感染を起こす代表菌


(投稿者 川崎)

2026-08-01

液性免疫と細胞性免疫

  • 今一度、頭を整理するため液性免疫と細胞性免疫をAIにまとめてもらいました
  • 下の表はClaude Sonnet 5、図はChatGPT-5.5による生成(重要情報は要確認)

液性免疫
Humoral immunity
細胞性免疫
Cell-mediated immunity
主役となる細胞 ナイーブB細胞 → 形質細胞(抗体産生)、記憶B細胞 ヘルパーT細胞(CD4、主にTh1)、細胞傷害性T細胞(CD8)、マクロファージ・NK細胞との連携
抗原認識の様式 B細胞受容体(BCR)が抗原の立体構造を直接認識(抗原提示を介さなくても認識可能) T細胞受容体(TCR)がMHC(HLA)上に提示されたペプチドを認識(CD8はMHCクラスⅠ、CD4はクラスⅡを介する)
エフェクター機構 抗体による中和、オプソニン化(貪食促進)、補体古典経路の活性化 パーフォリン/グランザイムによる標的細胞のアポトーシス誘導、Fasリガンド経路、IFN-γによるマクロファージ活性化
主な標的 細胞外の病原体・毒素(莢膜を持つ細菌、一部の寄生虫など) 細胞内寄生体(結核菌、リステリアなど)、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞
誘導に関わる主なサイトカイン Th2・Tfh由来のIL-4、IL-5、IL-21(クラススイッチ組換えを促進) Th1由来のIFN-γ、IL-2(マクロファージ・キラーT細胞の活性化を促進)
臨床的な評価法 血清抗体価測定(ワクチン後の抗体獲得評価など)、免疫グロブリン定量 ツベルクリン反応、IGRA(インターフェロンγ遊離試験)
代表的な疾患・病態 液性免疫不全(無ガンマグロブリン血症)による反復性肺炎球菌感染、破傷風毒素への抗体応答 臓器移植拒絶反応、AIDSにおけるCD4減少に伴う日和見感染(結核、ニューモシスチス肺炎など)、腫瘍免疫



(投稿者 川崎)

2026-03-08

シトルリン血症 Citrullinemia(CTLN)

  • 尿素サイクルの律速酵素であるアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の異常をきたし,高アンモニア・シトルリン血症をきたす遺伝性疾患
  • ASS遺伝子の異常による新生児・小児期発症の古典的シトルリン血症(I 型,III 型)とASS蛋白の肝細胞量的低下による成人発症 II 型に分類
  • 常染色体劣性 [不顕性] 遺伝性疾患で,日本でのヘテロ接合体の頻度は約50~78人に1人,ホモ接合体の頻度は17000人に1人と推定されている
  • II 型の発症年齢は20~50歳代に多く,高アンモニア血症により意識障害や失見当識,異常行動,痙攣など多彩な精神神経症状+脂肪性肝疾患
  • CTLN 2の約30%はてんかんや統合失調症,うつ病,精神遅滞などと初期診断されていて,アンモニア高値をとらえていない場合は診断が困難
  • CTLN 2では,幼少時より豆類や乳製品,卵などの蛋白質や脂質の多いものを好み,米飯や甘いもの,アルコールを嫌う特異な食癖が特徴的
  • この偏食は,豆類がASSの基質であるアスパラギン酸の供給に役立ち,米飯や飲酒で細胞質内のNADHが上昇し症状が出現〜悪化と推測
  • 根治治療は肝移植で10年生存率は94.3%.病因の治療法は肝に蓄積したNADHの再酸化目的で,低糖質・高脂肪食やピルビン酸ナトリウム

参考)日消誌 2013;110:432-40,他

- 繰り返す意識障害を認めた高シトルリン血症の33歳男性 -

(投稿者 川崎)

2026-01-13

循環器学会専門医試験問題より

😅 独り言
  • 先日の出題「心拍出量のFick法」のページに記載されていた問題です.全く分からなかったので,適当に答えたら(もちろん)間違っていました.
  • 薬理作用を考えたら「なるほど…」の選択肢です.反省を込めてここにアップします.当院採用の肺高血圧の治療薬はココ(2022年時点ですが…)


【問題】特発性肺動脈性肺高血圧症の臨床診断で Macitentan と Sildenafil で初期併用療法を行ったとこ ろ,急激な肺うっ血をきたした.最も可能性が高い診断はどれか.







判定


😐 解説:正解 a
  • 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)はまれで,診断も治療も難しい難病である.有病率は人口100万人あたり2名以下で,2年以内で死亡する例も多い.肺毛細血管腫症(PCH)とはその異同が議論されている.特発性,遺伝性,薬剤性のほか膠原病と関連しても発生する.
  • PVOD/PCHでは,肺胞中隔から小葉間中隔の微小な肺静脈で狭窄や閉塞が起こる.この抵抗に逆らって血液を流すために右室は高圧を出すが,やがて耐え切れずに右心不全となり,死に至る.確実な診断には肺生検が必要だが,リスクが高いので現実に行われることはあまりない.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の診断基準に合致するが,肺拡散能が低下していたり,運動時に極端に低酸素になったり,肺のHRCTで小葉中心性のすりガラス陰影が見られたり,縦隔リンパ節の腫大や小葉中隔壁肥厚が見られたりする場合に,臨床的に診断することが多い.
  • 主病態は肺細静脈の閉塞であり,しかもその閉塞は線維性であるので,平滑筋細胞に働きかけるPAH特異的治療薬は,普通に使えば無効か有害である.肺細動脈を拡張させれば血流は増えるが肺細静脈が閉塞しているのでその手前の肺胞で水腫が起こりうる.しかし,わが国では脳死肺移植は希望者登録をしてから3年以上の待期期間があるのが一般で,移植を待つ間に死亡する例も多い.そこで,肺血管抵抗を少しでも下げて右室の負荷を軽減しようと,PAH特異的治療薬をあえてPVOD/PCHの患者に試みることもある.これには相当な技術と経験が必要で,しかも決して移植に代わる治療とはならない.


(投稿者 川崎)

2025-08-02

着用型心臓除細動器(WCD: wearable cardioverter-defibrillator)

  • 着用型ベスト内に接触型心電図電極と除細動パッドを有し有線で致死的不整脈に対して除細動を行う医療機器
  • 体表面から行うがICD(植え込み型除細動器)に劣らぬ診断感度,特異度でわが国でも2014年1月から保険適用
  • 使用例は急性虚血ならびに急性心不全のICD の一次予防の適応が確定するまでの期間,突然死予防を目的など
  • 非虚血性心筋症の報告は限定的:心筋炎後心筋症,たこつぼ心筋症,産褥後心筋症,拡張型心筋症の急性期など
  • 心移植待機例,ICD適応であるが感染でデバイス抜去後や他疾患の治療を優先すべき症例などにおいても要考慮
  • わが国ではWCDの使用は短期(3ヵ月間)が原則としているが,長期使用については,今後も検討が必要である



📍 WCDの使用を考慮する病態
  • 左室駆出率35%以下で、NYHAクラス II もしくはクラス III の心不全症状を有する急性心筋梗塞発症後40日以内の症例
  • 左室駆出率35%以下で、NYHA クラス II もしくはクラス III の心不全症状を有する冠動脈バイパス後または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後 90 日以内の症例
  • 左室駆出率35%以下で、非虚血性急性心不全発症後90日以内の症例
  • 心移植待機条件を満たす非可逆性重症心不全症例
  • ICDの適応があるが、他の身体的状況により直ちに手術を行えない症例
  • ICDによる心臓突然死二次予防を考慮するが、臨床経過観察や予防治療の効果判定が優先される症例
  • 感染等の理由で一時的にICDを抜去する症例


🔦 おまけ
  • WCDの保険償還には植込み型除細動器(ICD)施設基準を満たす必要あり
  • つまり年に電気生理学的検査≧50例,開心術など≧30例,PM移植術≧10例
  • 関連医療従事者(医師およびメディカルスタッフ)がメーカー研修を受講
 
(投稿者 川崎)

2025-07-25

眼類天疱瘡がんるいてんぽうそう Ocular Pemphigoid

👀 角膜の復習
  • 角膜は上皮・実質・内皮の3層によって構成されている
  • それらの層はいずれも血管を必要としない特殊な構造
  • 角膜上皮は角膜周辺の輪部に存在する幹細胞から供給
  • 徐々に中心へ向かって進行し最終的には表面から脱落
  • 幹細胞から分裂して脱落するまでかかる時間は数週間
  • 角膜移植後半年で上皮はホスト由来上皮に入れ替わる


🔎 眼類天疱瘡
  • 概要 抗結膜基底膜抗体によって結膜に障害を生じる慢性疾患
  • 分類 類天疱瘡の1種(天疱瘡は別で抗デスモグレイン自己抗体)
  • 所見 癒着,睫毛乱生,角結膜炎,血管新生,混濁,角化など
  • 疫学 頻度は1~5万人に1人で60歳以上に多く女性優位(2:1)
  • 治療 人工涙,局所抗炎症薬,内反睫毛抜去,免疫抑制薬など
  • 予後 皮膚の類天疱瘡より不良(最終的には角膜移植:下図)

参考)In: StatPearls,他

- 眼類天疱瘡の角膜移植 -

💁 天疱瘡に関する過去の投稿 ➜ コチラ

(投稿者 川崎)

2025-07-09

肺毛細管腫症 PCH: pulmonary capillary hemangiomatosis

  • 病態 毛細血管が気管支壁や血管壁,肺胞隔壁,胸膜に増殖浸潤
  • 臨床 肺の動静脈が破壊され肺高血圧症を引き起こす極稀な疾患
  • 初報 オランダ病理医Wagenvoortら(Histopathology 1978;2:401-6)
  • 疫学 男女差はなく発症は30~40歳代が中心(本邦で100例程度)
  • 症状 非特異的(呼吸困難,喀血,胸痛で発症し右心不全へ進行)
  • 原因 不明(血小板由来成長因子や常染色体劣性遺伝の関与?)
  • 画像 胸部X線=結節網状影,胸部CT=小葉中心性の淡い結節影
  • 鑑別 肺動脈性肺高血圧症PAHや肺静脈閉鎖症PVOD(病理組織要)
  • 治療 肺移植のみ完治療法(PH治療薬は通常抵抗性で予後不良)


- 急激に悪化して剖検で肺毛細管腫症 PCH と診断された54歳女性 -

(投稿者 川崎)

2025-06-14

テセウスの船 Ship of Theseus

  • ある物体の元の構成要素を時間をかけて、少しずつ交換した場合、その物体が元の物体と同じといえるかという思考実験。テセウスのパラドックス(Theseus's Paradox)とも呼ばれる。
(CC BY 4.0)

オリジナルはギリシャ神話 プルタルコスの『テセウスの生涯』から
  • テセウスとアテネの若者たちがクレタ島から帰還した船には30本のオールがあり、アテネ人によってデメトリオス・ファレレオスの時代まで保存されていた。彼らは、朽ちかけた古い板を取り除き、代わりに新しい丈夫な木材を取り付けたため、この船は哲学者の間で、成長するものについての論理的な質問の典型的な例となった。一方の側は船は同じままであったと主張し、もう一方の側は船は同じではなかったと主張した。

🚢 独り言
  • 東元俊哉さんの同名漫画とそれを原作としたTBSの連続ドラマがあったので、知っている方が多いかと思います。同一性の定義で答えは変わりますが、日常生活にも関係する奥深いテーマだと思います。
  • 例えば伊勢神宮は20年ごとに完全に新しい木材で建て替えられます(1300年間、繰り返されてきた式年遷宮)。木材は神聖な森から伐採されるため、同一性が継続していると考えられているようです。
  • 医学も無縁ではありません。人体の多くの細胞はターンオーバーを繰り返しています。心臓移植を受けた女性にドナーの特徴が出現したという報告もあります(A Change of Heart: A Memoir)。

(投稿者 川崎)

2025-03-21

医科診療報酬点数

👥 夜8時半にようやくシャントPTAが終わって...
  • 専門医A 「エコーでVAIVTができると楽だね」
  • 専門医B 「そうです.それで12万ですからね」
  • 専門医A 「高っ! ペースメーカって数万だよ」
  • 専門医C 「でも3ヵ月で2回までですけどね…」

📪 医科診療報酬点数(令和6年)
  • 経皮的シャント拡張術・血栓除去術 ➜ 12000点
  • ペースメーカ ➜ 経静脈電極移植術9520点,リードレス移植術9520点,交換術4000点
  • 経皮的冠動脈ステント留置術 ➜ 急性心筋梗塞34380点,不安定狭心症24380点,その他21680点
  • 心臓カテーテル法による諸検査 ➜ 左心4000点,右心3600点
  • 冠動脈、大動脈バイパス移植術 ➜ 吻合80160点,吻合以上89250点
  • 経カテーテル弁置換術 ➜ 経皮的39060点,経心尖61530点
  • 弁輪拡大術を伴う大動脈弁置換術 ➜ 157840点
  • 経皮的カテーテル心筋焼灼術 ➜ 心房中隔・心外膜アプローチ40760点,その他34370点
  • 下大静脈フィルター ➜ 留置10160点,除去6490点
  • オープン型ステントグラフト内挿術 ➜ 弓部大動脈114510点,下行大動脈89250点


    😑 独り言
    • 手技料に関しては皆,いろいろな想いがあると思います.循環器内科医なら,「なんでペースメーカ植込みよりシャントPTA(VAIVT)の方が高いの?」って思うかもしれません.逆に心臓外科医は,「循内の経皮的な手技料,高すぎだろう!」って怒っているかも…
    • 手技の難しさ(学ぶのに要する時間)やリスク(術者のストレスを含む),効果(予後改善など)が,手技料に総合的に反映されていることが大切です.例えば下大静脈フィルター植込みの手技料は10160点と高めですが,比較的簡単かつ安全で臨床効果は微妙?

    👉 診療報酬に関するの過去の投稿は コチラ

    (投稿者 川崎)

    2025-03-08

    死体遺棄罪・死体損壊等罪

    • 刑法第190条「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者」を、死体損壊等の罪で処罰する
    • 死体遺棄罪・死体損壊等罪には、3年以下の懲役(罰金の規定はなく刑事裁判で有罪になればかならず懲役が選択される重罪)
    • 近い行為として挙げられるのが刑法第189条に定められている「墳墓発掘罪」や「墳墓発掘死体損壊等罪」(2年以下の懲役)


    医師でも死体にメスを入れる行為は上記の死体損壊罪にあたったが,1949年に死体解剖保存法が制定され仕組みが整備された(死体損壊の違法性の阻却).以下の行為が該当すると思われる.
    •  (a)病理解剖:「死体の解剖に関し相当の学識技能を有する医師、歯科医師その他の者であって、厚生労働大臣が適当と認定したものが解剖する場合」(2条1項1号)。病因解明を目的とする解剖を想定している。原則として、遺族の承諾が必要であるため(7条)、「承諾解剖」といわれることもある。
    • (b)系統解剖:医学・歯学に関する大学・大学学部の「解剖学、病理学又は法医学の教授又は准教授が解剖する場合」(同2号)であり、遺族から提供された死体(献体)、引き取り手のいない死体(12条、13条)について「身体の正常な構造を明らかにするための解剖」(10条)。(a)と対応させる意味で「正常解剖」と呼ばれることもある。献体法(医学及び歯学の教育のための献体に関する法律)は、これを「医学又は歯学の教育として行われる身体の正常な構造を明らかにするための解剖」として、この呼称を用いている(2条)。
    • (c)行政解剖:行政機関の行う死因究明のための解剖監察医が死因を明らかにするために行う解剖(同3号、8条)、食品衛生法・検疫法による解剖(同5号、6号)。
    • (d)司法解剖:警察・検察・裁判所が行う解剖。刑事訴訟法、「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」による解剖による解剖(同4号、7号)。 法律に規定のない行為であっても、違法性が阻却されることはある。海上への散骨は墓埋法に、組織移植は臓器移植法に、いずれも明文で規定されていないが、これが違法であって死体損壊罪を成立させるものとは考えられてはいない。

    死体解剖についても,死体解剖保存法の規定する上記(a)~(d)以外の解剖であっても許されるものがある.サージカルトレーニング(遺体を用いた手術手技の研修,cadaver training)はその例である.


    😐 おまけ
    • 死後の処置(いわゆるエンゼルケア)は主に看護師が行っていますが,医師や看護師以外でも問題はないようです.死体損壊罪(刑法190条)に対しては,仮にエンゼルケア中に死体に傷をつけたとしても,意図的ではないので「損壊行為」には当たらないと考えられるためだそうです.


    (投稿者 川崎)

    2025-02-04

    心臓移植の手技

    • カンファレンスで心臓移植の手技が話題になりました.あまりなじみがない領域なので調べてみました.
    • 以下の図と文章は,日本循環器学会などの2016年版「心臓移植に関する提言」からの引用・参考です.

    - 心臓摘出手技- 
    • 上大静脈・奇静脈,下大静脈,大動脈,肺動脈幹を十分剥離しU字縫合(図 14a)
    • ヘパリン(4~5 mg/kg)を投与し,奇静脈・上大静脈・下大静脈を離断(図 14b)
    • カニュー レから4℃心保存液を注入し心臓が停止した のを確認後,心臓を摘出(図 14c)
    • 3重イレウスバックに入った心保存液中に漬け心停止液注入用のカニューレ抜去(図 14d)

    - 心臓移植法 -

    • 以前は biatrial technique (両心房法)が中心であった(図15a)
    • 近年は bicaval technique(上下大静脈法)が行われている(図15b)
    • 日本では北村らが開発した modified bicaval technique が70%(図15c)

    👉 移植に関するの過去の投稿は コチラ

    (投稿者 川崎)

    2024-12-03

    白内障術後の緑内障

    • 患者さん 「眼と頭が痛くて吐き気がします」
    • 若手医師 「もしかして緑内障発作…ヤバい」
    • 指導医師 「眼の病気をしたことあります?」
    • 患者さん 「昨年に白内障の手術をしました」
    • 指導医師 「なら緑内障は考えにくいかな~」
    • 若手医師 「😕…なんで?」

    🐙 原発閉塞隅角緑内障
    • もともと隅角が狭い眼球に生じる.眼軸が短く水晶体と虹彩が瞳孔縁で接しているため.房水は前房へ向かえず後房に貯留する(瞳孔ブロック).虹彩は前房側に持ち上げられ前房深度が浅くなるため,隅角が閉塞して房水の流出が妨げられて眼圧が上昇する(下図5aの上).
    • 虹彩切開術(レーザーか手術で孔)を行うと,瞳孔ブロックが解除できる(下図5aの下).ただし白内障がある症例では人工眼内レンズ移植が第一選択となる.人工眼内レンズは水晶体よりもはるかに薄く,房水が虹彩と人工レンズの間から前房へ向かう(下図5b)。

    💁 緑内障に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2024-12-02

    心不全の身体所見

    • 心不全の本体は左室充満圧の上昇(左室拡張末期圧ではない)あるいは左房圧の上昇と理解できます.よって肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)と強い関連を有する指標が心不全管理には有用です.
    • どうやら身体所見(自覚症状を含む)の中では頸静脈の膨隆(≠怒張/回避したい用語)が一番強い関連だったようです.これは個人的な肌感覚にも合っているかなと思います(もっともPCWPは滅多に測定していませんが...)

    👀 おまけ
    • 上記論文はDr. Mark Draznerのグループからの報告です.ドレズナー先生はテキサス大学サウスウェスタン医療センターの内科教授で,心臓病学の臨床主任です.
    • 専門は心臓移植を含む重症心不全の治療などと思われます.特に心不全症例での右房圧と左房圧の関係では他の追随を許さない程の業績を挙げられています.
    • ただしX(旧Twitter)ではフォロワーが3,112名と寂しい限りです.あまり発言されていませんが... 2017年3月から計765ポストで,最近では月に一回くらい
    Xより(@MarkDrazner)

    心臓Physical Examination広場とのマルチポストです 🎶

    (投稿者 川崎)

    2024-10-27

    Trifecta valve トライフェクタ弁

    • 他の生体弁と比較し早期に構造的弁劣化を生じやすい(米国で販売停止)
    • 息切れなどの症状が現れた場合は医師の診察を受けるよう患者に指示する
    • 移植1年目から心エコーを含む生涯のフォローアップを少なくとも年1回

    - Trifecta弁とMagna Ease弁の心事故回避曲線 -

    留置2年後に tear を生じた Trifecta 生体弁

    (Ann Thorac Cardiovasc Surg 2017;23:157-60)


    💁 人工弁に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2024-06-26

    CMD(冠微小循環障害)の分類


    定義 疾患
    Type 1 心筋疾患や冠動脈疾患を伴わない状態 微小血管狭心症,INOCA,MINOCA,たこつぼ心筋症など
    Thpe 2 心筋疾患に併発した状態 高血圧性心疾患,大動脈弁狭窄,肥大型心筋症,糖尿病性心筋症など
    Type 3 閉塞性冠動脈疾患に併発した状態 急性冠症候群(ACS),慢性冠動脈疾患など
    Type 4 医原性 PCI後,CABG後,移植心冠動脈病変など

    参考)Coronary Intervention 2024;20:13-23,ほか

    💁 CMDに関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2024-04-27

    特発性血栓症 Idiopathic thrombosis

    • 概略 遺伝性血栓性素因により重篤な血栓症を発症する病態
    • 原因 プロテインC・S,アンチトロンビンなどの先天的欠乏
    • 形式 常染色体顕性遺伝(ヘテロよりホモ接合体は通常重篤)
    • 疫学 本邦で約2,000人(年間に乳児<100人,成人約500人)
    • 早期 新生児〜乳児期には脳出血や梗塞,電撃性紫斑病など
    • 後期 小児期から成人では時に致死性となる静脈血栓塞栓症
    • 治療 FFPやAT製剤,活性化PC製剤などの長期投与,肝移植
    • 予防 慢性期は長期の抗凝固薬(妊娠中はヘパリン自己注射)
    • 予後 脳卒中後遺症,電撃性紫斑病で四肢切断,失明で不良


    💁 血栓症に関する過去の投稿 ➜ コチラ

    (投稿者 川崎)

    2024-04-06

    まだら症 Piebaldism

    • 概略 明確な腹側正中線パターンの孤立した先天性白皮症とポリオーシス(白毛)
    • 原因 メラノサイトの遊走と発達に影響を与える遺伝子異常(常染色体顕性[優性])
    • 部位 先天性の白い前髪,額の三角形の脱色素斑,散在する正常色素斑と脱色素斑
    • 治療 美容の目的で皮膚移植,細胞移植,カモフラージュ技術,染毛剤の使用など


    Piebaldism(まだら症)の5歳の子供

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    (投稿者 川崎)